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  アリサの声でロンも起きた。

「アネモネ……おはよう」

  アリサの悲鳴が響き渡る中、ロンこと人間の姿をしたロイアン殿下は、さわやかに笑った。

  私はここでアリサの言っている事を理解する。

「ロ、ロ、ロ、ロン!  じゃない。ロイアン殿下に戻っています!」

「えっ?」

  ロイアン殿下は自分の身体を確認して、状況を理解すると、私に抱きついた。

  抱きしめたのではない。子どものように腰あたりに抱きついたのだ。

「アネモネ!  ありがとう。アネモネのおかけでもとに戻れた!  アネモネ大好きだ!」

  この大好きとは、友人として?  それとも、もと飼い主としてだろうか?

  私がそんな事を考えていると、お父様が部屋の中に入ってきた。

「娘から離れろ!  誰だ貴様は!」

  あー……最悪なタイミングね。ロイアン殿下、終わったわ。いや、この場合はお父様が終わったのかしら。

  ロイアン殿下は私から離れ、寝具から降りるとお父様に挨拶をした。

「レイラール伯爵、ご無沙汰しております。この度は大変お世話になりました」

「えっ?  殿下?」

  相手が殿下だったので、急におろおろし始めたお父様。
  そこにお母様とお兄様がやって来た。
  ロイアン殿下はお母様とお兄様にも挨拶をしている。

「な、何故殿下がいらっしゃるのですか!  しかも、娘の部屋に!」

「まあまあ、あなた落ち着いて下さいな。とりあえず、皆さんで朝御飯を食べましょう」

  今にも怒り出しそうなお父様をなだめたのは、お母様だった。

  今は五人で朝食を食べている。
  いつもと同じメンバーなのに、雰囲気が重たい。
  ロイアン殿下が今までネズミの姿でお世話になっていた事を伝えると、家族は驚いた顔をしていた。

  そりゃ驚くわよね。はやくロイアン殿下の迎えの馬車が来ないかしら。

  お父様は顔に出さないようにしているが、イライラしている様子。
  お母様はなぜか嬉しそう。いや、楽しそうでロイアン殿下に質問攻めだ。
  お兄様は頷きながらロイアン殿下の話を聞いている。

  朝食が食べ終わる頃には馬車が到着をした。
  中からはデュラン様が降りて来て、陛下からの手紙をお父様に渡していた。
  ロイアン殿下はデュラン様と帰って行った。

  手紙の内容は後日お礼がしたいので、都合が合う日に王宮に来て欲しいと書いてあった。

  ロイアン殿下が帰ると我が家に平和がおとずれた。

  ロンが居ないと暇ねー。

  そんな事を考えているとセシルお兄様が私の部屋に来た。

「アネモネ……どういう事だい?」

「どうって?」

「ロイアン殿下の事だよ!」

「さっき全て殿下がお話したでしょう」

「ずっと殿下と一緒に生活をしていたの?」

「だからそうだって言ったでしょう」

「どうして、僕に相談しなかったんだ」

  言われ見ればそうね……

「うーん。飼い主として最後まで面倒をみようと思いまして」

「はあ……。父上落ち込んでいるよ」

「何で?」

「何で?  って、ロイアン殿下と結婚するんだろう?」

「はっ?」

「さっき殿下が言っていただろう。責任はとるので安心して下さいって」

  殿下が責任をとる……結婚?

「あのね、殿下とアネモネが朝まで一緒に過ごした事実は消えないの。たくさんの目撃者がいるから」

「はあ……では、どうすれば……」

「だから、結婚するんだろう?」

「えー」

  私がロイアン殿下と結婚?
  なんだか、大変そうよね。

「まあ、頑張って」

  そう言うとセシルお兄様は退出をした。
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