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3章 魔法学園と暗雲

34 武術実技と恋のライバル

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「シンヤ君、隣の席に座っても良いかな?」
「シンヤ君、ボクの口調って変えた方が良い?」
「シンヤ君、ボクより私って言った方が良い?」
「シンヤ君ってどんな女の子がタイプなのかな?」
「シンヤ君さえ良ければ、ヴィオレって呼んで欲しいな」


 学園の生活は順調と言いたいところだが、ビレットあらためヴィオレからのアプローチが凄くてちょっと困っている。

 俺が初めての友達だから舞い上がっているのかと思ったが、どうやら違う様子だ。

 彼女は明らかに好意を持って接してくる。

 いつ惚れられたのか、何故俺なのかは定かではない。
 だがこうも露骨に迫られてしまうと、周りの男子の目が嫉妬と怒りを帯びているものになってしまう。

「えっと、シンヤさんが困ってるからその辺りでやめてあげて欲しいな」

 もう一人の友人、単眼少女のユノアがストッパー役になってくれている。
 今日も大きな一つ目がパチパチと瞬きする姿が可愛らしい。

「我が友シンヤよ、お前は中々侮れん奴だな。男なら両方貰ってしまえ!」

「バカ言うな。しかも二人に聞こえる声で言わないでくれ」

 そして何故か小太り貴族男子、アダデンとも仲良くなっていた。

 どうやらこいつ、あんな企画をしておいて自分は友人を作れなかったようなのだ。

 あんまり関わりたくなかったが、あまりにも可哀想だったので話しかけてしまった。

 そしたら泣いて喜びながら「友人になろうではないか!」と言われ、友達になることにした。

 正直なところを言うと、友人が女の子二人だけというのは案外肩身が狭い。
 アニメやラノベとかで女友達しかいない男主人公がいると思うが、現実にそうなると結構キツいのだ。

 もう友人を作ってしまったし、どうせなら男友達が欲しくなっていた俺にはちょうど良かった。
 やはり男友達の方が気楽に話せる。

 話してみると、言葉遣いは尊大に聞こえるが、やっぱり根は良い奴そうだ。

 相手は貴族だが、今は俺も敬語をやめて気楽に話せている。

「ひゃっ、私は心の準備が……」
「シンヤ君、ボクはいつでも準備は良いから。付き合いたくなったらすぐ言ってね!」

 いや、どっちも貰う気はないからな。

 ちなみにヴィオレの口調はボクのままにして欲しいと言っておいた。
 正直、ボクっ娘は結構好きだ。ボクっ娘素晴らしい。





「武術実技担当のピャニラだ! 今日から武術実技が始まるが、毎回AクラスとBクラスは合同で行う。あとSクラスの奴も来ることがあるからな。分かったか!」

 ハイッとみんなで軍隊のように揃った返事をする。

 ピャニラ先生の威圧感が凄まじい。
 思わずイエスマムと言ってしまいたくなるくらいだ。

 武術の実技はAクラスとBクラスが合同。
 後はCクラスとDクラスが合同のようだ。


「よし、まずは体力作りからだ。二人組でストレッチしたら素振りをしろ」

 魔法使いを目指す者でも、体力は必要だ。

 武術実技は強制参加というわけでもないが、AクラスもBクラスも誰も休まず参加していた。

 二人組はアダデンと組んだ。
 俺と一緒にやりたがっていたヴィオレは、ユノアに連れて行ってもらった。
 流石に女の子と一緒にはできないよな。

「よし、じゃあ少し休んだら模擬戦だ。二月経ったら試験もあるから、手を抜かずしっかりやれ。分かったか!」

 ハイッとみんなに合わせて返事しておく。

 俺はアダデンと木剣で模擬戦しながら周囲の観察をしていた。

 どれくらいの実力が「普通」くらいであるかの見極めだ。

 アダデンは魔法の方が得意なようで、剣に関してはかじった程度。

 剣術スキルのレベルを10にしている俺から見ると、お粗末としか言いようが無かった。

 それはアダデンだけに限らず、他の学生たちも同様だ。

 スキルレベルで表すと、剣が得意な子でもレベル4か5くらいしかない。

 やはり実戦経験の乏しさや、まだ若いから剣を持って日が浅いという理由もあるのだろう。

 アダデンはレベル1か2程度で、俺はちゃんと彼のレベルに合わせた上で、ちょっと彼よりも上手いくらいを演じていた。

 アダデンにとっても格下と戦うよりかは、格上と戦った方が学びは多くなるだろう。

 あまりにレベルが違い過ぎると、何も学べないかもしれないので、ちょうど良さそうだ。

「ふぅ、我が友シンヤよ。やはり君は素晴らしい。我が炯眼けいがんは間違っていなかった」

 アダデンの動きは最初と比べてかなりマシになってきた。
 すぐスキルレベルが上がるほど上達したとは言えないが、それでも他の不得意な学生たちよりかは良くなったな。

「うーん、オレがつまんねぇな。よし、そこのお前、筋が良いしオレと模擬戦するぞ」

 うん? ピャニラ先生が俺たちの方を指差している。

 アダデンの成長を見られてしまっていたか。

 頑張れアダデン。しかばねは拾ってやる。

「我が友シンヤはやはり凄い。ピャニラ先生に選ばれたぞ」

「いや、アダデンお前だろ」

「そこの黒髪さっさと来い」

 アダデンの髪は、明るい茶色だ。

 黒髪もクラスに数人いるが、残念ながらピャニラ先生が指を差している方向には俺しかいなかった。

「よし、構えろ。気を抜いたら死ぬから気張れよ」

「本当にお手柔らかにお願いします」

 授業とかの「この質問○○君答えて」感覚で、ピャニラ先生との模擬戦の相手に選ばれてしまった。

 勿論手加減はしてもらえるだろうが、死なないか不安だ。

「オラオラオラッ。へっぴり腰になってんぞ。オレが間合いに入る度に距離を取んな! 受けてばかりじゃなく打ち込んでこい!」

 死ぬ!
 死んでしまう!

 殺気たっぷりのピャニラ先生が毎回重い一撃を打ち込んで来る。

 頭や急所になる場所を、手を抜きつつ守るなんていくらなんでも無理だ。

 恐らくピャニラ先生のスキルレベルは7くらい。
 モロに当たったら怪我どころじゃ済まないぞ。

「ピャニラ先生、ギブです! もうギブです! 手が持ちません!」

 打ち込まれて響く手の痛みで木剣を落としかけながら、降参する。

 と、いうのは勿論演技だ。

 ゴブリンキングのステータスを持つ俺には急所以外にはあまりダメージはない。

 急所は流石にダメージを受けてしまうから、もうやめておきたかった。

 見学していた他のみんなからはダサい男認定されただろうし、これでみんなの記憶からはどんどん消えていくだろう。

 目立たないのが一番だ。

「ちっ、なんだよ。筋が良さそうだから磨けば光ると思ったのに、もう終わりか。よし、次はお前だ」

 次はチャンガがピャニラ先生の生贄に選ばれたようで、嬉しそうに向かっていった。

 チャンガは下心丸出しで、ピャニラ先生の胸に気を取られていた。
 その後チャンガが地面に倒れ伏すまで、ボコボコにされたのは言うまでもない。

 チャンガ、お前良い奴だったよ。
 死んではないけどな。

 どうやらボコボコにされても治癒魔法で回復してもらえるらしい。
 俺を殺すかのごとくピャニラ先生が打ち込んできていたのは、それもあってのことか。

「よし、今日は終わりだ。これが今日最後の授業だし、帰ったらしっかり食って汗流して寝ろよ。Bクラスへ伝達だが、帰りのホームルームは無し。さっさと帰れー」

 実技のピャニラ先生は担任でもあるので、Bクラスはその場で解散になった。


「我が友シンヤよ、降参とは情けないぞ。だが善戦したことは誉めてやろう」
「シンヤ君、カッコよかったよ!」
「シンヤさん、あの、手を抜いてたのかな?」

 カッコ悪く負けを演じたのだが、ヴィオレからの評価は良かった。
 俺が何をしても彼女は褒めてくれそうだ。

 何故かユノアには俺が手を抜いていることを見破られてしまっていた。

 後でちゃんと話す必要がありそうだな。
 実力がバレてしまったなら、口封じをしなければならない。


「シンヤ様!」

 合流した三人とワイワイ会話しながら、教室の荷物を取ってから帰ろうとしていたところ、聞き覚えのある声に呼び止められた。

「シンヤ様、お会いしとうございました!」

 振り返った瞬間、柔らかな感触と甘い香りに包まれた。

「ル、ルミリー?!」

 声の正体は、依然襲われていたところを助けた伯爵令嬢のルミリー。

 学園の制服に身を包んだ彼女に抱きつかれ、俺の思考は停止しかけていた。

「ちょ、ちょっとダメダメダメダメ!」

「キャッ、何をなさるんですか?」

 俺に抱きついていたルミリーがヴィオレの手によって引き剥がされた。

 あぁ、慎ましいけどちょっとはあるあの部分の感触が無くなってしまった。
 もうちょっと楽しみたかったのだが、残念。

「シンヤ君に抱きついて良いのはボクだけなんだから!」

「そんな、貴女はシンヤ様とはどんな関係なんですか? 私は将来を誓い合った仲です」

「二人とも違うからな!」

 突如として修羅場になってしまった空間。

 二人の目の間には、火花が飛び散っているように幻視できる。

「我が友シンヤは流石であるな。三人目まで登場とは。男ならしっかりみんなを幸せにするんだぞ」

 俺は頭を抱えながら「穴があったら隠れたい」と呟くのだった。

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