上 下
28 / 42

29

しおりを挟む
  今日はお茶会の日。
  もちろんロンは、お留守番をしている。
  私は、奥様方の娘さん達がいるテーブルでお茶を飲んでいる。

「今年はほうれん草が例年よりもたくさん収穫出来たみたいです」

  そう言ったのは、ファンファン町の町長の娘さんだ。

「ええ、父や母も喜んでいました」

  そう言ったのはランラン村の村長のお孫さんだ。

「ええ。お陰様で今年は例年よりも売上がいいです」

  そう言ったのは、ベティート商会の娘さんだ。
  貴族令嬢達とのお茶会よりも、気楽に参加出来るのがいい。私は、彼女達の話に耳を傾けながら紅茶の香りを楽しんだ。

「そういえば、ほうれん草祭でキスをすると両想いになれるって噂は、本当なのですかね」

「ああ、そういえばそんなお話を最近よく聞きますね」

「それは、昨年鍛冶屋のポールさんがパン屋のレイサさんと両想いになったのが始まりみたいですよ」

「まあ、そうだったの!  私もほうれん草祭でキスをしたいわ」

  うっとりとした顔をするランラン村の村長のお孫さん。

「ふふ。お好きな方がいらっしゃるのですね」

「い、いませんよ!」

  顔を赤くして否定している所がかわいい。
  きっと、好きな男の子がいるんだろうな。っと、思った。
  所で、キスをして両想いになったのではなく、キスをする程の中なのだから、もともと両想いだったのではないだろうか。
  疑問に思ったが、話に水を差す程の事でもないので、黙っていた。

「アネモネ様はいらっしゃるのですか?」

「えっ、私?  えっと、何がでしょうか?」

  しまった、考え事をしていて聞き逃してしまった。

「好きな男の子ですよ」

「好きな男の子……お兄様?」

「まあ、カッコいいですものね」

  カッコいい?  セシルお兄様がカッコいい?  物好きもいるものだわ。ああ、きっと私に気を使ってくれているのね。
  そう脳内で解釈をしていた私に、ファンファン町の町長の娘さんが話し掛けてきた。

「アネモネ様は恋をしていますか?」

「恋……恋とはなんでしょうか?」

  私の言葉にみんなポカンとした顔した。

「あっ、ごめんなさい。好きとか恋とか分からなくて」

「アネモネ様は、初恋がまだなのですね」

「皆さんは初恋はいつですか?」

「私は八歳の時でした」

  そう言ったのは、ルンルン村の村長の娘さんだ。
  その後に他の方達も続き、皆さん十歳前後で初恋をしている事を知った。
  えっ……私、凄く遅れているわ。そういえば、ミランダ様が婚約したのも十歳頃だったような。

「皆さん、素敵なお話をありがとうございます。所で、どうしたら恋をしているのか分かるのですか?」

「その人を見ると胸がドキドキします」

「私は、彼の事が頭から離れなくて眠れなくなりました」

「私は、恥ずかしくて目を合わせられなくなりました」

「私は、素直になれなくてケンカばかりです」

「私は胸が苦しくなりました」

  胸がドキドキして、眠れなくなって、恥ずかしくなって、胸が苦しくなってケンカばかりか。恋とは、中々体力が必要そうね。恋をするにはは忍耐が必要ってことかしら?

「そうなのね。皆さんのお話を聞いて分かったけれど、私の初恋はやはりまだみたいです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...