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  帰りの馬車の中では、行きの緊張が嘘のように、私の心は穏やかだった。

「クラウスのお祖父様とお祖母様は、金髪青目なの?」

「そうだよ。祖母が一人娘だった為、祖父はリーベル家に婿入りしたんだ。婚姻を結ぶ前の祖父は、当時の第二王子だったよ。だから父上の前のリーベル公爵は祖母だった。ただし基本的には、爵位は男性が継ぐ事になっているからね。祖父はかなり祖母を手伝っていたらしい。婿入りをすれば、爵位を継ぐ並みに大変かもな。女性で爵位を継いだ祖母も苦労をしたと思うけど」

「そうなのね」

「そうだよ。精霊エミリア様達が建国当初に決めたままなんだ。王になれるのが男性だけなのも、精霊エミリア様の影響が大きいのかもしれないな。最近は、金髪青目の人が生まれにくくなったな。また、元に戻るといいな」

  クラウスは、遠くを見つめて言っていた。

「話は変わるけれど、この国の人達はどうして精霊エミリア様のことを、忘れていったの」

「リーベル公爵家が麗しの森を管理するようになってからも、警備の合間を縫って森に入ろうとする人達が一部いたんだ。だから、当時の王族は公の場で精霊エミリア様の話と、金髪青目の人間しか王になれない話をすることを禁じたんだ。そして、精霊エミリア様関連の書物もこっそりと処分していったらしい」

  私は、クラウスの話を食い入るように聞いた。

「人々は、精霊エミリア様の話をすぐに忘れることはなかったが、この国は千年以上の歴史があるからな。長い時が経つにつれて、人々の心の中から忘れ去られていったんだ。しかし王族は、国民にこの事を告知する義務がある。だから、事実が示された物語を各貴族の家の図書室と誰でも利用出来る、全ての図書館に置いたんだ」

「なるほど。それなら後で何故隠していたのか問われても、言い逃れが出来そうね。一部の人は怒りそうだけれど」

  クラウスは、私の言葉に苦笑いをしてから答えた。

「そうだな。三百年前の時みたいに、うまく誤魔化して隠し続けるんだろうな。記録では病死としてごまかしたらしいな。それに数ヶ月前にいきなり俺が、この国は精霊エミリア様が守っているんだ。と言ったら、リリアーナは信じたか?」

「たぶん信じないわね。クラウスの頭を心配したわ。けれど、図書室での事があったから今は信じているけれど……」

  私は困ってしまい、言葉を詰まらせた。

「陛下が国民に頭を心配されたら困るだろう。王家はこの事を全ての国民に隠している訳ではない。精霊エミリア様に関する本を読んだ上で、個人的に尋ねられた場合は、真実を話している。しかし、こちらからは一切言わない。本を読み、真実を知りたいと思った者のみが知る事が出来るんだ。それから、王家に金髪青目の男の子が生まれなかったのは三百年前のたった一度だけみたいだ」

  クラウスの話を聞き終わると私は質問を続けた。

「確かに困るわね。所でクラウス、麗しの森はリーベル公爵領のどこにあるの」

  これは私にとって重要だ。場所を知らない私が、クラウスに森の中を案内されたら困るからだ。恐怖の対象がいるかもしれない場所には行きたくない。

「ああ。リリアーナには言っていなかったな。でも知っているはずだよ、もう何度も行っているから」

  私は一瞬固まった。うまく頭が働かない。いや、理解したくなかったのかもしれない。

  そんな私を横目に見て、クラウスは話を続けた。

「麗しの森は、リーベル公爵家の敷地内にある。リリアーナと何度もデートをした場所だよ。公爵家の敷地内にいくら小さいとはいえ、森があるなんて不思議に思わなかったのか?  いや、ルイス様達も聞いて来ないから、不思議に思わないのかもしれないな」

  クラウスは優しく私に話し掛けていたが、私の心は穏やかではなかった。

  返事が帰って来ない私を見てから、クラウスはさらに話を続けた。

「それからね、あの森は本当に不思議でな、金髪青目の人と一緒に行かないと、池までたどり着かないんだ。昔母上が面白がって、父上と池まで行って森から出てきた後に、また一人で森の中に入って、池にたどり着かない遊びをしたらしい。本当にあの森は面白いよな」

  クラウスは楽しそうに話していた。私は全然楽しくない。むしろ、知りたくなかった。

「リリアーナ……本当に精霊エミリア様が怖いんだね。顔色悪いよ」

  心配そうに言ったクラウスに少しイラっとした私は、身体ごとクラウスとは反対の向きに向ける。

「ごめんね、リリアーナ。少し意地悪し過ぎたな。でもねこの話は、いつかしなくてはならなかったんだ。だから許して」

  クラウスは優しく私に語りかけ、後ろからそっと抱きしめた。

  私はクラウスの腕の中で安心をして、心が穏やかになっていった。

「分かったわ、許すわ。けれど……もう、あの森へは入りたくないわ」

  クラウスは分かった。と優しく返事をくれたのだった。
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