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3章 魔法学園と暗雲

31 学園寮と強制友人作り

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「俺、チャンガ! よろしく!」

「シンヤだ。よろしく頼む」

 入学手続きと寮への引っ越しをするために学園に来ていた。

 制服はタダで支給、冒険者カードのような学生証も貰い、手続きを終えた俺は寮の自室にいた。

 寮の部屋にベッドは二つ。相部屋というやつだ。

 Sクラスだと豪華な一人部屋。

 Aクラスは一人部屋。

 Bクラスは二人部屋。

 Cクラスは四人部屋。

 Dクラスは六人部屋。

 入学試験結果で部屋が変わるらしい。

 もうちょっと頑張ってAクラスに入るべきだっただろうか。
 二人部屋だと、このチャンガという男と割と一緒に過ごすことになる。

 チャンガは虎のような耳に尻尾のついた獣人だ。
 肌は焼けているのか浅黒く、健康そうな見た目をしている。

 誰とも関わらないボッチの学園生活をしたいから、仲良くしたくはない。

 でも同室だと無愛想にするわけにもいかないし、仲が悪いと同じ部屋にいてもお互い息が詰まるだろう。

 チャンガにはなるべく普通に接するか。

 そんなことを決めながら、チャンガとの軽い挨拶を終えた。


「Bクラスのひよっこ共、良く来たな。オレが担任のピャニラだ! 担任と言っても、朝と夕方に連絡事項を伝えるだけだと思え。担当教科は武術実技。実技の時間はオレが徹底的にしごいてやるからな!」

 翌日、入学式を終えてBクラスに向かった。

 授業は小中高と同じ方式。

 座学ではこのクラスで先生を待ち、教室で授業を受ける。実技だと移動教室だ。

 Sクラスだけ授業の方式が大学に似ている。

 各先生の授業予定が渡されて、どの授業でも参加して良いという感じだ。
 なんなら一年だけでなく、上級生の授業にも参加できる。

 ただ単位とかはない。
 試験結果によって再度クラスが振り分けられたり、成績が良くなかったら留年か退学にもなる。

 試験の成績によっては、BクラスからSクラスに、なんてこともあるそうだ。
 絶対にやらないけど。

 担任の先生はピャニラ先生。

 猫耳の獣人で、年齢は20代後半くらいだろうか。

 かなり勝ち気な性格をしていそうだ。
 女性だが、言葉遣いは荒々しくて男勝り。
 加えて一人称はオレである。

「ピャニラ先生、いいなぁ~」

 俺の隣の席に座っているチャンガが、早速ホの字である。

 顔は美人だし、胸も相当なものをお持ちのようなので、わからなくもない。

 だがバストはうちのアリアには劣るな。
 アリアの胸はそれはもうスイカという表現では収まらないほど、いや、これ以上はやめておこう。

「そこ! オレが話しているのに声を上げるとは、死にたいらしいなぁ?」

「ヒィッ」

 他の男子学生もひそひそとピャニラ先生のことを噂していたらしく、目の前に物を投げつけられていた。

 ピャニラ先生は怒らせてはいけない。
 これは絶対に覚えておこう。

「んじゃ、今日は終わりだ。他のクラスはオリエンテーションやら自己紹介やらをやるみてぇだが、オレのクラスは好きにしな。今日は勝手にやって勝手に帰れ。んじゃな」

 バタンと扉が閉まる音がして、Bクラスは一分ほど沈黙が続いた。

 挨拶だけして嵐のように帰ってしまうとは、予想外だ。


「よし、君たち。先生も居なくなったし、特別に俺様が仕切ってやろう! さあ、みんなで自己紹介だ!」

 貴族っぽい男子が声を上げ、クラスをまとめ始めた。

 目立たないようにする為に、大人しく従うことにしよう。

 隣のチャンガは……ピャニラ先生がいなくなって悲しそうだ。
 本当に惚れたか?
 チャンガは気の強い女性が好きなのかもしれない。

「俺様はアダデン・ノドリアン。ノドリアン侯爵家の長男だ! 平民諸君は優しくしてやろう。貴族の者は友人になろうではないか!」

 アダデンは少しお腹が出ているタイプの、典型的な悪役貴族といった風貌であった。

 他人を見下し気味ではあるが、意外にも平民ともちゃんと接するようだな。

「ほら、前の席のお前からどんどん自己紹介を始めるがいい」

 しっかりと仕切っている姿からも、完全に自己中心的な奴だとは思えない。

 ちょっと拗らせた貴族くらいに思っておこう。

「は、はぃ。私はユノアです。勉強は得意ですが、運動や魔法は苦手です。仲良くして下さい」

 黒髪の女の子が、俯きがちに自己紹介した。
 声は小さかったが、耳心地が良くて聞きやすかった。

 顔は前髪で隠れ気味で良く見えなかったが、恐らく美少女に違いない。

「次はボクだね。ボクはビレット。剣が得意だよ。よろしく」

 次は帽子をかぶった男子が自己紹介した。

 獣人であることを隠している少年っぽいな。

 ズボンのお尻の部分に、尻尾があるような膨らみがある。
 帽子も耳を隠しているのだろう。

 他の学生たちも順に挨拶していき、次はチャンガの番になった。

「俺、チャンガ! 魔法使いたくて勉強しに来たんだ。格闘が得意だよ!」

 チャンガも当たり障りない挨拶で締めくくった。

 次は俺の番か。

 こういう自己紹介で目立つ訳にはいかないよな。

 もう目立たな過ぎて存在してないレベルになろう。

「シンヤです。宜しくお願いします」

 俯きがちに陰のオーラを身にまといながら挨拶したところ、クラスのほとんどは興味なさそうにすぐ目線をそらして次の人を見ていた。

 よしよし、順調である。

 俺の名前など誰一人として覚えてはいないだろう。

 名前を覚えていないと、声をかけるのは難しい。

 人は第一印象がかなり重要だし、みんなの記憶に残らなかったら、誰にも話しかけられない学園生活の始まりだ。

 俺はニヤリとしながら席についた。


「よーし、自己紹介は終了だな! では今から友人作りタイムだ! 自己紹介で気になったやつがいるなら、そいつのとこに行って話せ! 一人でも友人を作ること! じゃないと教室から出さないからな!」

 は?

 拗らせた貴族が何か企画し始めた。

 そんなのボッチや陰キャ殺しじゃないか。

「誰も友人ができないやつは、この俺様が友人となろう! アダデン様のところに集うが良い!」

 どうやら救済措置は用意されているようだ。

 こいつはありがた迷惑な奴ではあるものの、根は優しいのかもしれない。

 名前を忘れていたが、アダデンか。
 一応心の隅のそのまた端っこの方にでも置いておこう。

 しかし、友人作りか。

 友人を作らずに教室を出るのは悪目立ちするだろうから、仮の友人でも作ろう。

 ちょうど隣にはチャンガが……あれ?

「なぁなぁ、お前たち。ピャニラ先生良いよな!」
「あぁ同士よ。あの胸と尻に潰されたいと思っていた」
「男勝りなのに猫耳って、なんつーか、くるものがあるよな」

 チャンガはピャニラ先生を怒らせた男子たちの元へ行ってしまった。
 ピャニラ先生という共通の話題で男子たちとチャンガが既に仲良くなっている。

 あの様子だと、ピャニラ先生ファンクラブでも作られるかもしれないな。

 しかし困ったな。
 計画通りではあったが、案の定ボッチになってしまった。

 諦めてアダデンの元へ行くとするか。

「あの、シンヤさん」
「ねぇ、シンヤ君」

「「「 え? 」」」

 立ち上がろうとしたら、二人に同時に話しかけられた。

 俺と話しかけてきた二人は互いに顔を見合わせた。

 一人は最初に自己紹介した黒髪の子。

 もう一人はその次に自己紹介した獣人っぽい少年だ。

「えっと、お先どうぞ」
「そう? じゃあ遠慮なく。シンヤ君、ボク、ビレット。友達にならない?」

「あ、はい。是非、お願いします」

 願ったり叶ったりだ。

 教室を出るだけなら友人のフリをすれば良いことだしな。

 しかしよく俺の名前なんて覚えていたな。記憶力が良いんだろうか?

「あの、私ユノアです。私とも、お友達になってもらえませんか?」

「はい、宜しくお願いします」

 ユノアも俺の名前を覚えていた一人のようだな。

 顔を良く見ると、彼女は目が一つしかなかった。
 単眼少女か。珍しいな、初めて見た。

「あの、シンヤさんにお話があるんです。できれば二人きりが良いのですが」

「ちょっと待って。ボクだってシンヤ君に話があって友達になったんだ。あ、いや、さっき譲ってもらったからね。次はユノアさんがどーぞ」

 何だ? 一体俺が何をしたんだ?

 後で校舎の裏とかに呼び出されたりしないよな?

 ビレットはさっとユノアと俺から離れてくれた。
 気を遣って二人きりにしてくれたんだろう。

「あ、ありがとうございます。ではシンヤさんお話宜しいでしょうか?」

「分かりました」

 ユノアの表情は少し硬かったが、大きな一つ目がパチパチ瞬きする姿、それに合わせて睫毛まつげがフサフサと揺れるところが何とも愛くるしい。

 瞳の色は黒や茶色ではなく、青みがかっていて、キラキラと小さく輝いていた。

 単眼少女も可愛いな。単眼スキーになりそうだ。

「あれ? あのぉ、まさか見えてますか?」

「え? 何がですか?」

 ジロジロ見過ぎてしまったか?

 いや、それなら見えてますかとは聞かないか。

「あの、私の目なんですけど、見えてますか?」

「目は見えてますけど、どういうことでしょうか?」

 俺の答えが求めている答えとは違うのか、ユノアは困り顔だ。

「いえ、違くて、どう見えていますか?」

「正直に答えるなら、目がキラキラしてて綺麗だと思いました」

「ひゃぁ」

 ギュッと目を瞑って頬を染めるユノア。

 あまり正直に答えない方が良かったのかもしれない。
 しかし嘘を吐くにもどう言えば良いか分からないしな。

「やっぱり私の目、一つに見えますか?」

 あぁ、そっちか。
 これは俺が悪い。完全に勘違いしてた。

「すみません、そういうことでしたか。確かに目は一つに見えますよ」

 機嫌を損ねないようにしっかりと謝っておこう。
 勘違いして変なことを口走った俺に非があるからなぁ。

 思い出したら案外恥ずかしいこと言ってなかったか?

 女の子相手に目が綺麗ですね、とかどこのキザ野郎のセリフなんだ。

 入学早々にやってしまった。かなり恥ずかしい。

 いや、もういっそのこと開き直ってキザ野郎を演じてやるのも一興か。

 ユノアからヤバいやつ認定されれば、次第に俺との関わりも無くなっていくだろうし、存分に勘違い系モブ男になりきろう。

「なんで私の幻影魔法が効かないんでしょう。ペルカさん直伝なのに……」

 ユノアは小さな声で独り言を呟いているようだ。

 幻影魔法とかいう言葉が聞こえてきたが、残念ながら俺に状態異常は全く効かない。

 幻影も無意味になってしまうな。

「一つ目に見えたらまずかったですかね?」

「えっ、気持ち悪く無いんでしょうか? 皆さんと違って一つしか目が無いんですよ?」

「気持ち悪くなんて思いませんし、むしろ素敵だと思いますよ」

 しかしまあ、俺は異世界に慣れ過ぎてしまったみたいだな。

 獣人やモンスター娘たちをよく目にしていたが為に、今更目が一つ程度では何も違和感を感じなくなってしまった。

 少し物珍しさはあって見つめてしまったが、特段驚くこともなく、脳がすんなり受け入れてしまっていた。

 一つ目の子が入学してても、異世界だしそういう種族もいるだろうで解決してしまう。

 まだまだ異世界の常識には疎いな。

 だからこそ学園に来たとも言えるが。

 ちゃんと細かい常識も勉強しよ。

「はぅ、ずるいです。やっぱりシンヤさんは我々の……」

 ユノアはまた小さな声で何かを呟いていた。

 少し待ってあげたら現実世界に戻ってきたようで、ユノアはハッとこちらを向いた。
 うん、目がパッチリと大きく開くのも良いな。

「ま、また今度ゆっくりお話ししましょう!」

 パタパタと離れていくユノア。

 俺とユノアの話が終わったことで、遠くで様子を見ていたビレットが俺の元に駆け寄ってきた。

「お話終わったかな? 次はボクの番だね!」

 ユノアのようなケースはそうそうないかもしれないが、同じような事にならないよう、気をつけながら話さないとな。

 俺はビレットと向き合いながら、そう心に留めながら彼の話を聞くのだった。

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