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一章 公国の姫君は、出会う

階級5

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「むっかつくううう!」

 未だ興奮冷めやらない。気分をリフレッシュするはずの優雅なひとときが台無しにされてしまった。

「ぜったい、エンジニアなんか要らないんだから!」

 大股でエレベータに向かって歩きながら鬱憤を振り撒いた。

「そうね。私も同意見よ」
 フィリアが私に同調してくれる。
「なんなのあいつ! 偵察部隊ってもっと口数少ないものなんじゃないの!?」

 あいつの所属は九十九番偵察隊。
 『番人』を除けば、おそらく最強の部隊だ。彼に与えられた特免状により、彼の部隊は最深部の五階層目までの潜入を許されている。

「あの男は例外ね。何もかもが規格外よ。相手にするだけ無駄。犬に噛まれたと思って忘れることね」

 そもそも、「女の子を自由に選べなくなるから」という理由でレベル5への昇級を断った、とかいう噂があるくらいだ。レベル5の隊編成は通常本部側が決めることになっている。

「ちょっと実力があるくらいで調子に乗っちゃって。ほんっと、気に入らない!」
 上階へと向かう直通エレベータの扉が開き、勢いよく乗り込んだ。
「――いたっ」

 が、中に人が乗っていたらしく、降りてきたその人と正面衝突した。
 相手の肩に頭をぶつける。私は後方によろめいて尻餅をついた。
 顔を上げると、一人の男が立っていた。

「――なによ。謝りなさいよ」

 後にして思えばどう考えても悪いのは私の方だったが、なにせ気が立っていた。
 加えて、そいつは男でかつサイファーを控えさせていたことが、私の怒りに油を注いだ。


「……なるほど。聞いていた通りだ」


 視線で私を上から下までなぞった後、その男は口を開いた。

「何なの? 誰よあんた」

 身長は、私より少し高いくらい。目にかかる位の長さの黒髪で、何故か腰に帯刀している。その瞳も、黒。じっと見つめるその目に吸い込まれそうになる。

 私は思い出したかのように立ち上がった。
 脇にいたフィリアは倒れた私よりもその見慣れない風貌の男の方が気になる様子だった。

 再び男が口を開く。

 
「俺はクライス・フォン・アンファング。本日付で第十一番隊に所属することになった。職業はエンジニア、与えられた階級は5だ。これからよろしく頼む」

 
 チン。

 ベルの音が鳴り、男の背後でエレベータのドアが閉まった。
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