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17.苦いお茶と甘い菓子

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 麗花の使者である女官が迎えに来て、凜風は胸を弾ませついていく。正直、春の陽気が心地よく、お茶会日和だ。空を見て微笑む凜風を女官は訝しげな目で見つめた。

「麗花さま。珠倫さまをお連れしました」

「ご苦労さま。珠倫さま、お加減いかがかしら? みんな心配していたのよ」

 席《シー》麗花。煌びやかな冠帽に豊潤な黒髪は緩く波打ち、化粧もしっかりと施されている。着ている漢服は立派な刺繍が目を引く上等なものだ。

 どっしりとかまえている彼女のほかに、あとにふたり同席している。

 候《シ》夏雲《アユン》と井《ジン》林杏《リンシン》。彼女たちも賓の位の即妃だ。嬪の位を授かれるのは六人までとされているが、珠倫を含めた四人が、泰然の賓として明星宮で過ごしていた。

「麗花さま、お誘いありがとうございます。ご心配をおかけしましたが大丈夫ですよ」

 凜風はにこりと微笑み席に着いた。目の前は粉糖がまぶされている餅と茶器があり、そこへお茶が注がれる。

「それにしても驚いたわ。いくら足元が暗くても啓明橋から落ちるなんて」

 麗花が切り出し、なんとか取り繕うと視線を彼女に移すと、麗花の口角がニヤリと上がった。

「泰然さまから夜伽に召される前に、てっきりその体にある醜い痣を見られまいと身投げを考えたのかと」

 目はまったく笑っておらず、声も冷たい。予想外の麗花の反応に凜風は硬直してしまう。麗花の言葉に彼女の横に座っていた夏雲が袖で口元を抑えながら笑った。

「本当。私なら泰然さまに醜い姿を晒すなんて耐えられませんわ。どんなに暑くても漢服で首元まで覆わないとならないなんて可哀想ですよね」

 麗花と夏雲が顔を見合わせ小馬鹿にした笑みを浮かべ合っている。林杏はなにも言わず、その表情から考えも感情も読めない。しかし、今はどうでもいい。

 初めて参加する凜風でもわかる。彼女たちから珠倫に向けられる感情に好意などない。

 押し黙る凜風に夏雲が声をかけてくる。

「どうしました? 本当のことでしょう?」

「そうそう。事実ですもの。ほら、お茶とお菓子を召し上がって。珠倫さまのためにとびっきり甘い菓子を用意したんですよ」

 麗花は挑発的な目で凜風を見てきた。珠倫はあまり甘いものが好きではない。それもわかってのことなのだ。

「それとも孤児だったという哀れな女官に持ち帰りますか? 珠倫さまはお優しいから。欲しいのならもっと用意させますよ」

 彼女の発言に夏雲が声をあげてあざけ笑う。そばに控えていた女官たちも同調し、凜風は心の中がすっと冷めていくのを感じた。
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