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  お母様はすぐに見つかった。

「お母様……お願いがあるのだけれど……」

「どうしたの?」

「ネズミを飼いたいの」

「えっ、ネズミ?」

「この子よ」

  私は後ろに隠していた金色のネズミをお母様に見せた。

「まあ!  綺麗な色のネズミね」

「そうでしょ?  金色のネズミ」

「金色の……王家の色に近い金色ね」

  確かにエピナール家……王家の色に近い金色だけれども。

「うーん?  言われてみれば……けれど、瞳の色が違うわよ」

「そうね。けれど第三王子殿下と第二王女殿下は、金色の髪の毛に茶色の瞳ではなかったかしら」

「えっ、そうだっけ?」

「ほら、金色の髪は陛下に似て、茶色の瞳は側室のエリーアンヌ様の色よ」

  そう言えば……第二王女殿下は茶色の瞳だったかも……。

「そう言えば、お母様はエリーアンヌ様と仲が良かったのでしたっけ?」

「そうねー。それなりに可愛がってもらっていたわ」

「それなりに……ところで金色のネズミさんを飼っていいですか?」

「うーん。しょうがないわね。大切に育てるのよ」

「はーい」

  私はご機嫌で部屋に戻った。

「ふふふ。ネズミさん飼っていいって」

「チュー」

  言葉が分かるのか金色のネズミも喜んでいるように見えた。
  飼うと言う事は、名前が必要よね。ところでこの子は、雌?  雄?

「ネズミさんは、雌?  雄?  ちょっと見せてね」

  金色のネズミが私の手の中で暴れていたが、気にぜずに付いているのかを確認した。

「まあ、雄だったのね。では名前は何にしようかしら?」

「ケビン」

  金色のネズミはそっぽを向いた。

「フレデリック」

  金色のネズミはまた、そっぽを向く。

「レン、ルイ、カイン、ルーク、ポール……ジェフ……ロイ」

「チュー」

「ロイがいいのね」

「チュー」

「けれど、ロイはやめましょう。今話題のロイアン殿下に似ているもの」

「チュー、チュー」

「そうねー。そうしたら、ロンはどうかしら?」

「チュー」

「ふふ。ではロンにしましょう」

  金色のネズミの名前はロンになった。
  その日の夜にセシルお兄様にロンを見せに行った。

「セシルお兄様見て。ネズミのロンよ。今日から飼うことにしたの」

「はっ?  ネズミを飼うのかい?」

「そうよ」

  セシルお兄様はロンをよく観察していた。

「珍しいな……金色か……」

「そうでしょう。とっても可愛いのよ」

「噛みついたりしないのか」

「そんな事しないわよ。ロンはとっても賢いのよ。セシルお兄様は怖がりね」

「別に怖くないよ」

「ならロンを触ってみてよ」

  セシルお兄様は、私の手のひらに居るロンの背中をおそるおそる触った。

「ほら、触れただろう」

  セシルお兄様がそう言った直後にロンが鳴いた。

「チュウ!」

「うわああ」

「あはは。セシルお兄様ったら、やっぱり怖いんじゃない」

  セシルお兄様は納得がいかない様子だったが、言い返せないようだった。

「ロンは今日からこの家の家族よ」

「ああ。よろしくロン」

「チュー」

  部屋に戻ってすぐに私はロンに話し掛けた。

「ロン、セシルお兄様の顔面白かったわね」

「チュー」

「ロンは本当に賢いわね」

「チュー」

  そう言えば、お父様にもロンを見せたが、娘に甘い父なのでロンをかわいいかわいいと言い、私の機嫌をとっていた。

  こうして金色のネズミとの生活が始まった。
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