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3章 魔法学園と暗雲
38 夕食あ〜んと商会名
しおりを挟む「今日は腕によりをかけて作りました! どうぞお召し上がり下さい!」
料理長ノコラちゃんの料理を久しぶりに堪能しながら、みんなとの会話を楽しんだ。
特に大喜びだったのは男の娘マシュと執事エクル。
会えない時間がかなり寂しかったのか、二人とも俺との再会に泣きそうな表情だった。
2ヶ月くらいしか離れていないのに、ちょっと大袈裟だったな。
まあ俺のモフモフ欠乏症よりかはマシかもしれない。
あの後冷静になり、ミュマをモフったことを後悔してしまった。反省しなければ。
「ねぇねぇご主人様。あ~ん」
お、マシュが食べさせてくれた。
勿論可愛いのでビデオメモで録画する。
学園ではマシュビデオが更新できないから、今のうちだな。
「あ、マシュさんずるい。私が作った料理だから私が食べさせます。シンヤさん、お口あ~ん」
ノコラちゃんもか。
彼女の料理は本当に美味しいし、味付けも言ったら俺好みに調整してくれた。
この子は将来、良いお嫁さんになりそうだな。
「ミラシャもするのです!」
「ご主人様、あ~んはメイドの仕事です!」
「では私も失礼します」
「えっと、私も?」
それからミラシャたちモンスター娘や、メイド長のラナッカ、アリアやミュマまであ~んで食べさせてくれた。
蜘蛛娘と蜂娘からは勢いで口移しされそうになったが、唇が触れるギリギリで回避した。
本当に油断も隙も無いな。
ミュマがしっかり注意してくれて、二人はしょんぼりとしていた。
怒られたことにではなく、口移しが失敗したことにだと思うがな。
メイド長ラナッカ以外の他のメイドたちもやりたがっていたが、流石にお腹が膨れてしまったのでまたの機会にと誤魔化しておいた。
流れを作ってくれたマシュ、グッジョブだ。良い仕事をしてくれた。
夕食を食べ終えてからは商会長のアリアと二人きりで話をすることになった。
俺がいない間の家計はアリアが担当していたので、帳簿を見せてもらいながら収支のチェック。
収入から必要経費とみんなへの給金、予備の費用を差し引き、後は俺の手元に入ってきた。
合計白金貨70枚ほど。
やはりポーションの売り上げとアリアの稼ぎが大きい。
ただグランたち冒険者の稼ぎも段々上がってきている。
現状俺は休みの日にモンスター狩りとかはしていないが、ドンドン横流ししても良くなってきた。
いや、これだけ収入があるなら遊んで暮らせるんだがな。
何もしないとダメになりそうだから暇なときにモンスター狩りをしよう。
不労所得。
響きは最高だが、中々俺の堕落を誘ってくる悪魔みたいなやつだ。
さて、アリアの商会は王都に進出し、今や緑の大陸全土に広がりつつある。
お金を持っている貴族向けの店舗と、平民向けの安価な店舗で分ける戦略もかなり功を奏しているのだろう。
「そろそろ商会の名前をシンヤ商会に変えたいのですが、ダメでしょうか?」
「ダメだ、勘弁してくれ」
取り敢えずシンヤ商会という名前になることだけは全力で拒否しておいた。
以前まではアリアが入る前の商会名を継続して使っていたらしいが、そろそろ変えようという話になっていたらしい。
第一候補がシンヤ商会とか、アリアの商会の幹部たちは大丈夫なのだろうか。
「では第二候補のアリシヤン商会でどうでしょうか」
「うーん、まあギリギリ許可する」
なんかアリアと俺の名前が混ざったみたいな名前が第二候補だった。
これ以上反対しても第一候補が推されかねないので、アリアの商会はアリシヤン商会となった。
「有り難う御座います。この商会の名を九大陸に轟かせてみせますね」
「あんまり頑張り過ぎないでくれよ。足りない物や資金が必要だったら遠慮なく言ってくれな」
お金には余裕があるし、実は結構前にジジイから借りていたお金の一つが白金貨と同じものだと気付いた。
借りた硬貨は金貨と白金貨とあともう一種類。
あと一種類はまだ見たことないので、使えるかは分からない。
普段見かけないし、もう使われていない貨幣かもしれないな。
白金貨に関しては掃いて捨てるほどあった。
ジジイはどれだけ金持ちだったんだと流石にビビったな。
借りているといっても白金貨は増えている。
もし足りなくなっても、ジジイのお金から資金繰りをしよう。返す予定ではいるから、あまりそうならないと良いが。
「資金面は万全です。ですが店舗が増え、人手が足りなくなってきています。労働力を確保する為に奴隷の購入を検討しているのですが、ご主人様にお願いできませんか? お金は商会の方で出しますので」
「お金があるなら普通に買えば良いんじゃないか? どうして俺に?」
アリシヤン商会はどんどん規模を拡大させていっているが、人手が足りなくなっているようだ。
勿論アルバイトやパートみたいな感覚で現地の人を雇ってはいるものの、そう簡単には労働力を確保できないのだろう。
奴隷であれば初期の購入費は高いものの、奴隷の生活費さえ考えれば、後はあまり心配せず確かな労働力を確保できる。
奴隷を年中無休で働かせたら、流石にアリアを叱ることになるけどな。
「私の身分が奴隷ですので、奴隷は買えません。副商会長や幹部たちを主人にするのも、商会的には良くありません。理事長であるご主人様が適任です」
あぁ、そんな肩書きあったなぁ。
お飾りの理事長だから忘れてた。
でも奴隷を持つなら俺より商会長のアリアが一番適任だよな。
「よし、じゃあアリアを奴隷から解放して『それだけはやめて下さい。ご主人様の奴隷を辞めるくらいなら商会を捨てます』お、おぅ、分かった」
俺の提案は言い終わる前に拒否されてしまった。
彼女は奴隷であることに固執しているみたいだな。
理由は予想できないが、彼女の意見を尊重しよう。
「じゃあ次の休みのときに一緒に奴隷を購入しに行こう。それなら良いだろ?」
「はい。我儘を言ってしまい申し訳ありませんでした」
「いや、ちゃんと意見を言ってくれる方が助かるさ。アリアにはかなり世話になってるから、いっぱい我儘言ってくれても良いからな」
忘れないようメニューのメモに、次の休みの予定を書き込んでおく。
転移魔法を考えたおかげで、こうして気軽に家に帰って来られることができて良かったな。
あ、まだ本当にできるか試していなかった。
これで転移は失敗でした、なんてことになったら笑えないし、早めに確認しておこう。
アリアとの会話を終え、屋敷の自室に転移魔法陣をセットした。
ジジイから貰った魔石を並べ、学園の方向に魔導線を繋げる。
魔導線は外のマナを取り込みながら形成されていき、やがて学園に隠した魔法陣と繋がった。
「転移」
魔法陣が輝き、そして景色が一瞬で変わる。
計画通り魔法陣と魔法陣が入れ替わり、その上に立っていた俺ごと移動できたようだ。
良く考えたら何も最初から自分で実験する必要は無かったのでは?
もし失敗していたらバラバラになっていたかもしれないし、石とか物で試せば良かった。
まあ今回は結果良ければ何とやらだ。
使った魔石はまるまる一つか。
往復で魔石二つ。流石にかなりの消費だな。
魔石は千個ちょっとしかないから、使う量を考えないといけない。
転移魔法陣だけに使うわけにもいかないからな。
できるなら自作してみたい気持ちがある。
魔石の作り方とかを調べておくことにしよう。
確か魔物の核を加工して何かするとかだったが、詳しい作り方は知らない。
「よし、戻ろう。転移」
俺はまた魔法陣を隠蔽しなおし、屋敷の自室に転移して戻った。
一人で使うには広過ぎる部屋。
どでかい天蓋付きベッドに、ドレッサーやタンス、クローゼット。
家具はシックで格式高そうなもので統一されている。
まるで品の良い貴族の部屋みたいだ。
うん、いつ見ても自分の部屋と思えない仕上がりだな。
そもそも家具は自分で選んでいない。
アリアとマシュがテキパキと決め、俺の部屋は家具から何から全て用意されてしまった。
もうちょっと狭い部屋が良いと言ったのだが、ご主人様なんだから屋敷で一番大きな部屋じゃないとダメと言われてしまった。
大きなベッドも最初こそ慣れなかったが、かなり質の良いものだったみたいで、寮に入ったときはこのベッドが恋しくなったなぁ。
フカフカだけど程よい弾力もあり、安眠できるんだよな、コレ。
などと改めて自分の部屋を見回していたら、いきなり転移魔法陣が輝き始めた。
「え?」
この輝きはさっき試しに使ったときと同じ輝きだ。
誤作動でも起こしたのか?
それとも何か失敗だったか?
「ふぅ、着いたか。不安定で無理矢理な魔法陣じゃったのう。おっ、お主がこんな馬鹿げた魔法陣を作ったやつじゃな。中々面白い代物を作るじゃないか」
魔法陣からちんちくりんなツインテール幼女が出てきた。
見た目は小学校低学年くらい。
だが話し方はロリババアと言って差し支えなさそうな口調だ。
誤作動ではなく、この幼女が魔法陣を発動させたのか?
このちんちくりん幼女は一体何者なんだ?
「おぉ、それは主神様の加護。となるとお主がやはり……。会いたかったぞ、転移者よ」
俺を転移者だと知っている?
どうやらこの幼女、只者では無さそうだ。
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