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3章 魔法学園と暗雲
35 デート? と未来
しおりを挟む「シンヤ様、同じクラスにはなれませんでしたが、こうして同じ学び舎に入れただけで私は喜ばしゅう存じます」
「ルミリーが学園に入ってるなんて驚いたよ」
ルミリー・フォン・ロドガー。
彼女は王国貴族であるロドガー伯爵のご令嬢。
馬車で命を狙われているところを救出するというテンプレで知り合い、仲良くなった少女だ。
彼女はAクラスに入っていたようで、武術実技のときに俺とピャニラ先生の模擬戦を見て俺がBクラスだと気が付き、話しかけてくれた。
「シンヤ様はてっきりSクラスに入られたと思っていましたが、シンヤ様らしく目立たないようにされてらしたんですね」
俺の性格からBクラスに入った理由を見抜れてしまった。
ルミリーはまだ幼いが侮れないほど聡明だ。
魔法や武術はあまり得意ではないはずのルミリーがAクラスに入れているということは、筆記試験の成績が相当良かったのだろう。
「それでシンヤ君。シンヤ君を見るなり抱きついてきたその女とはどういう関係なの?」
「ルミリーとは友人だ」
「シンヤ様が学園を卒業なさったら、私との結婚を考えて下さるとお約束いただいております。親公認の仲なので、婚約者のような間柄です」
うーん、間違ったことを言ってはいないのだが、誇張というか拡大解釈をされているような気がする。
ただ学園卒業までは告白の返事を待って欲しいという感じだったのに、いつの間に婚約者になっているんだ?
「ボクはシンヤ君本人を信じるよ。ルミリーさんとシンヤ君はただの友人。そうだルミリーさん、ボクとも友人になってくれるかな? ボクはビレットだよ。ヴィオレは親しい人しか呼んじゃダメだから」
「ビレットさんですね。シンヤ様のご学友の方と私もお友達になりたいと思っておりました。是非、宜しくお願い致します」
火花をバチバチに散らしながら、強い握手を交わす二人。
お互い拳を握り込んでいるようだが、ルミリーが痛そうに表情を歪めた。
ヴィオレの方が力が強いんだな。
ふふん、と勝ち誇ったようなドヤ顔を見せている。
ルミリーは顔は笑顔のままだが、内心ハンカチを噛んでキーッとでも言っていそうだ。
「ボクもまだシンヤ君とは友達の関係だから一緒だね」
「ええ同じですね。ただ私はビレットさんよりシンヤ様と長く過ごした時間がありますので」
「想いは時間じゃないから」
「時間によって育まれる想いもあるのですよ」
これはかなり厄介なことになってしまったな。
アダデンは「我が友、後はしっかりやるんだぞ」と言って気を利かせて帰ってしまったし、単眼少女ユノアは苦笑いしながらちょっと遠くで見守ってくれている。
助けて欲しいが、助けを求めるわけにもいかないよな。
「ヴィオレもルミリーも、今日はそこまでにして欲しい。明日は学園が休みだし、二人ともどこかでちゃんと話し合わないか?」
「で、でで、デート? 二人きりが良かったけど、今回は仕方ないよね。分かった」
「シンヤ様が仰るなら何でも致しますわ」
じゃあルミリーに膝枕でも、じゃなかった。男に何でもなんて言っちゃダメだぞ。
ようやく場が丸く収まり、次の日に話し合いを持ち越すことにした。
今日は運動して疲れているだろうし、ゆっくり休まないとな。
◇
「あの、私まで来て良かったのかな?」
「シンヤ君、ボクが呼んだんだけどダメだった? ユノアちゃんが居た方が歯止めになるかなって」
翌日、待ち合わせをして街で待っていたらユノアとヴィオレが揃って登場した。
ユノアは白のワンピースに水色のカーディガン。
女の子女の子した可愛らしい服に思わず見惚れてしまう。
「あー、ユノアちゃんばっかり見てるー」
ヴィオレはゆったりしたトップスにショートパンツ。
赤い帽子を被っていて、全体的に着こなし方がちょっとボーイッシュな感じになっているが、似合っていて可愛い。
「二人ともめっちゃ可愛いよ」
「はうぅ」
「やったぁ!」
「シンヤ様、私はどうでしょうか?」
振り向くとお嬢様服姿のルミリーが立っていた。
お嬢様服というよりは、ロリータファッションと言った方が現代の感覚に近い。
フリフリだけどルミリーの気品を失うことなく、かなり似合っていた。
「ルミリーもとっても綺麗だよ」
三人の美少女に囲まれるなんて眼福だな。
ただあまり長居して目立つわけにもいかないので、俺たちはそそくさとレストランの中に入っていった。
「なるほど、ルミリーとはそうやって知り合ったんだねぇ」
「ふふっ、もっとビレットさんとお話ししたいです」
「やっぱりヴィオレで良いよ、ルミリーさん。ねぇシンヤ君、ちょっとルミリーさんと二人きりにしてもらえないかな? ユノアちゃんを好きにしていいからさ」
「そうですね。シンヤ様、お願いできますか?」
ご飯を食べながら話し合ったら、意外とすぐに険悪な雰囲気は消え、二人は仲良くなり始めていた。
ユノアも俺も安心して会話を見守っていたら、二人に追い出されてしまった。
「追い出されちゃったけど、どうしようか?」
「あの、私もシンヤさんと二人きりでお話ししたいことがあったの。聞いてくれないかな?」
それから喫茶店に入り、ユノアからの話を聞くことになった。
内容は最初に友人になったときの話の続きだった。
「私はね、モノアイというモンスターなんだ。桃の大陸出身で、人間に興味を抱いて緑の大陸に渡り、学園に入ったんだ」
桃の大陸。
男にとってはまさに桃源郷とでも言うべき大陸だ。
人種は存在していないが、多種多様な女型のモンスターが棲息している。
知能を持つ者が多く、モンスターではあるものの友好的な存在が多い。
ただし桃の大陸への男性の立ち入りは自殺行為として知られる。
桃の大陸では男性がおらず、モンスター娘しか存在しない。
それゆえ男性が足を踏み入れようものなら、たちまちモンスター娘たちに襲われてしまうようだ。
その為男性の渡航は数百年も確認されていない。
過去に踏み入れた者は必ず死体となって発見されてしまったらしい。
まあつまり、うちのミラシャやメライアみたいな女型のモンスターがいっぱいるとこだ。
「モノアイは目に特別な力を持つ種族。私の場合は断片的だけど未来視ができる。その未来にね、シンヤさんが視えたの」
未来視の能力を持つユノアは、俺が関わる未来を見たようだ。
内容を詳しく聞いてみたが、詳細までは分からないらしい。
ただ分かるのは、俺が桃の大陸に行くこと。
桃の大陸のモンスター娘たちを助けること。
俺が桃の大陸のダンジョンに入っていく所。
この三つだったらしい。
「学園に来たのはね、名前も分からない男の人を探すという目的もあったの。未来視通りになるかは分からないけど、ちゃんと伝えておきたかったんだ」
未来視、か。
勿論だが、男が入るのは自殺行為と言われる桃の大陸に行くつもりは無い。
無理強いしてこようものなら逃げるし、俺が行くことは無いと思うんだがな。
「これが理由で最初に話しかけたの。シンヤさんが未来視に見えた人にそっくりだったから。伝えたかったのはそれだけかな。聞いてくれてありがとう」
ペコリと頭を下げるユノア。
かなり律儀な子だな。
わざわざ俺に伝える必要性はないのに、俺を探してまでこんな未来が見えたよって教えてくれるなんてな。
モンスターとはいえ、心は人類種と変わらないような気がする。
全てのモンスターがそうであるとは言えないが、中にはこういう子もいることを覚えておかないと。
「でも俺は桃の大陸に行くつもりはないぞ? 未来視がどれだけ正確かは分からないが」
「ごめんなさい。私の未来視は、まだ外れたことがないの。私から桃の大陸に来てとは言わないけど、何かの理由で行かなきゃいけなくなるとかなのかもしれない」
モンスター娘たちを助ける未来か。
俺が死なないようなら良いんだが、どうなることやら。
「あともう一つだけシンヤさんに関わる未来があるんだけど、こっちはちょっと、恥ずかしいから……うぅ」
小さな声だったが、しっかり聞こえてしまった。
未来の俺は一体何をやらかしたんだ?
ラッキースケベでも発動させたのか?
ユノアとの話も終わり、すっかり仲良くなったヴィオレとルミリーと合流した。
仲良きことは美しきかなだ。
それから三人のショッピングに付き合わされることになり、荷物持ちにさせられてしまうシンヤだったが、三人の美少女に囲まれて満更でもなさそうな様子であった。
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