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命のやりとり
しおりを挟む「おい! アリア! 何処にいる?」
婦人服売場を歩き回り何度呼んでもアリアからの返事は返って来ない。
二階のフロアを捜索仕切る頃には冷や汗が額に滲み出ていた。
「何処に行った――」
頭に血まみれで横たわるアリアの姿が浮かび、奥歯を噛みしめる。手当たり次第に探したが結局アリアの姿を発見する事が出来ず、その代わりに上に続く階段付近に血の跡を見付け胸騒ぎが大きくなる。
“血の跡……”ロギアは血液の前まで来ると点々と続いている血液の中で三階の方向へと擦り切れている物を見付ける。ロギアが三階の方へと駆け上がろうとした時、外の方から悲鳴では無い大声で叫ぶ男の声が聞こえた。
「――ッ!!」
一瞬身構えたもののそれが外からだった事もあり、ロギアは一呼吸おいてから近くにあった窓から外の様子を伺う。小さい窓だった為見える範囲が狭かったが、しっかりと声の発生源を視界に捉える事が出来た。
“男二人、女一人、か……”
ショッピングセンターから少し離れた所に知らない三人組の男女が立っていた。若い男と女――と言ってもロギアより年上だが、その二人が何やら言い争いをしている様で、もう一人の三十前後と見える男が呆れたかの様にそれをなだめている。
“こんな所で何をやっているんだ? ハンター……にしては――”
着ている衣服は三人ともバラバラだったが武装がしっかりと整っていた。ハンターであれば服装ももっとボロボロで武装もあそこまできっちりとは揃えていない。
「だとすると……アリアの追手か? どっちにしろ急いでここから離れた方が良さ――」
そこまで言った直後、三十前後の男と目が合った感覚がし、ロギアは骨の髄から凍り付く様な悪寒を感じとり急いで窓から離れた。
自分でも驚く程咄嗟の事だった為、息が荒くなり冷や汗が流れる。
“な、何だ、今の――見られたッ!? いや……この窓は小さい上に外からは中の様子が見れない筈……”
だからこそロギアはあの三十前後の男の顔の動きに違和感を感じたのだ。まるで最初から覗いていた事が分かっていたかの様だった。
「とにかく……ここに居るのは不味いな……」
踵を返し急いでアリアを捜索しに行こうとした時、銃の発砲音が響いた。
「――――っ!!」ロギアは発砲音が聞こえた直後、嫌な予感がし銃声が聞こえた上の階へと駆け上がる。血の跡が無い三階は素通りして四階へと到着すると血の跡に続く様にゲームコーナーの場所へと走った。
「アリア!!」
ロギアの鋭い叫び声が響く。
――最初に視界に入ったのはアリアが何かに押し倒され、痛みを押し殺した苦悶の表情を浮かべている所だった。
「――ッ!!もう……無理……」アリアの口から諦めに近い声が漏れる。
アリアに覆い被さる様な形で百四十センチ程の背丈の女の子が馬乗りになっていた。女の子は肌が死骸のように白く、紅く染まった瞳は真っ直ぐアリアだけを凝視しており、到底人とは呼べる様な外見では無い。
それにアリアの二の腕辺りの肉がごっそりと抉り取られており、その傷口からはかなりの出血をしている。
“感染者かっ……クソッ!”
ロギアは口内で毒づくように舌を鳴らした。こんな事になるなら別れずに一緒に行動するべきだったと思ったが今更後悔した所でどうにもならない。
寄生された動物の中には筋力や身体能力が格段に上がる者もいる為、今の状況から深手を負ったアリアが自力で脱出する事はどう考えても不可能だった。
人間が寄生された動物に勝つには主に銃器を使わなければならないのだが、今の状況で銃を使うと下にいたヤバそう連中に気付かれるのは明白だ。いや、既に気付かれている可能性すらある。
銃器を使わずに寄生された動物に勝つには不意打ちで相手が怯んでいる時に連続して攻撃を加えるしか方法がない。それに例え銃器を使ったとしても必ずしも寄生された動物を殺せるという保証はない。
“幸運と言って良いものか分からないが、俺が声を上げても感染者は目の前の獲物、アリアに夢中で一向にこっちを振り向く気配がないが……コイツに時間をかければ、下の連中が騒ぎを聞き付け、どの道助からない……ならっ――”
ロギアはアタッシュケースとバッグを放し即座に装填済みのボウガンを構え、迷わず感染者目掛けて矢を放った。ロギアが矢を放つ音を聞き付けて瞬時に感染者は矢を回避しようと大きく身体をずらす。人では反応出来ない程の異様なまでの速さで動くが――
“確かに凄げぇ反射神経だが……気付くのが遅せぇよ”
矢を放ってから感染者が回避行動をとるまでの時間が短く若干驚いたものの、感染者は完全に回避する事が出来ず矢は深々と右肩に命中する。
「――――ギャッ!?」
“ちッ……本体には当たらなかったか……けど、それでいい”
矢を受けた感染者はふらつきながらもアリアから離れ態勢を立て直そうとする。ロギアはその短い時間に感染者との距離を縮めるため一歩を大きく踏み出した。感染者の態勢が直るまでの時間稼ぎにと、くすねて持って来ていた工具を顔面に投げつける。
「……ッッッ!!」
感染者は右手で投擲された工具から顔を庇うとグキッと鈍い音が辺りに響き、その右手が変な形に折れ曲がる。それでも感染者は痛みなど感じないかの様に接近する獲物に向け左手を突き下し反撃をしてきた。
“くっ……”
態勢が立ち直る前の攻撃だったため突き下された爪の軌道が僅かに逸れる。ロギアはその隙を逃さず、確実に攻撃を当てる為なるべく態勢を崩さないよう最小限で身体をずらす。
感染者の突き出した爪はロギアの肩を少なからず抉ったが、何とか感染者の態勢が立て直る前に懐に入る事に成功した。もし感染者の態勢が立ち直っている状態だったのならば、今頃は頭蓋骨を露出する程の大怪我を与えられ、そのままあっけなく殺られる事だって有り得る危険な行動だった。
ロギアは受けた傷には気にせず、懐に走り込んだその勢いで感染者の喉元に向けて力の限り拳を突き出す。
「……フンヌ!!」ロギアの突き出した拳は、真っ直ぐ感染者の喉を捉え、メリメリと拳が肉に食い込む音が鳴る。
「……ギッ!」
感染者はよろけながらも空いている左手をがむしゃらに振り回すがその爪は標的に当たるわけでもなく空中で空振り続け、その間にロギアは爪が振り回されていない感染者の右側に回り込むとそのまま脇腹に膝蹴りを叩き込んだ。
「イギイギィッ!?」感染者は蹴られた衝撃で床に倒れ、ごぼごぼと窒息するかのような音をあげている。
ロギアは感染者の方に顔を向けると間をおかず走り出し、倒れている感染者の髪を掴み上げると激しく引き摺り、おもいっきり壁に叩き付けた。ギャアッ、という短い悲鳴と共に肩から飛び出した感染者の頭が潰れ、黒色の血液が飛び散る。身体の損傷でピクピクと痙攣を起こす感染者には目もくれず、直ぐにボウガンに矢を装填した。
「ヴ……ヴヴ」
本体の頭が潰れてもまだ呻き声をあげ、目の前の獲物に襲い掛かろうとする。感染者が起き上がるのより早く、ボウガンを構えて――頭が潰れ、脳内が剥き出しになっている感染者に狙いをさだめた。
「悪いが……終わりだ」
躊躇なく感染者の頭を射抜く。頭を射抜かれた怪物は血の泡を噴きながら断末魔を上げ、真後ろに仰け反って倒れようやく動かなくなった。
ロギアは倒れた怪物を一瞥すると怪物に刺さっている矢を引き抜き、後ろにいるアリアへと駆け寄った。
「アリア! 傷を見せろ!」
「ロ、ロギ……」
アリアは片手で傷口を抑え何とか痛みに耐えていた。アリアの手をどかし傷口を調べると先程までの出血量に合わない傷の大きさだった為かなり驚いたが、直ぐにどうしてなのか理由は把握出来、とりあえずバッグの中の医療道具を使い、応急処置だけでもしておく。
「立てるか? 下の階で危なそうな連中がいる、悪いがゆっくりしている時間は無い」
「分かった……勝手に動いて、御免なさい……」
「――ああ、そんな事は気にする事じゃない」
バッグを背負いアタッシュケースを掴み落ちている銃を拾い上げると、アリアの背中に手を添え立ち上がる手助けをする。気まずいのかアリアはロギアから目を逸らす様に顔を動かし、感染者の方へと視線を向けた。
「う、嘘……ロ、ロギ……あれ……」その光景が信じられず絶句した。
「ん? どうした?」
不意にアリアの驚きの声を聞きロギアが振り向くと、アリアの視線の先、先程仕留めたとばかり思っていた感染者が身体全体を大きく痙攣させながら、潰れた頭、開いた傷口を徐々に修復させていた。
“……流石にしぶといな…だが、あれだけの傷なら直ぐに追ってくる事はないだろうが、それよりも下にいた連中と鉢合わせる可能性の方が心配だな……”
「そ、そんな……何であんな状態でまだ動けるの……」
「アリア、ここから離れるぞ。奴等を殺すならあの程度じゃ足りない」
この建物は四階建てのショッピングセンターで北側と南側、そして裏口の計三つの出入口がある。他に非常階段は設置されてはいるものの途中で階段が崩れていて使い物にならない。それに一階の階段の傍に出入口が付いているという構造だった為、ロギアは迷わず血の跡がない、来た時と逆の階段、北の階段を駆け下りた。
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