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2章 表と裏
17 幼馴染
しおりを挟む「仁軌様。配信機材のセッティング完了しました。チャンネルも開設しておきましたので、後はご自由にどうぞ」
「ありがとう、秘書ちゃん」
「仕事ですのでお礼は結構ですよ」
担当官になった卜部さんは本当に頼りになる。
機材の手配から設定まで全て半日でやってのけてしまった。
交流も進んでおり、色々と話していくうちに敬語は不用と言われたので、軽い口調で言葉を交わすようになった。
呼び方も「お好きに呼んで下さい」と言われたので試しに「秘書ちゃん」と呼んでみたら、一瞬ジト目で返されたが「それでも構いませんよ」と諦めたような表情をしながら認めてくれた。
美女のジト目ってなんかゾクゾクしていいよな。うん。
警護官の3人は俺に全肯定なので、ときに厳しい口調で諫めてくれる存在は貴重だ。
と、思っているところにトコトコと全肯定その1を冠するキョウカちゃんが近寄ってきた。
転移の一件もあり、結局キョウカちゃんたち警護官には自宅内で護衛してもらうことになった。
「菅井様、動画配信なさるんですね。素晴らしい社会貢献です。私も登録しないと……。どんな内容の配信をされるんですか?」
「うーん、まだ良く考えてないんだよね。ゲームは好きだからやりたいし、ダンジョン攻略を配信で流すのも楽しそうだよなー」
キョウカちゃんは興味深そうな表情で質問してきた。
配信が社会貢献っていうのは意味がよく分からないが、男性が配信するのは女性中心の社会に対して貢献していると捉えることもできなくはないのか?
まぁ正直、何をするかは決まっていない。計画性皆無ってやつだ。
自分が楽しめることをやりつつ、視聴者にも楽しんでもらえるのが理想ではあるから、試せるものはチャレンジしていこう。
「旦那様。ツブヤイター、フォローした」
「アタシもチャンネル登録しといたぞ」
「お、マロンもアカネもありがとう。ツイッt……じゃなかった、ツブヤイターのアカウント作ったばっかりなのに良く分かったなー」
この世界ではアプリやウェブサイトの名前がユルチューブとかツブヤイターとか微妙に違うから言い間違えに気を付けないといけない。
「愛の力」
「アタシは疎いからマロンに教えてもらった」
すごいなマロン、愛で分かるものなのか。
本名に近い名前、『ジン・ガイスキー(Jin Gajski)』で登録しちゃったのはやっぱりまずかったかな?
アカネは素直でよろしい。実に解釈一致である。
「って、もうフォロワー1000人か。やっぱりこの世界の男性需要は高いのか」
今日作ったばかりのアカウントの伸びがえげつない。
まだアイコンもヘッダーも初期状態でツブヤキもしてないのに、良く見つけられるなー。
「せっかくだし、今日から配信しちゃうか。えーと、配信予約してサムネイルは……あと初ツブヤキになるけど、配信告知しておくか」
配信のやり方自体は幼馴染がVtuberで、配信の様子を見学していたことがあるから何となく分かる。
あいつには「お前は声が良いから絶対やれ」って口うるさく言われたが、幼馴染が所属している事務所は女性しかいなかったし、個人でやるのは無理だろうと思って諦めたんだったな。
しばらく会ってないけど、幼馴染元気にしてるかな。
と言っても世界が変わってるし、もう二度と会うことはできないのか。ちょっと寂しさが込み上げてくる。
これから配信するんだし、気持ちを切り替えていこう。
周辺機器の準備は完了したので、後は配信で何をするか決めよう。
初配信は雑談枠になりそうだが、定期的にゲーム配信はやろうと思っている。ただこの世界のゲームについては、1ミリも分からないから聞いてみるか。
「みんなってゲームとかやる? 好きなゲームとかオススメがあったら教えて欲しい」
「私は迫り来る女性たちから男性を守るタワーディフェンスゲームが好きです! オススメは『警護官ミッション2~侵略のモンスターズ~』です!」
キョウカちゃんが目をキラキラさせながら早口で答えてくれた。
戦略系のゲームで面白そうだが、いきなりナンバリング作品の2からやるのはやめておこう。やるなら1から遊んでみたい。
拠点を守りきれなかったら男性がモンスター娘に襲われるのはポイント高いな。
「アタシはあんまりゲームはしねぇなぁ。あ、でも敵をバッタバッタ倒すやつは好きだぜ。『ライジングゾンビ』とかゾンビぶっ飛ばせてスカッとすんだよなぁー」
「脳筋」
「はいはい、アタシは脳筋ですよー」
マロンに言われ口を尖らせて拗ねちゃったアカネがちょっと可愛い。
彼女はイメージ通り戦闘系のゲームならやるみたいだ。ゾンビ相手に銃とか使わず肉弾戦をする姿が目に浮かんでくる。
「ゲーム、未経験」
マロンはゲームやらないのか。
1級冒険者だとダンジョン攻略が忙しくてあんまり暇がないのかもしれない。
「私もやったことはありません」
秘書ちゃんも同じく、と。
イメージとしては勉強ばっかりしてそうなタイプに見えるし、イメージ通りではある。
となると、この中で最近のゲーム事情に精通していそうなのはキョウカちゃんくらいか。
この世界の男女比的に女性向けのゲームが多そうだから、男性でも楽しめそうなゲームがないか聞いてみよう。
「キョウカちゃん、男がゲームするなら何がオススメかな?」
「男性に人気なのは『どうぶつ村づくり』や『牧場ストーリー』ですかね。ほのぼの系のゲームや可愛い系が人気です。女性でも好きな人は多いので、ある程度人気なゲームなら間違いなしだと思います」
おっと、貞操観念逆転世界なのを忘れていた。こういう好みも逆転してると考えた方が良いのか。
「FPSとかって男性はあんまりやらない感じ?」
「割と女性向けですが、男性は結構珍しいくらいでやってる方はいらっしゃると思いますよ。バトルロワイヤルのシューティング系なら『バーテックス』が人気ですね」
なんか似たような名前のゲームが元の世界であったなー。
多分やり方はそこまで変わらないだろうし、候補に入れておこう。
「みんな意見ありがとう。そろそろ、初配信してみるよ」
「待機しときます!」
「仁軌さんの活躍しっかり見ねぇとな」
「楽しみ」
「では、マウスを左クリックして下さい」
◇
:サムネも画面もシンプルすぎw
:ダサ……くはないです、はい。
:みんな大人しく待機やで
:ワイには分かる。主は男や。
:おとこぉぉぉぉぉうぉぉぉぉぉ!
:サムネ草
:名前ジン・ガイスキーか。フォローもした。
:名前ジン君って呼んで良いのかな?
:ジンジンしてキター!
:みんな落ち着けwww
男性が動画配信するという情報を掲示板で見つけた私、宇多定省は、待機画面を開きながらコメント欄をボーッと眺めていた。
白地に細い黒字で初配信と書かれたサムネイル。待機画面にも同じものが表示されており、無骨な印象を受ける。
きっと、配信慣れはしていないのだろう。
私も最初の頃はサムネ1つ作るのさえ大変だった。
「あれ? 押したけどなんか変わった? 配信ついたかな? コメントどうやって見るんだ?」
衝撃を受けた私は、目をカッと見開いた。
:ジンジンキタキタ!
:ン?! 本物の男!?
:セクシーイケボやん
:いやマジで男やん最高!
:をまいらおおおをちつけってwww
:コメント見えてないんか?
:うわ、もう推します。まぢ良すぎる。
:感謝マジ感謝
:しゅてき!
:たのむスパチャさせてくれ
「ガイスキー様、現在配信中です。お気をつけ下さい。こちらのタブからポップアップできます」
「お、ありがとう秘書ちゃん。これでコメント見られるよ」
大人びた優しげな声音に、どこか懐かしさを感じる。
幼い頃の感情が徐々に胸に込み上げてくる。
:お、主はもしかしてポンか?
:もう誰よその女ァ!
:てぇてぇか?
:とっても仲良さそうですね。珍しい。
:うぉぉぉぉぉおとこだぁぁぁぁ!
:らメェ! 耳が妊娠しちゃうぅ!
:デリカシーないコメ欄だなwww
:ゆっくりでええんやで
:レアですよね、女性にお礼を言う男性。
:うらやま
:語彙力ないやつおるて
:くっ、スパチャできない!
「おぉ、コメントの流れ早っ! え、同接1万超えてるし!? あー、今のは俺の担当官です。配信準備とかしてもらってました」
幼い頃に遊んだ男の子の顔が頭に浮かんでくる。
いや、そんな訳ないか。
声もちょっと違うのに、何考えてるんだろう。
私の捨てきれない恋心が、彼とジン・ガイスキーさんを勝手に結びつけているだけだ。
:お小遣い稼ぎならお姉さんが養ってあげるわよ
:もしかして担当官付きってことは……?
:いやマジか。Gランクじゃないのか。
:ワイは何でもええ。声が好きや。推すで。
:セクハラになるからランク聞くのはダメよ
:開始から1分で同接3万www
:ヲタク共、今こそ出番や。拡散するで。
:これもう5万はいきそう
:えっ、担当官と仲良いとかマジか。
:てか主は女苦手じゃないん?
「あーえっと、ランクは内緒です。チャンネル登録ありがとうございます。女性は苦手ではなく、むしろ好きですよ」
彼は女性が嫌いになってしまったはずだ。
あぁ、違うはずなのに、鼓動がどんどん早まっていく。
胸も、息も苦しい。
私があのとき彼に対してあんなことをしなければ、彼との関係は続いていたのだろうか。
彼は女嫌いにならなかったのではないのだろうか。
締め付けられた胸を押さえながら、私は彼の顔を思い浮かべる。
「ジンキ…………」
幼い日に私が傷つけてしまった男の子の名前は、どこかこの配信者と似ている名前だった。
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