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  ロンとの生活はとても楽しい。
  家族で食事を食べる時には、テーブルの上にロンの皿も用意して一緒に食べる。

  お茶会の時にはメイドに任せて家を出たが、ドレスの隙間からロンが顔を覗かせた時には驚いた。
  お茶会が終わるまで静かに待っていてくれて本当に良かった。

「ロン……お茶会の時はロンはお留守番なのよ」

  ロンはそっぽを向いてしまった。

「ロンもお茶会に参加をしたいの?」

「チュー、チュー」

「そうね……アリスと二人で会う時ならいいわよ」

「チュー!」

「ロンも出掛けたかったのね」

「チュー」

「では明日はお出かけしましょうか」

「チュー」

  出掛けると聞いて、机の上でクルクル回っているロンを見て笑ってしまった。

  今日は王都の端の方にある野原に来た。小さな小川も流れている。
  野原は芝生になっていたのでロンを下ろした。

「お嬢様……逃げてしまいませんか」

「大丈夫よ。ロンは賢いもの」

  ロンは芝生の上を楽しそうに走り回っていた。
  私はメイドと護衛に話し掛けた。

「猫が来たらすぐに教えてね!」

  二人とも返事をしていた。

「ふふ。ロン楽しい?」

「チュー」

「小川の方に行きましょう」

  ロンはおそるおそる小川に近づき水を飲んでいた。

「ロンは水を飲む姿もかわいいわね」

「チュー」

  私はロンを両手で掬い上げ、頬ずりをした。

「チュー」

  ロンは喜んでいるようだ。たぶん。

  それからみんなで昼食を食べた。
  パンを細かくちぎってロンに渡すとペロリと食べていた。

  食後はロンが眠ってしまったので、屋敷に帰ることにした。
  馬車の中ではロンが、私の膝の上で眠って居たが、屋敷に到着してすぐに目を覚ましたので肩に乗せた。

  あれー?  見掛けない馬車が停まっているわね。お客様が来ているのかしら。

  廊下を歩いているとセシルお兄様に会った。

「アネモネ、帰ったのか」

「ええ、ただいま帰りましたわ。お客様ですか?」

「ああ。アネモネにはまだ紹介していなかったね」

  そう言うとセシルお兄様はお客様の方を向いた。

「オーウェン様、妹のアネモネです」

「アネモネ・レイラールと申します。よろしくお願いいたします」

「オーウェン・クラネリアと申します。これは、これは。美しいご令嬢だ」

  クラネリア……クラネリア伯爵家ね。

  オーウェン様は私の手を握り、手の甲にキスをした。
  この人手……ねっとりね。

  私が手を引っ込めようとするとしっかりと手を握られた。

  そろそろ、離して欲しいんだけどなー。
  何か考え事でもしれいるのかしら?

  私がセシルお兄様に助けを求めようとした時に、ロンが私の腕をつたって、私の手の甲に降りてきた。

「チュー、チュー。チュー、チュー、チュー!」

  ロンに気づいたオーウェン様は、私の手を離してくれた。
  小さな騎士は私を守ってくれたようだ。

「おや?  金色のネズミですか。珍しいですね」

「そうなんです。ロンって言うんですよ。とても賢いネズミなんです」

  私はロンを手のひらに乗せてオーウェン様に見せた。

「ほう。飼っているのですか。懐いていますね」

「そうなんです。可愛くてしょうがないんです」

「ロンちゃんもかわいいですが、アネモネ嬢の方がかわいらしいと思います」

  返事に困るわね。無視でいいわね。

「ロンは雄です」

「えっ、雄?」

「ほら、付いていますよ」

  ロンは暴れていたが、構わずにオーウェン様に見せた。
  オーウェン様はロンをじっと見ていた。

「ちょっとアネモネ……」

「だってこの方が分かり易いじゃない」

「オーウェン様、すみません。アネモネは少しおてんばでして」

「いえいえ、そういった所もかわいらしいですね」

  オーウェン様は穏やか笑顔で答えていた。
  ねっとりは嫌だが、少し好感度が上がった。
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