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2章 モンスターテイムと奴隷たち

間話4 学園に集結する者たち (三人称視点)

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(視点主人公ではなく、三人称視点)


 共立魔法学園アカデメイア。

 緑の大陸で随一と名高い魔法学園であり、世界でも屈指の魔法研究機関。

 研究分野は魔法を主たるものとしているものの、魔法のみならず幅広い学問の研究が日夜進められている。

 緑の大陸は危険な魔物が少ないことから、年に一度他の大陸から学者たちが集まる学会が開かれる。

 そう、アカデメイアは世界の叡智が結集する場所だ。

 学園は研究機関でもあるが、教育機関としの役割も持っている。

 世界各国からその知識を吸収しようと門を叩く者が現れる。
 集いし者は厳しい入学試験を経て、その学び舎に席を置く。

 今年の入学生は注目すべき者たちが多い。




 一人目、ヴァイオレット・ウースト。

 獣魔帝国のウースト軍将軍家の長女であり、平凡を望む12歳の獣人少女である。

 四人の兄がおり、兄たちと父に溺愛されている。

 兄たちはアカデメイアの上級生であり、妹が学園に入学することを心待ちにしていた。

 彼女は優秀であるものの、平凡を望むが故に試験で手を抜き、1学年Bクラスにクラス分けされた。

 兄たちは皆Sクラスであり、それを心良く思ってはいない。

 また、学園を卒業したら縁談の話があると父に言われており、彼女はそれを望んではいなかった。

 学園内で恋仲になった者がいれば考えるとも父に言われており、彼女は将来平凡な暮らしができる結婚相手を探すために学園に入学した。

 いわば学園生活は猶予期間である。

 平民との恋に憧れるちょっと変わったお嬢様。
 それがヴァイオレットである。



 二人目、ナルム。

 魔法試験で満点以上の成績を叩き出し、他の試験を全く受けずに学園に入学した天才幼女。

 現代の魔法だけでなく古代魔法まで使いこなす彼女は、かの魔法神ナルメライアの依代と噂されている。

 その正体は、ナルメライア本人、魔法神そのものである。

 彼女は自身が神であることを隠しながら、魔法学園に入学を果たした。

 入学試験の成績からSクラスに入ったものの、それは彼女が望んだ結果にはならなかったようだ。

 彼女はとある人物と同じクラスになることを望んでおり、その者の実力だと確実にSクラスになると予想していた。

 しかし実際にはSクラスには目的の人物の姿はなく、彼女は落胆することになる。

 そう近くないうちに、彼女はクラスの移動を希望することになるだろう。



 三人目、リースフェルト・ケルストレイン。

 ケルストレイン子爵家の三男で落ちこぼれと称されていたが、試験の数ヶ月前に突如才能を開花させた貴族である。

 以前は弱気で内気な性格だったが、ある日を境に平民を見下す貴族至上主義となった。
 と同時に頭角を表し、魔術の才、剣術の才、学問の才に目覚め、完璧超人と言われるまでに成長した。

 何か悪いものでも食べたのか、それとも今まで本性を隠していたのか。
 元の彼を知る貴族の中では、憶測や噂が流れた。

 彼は試験でも最高の成績を収め、主席で合格。

 当然ながらSクラスに在籍することになり、試験結果を見て冷ややかな笑みを浮かべていたという。



 四人目、ユノア。

 黒髪で平凡な見た目の少女である。

 筆記試験の結果はかなり良かったが、魔術や武術の試験は成績があまり良くなかった。

 しかし彼女の正体は人間ではない。

 勿論、魔法神ナルメライアのように神でもない。

 彼女は魔法を学びに来たモンスターである。
 正確には、モノアイの少女だ。

 彼女は桃の大陸の単眼種部族の出身であり、人に興味を持っていた。
 その好奇心を抑えられず、人間の生活や魔法の研究を探るため、幻影魔法を常時使って二つ目になって試験を受けた。

 モノアイはモンスターであるが、目が一つであることを除けば見た目は人間と何も変わらない。

 本来は魔術も武術もかなりの腕だが、あまり悪目立ちすると正体がバレてしまうかもと恐れて力を抑えている。

 彼女はBクラスに入り、色んな人間たちを間近で見られることを楽しみにしていた。



 そして五人目。

 彼は他の四名全てに関わることになる人物。

 かつて魔術を極めたアンデッドから魔術を教わり、目立つことを嫌うビビリな男。

 試験では全力を尽くして平均点を狙うという変わり者。

 結果、実力に見合わないBクラスに入ることになるが、そこでの出会いが彼の行先を大きく変えることになる。


 ある者は全力で試験に臨み、ある者は本来の実力を隠して入学した。

 新たな一年生がどれだけ学園に影響を与え、どのような学びを得るのか。

 魔法学園アカデメイアは、静かにその行末を見守っている。





 アカデメイアの学園長室で、立派な髭を蓄えたお爺さんが、顔をほころばせていた。

「ふぉっふぉっふぉっ、今年は見応えのある生徒が入ってきたわい」

「フィナンド学園長。注目されているのはナルムという平民ですか? それとも、リースフェルトという貴族でしょうか?」

「確かに、其奴らは何か得体の知れない面白さはあるよのぅ。そっちはお主が調べてくれ。儂でも簡単には分かりそうにない」

「学園長でも得体が知れないとは。かしこまりました。すぐに調査を始めます」

 女教師が学園長室を出ると、フィナンドは表情を険しい者に変えた。

「この嫌悪感を、また味わうことになろうとはな。全く、こんなことで懐かしさなんぞ感じたくはなかったんじゃが」

 険しい顔は次第に邪悪な顔つきに変わっていく。

「この魔力の残り香……。もし彼奴の弟子なら、儂が可愛がってあげんといかんな。長年分からなかった彼奴の居場所も、吐かせることができるやも知れん」

 ゆっくりと立ち上がったフィナンドは、窓の外に視線を向けた。

「何千年振りか分からんのぅ。なぁ、フェグワート」

 彼はかつての大賢者の名を呟くと、ニヤリと頬を歪ませるのであった。

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