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1章 異世界女神とアンデッドジジイ
間話1 ジジイと魔法の勉強 (読み飛ばしOK)
しおりを挟む結論から言おう。
元大賢者であるジジイの魔法の知識は、流石としか言いようがないほど凄かった。
「まずは用語じゃな。基礎の基礎から教えてしんぜよう」
まずは魔法に関する簡単な用語の説明から始まった。
◇
○魔力
科学的でないエネルギー概念。また、そのエネルギーを扱うときの威力。
○マナ
自然に存在する魔力。
○オド
魔物や人間的存在に内在する魔力。また、それが体外に放出されたもの。便宜上マナと呼び分けて使用するが、あまり使われない。
○魔素
マナやオドのこと。マナと言われることが多い。
○魔法
魔力に因って起きる事象のこと。また、その法則。魔法は魔術を含有する。
○魔術
魔物や人間的存在の魔力に因って発現した事象のこと。
○自然魔法
魔物や人間的存在に因らない魔法。また、その法則。便宜上魔術と呼び分けて使用するが、あまり使われない。
○魔道
魔法に関わる学問全般。
○魔導
魔法について教え導くこと。また、その様。
○魔導線
魔術に魔素を供給するための線。
○魔法文字
魔術を扱うときにその魔術と使用者を媒介する文字。一字一字に意味が込められており、魔術を構成する要素を決定づける。
◇
一回で覚え切れないと思ったが、それについてはチートスキルのオートメモが役に立った。覚えたいと思ったものはするする書き込まれていき、いつでも見ることができるようだ。
「さて、魔術を行使する際に重要になるのは魔法文字じゃ。これがないと下級魔法も碌に使えん」
そこから魔法文字の勉強会が始まった。
まずは徹底的に基礎を教えてから、ようやく魔法を使って実践させるのがジジイの教え方のようだ。
これから学園で習うこともあるだろうが、予習しておいて損はないだろう。
それに、もしかしたら入学試験で問われるかもしれないからな。
「よし、基本の魔法文字はこれくらいで良いじゃろう。魔法文字は自分でいくらでも変換できる。つまり自作が可能じゃ。どんな性質を持たせたいのか。どんな形を作りたいのか。今は基本的な型を教えたが、組み合わせ次第で応用はいくらでもできる。新たな魔法文字での応用もできる。魔術には夢があるじゃろ?」
確かに、夢が広がるな。
俺はジジイが教えてくれた魔法文字をオートメモしている。これで簡単な魔法なら作れそうだ。
「では初級魔法のウォーターボールからいこう。ウォーターボールを作る工程は、11段階じゃ」
「11? 初球魔法なのに多すぎないか?」
「なぁに、真面目に11段階の手順を追う必要はない。だからこその初級魔法じゃよ」
ウォーターボールの魔法の工程は以下の通り。
○魔術想像
完成させるウォーターボールの想像。
○位置確定
ウォーターボールを出す場所を決定。
○魔導線生成
決めた位置と自分を魔導線で繋ぐ。
○属性変換
体内の魔素を水属性に変換。
○魔力制御
魔素の量を決め魔導線に魔素を注ぐ。
○魔素変換
注いだ魔素を魔術に変換して展開する。
○魔術形成
魔術の形を球状に成形する。
○術式固定
魔術を球状に固定し魔枠膜を生成する。
○性質追加
魔導線切断を引金に前方に真っ直ぐ飛ぶ性質を追加する。
○性質固定
性質を固定し追加を終了する。
○魔導線切断
ウォーターボールが飛んでいく。
「魔法ってこんな複雑なのか」
「まあ、慣れれば簡単なんじゃがな。魔法にもルールがある。魔導線を繋いでないところにいきなり魔術を出すことなんてできんし、魔素を適当に注ぎ込んでも、ただの魔素の塊しかできん。案外理論的で、超常現象という訳でもないんじゃよ」
夢があるんだか無いんだか。
でも、理論があった方が納得はできるし有り難い。
応用するなら体系だった理論が必要だろうからな。
「それでも理論をしっかり理解して使いこなせれば、できないことの方が少ないとさえ言われるのが魔法じゃ。さて、今教えた内容にさっき教えた魔法文字が一切使われていないのは気づいておったか?」
使うものとして教えられたはずなんだが、全く説明に無かったな。
「ああ。あれだけいっぱい魔法文字とやらがあったのに、出てこないじゃないかと突っ込むところだった」
「ふぉっふぉっふぉっ、そうじゃろそうじゃろう。魔法文字はな、魔術には必要ないんじゃよ」
必要ない?
つまり究極的には必要ないが、あれば便利系のものか。
「あぁ、何となく分かった。魔法文字って杖みたいなものか? 必要はないけど、魔術の発動を助ける的な」
「シンヤは筋がいいのう。おぬしの想像通り、魔法文字は魔術を媒介するものじゃな。例えばこの魔法文字は『水属性』の性質を持った魔法文字じゃ」
そう言いながら、ジジイはさっき教えてくれた魔法文字の一つを指し示した。
「つまりこれを魔術に組み込めば、属性変換の過程をスキップできると?」
「おぉ、物分かりが良いとは思っておったが、中々賢いやつじゃのう。一回説明するだけで分かってもらえるとは、やりやすくて大助かりじゃ」
「お世辞は別にいい。正直、疑問が尽きない。まさか属性だけじゃなく魔術形成の形とか、性質とかも魔法文字で決められると?」
「その通りじゃ! 一を聞いて十を知るとは、シンヤのことじゃったか」
「いや、このくらいは容易に想像つくだろ」
ジジイは弟子を褒めて伸ばすタイプのようだ。まあ、褒められて悪い気はしない。
「よし、理論が理解できてきたら次の段階じゃ。魔法文字はどう使うと思う?」
「何かに書くのか?」
空中に綴るのは、ちょっと勘弁していただきたいところだが。
「魔法文字も文字じゃからな。書いて使うことができる。その場合、魔法陣という物を使う」
魔法陣か。
確かにその中に魔法文字を書いていけば、魔法のステップをいくつも省略できるな。
「しかし魔法を使うときに毎回魔法陣を描いておったら、非効率的じゃ。そこで、文字はどうすることができる?」
「音読か? つまり詠唱するのか」
「その通りじゃ! いやぁ、シンヤは儂が育ててきた弟子の中でも一二を争う優秀さじゃのう。教えるのが楽じゃ」
ジジイの教え方も上手いけどな。
こっちに質問しつつ、うまく答えを自分で導き出せるように会話を誘導されている。
弟子が多かったというのは伊達じゃないな。
しかし魔法文字を詠唱ときたか。
となると、次は魔法文字の読み方の練習になりそうだな。
英語苦手だったんだよなぁ。
自信は全くないし、不安しかない。
「魔法文字は普通に読めるようなものではない。じゃが、安心して欲しい。そんなに難しいものでもないということじゃ」
言ってることが矛盾しかけているぞジジイ。
「魔法文字に関しては、ズバリセンスじゃ。どの文字をどう読むかは自分で決められる。だが読むときに魔法文字をイメージしながら読まねばならん。つまり、紐付けが重要だということじゃ。ちょっと説明が難しいんじゃがのう」
んー、確かに難しいな。
意味を理解しながら読めってことか?
いや、なんか違うような気もする。
「あぁ、文字を意味として読めばいいのか。つまり魔法文字は表意文字なのかな」
「シンヤ。まさかおぬし、理解できたというのか? 魔法文字の真髄たる概念を」
何、簡単な話だ。
記号の考え方をすればいい。
文字は別にそれそのものには意味がない。ただの線の集合体だ。
人はそれを文字として意味を持たせて認識しているということだろう。
魔法文字は日本が使う漢字に似ている。
例えば平仮名の「あ」という文字は「a」という音を持っているだけでそれ単体には意味はない。ただの「あ」という形をした記号だ。
だが「あさ」みたいに何かと纏めると「朝」という意味を持つようになる。意味を持たせるには別の文字と纏めて使うか、前後の文脈が必要だ。
だが「亜」という漢字を見ると、「a」という音を持つが、それだけでなく、「何かに準じる」だとか「程度の低い」といった漢字そのものに意味がある。
魔法文字はそれそのものに意味が存在している。
声に出すなら、音を理解するだけじゃダメだな。
意味と魔法文字を想像しながら読まないと、そもそも魔法文字が意味を持たなくなってしまうということだ。
平仮名やら漢字やらが混ざってる日本人だから気付けたけど、この原理を理解するのは中々難しいよなぁ。だって、漢字って難しいしな。うん。
「本当に理解してしまったようじゃの。儂の弟子は誰一人この概念を理解するに至らなかった。理論が理解できたなら、シンヤは並の魔法使いの器には収まらん。魔法の深淵を理解できるじゃろうな」
人間なんてあんまり文字の深い意味なんて考えずに、何となく雰囲気で使ってるんだから、そんな変わらないような気がするんだがな。
「ジジイ、流石に大袈裟だ。文字を理解して使うか、理解せずに何となく使うかにそんな差が生まれるのか?」
「甘く考えているようじゃが、大違いじゃ。魔法文字は概念が理解できないから詠唱や魔法陣が必要なのじゃよ」
「ちょっと待て。つまり理解さえすれば無詠唱でも魔術が行使できると?」
「あぁ。おぬしはとんでもないことをしでかした。儂でも理解仕切れなかったことを理解したんじゃからな」
◇後書き
主人公のチートがどんどん加速していきます。2章でヒロインがちょこちょこ登場してくるので、ハーレム好きの方しばしチートの方をお楽しみ下さいませ。
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