アンバランス 〜ビビりですが最強チートを得たのでなんとか異世界生き抜きます〜

とやっき

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2章 モンスターテイムと奴隷たち

14 ギルド試験(試験官視点)

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 良いところの10歳の小僧ガキ

 それがこいつに対する第一印象だ。


 俺の名前はガルバン。
 冒険者ギルドではかなり古株の熟練冒険者だ。

 いつも通りゆったりとギルドに向かっていたら、ギルドの前で悩む子供の姿を見かけた。
 中からは聞き覚えのある奴らの酔った声が通りまで響いていた。

 あいつらはギルド内で揉め事があったときにすぐ対応できるよう、ギルド付きの酒場で待機しているんだがな。
 つまるところ、仕事中に呑んだくれている奴らだ。

 その声に怖気づいたように、冒険者ギルドの前で入るか入らないかと右往左往する子供だったが、意を決して扉を開け中に入っていった。

 中に入るのが無理そうなら声をかけようと思っていたが、そこそこ度胸はあるようだ。

 俺もすぐ後ろを追いかけるようにギルドに入った。


「よお坊主、お使いか?」

 ギルドに入ってもそろそろとしか進まない子供を見て、話しかけることにした。
 やはり酒場で騒いでいる奴らが怖いのだれう。

「あ、あの、その、えっと」

 やっぱりビビってやがる。
 俺が話しかけて正解だったな。

 ん? いや、俺が話しかけてもまだビビっている。
 まさか俺を怖がってるわけじゃないよな?

「だっはっはっ、ガルバンの野郎まーた子供に怯えられてんぞ」
「ひひひひぃ、腹がよじれるぜ。これで何回目だよ。100回目くらいか?! ギャハハハハ」

「うるせぇぞお前ら! ったく、昼間っから飲んだくれやがって。坊主、怖がらせて悪かったな。依頼があるなら受付の嬢ちゃんのとこまで案内してやっからよ」

 エルゴとべナスの野郎、後で覚えておけよ。

 まぁいい、子供の案内が先だ。
 どうせこの様子じゃ冒険者ギルドは初めてだろうからな。受付嬢のとこまで連れて行ってやろう。

「えっと、ありがとうございますガルバンさん。私は冒険者ギルドに入ってお仕事がしたいのですか可能でしょうか? 年齢は10歳です」

 仕事だと?
 まさか冒険者志望とはな。

 使う言葉も馬鹿みたいに丁寧だし、恐らく貴族のガキだろう。
 無下むげにはできないが、甘ったれた奴を冒険者ギルドに入れる訳にはいけない。

 何せ仕事はモンスターとの命の取り合いだ。
 小さな子供にやらせるようなことじゃない。

 それに、夢見がちなガキほど早く死ぬ。

 調子に乗って二度と帰ってこなかった若い冒険者や、大怪我をして活動できなくなった冒険者は少なくはない。

「おいおい坊主、冒険者ギルドはモンスター討伐を生業にしている。どういう意味かは分かるよな? 働きたいなら便利屋ギルドとかに行ったらどうだ?」

「冒険者ギルドに年齢制限はありますか? 無ければ、冒険者ギルドを希望したいのですが」

 全く、諦めないみたいだな。

 まあ良い。仮に試験を受けることになってもどうせを上げることになるだけだが、登録自体は年齢制限はない。
 その前に受付嬢にうまくあしらわれて、試験さえ受けられないのがオチだな。

 仮に試験をやっても最低ランクからのスタートとかだろう。
 スライムやプラント、あとはマッシュ程度しか戦えないが、貴族のガキには現実を知る良い機会だ。
 
「いや、一応登録する限りは別に問題ないんだがなぁ。はぁ、とりあえず着いてこい」

 貴族のガキなら対応はローアに任せた方が良いだろう。

 ローアは貴族の生まれだったが、四女でとつぎ手がなかったために受付嬢として働いている。
 他の受付嬢は敬語が使えるやつが少ないし、こういう夢見がちな貴族のガキはローアに任せておけば間違いない。

 ローアの見た目に骨抜きにされた貴族のガキ共は、上手く説得されて試験を受けずに帰っていく者も多いからな。


「あらガルバンさん、こんにちは。この子は隠し子ですか?」

 これは冒険者ギルド内の隠語である。
 隠し子というのは貴族と思われる子供のことだ。

「冗談はやめてくれ。こいつは冒険者ギルドに加入希望だそうだ」

 一応試験を受ける可能性もあるから俺も残るが、後は全部ローアが見送りまでやってくれるだろう。

 俺はローアと子供、もといシンヤのやり取りを聞きながら欠伸あくびを噛み殺していた。

 しかし驚いたこともいくつかある。

 冒険者ギルドに来る大抵の貴族のガキは、落ちこぼれと称されるに相応ふさわしい奴らばかりだ。

 一応は貴族の家に生まれたが、長男でもなく、何の才能も開花できなかった子供が、とりあえずギルドでの冒険を夢見ながらやってくる。

 シンヤからはそんな雰囲気が感じ取れなかった。

 貴族はほとんどの者が学術、魔術、武術を学ぶ。

 そのどれかで才能が開花すれば、貴族という肩書きも相まって他がダメダメでも人材登用はすぐにされる。

 シンヤは少なくとも学術はできそうな話し方をしていた。

 大抵はローアの説明でも何となく理解したフリをして試験を受けたがるのだが、しっかり受け答えもしているし質問もしている。

 こいつに才能が無いと見放したバカな貴族はどこなのか知りたいくらいだ。
 普通に賢いぞこいつ。

 それに魔法の使用について聞いたときなんか、耳を疑った。

 この年齢で少しでも魔法を扱えるなら、将来は立派な魔導士になれるだろうに。
 更に最弱のモンスターのスライムとはいえ、魔物をテイムするだけの実力もある。

 もはやこの話が本当か確認できたら、すぐにでもギルドに入ってもらいたい気分だ。

 俺は途中からイラつき始めていた。

 まだ10歳の子供を追い出したということは、こいつは貴族の次男、いや、三男以降であることは確実だ。

 三男以降であるがゆえに、まともに両親に才能を見て貰う機会が無かったんだろう。
 もしくは、めかけの子供といったところか。

 ったく、貴族ってやつはどいつもこいつも。

 俺はまだ見ぬシンヤの親に呆れながら、こいつが残るなら冒険者ギルドで一から面倒を見てやろうと決めた。


 ローアの話も終わり、試験をすることになった。

 普通ならローアにあしらわれる者が大半だが、ローアが試験を受けさせる判断を下したならばもう合格と決まったようなものである。

 本当にスライムを取り出したときには、俺も少しだけ驚いた。テイマーは冒険者の中でも珍しい。
 スライムは戦闘能力が皆無だが、冒険の際には役に立つ存在だろう。


 試験のため修練場に行くと、昨日クエストが終わって今日は休むとか言ってた奴らが、熱心に体や技を鍛えていた。

 全く、真面目なこった。

 俺の顔を見ると端に寄ってくれた。
 修練場はかなり広いんだから別に気にしなくても良いんだがな。あっちが先客なんだし。


「そこから武器を取れ。悪いが、子供用は無いぞ」

 子供の用の武器は用意してないんだよな。

 シンヤが試験を受けて、冒険者になる気持ちが変わらなかったらこいつ用の武器は俺が用意してやろう。

「どうした? 武器も持てない子供を合格にするほど俺は甘くないぞ。それとも、魔法だけで戦うつもりか?」

 正直既に合格することは決まっているようなものだ。

 俺の役割は適正なランクをシンヤにつけること。

 あとは面接で人格に問題ないか軽く質問するだけで、それはローアの役目だ。
 そっちもシンヤの対応や言葉遣いは丁寧だったし、全く問題無いと思うけどな。

 ただ、もう合格だからと手を抜いてもらっちゃ困る。
 そのため俺はシンヤに発破をかけた。

 ちなみにランクは1~10の数字で表される。
 そして0という試用期間のランクがあるんだが、これは1週間限定でその後で適正のランクをつける。

 その適正のランクを見極めるのが、この試験だからな。

「よし、武器を選んだみたいだな。行くぞ、やめたかったらギブアップしろ。怪我しても治してやれるが、痛みで泣き出してくれんなよ」

 選んだのは槍か。

 夢見がちな奴らは大抵、剣を選ぶ。

 中々良いチョイスするじゃないか。
 つくづく見どころがあるやつだ。

「はい。宜しくお願いします!」

 シンヤのかけ声と共に、試験は始まった。

「来い!」

 まずは手始めに威圧スキルを発動。

 勿論最低レベルまで手加減するが、大抵のガキはこれで怖気づく。

 だが、決意のあるやつには効かない。

 シンヤを見てみるが、全く効いていないようで、槍を構える手に震えはない。

 甘ちゃんなガキではないようだな。

 しかし、何故か口元が笑っている気がするのだが、俺の気のせいか?

 そしてシンヤは子供とは思えない力強い踏み込みで、俺の間合いに一瞬で入り込んできた。

「はっ?!」

 頓狂とんきょうな声が漏れてしまう。

 子供だからと油断していた。

 まさかたった一回の踏み込みで間合いに入られるなど、考えもしなかった。

 こちらの大剣の方が間合いは広いが、槍もあまり変わらないほど間合いが広い。

 すなわち互いに攻撃できる距離である。

「ぐっ、中々やるじゃないかっ!」

 少し無理な動きをしてしまったが、シンヤから繰り出された素早い突きを大剣で受け止める。

 こいつ、槍を選ぶまで悩んでいたのは演技だったのか。
 これなら槍術のスキルレベルは4、いや、5はあると見ていい。

 試験官相手に情報戦をして騙しにくるとは、一体どれだけ場数を踏んでるんだよっ!

 追撃してきたシンヤの槍を今度は余裕を持って受けとめる。
 次いで軽く反撃して大振りに打ち込んでみたが、うまく槍であしらわれた。

 対人戦にも慣れている、か。

 一体その年齢で、どれだけの苦労と研鑽けんさんを積んできたんだ。

 恐らく貴族の生まれで、親から愛情を受けられず、戦うすべを身に付け、生きるため冒険者ギルドに仕事を探しにくる10歳の子供。

 やばい、目頭が熱くなってきやがった。
 俺はこういうのに弱いんだ。くそっ。

 その後十合ほど打ち合って、俺は「やめっ」と宣言をした。

「試験終了、実技は合格だ。片付けは俺がやっとくから、ローアのとこに面接行ってこい。また、な」

 シンヤから槍を受け取り、俺は武器を片付ける。

 今日は良い運動をしたからか、流れるが頬を伝った。

 それを見た修練場の他の奴らがニヤニヤしていやがったが、今日は見逃してやることにした。

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