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  クラウスと池を散策してから数日。今日は久しぶりに刺繍でもしようかしら。

  私はクラウスと過ごした池を、ハンカチの右下に刺繍していった。

  池だけだと分かりづらかったので、池の近くに生えていた木も一緒に刺繍した。

  出来たわ!

「サラ見て今度は、何に見える?」

  サラは、良く考えてから答えた。

「水溜まりから緑の力が溢れている所……ですか」

「な、何よそれ。意味分かんない」

「意味が分からないのは、お嬢様の刺繍かと……」

  最近のサラは、遠慮がないわね。
  私は、サラを白い目で見た。

「お嬢様は、何を刺繍されたのですか」

「クラウスと一緒に過ごした池よ」

「こちらの緑色のものは?」

「周りに生えていた。木よ」

「でしたらお嬢様。木の方は、茶色の刺繍糸も使われた方がよろしいかと」

  私は、サラの言葉で気がついた。 

「そうね。木は緑色と茶色ね。そうしたら、サラが分からないのもし仕方ないわ」

  サラは、ほっとしたような顔をしていた。

  それから私は、貴族年鑑と領地の名産などが書いてある本を開いた。
  リーベル公爵家などの知っている人達の家は、復習だったので飛ばして読んだ。ルシアン様が居る、グリデーラ侯爵家も不快な気持ちになるので飛ばした。

  ジャック様の妹のエレーナ様がいらっしゃる領地は……まあハーヴェス領は、ハチミツが有名なのね。
  ハーヴェス家は、建国当初からの歴史がある名家なのね。

  さらに私は、他の家の貴族の名前や領地なども読み進めていった。

  その日から、数日が経った。

  お昼をかなり過ぎた頃、屋敷の外から賑やかな声が聞こえて来た。

  ジャック様達、いらしたのね。

  サラと一緒に挨拶に向かう。
  廊下を歩いていると、使用人から声が掛かった。

「お嬢様。客間でお客様がお待ちです」

「分かったわ。ありがとう」

  廊下を進んで行き、私は客間の扉をノックした。中から、お兄様の声が聞こえて室内に入る。

  そこには、黒髪で黄色の目をした美少女がいた。ちなみに、ジャック様も黒髪で黄色の目だ。

  お兄様が紹介をしてくれたので、自己紹介をした。

「はじめまして、リリアーナ・プラメルと申します。プラメル家までお越しいただきありがとうございます」

「エレーナ・ハーヴェスと申します。招待いただきありがとうございます」

  声までかわいい!
  私は、少し興奮をした。

「挨拶も終わったしさ。稽古をしに行こう」

  私達の挨拶が終わると、待ちきれなかったのかすぐに、ジャック様が言った。

「まあ、お兄様。少し落ち着いて下さいな。プラメル家の方がせっかく、美味しいお茶を用意して下さったのに」

  エレーナ様の言葉にジャック様は、少し考えてから答えた。

「そうだね。まずは、お茶を頂くよ」

  穏やかにみんなでお茶を飲んでいるとジャック様がさらっと言った。

「俺さ、キャサリンちゃんと別れたんだ」

  お兄様と私は、驚いてジャック様の顔を見る。エレーナ様は、興味が無さそうにお茶を飲んでいた。

  ジャック様は、話を続けた。

「キャサリンちゃんね。二股かけていたんだ。他の男と歩いている時に俺とたまたま会って。キャサリンちゃんに隣にいる人は誰か聞いたんだ。そうしたら、隣の男がキャサリンは、俺の恋人だって」

  私は何と答えてよいのか分からず、話の続きを待った。

「だから俺、キャサリンちゃんに聞いたんだ。俺とその男……どっちを選ぶのか。そうしたら、キャサリンちゃんは迷う事なく相手の男を選んだんだよ。相手の男の方が、デートの時のエスコートが上手だって」

  ジャック様にエスコートの上手さを求めたら、かわいそうだ。ジャック様は、面白さなら勝てるのに。
  クラウスは、エスコートも上手よね。

  私はジャック様の話を聞きながら、失礼なことを考えていた。
  自分の世界に入りかけていたので、ジャック様の話に集中するようにした。

「それでね。俺は泣いて鼻水を垂らしながら、町を歩いていたんだ。そうしたら、白衣を着た美人なお姉さんがね。風邪ひいているの?  開発途中だから、ただで風邪薬をあげるわ。そのかわり、どのくらいで風邪が治ったのか教えに来てね。って言って、風邪薬をくれたんだ」

  おやおや。また、新しい女性の登場ね。

「俺、その薬のおかげで、次の日にはすっかり元気になって、お姉さんに会いに行ったんだ」

  そもそも、風邪をひいていないのでは?

「お姉さんの薬良く効くね。すっかり、元気になったよ。と伝えたんだ。名前を教えてもらったんだ。オリヴィアさんていって、薬草から新しい薬を作っているんだって。今は、オリヴィアさんに会いに薬屋に通っているんだ」

  ジャック様は、嬉しそうに語った。

「ジャックが元気そうで安心したよ」

  お兄様は、少し複雑そうな顔をして、そう言ったのであった。
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