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6.惹かれ合う

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「コホン」

 クロヴィスが、わざとらしい咳をした。

「ところで、ずっと夜会で見かけなかったから、心配をしていたんだ。王家主催のものも、体調不良で参加が出来ないと聞いたから」

 仮病ですとは言いづらい。ミレリアは、嘘を重ねる事にした。

「この間の時は、腹痛でして……申し訳ありません」

「いや。今は元気そうで良かったよ」

 笑みを浮かべるクロヴィスに、ミレリアは申し訳なく思った。

「はい。今は体調が戻り、今朝も甥と遊んでいました」

「そうか。確か昨年生まれたのだったな」

「はい。今は生後六ヶ月でして、私が家を出る前には、連続寝返りをして絨毯の上を転がっていましたわ」

 ミレリアは今朝の出来事を思い出して、くすくすと笑った。
 クロヴィスはミレリアの笑顔に見惚れていた。

「ミリーズ妃も懐妊しているんだ」

 ミリーズ妃とは、アレックスの妃で王太子妃の事だ。

「ええ。確かもうすぐ生まれるのですよね」

「ああ。甥か姪か、いまから楽しみでしょうがない」

「クロヴィス殿下は、子どもが好きなのですね」

「そうだな。幼い子どもは無邪気で可愛いと思う」

「ふふ。では………………えっと、何でもありません」

 ――では、自分の子どもはもっと可愛いでしょうね。
 ミレリアは言おうとして思いとどまる。クロヴィスが結婚をするのを想像したら、胸が痛くなった。

 急に表情が暗くなったミレリアを、クロヴィスは心配そうに見つめる。

「ミレリア嬢、良ければまた一緒にお茶をしないか?」

「私とですか?」

「ああ。君が嫌でなければ」

「嫌だなんてそんな。私でよろしければ」

「良かった。ミレリア嬢といると心が安らぐんだ」

 それは、どういう意味だろうか?
 休息を共にするのに、丁度良い友人という事だろうか。

「では、そろそろ執務室に戻る事にするよ。休息に付き合ってくれてありがとう。連絡は手紙で大丈夫か? 今は私宛てで届くから安心して欲しい」

 クロヴィスはミレリアと次に会う約束を取り付けると、ミレリアを馬車の所まで送り届けた。
 

 その日から、クロヴィスとミレリアは何度も会った。傍から見たら仲の良い恋人達に見える二人であったが、実際は王宮で一緒にお茶を飲むだけの仲だった。

 今日は王宮の敷地内にある庭園に来ていた。
 庭園には季節の花が植えてあり、丁度バラの花が咲き始めた頃だった。

「今日も会いに来てくれてありがとう」

「こちらこそ、お時間を作って下さりありがとうございます」

 ミレリアは咲き誇るバラの花を見て、ほっと息をつき、満ち足りた気持ちとなった。

「クロヴィス殿下、連れてきて下さってありがとうございます」

「喜んでもらえたなら良かった」

 クロヴィスは喜びを頬に浮かべた。

「ミレリア嬢、もし君が私の事を許してくれるのであれば、君とやり直したい」

「えっ、えっと、それは」

 はて? やり直すとは?
 友人として? いや、もうすでに友人みたいな関係ではないだろうか?
 いや、クロヴィスにとっては、気心知れた知人かもしれない。

「夫婦として、君とやり直したい。やはり難しいだろうか」

 クロヴィスの顔が強張った。

「夫婦……」

 ミレリアは驚いた様子で目を見張った。

「すまない。驚かせるつもりはなかったんだ。今のは聞かなかった事にして欲しい。出来れば今までのように会って欲しいのだが。いや、虫が良すぎる話だな。未練がましくて自分が恥ず」

「お待ち下さい」

 早口でまくしたてていたクロヴィスの言葉を、ミレリアは遮った。

「クロヴィス殿下。貴方に許していただけるのなら、私もやり直したいです。もう一度、私をクロヴィス殿下の妻にしていただけないでしょうか」

「本当に? 私は半年という長い間、君を傷つけた。本当にいいのか」

「はい。クロヴィス殿下がいいです。ずっとお慕いしておりました」

「私もミレリア嬢だけを想っていた」

 ミレリアは頬を赤く染めた。
 クロヴィスはミレリアの頬にそっと手を伸ばす。

「触っていいだろうか」

「はい」

「抱きしめてもいいだろうか」

「はい」

 はにかむ様子のミレリアを、クロヴィスはそっと抱きしめた。
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