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2章 モンスターテイムと奴隷たち
間話5 シンヤ様ハーレム同盟 (三人称視点)
しおりを挟む「ミュマさん、マシュさん。お集まりいただき有り難う御座います。あと、貴女は誰ですか?」
シンヤの奴隷であるアリアは、同じく女性奴隷の犬人族ミュマと、女の子にしか見えない男の娘奴隷マシュを屋敷の空き部屋に呼び出していた。
「あ、マシュちゃんの大親友兼師匠のパティナでーす!」
そこにマシュの付き添いとして伯爵令嬢ルミリーの護衛である魔法使い、パティナが同席している。
「ごめんね、アリア。魔法を教えてくれているお友達なんだけど、僕について来ちゃったんだ」
「なんか恋バナの予感をビビビと感じ取りまして、来ちゃいました! 私の勘って鋭いんですよ! ピコーン!」
実際彼女の勘は当たっていて、アリアは目を見開いた。
マシュは苦笑い気味である。
「まあ良いでしょう。話というのは、ご主人様のことです。単刀直入に伺います。お二人はご主人様であるシンヤ様に恋愛感情を抱いていますか?」
アリアは二人の目を交互に見つめながら、真剣な眼差しで二人に質問した。
「あの、分からないです。でも、とっても尊敬してます」
「な、何で僕を呼び出して聞くの?! 確かにご主人様は好きだけど、僕は男の子だよ?!」
「あたしはシンヤ少年のこと好き! マシュちゃんも好き!」
口を挟むパティナを睨め付けるアリア。
ミュマはモジモジと顔をほんのり赤らめつつ、俯きがちに答えた。
マシュは本当に訳が分からないと思いながらも、ちゃっかり好きと無意識のうちに言ってしまっていた。
「お二人の意見は分かりましたわ。では質問を変えましょう。私がご主人様と結婚したらどうですか?」
「えっ……」
「そうなったら祝福するよ? ご主人様が幸せなら、ちょっと寂しいけど、良いんじゃないかな」
「あたしも結婚する! ついでにマシュちゃんとも!」
暗い顔になるミュマ。
マシュは少し口を尖らせて拗ねているような雰囲気を醸し出していた。
パティナはみんなから無視である。
「お二人の気持ちは分かりました。お二人がご主人様を想っていることも」
アリアは二人が少なからず恋愛感情を抱いていることを見抜き、何かを決心したように立ち上がった。
「二人とも良く聞いてください。ご主人様には女性の影が多いですよね。ギルドのローアさん。伯爵令嬢のルミリー様。その護衛のドロワーさん。料理長のノコラさん。メイド長のラナッカさんを始めとしたメイドたち。それに人化し始めたモンスター娘たち」
アリアの挙げる名前にミュマもマシュも頷く。
アリアやミュマは、ローアやドロワーの姿を見たことが無いものの、シンヤが一緒に出かけたと楽しそうに話していたのを聞いたことはある。
ちなみにルミリーはたまに屋敷に遊びに来ている。
「今挙げた女性たちは全員、ご主人様に気があるはずです。つまり、誰かとご主人様が結婚する可能性は非常に高いです」
アリアの言葉を聞き、複雑な顔になるミュマとマシュ。
パティナはニヤニヤしていた。
「しかし、あのご主人様が一人しか妻を作らないでしょうか? いいえ、断じてありません。あの方はそんな器では収まりません。ご主人様なら、複数の配偶者を持ってもおかしくはないでしょう」
アリアの言葉を聞き、明るい顔になるミュマとマシュ。
パティナは更にニヤニヤしていた。
「だけどよく考えて下さい。私たちの身分は奴隷。ご主人様とは釣り合いませんね」
身分を思い出したのか、暗い顔になるミュマとマシュ。
パティナは先を想像して、アリアに感心していた。
「だから数で勝負します。三人ともご主人様のお嫁さんになれるよう、協力しませんか?」
世界では重婚が認められている国とそうでない国がある。
幸いなことに、シンヤの住む王国では重婚が認められている。
ただし重婚の中心人物以外の重婚は認められていない。
つまりハーレムを作るのはOKだけど、ハーレムメンバーが更にハーレムを作るのはダメ。
例えばシンヤが何人も結婚するのは良いが、シンヤと結婚したアリアが同時に別の男性と結婚することはできないといった法律になっている。
これは子供が出来たとき、どちらの子か分からなくなってしまう可能性があるからである。
ちなみに女性がハーレムを作る場合も、公平性を保つために同じように法律が適用される。
二人は重婚ができることは知っていたので、しばらく考え込んでいた。
「やっぱり、私はまだ、分からないです」
先に答えたのはミュマだった。
「ではミュマさん。貴女の獣人の本能に聞いてみてあげて下さい。獣人は本当に好きになった相手でないと、子供を作りたくないし作れない体になりますよね? ご主人様のことを思い浮かべたらどうでしょうか?」
獣人という種族全般は、人族との間で子供を作ることはできる。
愛する者がいれば、本能でその者との間にのみ子供を作れると広く知られている。
早い話、その人との子供が欲しいと思えるなら、心から愛している証拠なのである。
「あっ、私、ご主人様との子供、欲しいです。これが、好きってことなんですか?」
自分の本能に気が付いたらしく、ミュマは嬉しそうに顔を上げた。
「えぇ、その感情は大切になさって下さい。気が付かれたようで良かったです」
アリアは次にマシュを見た。
マシュはまだウンウン悩んでいた。
「やっぱり僕は男の子だから、ご主人様と結婚するのは無理だよ」
しばらく悩んで出した結論であったが、まだ迷いが残っていることをアリアの慧眼は見抜いていた。
この世界では同性同士の結婚は、まだあまり考えられていない。
ただ法的な制度が確立されていないだけで、そういった例は存在するし、みんながみんな否定的でもない。
世間だと「割とあるよなぁ」くらいには思われている。
「ではマシュさん。ご主人様は好きですか?」
「ご主人様は好きだよ。でも恋愛感情じゃないと思うんだ」
「自分が女の子だったら、お付き合いしたいと思いますか?」
「それは、思ったことが無いとは言えないけどさ」
マシュの心が揺らぐ。
今まで意図的に目を向けないようにしていたところに、目を向けるときが来たのだろう。
「言い訳は無しで、本心だけでお答え下さい。自分が女の子なら結婚も考えられますか?」
「女の子になれるなら、ご主人様と、その、ちゅーとかしたいです。結婚とかは気が早いかもだけど、したく無い訳じゃないです」
全身が夕焼けよりも真っ赤になりながら、アリアに答えたマシュ。湯気が出るんじゃないかというレベルであった。
パティナはニヤニヤが最高潮になっていた。
「ではマシュさん。ご主人様が性別などという細かいことを気にする方だと思いますか?」
「ほへ?」
素っ頓狂な声を出してしまうマシュ。
「マシュさんが男の子でもさほど関係ないということです。いえ、逆に個性があって有利かもしれませんよ」
「そ、そんなこと。性別は流石に気にするんじゃ」
などとマシュは言っているが、声が少し高くなっており、期待に満ちた光が目に宿っている。
「マシュさんなら何の問題も無いでしょう。マシュさんはご主人様が好き。ご主人様は男の子だろうが気にしない。これだけで良いじゃないですか」
アリアの言葉で、何かの枷が外れたような音が、マシュの頭の中で響いた。
「ならご主人様を好きになってもいいの?」
「ええ。好きになるのに良いも悪いも関係ないですよ。存分にアタックして下さい」
「男の子だけど、嫌がられないかな?」
「嫌がるようならご主人様はマシュさんを撫でながら、あんなダラシない顔をしませんよ。マシュさんもダラシない顔になってますけど」
「あうぅぅ」
再び顔を赤くしてしまうマシュだったが、その瞳はしっかりした決意を帯びていた。
「分かった。僕もご主人様に可愛がってもらえるように協力する。みんなでご主人様と結婚できるように頑張ろっか」
「ええ、お二人とも宜しくお願いします」
「ご主人様との赤ちゃん……」
約一名、既に子供をどう育てるか妄想に耽っている者もいた。
「あたしも協力するからね! 人数は多い方が押し切りやすいでしょ!」
「ダメです」
何故かパティナまで参加表明し始めたが、アリアはバッサリ断った。
しかしそこからパティナの熱弁が始まり、30分の交渉を経て、渋々アリアも認めることになる。
「はぁ、分かりました。パティナさんにも協力してもらいましょう」
「ふぅ、説得した甲斐があったよ。これでマシュちゃんと一緒にシンヤ少年と……」
こちらは良からぬ妄想で、頭をいっぱいにしていた。
まだ子供をどう育てるか妄想する方が、健全である。
「あくまで協力関係ではありますが、ご主人様が望まなかった場合は全力で反対しますから」
「はーい。マシュちゃん一緒に頑張ろーね」
「う、うん。ご主人様と……」
マシュはさっきから上の空で、あんまり話に集中できてはいなかった。
「まとめると我々四名は、ご主人様との恋の発展を互いにサポートし、また互いに認め合う仲として協力していきましょう。恐らく本妻にはなれないので、みんなで側室になれるよう頑張りましょう。三人とも、それで宜しいですか?」
「はい、頑張ります」
「うん。僕もそれで良いよ」
「ぐへへへへ」
「ではここにシンヤ様ハーレム同盟を締結します」
主な活動内容と目的は、シンヤをその気にさせて重婚を促し、自分たちもなし崩しで側室になること。
他には、本妻になる人物の見極め。二人きりの時間を互いに邪魔しない、逆に応援するなど。
互いに支え合いつつ、目指すところはみんな仲良くシンヤと結婚することである。
「それでは、もっと仲良くなるためにもお互いのことを話しませんか? 奴隷になった経緯や、そこから最初にシンヤ様に出会ったときの印象とか。今の印象とか」
アリアの提案が皮切りとなり、身の上話込みのガールズトークが開催された。
「良いね、僕から話したいな。僕は貴族だったけど、父の親戚が捕まって血の繋がる一族みんな奴隷落ち。初めてご主人様を見た感想は、貴族の子供に買われるのかなぁ、だったかな。ちょっと不安だったけど、僕より歳下のはずなのに、なんかお兄ちゃんみたいに感じてすぐに打ち解けちゃった」
マシュが嬉しそうに話すのを見て、他の三名はほっこりしていた。
「私は男爵家の元令嬢、長女でした。下級貴族だったので人一倍勉強も鍛錬もして管理職に就こうと目指していましたが、活躍する私を疎ましく思った上級貴族の令嬢が、裏で手を回して私の家を没落させてきました」
アリアは少し暗い顔で話していたが、一呼吸おいて笑顔になった。
「没落して親に売られて奴隷になりましたけど、私はこの運命を恨んでいません。本当に好きな人に出会えたし、その出会いは素晴らしかったですから。奴隷として売られるために馬車で移動していたところをモンスターに襲われ、絶体絶命のピンチに、風に乗ったご主人様が颯爽と現れ、次々とモンスターを倒しました。ちょっと一目惚れもありますが、毎回毎回ご主人様は男前な行動をなさるので、惚れないわけないじゃないですか」
ウンウンとマシュが強く頷いていた。
ミュマも思い出しながら、嬉しそうに尻尾を揺らしている。
「私は結構強気な性格なので、ご主人様の前では自分を良く見せてしまいがちですけど、ご主人様は全部分かってくれているような気もするんです。どんな私でも、変わらず接してくれるんじゃないかって。でも体で迫ってみたらはぐらかされちゃいました。脈は無さそうなので、皆さんと協力したいと思ったんです」
心の内を吐露したアリアに、二人は「そんなことない」と声をかけた。
慰められたアリアは、少し気が楽になったようだ。
「私は、集落が人間に襲われて、奴隷にさせられました。その人たちは、捕まりました。でも、もう家も、お金も、何も残ってなくて。奴隷になるしかなくて。怖くて」
次にミュマがポツポツと語り始めた。
耳はペタンと折れ、尻尾はシュンと下を向いて垂れる。
「ご主人様に会って、最初は小さいのに強いって、思いました。でも、大人っぽくて、しっかりしてました。いっぱいお話もして、困ったら助けてくれて、私に仕事もくれて、今は幸せがいっぱいです」
耳をパタパタ、尻尾をフリフリしながら笑顔を浮かべたミュマ。とっても幸せそうだ。
「三人とも尊い。語彙力溶けちゃう」
小さな声で呟いたパティナは、相変わらずであった。
それから四人はシンヤのここが好きとか、ここもたまらない等のトークを寝ないで朝まで繰り広げ続けた。
朝方メイドが掃除のため部屋に入ったことでようやく終わりを迎えたものの、パティナは護衛に遅れて隊長のケイラにこっぴどく叱られてしまった。
こうしてシンヤの知らぬところで、シンヤが知ったらビビりそうな組織が立ち上げられた。
その名もズバリ、シンヤ様ハーレム同盟。
ここからこの組織がとんでもない広がりを見せることになろうとは、立ち上げたアリアたち四名でさえ、まるで予想はしていなかった。
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