アンバランス 〜ビビりですが最強チートを得たのでなんとか異世界生き抜きます〜

とやっき

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1章 異世界女神とアンデッドジジイ

01 直感、これは異世界に拉致られる流れ

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 人があふれる駅構内に、突如とつじょとして魔法陣らしきものが現れた。

 それも俺の足元、まるで狙ったかのように一人分のスペースで、魔法陣は輝きと共に描き出された。

 こんなもの嫌な予感しかしない。

 急いで周囲を見渡すが、これだけ光を放っている魔法陣があるのにもかかわらず、誰一人として見向きもしない。

 確信した。これは俺にしか見えず、この魔法陣の対象も俺であると。

 気付いた瞬間、魔法陣の輝きは一層増す。

 今にも発動するかという状態に変化したとき、俺は形振なりふり構わず前方にジャンプした。

『ッ?!』

 魔法陣から、いや、魔法陣の向こう側にいるであろう何者かの、驚いたような声が漏れ聞こえる。

 ジャンプしたときに、魔法陣はまるで最初からそこには何も無かったかのように消え去った。

 周りの人からの視線がほんのちょっとイタかったが、急にジャンプしただけの変な奴には関わりたくもないのだろう。誰もがすぐに目を背けて何事も無かったかのように去っていく。

 安心したのもつかの間、また足元に先程と同様の魔法陣が描かれ始める。

『すみません。説明は後ほど致しますので、少しの間だけ動かないでいただけますか?』

 今度は魔法陣を通じて語りかけてきた。
 透き通った女性の声であったが、そんなことは関係ない。

 これはあれだ。誰しもが想像つく異世界転移のテンプレだ。
 行ったら二度と日本はおろか地球のある世界に帰還できないとかで、ファンタジー世界に送られるやつだ。帰れるのもそこそこあるが、嫌な予感がするからには帰れないとみて間違いない。

 どうせ文明レベルは中世やそこらだが、魔法で異なった文化体系を築いているやつだ。

「嫌だ! 俺はフルダイブのVRゲームやるのが夢なんだ! 異世界なんて行くものか!」

 そう、慎弥しんやはこれといって特筆する趣味はないものの、いつかはフルダイブ式のゲームをやりたいと心から望んでいた。それは夢とまで言えるほどに。
 まだ・・異世界に行きたいと思っていないのだ。

『な、何故異世界転移とバレて……ハッ、逃げないで下さい! 逃げても無駄ですよ!』

 電車は逃げ場がなくなると考え、今いる駅からダッシュで離れる。

 走るたびに足元に魔法陣ができるが、動き続ける俺を完全に捕らえるのは不可能なようだ。

『くっ、こうなったら!』

 流石に足元に魔法陣を出し続けるのはダメだと学習したは、俺の走る方向にあらかじめ魔法陣を出現させることを覚えたらしい。

 だが見えているものを避けるのは簡単だ。そんな魔法陣踏まなきゃ何の問題もない。

『うぅ、ちょこまかと!』

 どうやら狙いは俺だけらしく、巨大な魔法陣を展開して逃げ場をなくすなんてことは無いらしい。
 近くに人がいたことが救いであった。

『こうなったら、一旦殺すしか……あんまり変わらないから仕方ないわね』

 これはこれは物騒なことをおっしゃる。

 それにしてもこんな往来おうらいのど真ん中で、どうやって殺すつもりなのだろうか。

 魔法陣が展開されなくなったため、立ち止まって乱れた呼吸を整えていたら、耳をつんざくような女性の甲高かんだかい叫び声が聞こえてきた。

 その方向を見ると、黒いニット帽にこん色のジャージを着た通り魔ぜんとした男が、ナイフをブンブン振り回していた。

 遠目ではあるが、ナイフには血がついていない。まだ犠牲者は出ていないな。

 ナイフから視線を外すと、パチッと通り魔と目が合ってしまった。というか、ナイフを振り回していながらもやつの目線は俺の方を向いていたのだ。

「う、うぉぉぉぉぉ!」

 雄叫おたけびをあげながら通り魔は俺の方にけ出す。

 なるほど、こう来たか。
 確かに通り魔に刺されるというのもテンプレには存在するだろう……って、そんなこと考えてる場合じゃない!

 ナイフなんて刺されたら痛いなんてもんじゃない。マジで死ぬ。本当にヤバい。

 ナイフの刃を上向きにして襲いかかる男は一直線に俺の方に向かってくる。

 武器を持ったやつに挑むなどという勇敢ゆうかんな心など持ち合わせてはいない。正直なところ俺はそこそこ、いや、かなりビビりなのだ。

 つまり取る選択は逃げの一択!

「死ねぇぇぇ!」
「死んでたまるかぁぁぁ!」

 通り魔とは逆方向に逃げる逃げる逃げる。

 全力で逃げてたら勇猛ゆうもうな警官が通り魔を取り押さえてくれていた。

 駅の近くに交番があることにこれほど感謝した日はないだろう。

 余談よだんだが、この警官は魔法陣から逃げ回るという奇行をとっていた慎弥の行動を怪しく思った周りの者が呼んだ警官であった。本来は慎弥を職務質問しようと近付いていたのである。そんな事実を慎弥も通り魔も知るよしはないが。


 警官に組みかれた通り魔を確認して、一息く。

 しかし何か嫌な予感がして後ろを振り向くと、時速100kmはあるであろうスピードで、トラックが近づいてきていた。勿論ここは高速自動車国道なんかじゃなく一般道である。

 しかもトラックの運転席には人が乗っていないのである。

 残念ながら、慎弥の時代にはまだ完全に無人の自動運転は存在していない。

 導き出される答えは、トラックの遠隔操作。
 それも人ならざる者バカタレによる理不尽である。

「ふざけんなぁぁぁ!」

『観念して死になさい!』

 近くには注文した覚えがないおあつらえ向きな少女が、今か今かと俺に助けて欲しそうな顔をしてトラックの進行方向上で待機している。足がすくんで動けないという設定ていなのだろう。

 速い車はいくらブレーキをかけたところで、すぐには止まれない。

 このまま俺が突き飛ばして身代わりにならなければ、見知らぬ少女の命ははかなく散る事になるだろう。

「くそっ!」

 俺は勢い良くジャンプした。
 いや、ジャンプせざるを得なかった。

 そして鼓膜を破るかのような轟音とともにトラックは急停止した。

『そ、そんな、見捨てたっていうの?!』

 そう、俺は少女のいる方とは反対側にジャンプした。そして万が一に備えて目をつぶっていたのだ。
 目を開いて後方を恐る恐るチラリと見ると、トラックは物理法則を完全に無視したかのようにピタッと止まり、やはり・・・少女はかれておらず傷一つついていなかった。

 まあ、他の人を転移させないように魔法陣を調整した様子から想像できた通り、他人を魔法陣に巻き込んだり殺したりなんてことまではしないようだ。

 もし予想が外れていたらトラウマなんてレベルじゃないくらい大変なことになっていたが、が分かりやすい存在で助かった。

「ん?」

 そのとき、雲一つ無い快晴の空から突如とつじょとして稲光いなびかり一筋ひとすじ走った。
 それまさしく青天霹靂せいてんのへきれき

 何が起きたかさえ理解する時間もなく、俺はあらがいようのない落雷によって呆気あっけなく絶命した。



 
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