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もう引き返せない選択
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やがて一行は目指していたビルへと辿り着いた。汚れている箇所は多く見受けられるが建物自体は立派な作りで、この地域では一番高い高級感のあるビルらしい。
ただロギアの見解ではこういった場所には明かりが建物内迄届かず感染者が多く潜んでいる可能性がある為、立ち寄る事すらはばかられていた事もありそれが唯一の心配事だった。
「此処はお嬢ちゃん等を捜索する最中に発見したんだが、どうやら感染者の気配が他よりも少なくてな。外で他の連中と合流をするよりも、こっちの方がтермит(サーマイト)(白蟻)に襲われずに遥かに安全でうってつけって事だな」
橘の発言に水琶とユズルも不安に感じたのか互いの顔を見合わせ表情を引き攣らせている。
「――なに、油断さえしなければ大丈夫だ」
橘は鍵が壊れて開かなくなった硝子ドアに近付く。ノブも回せずユズルが行ったピッキングでも、もろともしていない。「ちょ、ちょっと待って下さいよ」ユズルが手こずっている後ろ姿を見て橘は自身の端末で時間を確認する。
そしてロギアとアリア、水琶に離れる様指示をし、硝子ドアその中央を一蹴りをいれた。いくら硝子ドアが頑丈な作りになっていても鉄板入りの蹴りには耐えられなかったのか大きい音を立て硝子が粉砕し地面へと落ちる。余りにも大胆な開け方にアリアは周囲を見回す。ユズルが口をあんぐりと開けて橘を見上げる。
「悪い、時間がない」
橘はそのドアを跨いで中へと入って行くが今の音でも誰も顔を出す気配すらない。
「よし、行くぞ」橘の声と共に一行は足を進めて行く。
原形を留めていない机や椅子、壁に飛び散った血で会社のポスター等はすっかり目立たなくなっている。そう言った景色を尻目に受付を通り抜け非常階段がある方へと向かって行く。その間にも少なからず抵抗したであろう生存者だった者達の痕跡が幾つも視界に入る。
蠅が集り強烈な腐敗集を漂わせている死骸も幾つか発見した。
「大丈夫か?」
そう言った光景を見る度にロギアはアリアに身体の調子を確認し、「うん……大丈夫」アリアもそう答えた。
しかしアリアの落ち着かない様子に引っかかる様な物を感じロギアは非常口の扉を抉じ開ける橘達から目を離しアリアの方へと顔を向ける。
「――どうした?」
顔が真っ青で大粒の汗が流れている。口元も微かに震わせており尋常じゃない事は見ていて歴然だった。
「――ご、ごめん。 私の身体……ね、燃費が悪過ぎるかも……」
反応するその様子も落ち着きが無く目が泳いで見える。
「それはしょうがない、そう言う身体って事は何と無く推測は出来たからな」
「う、うん……我慢はしてるけど――――やっぱり自分じゃあどうしようもないみたい」
自身の腹を擦り暗い顔を浮かべる。
「数個程、簡単に食べられる携帯食料でも貰っておくべきか」
「それだと助か――――」アリアが声を発しようと口を開きかけた時、前方で非常階段への扉を抉じ開ける大きな音がした。
「手を貸してくれないか?」橘が後方をやたらと気にしていたユズルに声をかけ二人がかりで扉をこじ開けた瞬間、カチカチと嫌な音が聞こえ橘が身構え様とする間に真横から感染者が跳びかかって来た。
「ッ!?」「た、橘隊長!」
感染者に押し倒され取っ組み合いになる橘を助け出そうとするが、上の階からペタペタと不気味な足音と共に子供と大人の女性の感染者が姿を現した。
「――――いっ!?」
二体の感染者は橘がずれた事により視線が真っすぐユズルに向けられる。反応するよりも早くその感染者二体はユズル目掛けて跳びかかった。女性の感染者はユズルに掴みかかり、子供の方の感染者は動きが遅かった為水琶が割り込み頭部を銃で撃ち抜く。
その間にも橘に襲い掛かった感染者はあっけなくやられ動かなくなった。
「ユズル!」水琶はそれを見るとすぐさまユズルから感染者を引き剥がすのに協力し、感染者を大きく押し退ける。
「糞があぁぁぁっ!」
そのおかげもあってか余裕が出来たユズルは手に持つ鉄パイプで感染者の頭、脇腹を叩きその衝撃で感染者の身体が折曲がる。
その拍子に丁度いい位置に来た頭に向かい思いっきしスイングした。多少腐敗していたせいか感染者の頭部は粉々に粉砕し残りの身体は力無くその場で崩れ落ちビクビクと痙攣を始める。
「ッシャ――――ッ!! 仕留めたぜ!」
ユズルは一息つくと自分達が倒した痙攣を続ける感染者へと視線を落とす。少年と女性。
「――ったく、スンゲ―後味悪ぃいなあ。」
「そうね、でも彼等は既に人じゃ無くなってる……こうして動きを停止させるのも救いって形になるのかもしれない。少なくとも彼等を駆、除しなければ被害が増えてしまうから……」
水琶は使い慣れていない言葉のせいか若干詰まらせた様な喋り方でユズルの愚痴に応じると自らの後ろを歩く二人へと合図を送る。
「悪いな、参戦出来なくて」
ロギアが痙攣する感染者三体に目を落とし淡々と言うと「別に構わねぇよ、俺等だけでもやれっから」ユズルが鼻を鳴らし強がって見せている。その横で水琶は呆れかえっていた。
「そこのお二人さんも話す事は済んだろうし、もうちょいスピードを上げて行くとするか、なぁに此処からはただ階段を上がってくだけだ。感染者が集まって来る前には余裕で辿り着く」
橘は下の階から感染者が来ないか確認し上へと上がって行く。元々白だったであろう壁も今では汚れ、所々に血痕が残っている。
最上階まで来ると流石にアリアもクタクタで橘と水琶、ユズルの三人も息が上がり肩が大きく上下していた。
橘を先頭に扉を開けるとそこには既に離陸準備を終えたヘリコプターと武装した男が待機しており橘達を視界に捉えると険しい顔つきが一気に笑顔へと変貌する。
「随分と遅かったじゃないか」
「色々とあってな」
橘がそう応じ二人で何やら話をした後その男はロギアとアリアに視線を送る。その直後に扉の向こう側が騒がしくなり始め全員の視線が扉の方へと移った。
「よし、じゃあ此処からとっとと行こうか」
一行は橘の後に続きヘリコプターへと乗り込んでいく。
ヘリコプターが離陸し、アリアは徐々に遠くなる景色を眺め視線を景色から機内に向けた時ロギアと目が合った。
「……ロギ?」
「アリア……もう引き返せないぞ、後悔するなよ」確認を取る様にそう告げた。
「……うん、これは――私が選んだ事だから」
ロギアはアリアの答えに短く応じると肩の力を抜き大きく息を吐き出しながら背もたれにもたれ掛かる。
“一時とは言え終わらないと思っていた悪夢からようやく解放された。アリアにとってそれは気が遠くなる程長く耐えがたい物だっただろう。だが俺の親父に苦しめられたのはアリア一人だけでは無い。資料を見る限りでも何十人と被害者は存在し、今の世界もそうだ。もはや被害者は全世界に居ると言っても過言ではない。アリアの話ではセルゲイ・オルバース、親父は研究所が感染者に襲われた時には既に姿が見当たらなかったらしい。この後その件も含め深く訊かれるかもしれないな。だが今はそんな些細な事は考えなくていい。今最も重要なのは過去を乗り越え歩み出そうとしているアリアの邪魔はさせない事だ“
そんな風に思考を巡らせながら外の景色を眺めるアリアに視線を向けたり、自らも外の景色をみたりとしているとあっという間に数十分程経過していた。
窓から顔を戻しロギアは前に座る橘や水琶、ユズルに視線を走らせる。橘と目が合い「安心して欲しい。約束は守る」そう言われロギアはどう返そうか考えた時、肩に何かがぶつかりそちらに目を向けると今迄の移動で限界がきたのかアリアは身体を倒し、もたれ掛かる様な形で寝息立てていた。
アリアの寝息で暖かく湿った服の感触がくすぐったく、外の景色も雨で何処か妙に懐かしさを覚える雰囲気だった。
ただロギアの見解ではこういった場所には明かりが建物内迄届かず感染者が多く潜んでいる可能性がある為、立ち寄る事すらはばかられていた事もありそれが唯一の心配事だった。
「此処はお嬢ちゃん等を捜索する最中に発見したんだが、どうやら感染者の気配が他よりも少なくてな。外で他の連中と合流をするよりも、こっちの方がтермит(サーマイト)(白蟻)に襲われずに遥かに安全でうってつけって事だな」
橘の発言に水琶とユズルも不安に感じたのか互いの顔を見合わせ表情を引き攣らせている。
「――なに、油断さえしなければ大丈夫だ」
橘は鍵が壊れて開かなくなった硝子ドアに近付く。ノブも回せずユズルが行ったピッキングでも、もろともしていない。「ちょ、ちょっと待って下さいよ」ユズルが手こずっている後ろ姿を見て橘は自身の端末で時間を確認する。
そしてロギアとアリア、水琶に離れる様指示をし、硝子ドアその中央を一蹴りをいれた。いくら硝子ドアが頑丈な作りになっていても鉄板入りの蹴りには耐えられなかったのか大きい音を立て硝子が粉砕し地面へと落ちる。余りにも大胆な開け方にアリアは周囲を見回す。ユズルが口をあんぐりと開けて橘を見上げる。
「悪い、時間がない」
橘はそのドアを跨いで中へと入って行くが今の音でも誰も顔を出す気配すらない。
「よし、行くぞ」橘の声と共に一行は足を進めて行く。
原形を留めていない机や椅子、壁に飛び散った血で会社のポスター等はすっかり目立たなくなっている。そう言った景色を尻目に受付を通り抜け非常階段がある方へと向かって行く。その間にも少なからず抵抗したであろう生存者だった者達の痕跡が幾つも視界に入る。
蠅が集り強烈な腐敗集を漂わせている死骸も幾つか発見した。
「大丈夫か?」
そう言った光景を見る度にロギアはアリアに身体の調子を確認し、「うん……大丈夫」アリアもそう答えた。
しかしアリアの落ち着かない様子に引っかかる様な物を感じロギアは非常口の扉を抉じ開ける橘達から目を離しアリアの方へと顔を向ける。
「――どうした?」
顔が真っ青で大粒の汗が流れている。口元も微かに震わせており尋常じゃない事は見ていて歴然だった。
「――ご、ごめん。 私の身体……ね、燃費が悪過ぎるかも……」
反応するその様子も落ち着きが無く目が泳いで見える。
「それはしょうがない、そう言う身体って事は何と無く推測は出来たからな」
「う、うん……我慢はしてるけど――――やっぱり自分じゃあどうしようもないみたい」
自身の腹を擦り暗い顔を浮かべる。
「数個程、簡単に食べられる携帯食料でも貰っておくべきか」
「それだと助か――――」アリアが声を発しようと口を開きかけた時、前方で非常階段への扉を抉じ開ける大きな音がした。
「手を貸してくれないか?」橘が後方をやたらと気にしていたユズルに声をかけ二人がかりで扉をこじ開けた瞬間、カチカチと嫌な音が聞こえ橘が身構え様とする間に真横から感染者が跳びかかって来た。
「ッ!?」「た、橘隊長!」
感染者に押し倒され取っ組み合いになる橘を助け出そうとするが、上の階からペタペタと不気味な足音と共に子供と大人の女性の感染者が姿を現した。
「――――いっ!?」
二体の感染者は橘がずれた事により視線が真っすぐユズルに向けられる。反応するよりも早くその感染者二体はユズル目掛けて跳びかかった。女性の感染者はユズルに掴みかかり、子供の方の感染者は動きが遅かった為水琶が割り込み頭部を銃で撃ち抜く。
その間にも橘に襲い掛かった感染者はあっけなくやられ動かなくなった。
「ユズル!」水琶はそれを見るとすぐさまユズルから感染者を引き剥がすのに協力し、感染者を大きく押し退ける。
「糞があぁぁぁっ!」
そのおかげもあってか余裕が出来たユズルは手に持つ鉄パイプで感染者の頭、脇腹を叩きその衝撃で感染者の身体が折曲がる。
その拍子に丁度いい位置に来た頭に向かい思いっきしスイングした。多少腐敗していたせいか感染者の頭部は粉々に粉砕し残りの身体は力無くその場で崩れ落ちビクビクと痙攣を始める。
「ッシャ――――ッ!! 仕留めたぜ!」
ユズルは一息つくと自分達が倒した痙攣を続ける感染者へと視線を落とす。少年と女性。
「――ったく、スンゲ―後味悪ぃいなあ。」
「そうね、でも彼等は既に人じゃ無くなってる……こうして動きを停止させるのも救いって形になるのかもしれない。少なくとも彼等を駆、除しなければ被害が増えてしまうから……」
水琶は使い慣れていない言葉のせいか若干詰まらせた様な喋り方でユズルの愚痴に応じると自らの後ろを歩く二人へと合図を送る。
「悪いな、参戦出来なくて」
ロギアが痙攣する感染者三体に目を落とし淡々と言うと「別に構わねぇよ、俺等だけでもやれっから」ユズルが鼻を鳴らし強がって見せている。その横で水琶は呆れかえっていた。
「そこのお二人さんも話す事は済んだろうし、もうちょいスピードを上げて行くとするか、なぁに此処からはただ階段を上がってくだけだ。感染者が集まって来る前には余裕で辿り着く」
橘は下の階から感染者が来ないか確認し上へと上がって行く。元々白だったであろう壁も今では汚れ、所々に血痕が残っている。
最上階まで来ると流石にアリアもクタクタで橘と水琶、ユズルの三人も息が上がり肩が大きく上下していた。
橘を先頭に扉を開けるとそこには既に離陸準備を終えたヘリコプターと武装した男が待機しており橘達を視界に捉えると険しい顔つきが一気に笑顔へと変貌する。
「随分と遅かったじゃないか」
「色々とあってな」
橘がそう応じ二人で何やら話をした後その男はロギアとアリアに視線を送る。その直後に扉の向こう側が騒がしくなり始め全員の視線が扉の方へと移った。
「よし、じゃあ此処からとっとと行こうか」
一行は橘の後に続きヘリコプターへと乗り込んでいく。
ヘリコプターが離陸し、アリアは徐々に遠くなる景色を眺め視線を景色から機内に向けた時ロギアと目が合った。
「……ロギ?」
「アリア……もう引き返せないぞ、後悔するなよ」確認を取る様にそう告げた。
「……うん、これは――私が選んだ事だから」
ロギアはアリアの答えに短く応じると肩の力を抜き大きく息を吐き出しながら背もたれにもたれ掛かる。
“一時とは言え終わらないと思っていた悪夢からようやく解放された。アリアにとってそれは気が遠くなる程長く耐えがたい物だっただろう。だが俺の親父に苦しめられたのはアリア一人だけでは無い。資料を見る限りでも何十人と被害者は存在し、今の世界もそうだ。もはや被害者は全世界に居ると言っても過言ではない。アリアの話ではセルゲイ・オルバース、親父は研究所が感染者に襲われた時には既に姿が見当たらなかったらしい。この後その件も含め深く訊かれるかもしれないな。だが今はそんな些細な事は考えなくていい。今最も重要なのは過去を乗り越え歩み出そうとしているアリアの邪魔はさせない事だ“
そんな風に思考を巡らせながら外の景色を眺めるアリアに視線を向けたり、自らも外の景色をみたりとしているとあっという間に数十分程経過していた。
窓から顔を戻しロギアは前に座る橘や水琶、ユズルに視線を走らせる。橘と目が合い「安心して欲しい。約束は守る」そう言われロギアはどう返そうか考えた時、肩に何かがぶつかりそちらに目を向けると今迄の移動で限界がきたのかアリアは身体を倒し、もたれ掛かる様な形で寝息立てていた。
アリアの寝息で暖かく湿った服の感触がくすぐったく、外の景色も雨で何処か妙に懐かしさを覚える雰囲気だった。
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