Ninfea

蠍ノ 丘

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人工島

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午後五時

「ロギ……あれ」
 
 数分前に目を覚ましたであろうアリアが眼下に広がる光景が信じられず隣に座るロギアの肩をつつく。

「デカいな……」

「あれがオレ達が支部と呼んでいる人工島だ」橘が二人に応える様に呟く。

 海上に造られた都市にロギアとアリアの二人は驚愕し目を見開く。想像していたよりも大きく、上空からだと幾つもの塀の様な物、物資を運び入れる物なのかレールの様な物まで島全体に敷き詰められているかの様だった。
「この都市の中枢には本部がある。此処ではそこで道路や大橋それに壁などの安全性を全て管理している。言わば、人類の未来の為にと言う支部長の理念が体現された。今では壮大な安全都市……まぁそんな感じだ。勿論このヘリも支部が管理しているものだ」

 そこまで言われロギアは視線をずらすとそこには大橋が陸地から人工島へと架けられており、そこも橘が言った様に幾つもの壁で感染者が来ない様になっていた。

「このヘリコプターであそこに行くの?」

 大橋の中間地点に広い場所を見付け、アリアは首を傾げながらも説明をしている橘に尋ねた。

「いやこのヘリコプターでは大橋の手前迄行く事になっている」

「手前?」

「ああ、例え壁の外だとしても一応の安全は確保されているからな。まぁ都市を安全に運用していく以上人の出入りは管理しないと不味いからな」
 橘はアリアの問いに答えると端末で連絡を取り始めた。

 
 
「橘隊長、お手柄ですね」

 ヘリから降り立つと待機していた男から真っ先にそんな言葉が掛けられ橘は手を上げ返事を返す。

 ロギアとアリアがその次に姿を見せると一瞬たじろぎ「こちらです。付いて来て下さい」男の指示に従い一行は歩いて行く。

 兵士も人も大勢の人が忙しなく動いており、その大半がロギアやアリアの様に服装がボロボロの物ばかり身に着けている。二人には発展途中と言うか何処となくスラム街っぽい印象をこの場所に受けていた。

 道の一角には大きめの広場がありそこでは複数のテントが張られ、二人と同じ様に外から来たであろうボロボロの服装の大人子供がテントの前に列をなして並んでおり、一行はそれを横目に通り過ぎて行く。

「此処は?」

「ああ、さっきも少し口にはしたが外から来た人は此処であらかたの身体検査と血液の採集。病気の有無を確認した後、問題が無ければ一応都市に入れる事になっている。勿論そこでより詳細に検査と滞在するにあたっての講習と処置を行う事になってるがな」

「処置?」

「居場所、健康メンタルが管理できるよう端末を身体の内部に埋め込む手筈になっている。勿論此処でその事も伝えて承認出来ない様ならそれなりの対応を取らざるを得ないな。まぁ、そこまでしないと今では安全な集団生活なんて出来ないからな。それに此処は大橋の手前もあって未だに安全とは言いにくくてな……更に此処から離れると未だに死体処理が完全に出来ていなかったり感染者がうろついている所がある分危険もそれなりに多い」

「埋め、込む……」アリアが固まり、ロギアがアリアを自分の傍に引き寄せる。

「いや、埋め込むって言ってもそこまで深くは埋め込まないしサイズも大きくない。慣れれば違和感さえ無くなる程度の物だ。勿論自ら外そうとしない限り外せない」

 ロギアは橘のその考え方に批判はあったが一応納得はしつつ行列になっている人を見て一つの疑問が頭を過る。

「なぁ俺達二人の検査は良いのか?」

「検査しても結果は判り切っている事だしなぁ、それに此処にはお嬢さん達の情報を知らない兵士だっている。此処で検査してその場で処理だなんて結末になりかねないからな。色々とこっちにも事情があるんだよ」

「――そういう事か……」

 後ろではキョロキョロと不安気に周囲を見回すアリアを水琶が気を落ち着かせる様に何か話したりユズルが建物に指をさし何やら自慢げに喋っている。

「少年も此処まで来たら少しくらいは落ち着いて欲しい、とは思うが……流石に無理か」

「無理だな」

 ロギアの即答に橘は苦笑いを浮かべながら「それもそうか」と小さく呟いた。

 広場を抜け建物内へと繋がるエスカレーターを上ると硝子張りになった通路が続いていおり、道なりに進むと駅のホームの様な広場に付いた。
 
 そこには先程の所で検査を受けたであろう大勢の人が今か今かと次のモノレールがホームへ到着するのを待っている状況だった。そこでは数人の兵士が自分達を囲んでいるものの相当混雑していて進むペースが遅くロギアの眉間に皺が寄る。

「――え? ロギ……」

 アリアは自身の手に誰かの手が重なる感触を覚え、その人物を確かめて驚いて目を見開いた。

「――いや、気にするな」

 そうは言いつつ手を放そうとしないロギアに対し疑問を浮かべながらも周囲の人の声でその場が五月蠅いせいか何か声を掛ける事も出来ず、そのまま複数人の兵士に守られ一行はモノレールへと乗り込みホーム全体に発車音が鳴り響き直ぐに動き出した。

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