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2章 モンスターテイムと奴隷たち
25 依頼達成と美少女のお礼
しおりを挟む「お客様、おかえりなさい!」
宿に帰ると、店員のノコラちゃんがカウンターから出てパタパタと駆け寄ってきた。
笑顔でのお出迎えに疲れた心も癒される。
ちょうど良かったので、二人部屋一室の追加とウルフをどうしたらいいか聞いてみた。
「わぁ、可愛い! お客様さえ良ければ一緒の部屋で大丈夫ですよ! うちは防音ばっちしなので吠えても問題なしです!」
「がう!」
ウルフはノコラちゃんに撫でられて尻尾をフリフリ。
ちなみにウルフの名前はフェリルに決まった。
実は新しく奴隷になったミュマの案であり、フェンリルから名前を考えたらしい。
また採用されずにエクルが悔しがっていたことは言うまでもない。
しかしここまで大所帯になってくると宿代もかかるし、宿に迷惑をかけちゃうよな。
家の購入や借家を検討しよう。
幸い困ったときはジジイから借りた金があるから近いうちに探しておこう。
「シンヤ様、ご依頼達成おめでとうございます。こちらシンヤ様の冒険者カードになります。実力を考慮してランクは5からのスタートです」
ギルドに行き、美人受付嬢のローアさんに依頼の達成報告をした。
グランたちとは関係を悟られないために時間をずらしている。
アリアとミュマは、マシュと一緒に生活に必要なものを買い出しに行った。多めにお金も渡してある。
マシュはスキルのアイテムボックスがあるので荷物持ちだ。
三人の美少女が揃って歩く姿は壮観だった。
マシュは美少女じゃない?
まあ野暮なことは置いておこう。
さて、ローアさんから受け取ったギルドカードにはしっかりとランク5になっていた。
ランク5は中級者成り立てくらいだ。
まあ俺はあんまり依頼を受けないだろうが、冒険者カードがあるのは身分証になるし便利だな。有効に活用しよう。
「ではこちら依頼の報酬です。それにしても従魔が増えましたね」
ローアさんは俺を見て少し驚き気味だ。
頭の上にピンクスライムのミラシャ。
肩の上にマッシュのマゴタン。
服のポケットにプラントのメライア。
俺の隣にウルフのフェリル。
全身モンスターまみれである。
ウルフには一応ギルドに来る途中に首輪を買ってつけておいた。
もし野生のモンスターと思われたら大変だからな。
ちなみにフェリルは雌だった。
メライア(プラント)やマゴタン(マッシュ)はスライムと同じく性別という概念は無い。
「たまたま魔物が仲間になってくれたんです。ソロで活動しようと思っていたので、この子たちには助かりましたよ」
当たり障りない会話で誤魔化しておいた。
ギルドカードと報酬(銅貨5枚)を受け取った俺は、冒険者ギルドを出て奴隷商人ハゲヌの元へ向かった。
ハゲヌに俺のことを広めないように釘を刺す為だ。逃げるように去って行ったから何も言えなかったんだよな。
「あぁ、ハゲヌならうちの奴隷商会を辞めましたよ。今頃別の仕事を探してるか、街を出る準備でもしているんじゃないですかね」
ハゲヌが失踪していた。
エリアマップで検索をかけたらまだ街にいたが、もうそっとしておこう。
「あっ、ご主人様~!」
エリアマップを閉じたところで買い物に来ていたマシュたちに偶然出会した。
満面の笑顔で駆け寄ってくるマシュ。
アリアとミュマは困った顔をしている。
「マシュ、俺は目立ちたくないって言ったよな」
「いてっ。てへへ、ごめんなさい」
軽くデコピンしてマシュを咎める。
マシュは謝りながらも嬉しそうに笑っていた。可愛いやつめ。
ちょっと目立ってしまったが、そのままマシュたちと宿に戻り、アリアとミュマの歓迎会を行った。
夜はウルフのフェリルをもふもふして、抱きしめたまま眠ってしまった。
ちなみにジャンケンの勝者はマシュで、俺がフェリルをもふもふするところを指を咥えて羨ましそうに見ていた。
録画したのは言うまでもない。
そんなにもふもふしたいなら、今度フェリルを貸してあげよう。
◇
「お早う御座いますシンヤ殿。ルミリー様とエドガー伯爵がお待ちです。ご案内致します」
二日後の朝、ルミリーの護衛のケイラが宿まで迎えに来た。
ちょうど宿の食堂で朝食を食べ終わったタイミングだ。
ちなみに昨日はみんな休みにした。
好きなことをして良いと告げたら、奴隷は休みが無いのが普通ですと全員に言われてしまった。
俺はブラックにする気がないので、週休2日にすると言って無理やり押し通し、各自しっかり休息を取って欲しいと伝えておいた。
なので今日もみんなはお休みである。
だがせっかく休みにしたのに、ギルドに依頼を受けに行きやがった者が四人いた。
ついでにアリアとミュマまで、近くのアイテム商会で店員として働き始めていた。ちょうど人手が足りなくなって雇ってもらえたようだ。
誰も休みにしたのに休んでくれない。
休みを切り出すタイミングが早すぎたのかもしれない。
俺の考えが足りなかったんだな。反省しよう。
「シンヤ殿?」
ウンウンと反省してたら、ケイラが首を傾げながら訝しげに見てきた。
考えごとは後にしよう。
今はルミリーと父の伯爵の元へ行こう。
ウルフのフェリルだけお留守番にして、ミラシャを頭に、肩にマゴタン、ポケットにプラントの標準装備で迎えの馬車に乗り込んだ。
ウルフはちょっと大きいから連れて歩くのが難しいな。その分夜は思う存分遊んであげよう。もふもふタイムだ。
馬車に揺られて10分ほど、貴族の屋敷と思われる豪邸の門を潜った。
その大きさに俺は唖然としている。
街にはエリアがあり、貴族街には一度も足を踏み入れたことがなかったため、大きな建物は見たことが無かったのだ。
「シンヤ殿、こちらはロドガー伯爵家の別邸です。本邸は王都にあり、ここの2倍か3倍ほどの広さはあります」
ケイラが俺の心情を察したのか、とんでもないことを言い出した。
これで別邸なのか。俺が泊まっている宿がいくつも入るぞ。
やけに広いエントランスを抜け、煌びやかな廊下を進み、客間に通された。
奥の椅子に座って待っているように言われたが、上座に座ってていいのか?
考える間もなくドアが開き、控えめなドレスに身を包んだ、とびきりの美少女が現れた。
「シンヤ様! またお会いできて嬉しゅう存じます!」
表情は今にもスキップをして近づいて来そうだったが、優雅に歩み寄って来たルミリー。
貴族の礼なのか、両手でそれぞれドレスの裾を掴んで膝を曲げつつ軽く頭を下げてくれた。
俺もつられて思わず立ち上がってお辞儀をしてしまった。
その後ろから大きな壮年の男性が部屋に入ってくる。
彼がルミリーの父の伯爵か。
顎髭を少し蓄えたナイスミドル。肩幅も広く、筋肉質な体つき。
彼は、こういう歳の取り方をしたいと思えるような理想的男性像そのものであった。
「シンヤ殿、おかけになっていただきたい。私はレイド・ロドガー。ルミリーの父だ。娘がお世話になった。本当に有り難う」
深く頭を下げる姿は、貴族としてではなく一人の父親の姿であった。
俺みたいな見た目10歳の少年にもこうして頭を下げることができるなんて、立派な人なんだろう。
「頭をお上げ下さい、ロドガー様。ロドガー様こそ、こちらにお座りなって下さい」
上座は落ち着かないので、サラッと譲った。
小心者と笑わば笑え。客人扱いとはいえ、貴族相手にでしゃばった真似はできないのだ。
「しかし、いや、座らせてもらおう。エミリーは彼の隣に座りなさい」
「はい、お父様!(ナイスアシストです、お父様!)」
ルミリーが元気よく俺の隣に座った。
最初はふんわりした印象だったが、段々印象も変わってきたな。
常にニコニコしているし、今日は機嫌が良いのだろうか。
「シンヤ殿、改めてお礼を言わせて欲しい。娘の命を救ってくれて有り難う。心から感謝する」
「いえ、人として当たり前のことをしたまでです」
このタイミングで老年の執事がスッとお茶を出してくれた。
動作の一つ一つが優雅で無駄がない。流石だ。
だがうちのエクルだって負けてはいないぞ。
「シンヤ殿は謙虚なお方と娘から聞き及んでいたが、これほどとは」
いや、助けるのは結構迷ってしまったけどな。面倒事に巻き込まれたくなかったし。
「ふふっ。シンヤ様はお優しい方ですから」
ルミリーはさっきからニッコニコだ。
いくら機嫌が良いとはいえ、お酒でも入ってるんじゃないかと疑うレベルだぞ。大丈夫か?
「では本題に入ろうか。シンヤ殿、今日は娘を救ってくれたお礼をしたいと思う。遠慮なく受け取って欲しい」
ガチャリ、とお金が入っている袋を机の上に置いたロドガー伯。
続いて少し質素なバッグを机の上に置いた。
「失礼かもしれませんが、お礼は既にケイラからいただきましたのでこちらは受け取れません」
「ケイラからの礼とは別だ。これは娘の命とケイラたち護衛の命を救ってくれたことに対する、私からの個人的な礼になる。見返りは全く求めないし、好きに使って欲しい。受け取るだけ受け取って、ここを出たら全て捨てていただいても構わない」
個人的な、のところにかなり力が入っていた。
受け取らないとダメそうか?
「お金の方は端金だ。メインはそちらのマジックバッグ。商人のスキル、アイテムボックスと似たような代物だ。冒険者には役立つだろうから、使って欲しい」
「シンヤ様、是非お受け取り下さい」
ここまで言われたら受け取るしかないか。
見返りを求められないなら大丈夫だろう。
ちなみにこの会話はビデオメモで録音している。言質を取ったからには受け取ろう。
まあアイテムボックスはチートスキルのメニューに付いているし、必要が無いけどな。
誰かに渡すプレゼントとかには良いかもしれない。チートスキルでも共有はできないから。
「分かりました。有り難く頂戴致します」
「受け取って貰えて嬉しく思う」
お礼を受け取ってからしばらくは、助けたときの話や雑談に花を咲かせた。
ロドガー伯は絶対に俺の実力などを口外しないと約束してくれた。
「ケイラ、君からも礼がしたかったのではないかな?」
雑談のキリの良いタイミングで、ロドガー伯がそう切り出した。
「はい。シンヤ殿。我々もシンヤ殿に助けられた恩返しがしたいと考えていました。護衛みんなで考えたので、お聞きください」
ケイラからは金貨1枚の報酬を貰ったんだがな。
話を聞いてみると、俺の部下たち、つまり奴隷たちに戦闘技術などを指導したいという話だった。
俺に直接お礼ではなく、奴隷たちを通してきたか。
うちの子たちを懐柔するのか?
いや、変に疑い過ぎても仕方ないか。
「分かった。うちの部下たちの訓練、宜しく頼む」
「はい。お任せを。シンヤ殿とまでは無理ですが、並の冒険者以上には強くしてみせます」
ケイラたちからの訓練は、後でグランたちに伝えておこう。
本人たちが嫌がれば、後で断ればいいからな。
これでお礼の話もまとまったし、後はお暇するだけだ。
「シンヤ様、私からも個人的なお礼がございます。どうぞお受け取り下さい」
そろそろ帰ろうと思っていた俺の頬に、突然柔らかい感触が伝わってきて驚くことになるとは思ってもみなかった。
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