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3章 魔法学園と暗雲
42 初ダンジョンアタックと事件
しおりを挟む「それでは第一回パーティー会議を始めるのである!」
小太り貴族の友人アダデンが司会となり、パーティーの役割分担の話し合いが行われた。
メンバーは伯爵令嬢ルミリー、男装女子ヴィオレ、単眼少女ユノア、魔法神ナルム。
それに俺とアダデンを加えた6名だ。
「我が友シンヤはリーダーとして指揮するため後衛が良かろう。他の者がどうするかであるな」
皆の総意で勝手にリーダーにされてしまい、俺は後衛になってしまったみたいだ。
前衛になっても実力を見せないようにする予定だったから、良いポジションではある。
「ボクは前衛。自己紹介で言った通り、剣が得意だからさ」
ヴィオレは前衛で物理攻撃役か。
「私は回復魔法が少し使えるので、後衛でお願いしたいです」
「ハッ、やっぱりボクも後衛が良い!」
ルミリーが俺と同じ後衛を選び、ヴィオレが慌て始めた。
ちょっと抜けてて可愛いやつめ。
ルミリーはしてやったりと不敵な笑顔を浮かべていた。
ただ彼女はあまり戦闘能力が高いとは言えないから、普通に考えて後衛がベストだよな。
「わしは火力役じゃな。中衛でバンバン魔術を撃つとしよう。なるべく皆のレベルに合わせるから安心せよ」
俺をチラッと見るナルム。
彼女には事前に手加減するよう言っていたので、うまく調整してくれることだろう。
「ではこのアダデン、前衛でタンク役を務めるとしよう。ユノア殿は中衛でもよろしいか?」
「はい、分かりました」
前衛二人、中衛二人、後衛二人か。
中々バランスは良さそうだな。
「リーダーの我が友シンヤよ。これで良いか?」
「もうお前がリーダーで良いんじゃないか?」
しっかりまとめてくれるし、アダデンにリーダーを押し付けたい気分だ。
「何を言っているのだ。このメンバーは皆、我が友シンヤに惹かれた者たちだ。中心となるシンヤがリーダーでなくては瓦解してしまうぞ」
まともな意見で返されてしまった。ぐうの音も出ない。
「それに我が友は冒険者をやっていたのだろう? モンスターとの戦闘は専門家。指示を出すなら状況判断ができる貴殿が一番適している」
「分かった分かった。リーダーはやるから変に持ち上げないでくれ」
褒められると照れ臭くなってくるし、これ以上何か言われないように、大人しく引き受けることにしよう。
「じゃあプランを説明する。反対意見とかあったら遠慮なく言ってくれ。最初のダンジョンアタックでは第一階層の一階から三階までしか入らない。まずは個々の戦闘能力と連携の確認だ」
最初のダンジョン実習はダンジョンに体を慣らす。
最初から深い階層を狙わず、徐々に進んでいくスタイルにしよう。
同時進行でレベル上げもしたいから、放課後の暇な時間はナルムと二人で深層に潜る予定だ。
ダンジョンは一応、一日中解放されている。
休みの日はダンジョンに泊まりで潜る学生もいるくらいだ。
授業の時間はみんなとゆったりダンジョンを進み、放課後や休みでちゃちゃっとレベル上げ。
当面はこの計画で行こう。
ちなみにダンジョンの成績は魔道具で調べられるらしいが、隠蔽スキルのレベルが6もあれば大丈夫とナルムに言われた。
ナルムも魔法で魔道具くらいどうとでもなるらしい。
「よし、これからダンジョン実習を始める。授業中は一階層を先生たちで巡回しているから、何か困ったことがあれば頼れよ! 危なくなったら救難の魔道具をすぐ使え! 分かったな!」
「「「 はいっ! 」」」
ピャニラ先生の号令でいよいよ初のダンジョン入りだ。
「前方50メートル先にキラープラント。隣の部屋から出てくる他のパーティーが接敵しそうだから一旦避けるぞ」
ダンジョンに入り30分、俺たちはまだ接敵しないでいた。
というのも、他の張り切った学生たちが次々にモンスターを倒していってしまう。
でも焦って二階に行くよりは、一階が空くまで待った方が良いな。
俺たちはマイペースでゆっくり進むことにしよう。
メニューのエリアマップで索敵しながら、戦っていないモンスターがいる方向へと進んでいく。
そしてようやく他のパーティーがいない場所で、キラープラントに出会うことができた。
やはりメニューは素晴らしいな。
いつもお世話になっております。
「前方20メートル先にキラープラント二体。一体は前衛が抑えて、一体は早々に魔法で片付けるぞ」
「「「 はい! 」」」
まずはアダデンがキラープラントの攻撃を受け止め、隙を突いてヴィオレが斬り込む。
ヴィオレの一撃がキラープラントを切り裂き、そのまま命を刈り取る。
もう一体はナルムが魔法で瞬時に拘束。
手加減してじわじわ体力を削るかと思われたが、ユノアが放った風魔法で一瞬にして切り刻まれてしまった。
おかしい、ヴィオレもユノアも強すぎる。
キラープラントは大人でも苦戦する魔物だ。
現に最初の頃のグランたち奴隷は、キラープラントを倒すのに結構苦戦していた。
まだ中学生くらいの女の子たちが圧倒するのは違和感を抱かざるを得ない。
「ねぇねぇシンヤ君、ボクの活躍どうだった?」
ヴィオレはニコニコ顔。
ユノアは何も無かったかのように平常通りだな。
「二人ともちょっと強過ぎやしないか? あんまり強くないからBクラスじゃないのか?」
「あ、しまった。でもシンヤ君にならバレても大丈夫! 良いところ見せたいし!」
「私はあの、目立ちたくは無かったので入学試験で手を抜いてしまって……」
ユノアは俺と同じような理由、ヴィオレは理由までは分からないが似たような感じだったのか。
二人とも本気を出せばSクラスに入れそうなくらいだ。
「ヴィオレもユノアも強いのは分かったが、ちょっと手加減してくれ。アダデンやルミリーの戦闘の練習にならないからな」
「シンヤ君の仰せのままに~」
「はい」
次からはアダデンやルミリーにも少し戦わせつつ一階を進んだ。
二階に降りた頃には結構連携が取れ始め、三階に足を踏み入れた頃には、役割ごとにしっかり動けるようになっていた。
他の学生たちはもっと先に進む人が多かったが、今日はこのくらいで十分だろう。
「全く役に立たん奴をリースフェルト様がパーティーに入れる訳がないだろ! 雑魚はどけ!」
「待って! アタシちゃんと戦えるから!」
帰り際に女性たちが言い争う声が聞こえてきた。
「ほう、ではこの程度の攻撃なら避けられるよなぁ?」
「えっ!?」
「はっ?」
あまりの光景に俺の口から驚きの声が漏れてしまう。
騎士風の装備をした悪役顔の少女が、魔法使い姿の少女を肩から腰にかけて大きく切り裂いた。
少女は倒れてしまい、周りに赤黒い血溜まりが広がっていく。
まずい、保って数分程度の致命傷だ。
「雑魚がリースフェルト様に近づくから悪い。行きましょう、リースフェルト様」
「ああ、お前ら行くぞ。いや、待て。お前」
煌びやかな装備を身に付けた貴族っぽい美男子が、その様子を見て何の感情も抱いていないように受け答える。
そして立ち去ろうとしたときに、何故か俺と目が合い、こっちに寄ってきた。
「転移者よ、一つ教えておこう。ダンジョン内で死んだら、死体はダンジョンに吸収される。そのチビと片時も離れないことだな」
彼は俺の耳元で、囁くようにそう呟いて去っていた。
リースフェルトが何者か気になるが、今はそれどころじゃない。
このままでは少女の命が危ない。
「大丈夫か?!」
仲間たちと一緒に血を流して倒れる少女に駆け寄った。
虫の息だが辛うじて生きてはいるようだ。
「エクスヒール! ダメっ、傷が深過ぎる」
ユノアが回復魔法で治療しようとするが、焼け石に水程度の効果しかない。
「ユノア、あとは俺に任せてくれ」
実力がバレるのは嫌だが、流石に死にそうなやつを見殺しにはできない。
俺は回復魔法で少女の傷を一瞬で完治させ、彼女を道の端に移動させて寝かせた。
何とか命に別状の無いレベルにまでは回復させたが、後遺症とかは起きてみないと分からないな。
俺が最上級の回復魔法を使ったことに、ナルムとルミリー以外が目を見開いて驚いていた。
みんなには後でしっかり口止めしないとな。
「兄様、わしに頼めば良かったのに。まあわしも唐突過ぎてオロオロしてたのも悪いのじゃが」
「あっ」
あまりの状況にナルムが魔法神なことなど頭に無く、思わぬ展開で仲間に実力バレするシンヤであった。
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