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第1章 手紙

10 迫害

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 牢獄は、予想をはるかに超えて酷いものだった。
 獄衣を着せられると、切支丹であることから左眉と左側面の髪をすべて剃り落とされた。
 用を足す時も労役についている時も鉄鎖に繋がれたままだ。

 だがこれらの屈辱より、同房にいた市原という男から聞いた話に愕然とした。
 幕府転覆直前、長崎で多くの隠れ切支丹が捕縛されたが、どのように処罰されたかわからずじまいでいた。
 市原はその切支丹たち受難の顛末を知っていたのだ。

 三千人あまりの切支丹たちは棄教に応じず獄に繋がれ、流罪に処せられた。
 配流先は鹿児島から名古屋まで十か所以上に及んだ。

 富山の出である市原は行商で金沢に出かけた折、公衆の面前で拷問を受ける信者らを見たという。
 ある者は裸で逆さ吊りにされ、汚水の中に何度も頭をつけられた。
 ある者は無理やり水を飲まされ、樽のようになった腹を胃腸があたりに出るまで踏みつぶされた。
 ある者は指をすべて切り落とされ、侮辱の言葉が記された板を背負わされてあちこち引き回された。
 幼い信者も容赦なく拷問されたが、恐がるどころか天国に行けると喜んで、自ら切られる指を
 差し出してきたという。

ー義の為に窘逐せらるる者は幸いなり 
 天国は彼等のものなればなり
 人我が為に汝らをののしり汝等を窘逐し汝等のことをいつはりて諸の悪しき言葉を言わん時 
 汝等幸いなり
 喜び楽しめよ 天には汝等の報賞多ければなりー

 神はすべてを見通され調和を取られているはずだ。
 彼等は今天国で神の祝福を受けていることだろう。
 黒ずんだ壁に向かって祈った。
 頭上に手を置いて垂訓を唱えた時、見上げてきた子どもの瞳が脳裏に浮かぶ。
 私は何度も激しく頭を横に振って、ひたすら祈り続けた。

 百日経って出所した時も、私はまだ深く基督を信じていた。
 だが身を立てる手段は、何か他に持っておきたいと感じ始めてもいた。
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