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  夜になり、私はさっそくセシルお兄様の部屋を訪ねた。

「セシルお兄様、今少しいいかしら?」

「うん、いいよ。どうかしたのかい」

「お願いがあるのだけれど……」

「言ってごらん」

  セシルお兄様は優しい声で、そう言ってくれた。
  では、遠慮なくお願いしましょう。

  私は素敵な男性の条件を全て伝えて、ご友人を紹介して下さい。と伝えた。

「そんな人、居るわけないだろう!」

  なぜかセシルお兄様は怒りだした。

「それに、楽をする事ばかり考えている今のアネモネには、紹介出来ないよ」

  そこまで言うとセシルお兄様はため息をついた。

「もういい。セシルお兄様にはお願いしないわ」

  セシルお兄様の意地悪!
  私は怒って部屋を出た。

  自室に戻って来たのでロンに愚痴る事にし、とりあえずロンを机の上に下ろした。

「セシルお兄様ったら本当に意地悪よね」

「いや、セシル様は間違っていないような……」

「まあ!  ロンまでお兄様の味方なのね」

「い、いや!  俺はいつでもアネモネの味方だ!」

「まあ、ロン……ありがとう」

「おう」

  ネズミだから表情は分からないが、心なしか喜んでいるように見えた。

「セシルお兄様の紹介が無理となると……探すのは難しくなりそうね。そうだ!  ロンの知り合いにいない?」

「この姿で、どうやってアネモネに知り合いを紹介するんだ」

「そうよねー」

「それに、素敵な男性なら身近にいるだろう」

  身近に……私の近くに?
  ロンはネズミだから男性じゃなくて、雄よね。
  ねっとり(オーウェン)様は、嫡男だから嫌ね。

  あとは……あっ!
  そうか、ロンはずっと彼の事を言っていたのね。

  次男だから侯爵家は継がないし、ロンの従者をしているのだから王宮勤めじゃない。
  それに、メリベーン侯爵家がお金に困っていると言う噂は聞かないわ。

「ロン!  ありがとう。デュラン様の事を言っていたのね」

「お、おい……なんの話だ?」

「だから、デュラン・メリベーン様よ。彼なら私の条件に全て当てはまるわ」

「待て待て、デュランはやめた方がいい」

  私は首を傾げた。
  どうしてかしら?  婚約者がいるのかしら?
  そうしたら、諦めるわ。

「婚約者がいるの?」

「デュランは誰とも婚約をしていない」

「なら問題無いじゃない」

「あ、足が臭いぞ」

「お仕事を頑張っている証拠ね」

「む。息も臭いぞ」

「そうしたら、キスをする時は鼻をつまむわ」

「キス?  デュランとキスなんて絶対に許さんぞ」

「なんでロンの許可がいるのよ。それに、さっきからデュラン様が臭い臭いって言っているけれど、一緒にいてそんな事一度も無かったわ」

「アネモネはデュランの事を何も知らないから」

「デュラン様の事?」

  デュラン様にはとんでもない秘密でもあるのだろうか?

「そうだ。デュランはな、性格がとても悪い。人のものを横取りしようとするやつだぞ!」

「何を横取りしようとしたの?」

「そ、それは……言えない」

「もーう。ロンったら、デュラン様の悪口はやめてちょうだい。デュラン様にはとってもお世話になっているのよ」

「……すまなかった」

  急にしょんぼりしたロンが可愛かったので、背中を撫でたら機嫌が戻っていった。
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