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2章 表と裏

11 ダンジョンとステータス

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 ピチャピチャと変な音が聞こえてくる。

 不思議な夢を視ていた気がするのに、邪魔されてしまった。

 寝惚けた思考を覚醒かくせいさせ、布団から出ようと手をかける。

 ピチャッ。

 プルルン。

「え? は? え?」

 俺の手に触れたものはフカフカの布団ではなかった。
 ヒンヤリとしたゲルのような感触に、頭が混乱する。
 
 逡巡しゅんじんのち、ガバっと体を起こす。

 まだ視界はぼんやりしていたが、緑がかった青色の液体状のような何かが見えた。

 スライム。
 そう、スライムだ。
 
 俺の体の周りには、スライムがまとわりついている。

 落ち着け、冷静になれ。冷静になれるわけないけど一旦落ち着け。

 昨日俺は貞操逆転世界に転生して、病院に行ったりギルドに行ったりして帰宅し、就寝しゅうしんした。

 よし、ここまでは普通だ。いや、決して普通じゃないけど、記憶通りだ。

 で、寝て起きたら草原でスライムに襲われていた。

 いや全然状況が分からん。

 まさか、せっかく貞操逆転世界に行けたのに、また別の世界に来ちゃったとか?

「大丈夫?」

「いや、全く大丈夫じゃな……え、誰?」

 幼い少女の声が聞こえてきたが、付近を見渡せど人影はない。

 となると俺の近くにいるのは、このスライムだけということになるのだが。

 ジーっとスライムを見つめていたら、その形が段々と人型になっていく。

「まさか、スライム娘?」

「うん! スライム!」

 元気よく手を挙げて返事をする、幼女の姿をしたスライム娘。

 そうか、これは夢だな。
 きっとまだ、夢の続きを見てるだけなんだ。うん。

「オスの人間さん?」

「あぁ、ごめん現実逃避してた。君はなんで俺にくっついていたのかな?」

「んー、分かんない!」

「そっかー、分かんないかー。じゃあここはどこかな?」

「ダンジョンだよ!」

「え、ダンジョン?」

 かなり有力な情報を得ることができた。

 ここがダンジョンとなると、何故俺はダンジョンにいるんだ?

 体は若返ったままみたいだし、更に別の世界に転生した説は薄そうだ。

 誰かが俺をダンジョンに誘拐ゆうかいしたなら、犯人が近くにいないとおかしい。
 それに警護官のキョウカちゃんたちの目を盗んだ上で、俺を拉致らちできるやつは存在するのだろうか?

 犯人がいないとなると、別の何かが原因でダンジョンに飛ばされた、とか?

「わー、なにこれー?」

 スライム娘の声で気が付いたが、俺の目の前にはいつの間にかホログラム状の掲示板のようなもの、ステータスボードが表示されていた。





プレイヤー名 スガイジンキ
種族 人間
レベル 1
スキルスロット 3/10


○基礎能力値

 生命力 +150
 持久力 ∞
 精力  ∞
 耐久力 +110
 適応力 +210
 運命力 +110


○スキル

【男聖】パッシブ

能力値変化
 生命力 +50
 持久力 無限化
 精力  無限化 
 適応力 +100

特殊効果
 異種族間でも子どもができる

 
【女難】パッシブ

能力値変化
 耐久力 +10
 適応力 +10
 運命力 +10

特殊効果
 ヒト型モンスター(メス)からの被ダメージ激増
 ヒト型モンスター(メス)との遭遇率増大
 ヒト型モンスター(メス)との初期友好度極大増加
 従魔契約縛り……ヒト型モンスター(メス)


【夜の帝王】パッシブ

能力値変化
 全基礎能力 +100 (夜間限定)

特殊効果
 夜間就寝後ダンジョンに(現在第1試練)
 従魔契約できる
 試練制覇により更なる能力解放


○従魔契約

スライム娘 1






「お前が原因か【夜の帝王】!」

 ゲームのようなステータス画面には、俺がダンジョンにいる原因が載っていた。

 全く、寝たらダンジョンに転移とかどんな地雷スキルだよ。

 それにステータス表記も違和感だらけだ。

 普通のRPGにはよくある攻撃力ATKとか魔力MAGとかの項目がない。代わりに精力とかいう成人向けゲームくらいでしか見かけない項目がある。

 この世界のダンジョンはエロゲが元になっているとかないよな?

 あと気になるのはスライム娘が勝手に従魔になってるところか。

「なぁ君、俺の従魔になってるみたいなんだけど、心当たりはないかな?」

「んー、分かんない!」

「そっかー。分かんないかー。ちなみに試練って何か知ってるかな?」

「んー、知らない!」

「そうだよねー。いやマジでどうしよう」

 幼女スライムに難しいことは聞けそうにない。

 まだ講習も受けていない状態でダンジョンに飛ばされたのはまずいな。

 戦闘能力が皆無かいむの俺がこの状況を切り抜けるためには何をしたらいい?

 助けが来るのを待つか、ダンジョンを探索してレベル上げをしてみるか。

「人間さん。これなーに?」

「ん?」

 スライム娘が興味深そうに見ていたものは、ギルドでお詫びとしてもらった魔道具だった。

 あのときは魔道具というだけでテンションが上がってたし、どういう物か教えてもらってないな。

 形は球体。色は黒。
 大きさは両手サイズだけどギリギリ包み込めないくらいだ。その割に重さはかなり軽い。

「俺もこれが何か知らないんだ。ごめんな」

「んー、えい!」

 あ、こいつ体に取り込みやがった。

 っと思ったら球体がつるのような形に変形していく。

「おー、すごーい、楽すぃー!」

 スライム娘は体から取り出してそれを手に持ち、むちのようにしならせてブンブンと振り回す。

 幼女が鞭を振り回してる姿はちょっと反応に困る。

「なぁ君、ちょっと返してくれるか?」

「うん!」

 スライム娘から魔道具を受け取り、頭の中で剣の形をイメージしてみる。

 形状が少しずつ変わってイメージ通りの剣が出来上がった。

 どうやら考えた形に変化する性質の魔道具らしい。

 スライム娘はさっき鞭をイメージしたんじゃなくて、触手を伸ばすイメージをしてたのかもな。

 剣を上段に構えてみる。
 そのまま1回、2回と素振りしてみると、どんどん手に馴染なじんでいった。

「おー、あるじかっこいいー!」

「これは使えるな。武器になってくれて助かった」

 いつの間にかスライム娘にあるじ認定されていることはさておき、戦闘手段を確保できたのは助かる。

 変形まで数秒かかるから、戦闘中に一瞬で他の武器や盾に変化させるとかは無理そうだな。

 となると、今のうちにどんな武器を使うか考えておこう。

 戦闘初心者に接近戦は厳しいだろうし、距離感を保ちつつ攻撃できる槍がベストかもな。

「おー、すごーい!」

 魔道具は槍にしておいて、あとはこの子のことを考えないといけないか。

 まず名前も聞いてなかったな。
 モンスターだから固有の名前はないかもしれないが、一応聞いてみるか。

「そういえば君の名前はあるのかな?」

「んー、あるじつけて?」

 なんと無茶をおっしゃる。

「俺にネーミングセンスはないぞー」

「おねがい!」

「分かった。ただあんまり期待するなよ?」

「やたー!」

 キャッキャとはしゃぐように喜ぶ幼女を見て、ダンジョンにいるのに気持ちがなごんでしまう。

 スライムだからス○ミ……は流石にまずいか。

 スライム……スイ……ラム……ムイ……ライム……スイラン。

 スイランか。この子は緑がかった青だし、似合ってるかもしれないな。

「スイランはどうかな? 呼ぶときはスイだな」

「スイラン! スイ! ありがとーあるじ!」

「気に入ってもらえて良かったよ。よろしくな、スイ」

「うん! よろしくー!」

 名前をもらって嬉しさが爆発したのか、スイランは飛びかかって抱きついてきた。
 優しく受け止め、よしよしと頭を撫でながら、この子のことはしっかり守ってあげようと心に決めるのだった。







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