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2章 表と裏

13 大敵?

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「それで、そういった知識が無かったから衝動しょうどう的に抱きしめてしまったと?」

「うぅ、すまぬ。どうすればいか分からなかったんじゃ」


 あの後、息ができずに俺は気絶した。

 ダンジョンの最奥さいおうを目指して探索していた俺は、メスのゴブリンたちに誘拐され、ゴブリンの巣穴に運ばれた。

 ゴブリンたちは人間のオスを捕らえたことを、ボスであるゴブリンクイーンに報告。

 捕らえられた俺がいる部屋にやって来たゴブリンクイーンは、勢いのまま抱きしめてしまったらしい。

 抱きしめられた俺は息ができず、フガフガともがいたものの、そのまま意識を失ってしまった。
 頭の中がいっぱいだったゴブリンクイーンは、気付く余裕よゆうがなかったとのこと。

 一歩間違えば窒息ちっそく死。

 美女の胸の中で死ねるなら本望ではあるものの、まだまだ新しい人生を楽しみたいので助かって良かった。

 意識を取り戻してからは、ゴブリンクイーンの必死の謝罪ターンが訪れた。

 いわく、男を捕らえたのは初めてだからとか、何をしたら良いか分からなかったとか。言い訳しつつも泣きながら「すまぬ、すまぬ」と謝罪の言葉を並べている。

 何故そこまで謝るのか聞いてみたら、メスのモンスターたちの間で男性を殺すのはかなりの御法度ごはっとらしい。

 この世界、人外娘たちの間でも男女比は偏っており、ほとんどオスが存在しなくなってしまったらしい。

 それにしても、美女に土下座されながら謝られると、ちょっと変な気分になってくるな。

 薄緑色の肌に、少しとがった短い耳。ちょこんと頭にあるつののようなコブ。腰まで伸びた赤茶色の髪。

 一般的なゴブリンのイメージとは異なる、整った顔立ちや体型。
 その美しい容姿に似つかわしくない、隠せている面積の方が少なく今にも色々見えそうなボロボロな服。

 言葉を選ばずに言うと、めちゃくちゃエロい。

 さっきまであの谷間に顔を埋めていたのかと考えると、もう一回くらい気絶しても良いんじゃないかとさえ思ってしまう。

「ボス~ソレハナイゾ~」
「コウビデキナカッタノカ」
「オスカッコイイ。ボスカッコワルイ」

「うぅ、わらわもこんなはずでは……」

「オス、シバッタ」
「ナエナイヨウニ、ヘヤクラクシタ」

 部屋が暗かったのは理由があったのか。

 人間の男性からしたらモンスター娘は恐怖の対象で、見ただけでえてしまう。
 その状態では、やることをやれないから、一応部屋を暗くしていたのだろう。

 モンスター娘に欲情するような男はほとんどいないんだろうな。
 俺は人外ジンガイスキーなので当然モンスター娘もウェルカムだ。

「部下におぜん立てされ、このていたらく。うぅ、わらわはどうしたら…………」

 ゴブリンクイーンはいまだ俺に向かって土下座をしながら、他のゴブリンたちの前で反省中である。

 俺の拘束は完全に解かれ、巣穴の中の広場のような生活スペースに場所を移し、椅子いすを用意されたので座っている。思ったよりフカフカだな。

 家具らしきものや手製の武器なんかもあちこちに見える。
 ゴブリンたちはかなり文明的な暮らしをしているんだな。

「オス、ミズノム?」
「ハラヘッテナイカ?」
「コレオイシイゾ」
「カッコイイナー」

「ありがとう。大丈夫だよ」

 周りのゴブリンたちはツルペッタンな幼女たちばかりだ。

 敵意を向けられたり襲ってきたりする様子もないし、色々と気をつかってくれている。

 正直、敵対しても心理的に倒せないかもしれないな。

「ボス、ドウスルンダ?」

わらわにはもう可能性はないのじゃ。しゅの強化はしておきたかったが、無理じゃの」

 モンスターは本能で人間を襲う。
 メスのモンスターたちは、男と子どもを作ろうとして巣穴に連れ帰る習性らしい。

 といっても、人間の男たちとモンスターとでは子どもはできないため、男が襲われるだけとなってしまうみたいだ。

 ただ、男を襲ったモンスターは強化される。
 ゴブリンクイーンの望みは、この種の強化ということになる。

 ちなみにダンジョンはモンスターが自然発生するため、子作りをする必要はないそうだ。本能が残っちゃってるだけなんだろうな。

「ならゴブリンクイーン、ちょっと取引しないか」

「取引じゃと? わらわを許してくれるのか?」

「あぁ。要するに、そっちは男のアレが欲しい。俺はこのダンジョンを攻略して脱出したい。お互い協力しないか?」

わらわの失態を許してくれるなら何でもしよう!」

 お、今何でもって?

 無知なゴブリンクイーンに色々と教えてあげるのもやぶさかではないが、真面目な要求をしておこう。

「それじゃあ、俺の従魔になってくれるか、俺の従魔になってくれる子を探して欲しい。俺は従魔契約に制限があって、ヒト型モンスターのメスとしか契約できないんだ」

「そんな簡単なことでいのか? ではわらわが……と、言いたいところじゃったが、わらわはダンジョンボスゆえテイムは無理なのじゃ。本当に残念じゃ」

 ほぅ、これは有用な情報だ。
 ダンジョンのボスモンスターはテイムできないんだな。覚えておこう。

 ん、ちょっと待て。

 つまり目の前のこのゴブリンクイーンを倒さないと、このダンジョンはクリアできないのか?
 今の俺じゃ全く倒せる気がしないぞ。

「なのでわらわの部下たちの中から選んで従魔にしてよいぞ。みな喜んでなるであろう。そうしたら、わらわと……その……シテ、くれるかの?」

 頬を赤らめながら、恥ずかしそうにおねだりするゴブリンクイーンを見て、頭の中で理性なにかがブチっと切れる音がした。

「よししよう。今すぐしよう。もう、とりあえずしてから考えよう」

「な、ななな」

 こんなぜんいただかないわけがない。

 俺はゴブリンクイーンの体をヒョイと抱えあげ、目についた1番近いベッドに運んだ。

 お姫様抱っこされたゴブリンクイーンは、何が起きたか理解が追いつかないといった様子で、固まったまま無抵抗であった。

「イイゾイイゾー!」
「アタイモ、ダッコサレタイ!」
「ヒューヒュー!」
「オコボレナイカナー」

 ゴブリンたちがはやし立ててくるが、うるさい外野には慣れてしまったので問題ない。
 気にも留めずにゴブリンクイーンを見つめる。彼女の肌は、頬だけでなく耳まで真っ赤に染まっていた。

「の、のう、流石にみなに見られながらというのは、ちとまずいんじゃないかの?」

「大丈夫、大丈夫。ちょっとだけだから」

「ど、どういう意味じゃ?! せ、せめて明かりを消さぬと、おぬしもできないじゃろ?」

「明かりを消すなんてとんでもない。美しいお姫様の、可愛い反応が見れなくなるじゃないか」

 クイーンだから女王な気もするが、細かいことなんてどうでもいい。

わらわが美しい?! 可愛い!? もう無理じゃ、しんぞうがはちきれてしまう!」

 確かに男を抱きしめるだけでいっぱいいっぱいだった彼女には、刺激が強すぎるかもな。

 だがもう、収まりがつかないところまで来てしまった。
 そういう反応は火に油をそそぐだけだと、しっかり教えてあげることにしよう。

「ボス、ガンバレー!」
「イケー! ソコダー!」
あるじやっちゃえー!」
「ボス、カクゴヲキメロー!」
「アタイモシタイナー」

「お前たちぃぃぃ、せめて見るのはやめるのじゃぁぁぁ!」

 彼女の叫びを素直に聞き入れた者は、果たしていたのだろうか。

 周りのことなど頭に入らない俺は、大事な楽器を奏でるように、ゆっくりと宴の準備を進めていくのであった。



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