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1章 異世界女神とアンデッドジジイ

10 最強の不死者はビビリジジイ

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「ふーむ、それは大変じゃったのう。何も無いゆえ、あまりもてなしはできんが、朝までゆっくりしていくと良い。客なんて何年振りかのぅ。勿論、歓迎するぞい」

「ありがとうございます。本当に助かります」

 不死者の森の地下空洞。そこには元人間のアンデッドのお爺さんがひっそりと住んでいた。

 体は完全に骨だけだが、ローブを身にまとい、目にはルビーのような赤い光が宿っている。

「儂のことはジジイでよいぞ。フェグワートとかいう名前はあったが、何年昔に使っていたかも分からぬ名じゃ。敬語もいらぬし、気軽にジジイとそう呼んでくれ」

「分かった、ジジイ」

「ふぉっふぉっふおっ。シンヤは真っ直ぐな奴じゃのう」

 どうやらジジイときっぱり言ったのがお気に召したようだ。

「そうだ、こっちはミラシャ。今日テイムしたスライムだが、家族みたいな存在だ」

 ミラシャは挨拶するようにプルプルと震えた。

「そうかそうか。儂はジジイじゃ。ミラシャもゆっくりしていきなさい」

 一先ひとまず互いの自己紹介と俺たちの境遇を話し終え一段落。

 ジジイにはちょっと頭を打って記憶が曖昧あいまいだと説明しておいた。異世界転移を馬鹿正直に話しても信じてもらいづらいだろうからな。

 ジジイはどうやら俺に興味深々なようで、色々と質問を投げかけてきた。

「それよりシンヤ。おぬし、どうやって気配を消しておったのじゃ? 儂が気付けんとは、中々やるようじゃの。本当に心臓が飛び出るかと思ったわい」

 スキルを使ったやつだな。
 まあ、これくらいなら答えても大丈夫だろう。

「ジジイには心臓ないだろう。まぁ、気配遮断のスキルを使ってただけだ。あと忍び足のスキルだな」

 ジジイはからから笑いながら、そうかそうかと神妙に何度か頷いた。

「シンヤは中々面白いのぅ。儂のことも分かった上で話しかけたようだし、ちなみにどこまで知っておるんじゃ? 儂を知る者なんざ、遠の昔に死んでおるはずなんじゃながな。伝承でも残っておったのか? 記憶は曖昧でも、儂のことは何となく分かったのか?」

 ジジイのことを知ったのはマップで情報を得たからだ。
 マップといっても説明が長くなるな。

 ここは鑑定系のスキルということにしておくか。

「いや、鑑定系のスキルで知っただけだ。正直、ジジイが俺と同じくビビリで臆病な奴で、元人間くらいの情報しかなかった」

 もっと情報を集められもしたが、それ以上はやめた。
 調べようと思えばステータスやらスキルやら全部調べられるけどな。

「ほう、それはおぬしとは馬が合いそうじゃな」

「俺もそう思って一か八か話しかけてみたんだ」

 似た者同士のよしみといったところだろうか。
 何故か直感で仲良くなれそうと思ってしまったのだ。

「そうかそうか。良かったのう、儂が悪い魔物でなくて。ということはじゃ、儂のことはほとんど知らんわけか。まぁ、それもそうじゃのう」

 少しばかり哀愁あいしゅうを漂わせるジジイ。
 好々爺然こうこうやぜんとしたジジイでも、むなしさや悲しさとか抱えてるものはあるんだろうな。

「じゃあ良ければ教えてくれないか? こんなところにいるアンデッドなジジイに興味が湧かないやつはいないだろ?」

 正直、なんで元人間がアンデッドになっているのか。なんでこんな森の地下にひっそりと暮らしているのか。
 色々と疑問が尽きないし、この世界の情報も少しは手に入るかもしれない。

「儂の話を聞いてくれるのか? 年寄りの話はちょうより長いぞ」

「ジジイには腸ないだろ。どうせ暇だからいくらでも聞きたいところだ」

 寝ようにも、さっきまで気絶してたせいかそんなに眠気も感じない。

 朝までアンデッドがいて森から出られないし、暇潰しにはちょうどいいだろう。

「そうかそうか。ならば老いぼれジジイの昔話に付き合ってくれ。まずは儂が生きていた頃の話からしようかの」

 そこからジジイの昔話が始まった。

 簡単にまとめると、ジジイはその昔大国の賢者であった。

 あらゆる魔法を極めんと探究し、ジジイが余命幾ばくかになったときに完成したのが死霊術である。

 死者を操り、死を超越する。

 魔法の研究の完成と同時に、ジジイは自らに死霊術を施した。

 ジジイは体内に魔核を持ち、記憶や人格、魔力を受け継いだまま魔物として生まれ変わった。

 肌も見た目もジジイそのもの。
 しかし魔物であることに変わりはなく、いくら偉い賢者といえど、国にはいられなくなってしまった。

「儂はな、これでもかなりの功績を立てたものじゃよ。他にも賢者と呼ばれる者たちが世界にはおったが、その者たちとは一線を画しておった。まあ、大賢者様と呼ばれ続けて、儂も調子に乗っておったのじゃろうな」

 魔物になっても記憶は残っているし、見た目も変わらなかった。
 だから大丈夫だろうと思っていたが、国の声は違った。

 完成させた不老不死への妬み。
 死者を操る死霊魔術への恐怖。
 何よりも力ある大賢者が魔物となったことが、一番恐ろしかったのだろう。

「それから儂は隠居したんじゃ。誰にも迷惑をかけなければ、それで良いじゃろうと。じゃがなぁ、それでも駄目じゃった」

 国は魔物となったジジイの討伐を決定。

 ジジイは今まで仲間だった者たちに命を狙われ続け、命からがら別の大陸へと逃げ渡っていった。

「本当はな、まだまだやることもあったし、国の為に働きたかったんじゃ。それだけ世話になった国じゃし、親しい友人も沢山おった。手塩にかけて育てた弟子、孫弟子たちも沢山おった。その誰もが魔物に身をやつした儂を軽蔑けいべつし、敵対した。儂は許されざる禁忌に触れてしまったのじゃとようやく理解することになったんじゃよ」

 追って来た者は殺せなかった。

 殺せば、本当の意味で魔物になってしまう。

 反撃もできず、ただただ手傷を負いながら逃げるだけ。

 五年も経てば追手はいなくなり、ようやく命を狙われる日々が終わった。

「しかし、もう手遅れじゃった。追手から逃げる際にな、肉をがれ過ぎてしまってな。骨だけの魔物の完成じゃよ。この身では人の国にはもう入れぬ。誰が骨だけの魔物を受け入れてくれようて」

 姿だけなら幻影魔法でどうにでもなる。

 だが正体を隠して人と接し続けるなど、ジジイにはできなかった。

「儂は死霊魔術という禁忌に手を出し、愚かにも人であることを捨てた。この姿は儂の罪。この骨が全て朽ち果てるその時まで、儂は罪を償い続けなければなるまい」

 自らの手で終わらせるのは簡単だ。

 だがジジイは自分が犯した罪を受け止め、魔物として生き続けることで贖罪となす。

 それがこのジジイの生き様なのだろう。

「こんなところじゃ。老いぼれの話なんぞ、つまらなかったであろう? 聞いてもらってすまなかったな」

 俺はしばらく顔を上げることが出来ずにいた。

 確かに不老不死や、魔物になるのは禁忌だったかもしれない。

 だが、恩を仇で返したのはどちらなのだろうか。

 ジジイは余命が少なかった時期に、禁忌に触れてでも国のために尽くそうとしていた。

 それを魔物になった程度で、人格も見た目も変わらないジジイを国や民は拒絶した。

 悲しかっただろうに。
 やるせなかっただろうに。
 恨みも抱いたかもしれない。

 でもジジイは、追手に一切反撃しなかった。

「なぁ、ジジイ」

「なんじゃ」

「あんた、カッコいいよ」

 俺は心の底からそう呟いた。


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