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14.即妃たちのおしゃべり
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「春咏さん?」
不意に声をかけられ、春咏は振り向いた。そこには数人の即妃たちが、緊張した面持ちで春咏をうかがっている。
「初めまして、私たちも先日こちらに輿入れしたばかりなの」
おそらく春咏が専従加術士として乾廉と対面したのと、時を同じくして華楼宮にやって来た娘たちだ。こうして新しく入った者には声をかけ、後宮でのしきたりや人間関係などを申し伝えていくのだろう。
「初めまして、春咏です」
「初めまして、春咏さん。李蝶艶と申します」
自己紹介を互いにしていく中で、春咏は覚えのある名を聞いた。輿入れした日に乾廉に美酒を献上した女性だ。彼女の父親が乾廉の専従加術士をしていたらしいが、名字からして、おそらく宝亀家の縁者だろうと予測する。
年は春咏よりもやや年下の印象だ。しかし家柄か彼女の立ち振る舞いはここにいる即妃たちの誰よりとしての優雅で余裕がある。胸元で前合わせた着物は榛色で襦裙は正絹だ。
「皆様は、どの皇子にお渡りに来ていただきたい?」
こうした場では必ず好色めいた話題を振る者がひとりやふたりは出てくる。表面上は照れて驚きつつ慎重に他の面々の様子を探る。
「第一皇子の煌揚さまは、めったにこちらにいらっしゃらないわ。そもそも、正妃になるためには、まず陶貴妃に気に入っていただかないと」
「まぁ、あなた正妃を目指していらっしゃるの?」
口元に手をやり、笑みを浮かべながら即妃たちは好き好きに話す。まだ後宮に来て間もなく、即妃としての地位もないので好き勝手言えるが、位を与えられるとまたこの雰囲気は変わるのだろう。
「おそらく陶貴妃さまのお眼鏡にかなった者だけが、煌揚さまとお会いできるのよ」
その可能性は高いと、声には出さないが内心で春咏は同意する。第一皇子の煌揚との間に男児を設けた即妃が今のところ未来の皇后になる。そして、現皇后の陶貴妃の立場をより揺るがないものにするだろう。
しかし、ならばもっと煌揚に華楼宮に赴くよう指示するはずだ。他の皇子が先に即妃に男児を生ませたら、煌揚はもちろん彼女に対する風向きも変わってくる。うかうかとはしていないはずだ。
もしかすると煌揚に関しては、明らかになってはいないが、すでに貴妃候補が決まっているのか。
「一番、可能性があるのは第三皇子の姜刈さまかしら? 彼はよく華楼宮にいらしているもの」
「でも、ひとりの即妃の元に通うことなく、いつも違う女性を訪れているって」
話題は次々と変わっていく。第三皇子は乾廉とはほぼ同時期に生まれたと聞いているが、良くも悪くも第三皇子として、他の兄皇子たちとは違い、自由に過ごしているらしい。
皇子たちの中では、この華楼宮で一番姿を見ると続けられる。
「第二皇子の乾廉さまは?」
巡り巡って乾廉の話になる。顔には出さないが、春咏の顔に一瞬緊張が走った。
「乾廉さまも、煌揚さま同様、こちらにはほとんど顔を見せないわ」
「乾廉さまといえば、知っている? あの噂」
わずかに声をひそめ、ある即妃が切り出す。
「直接は知らないけれど、賓の方々から聞いたわ。彼と夜を共にしたら不幸が訪れるって」
「それって本当なの?」
「最終的には皆、華楼宮から出られたそうなの」
どうやら想像していた以上に乾廉の呪いにまつわる話は広まっているらしい。
「怖いわ。乾廉さまには気に入られないようにしないと」
「でもここにいる限り乾廉さまにお目にかかることはないだろうから」
すっかり怖じ気づき、重い雰囲気に包まれる。
「私の父は数年前、乾廉さまの専従加術士をしていたんです」
ところが明るい口調で蝶艶が切り出し、一同の注目を集めた。
「その際に何度かお目にかかったことがあるのですが、素晴らしい方ですよ。きっとその呪いも噂ですわ。私の父もずっとついておりましたし」
言い切る蝶艶に即妃たちは目を丸くする。彼女は笑みをたたえたままだ。続けて蝶艶は春咏に問いかける。
「春咏さまは? 誰か気になる皇子はいらっしゃいますか?」
今まで聞き役に徹していたので、急にお鉢が回ってきて春咏は内心で焦る。まさかそういう質問を受けるとは思ってもみなかった。
不意に声をかけられ、春咏は振り向いた。そこには数人の即妃たちが、緊張した面持ちで春咏をうかがっている。
「初めまして、私たちも先日こちらに輿入れしたばかりなの」
おそらく春咏が専従加術士として乾廉と対面したのと、時を同じくして華楼宮にやって来た娘たちだ。こうして新しく入った者には声をかけ、後宮でのしきたりや人間関係などを申し伝えていくのだろう。
「初めまして、春咏です」
「初めまして、春咏さん。李蝶艶と申します」
自己紹介を互いにしていく中で、春咏は覚えのある名を聞いた。輿入れした日に乾廉に美酒を献上した女性だ。彼女の父親が乾廉の専従加術士をしていたらしいが、名字からして、おそらく宝亀家の縁者だろうと予測する。
年は春咏よりもやや年下の印象だ。しかし家柄か彼女の立ち振る舞いはここにいる即妃たちの誰よりとしての優雅で余裕がある。胸元で前合わせた着物は榛色で襦裙は正絹だ。
「皆様は、どの皇子にお渡りに来ていただきたい?」
こうした場では必ず好色めいた話題を振る者がひとりやふたりは出てくる。表面上は照れて驚きつつ慎重に他の面々の様子を探る。
「第一皇子の煌揚さまは、めったにこちらにいらっしゃらないわ。そもそも、正妃になるためには、まず陶貴妃に気に入っていただかないと」
「まぁ、あなた正妃を目指していらっしゃるの?」
口元に手をやり、笑みを浮かべながら即妃たちは好き好きに話す。まだ後宮に来て間もなく、即妃としての地位もないので好き勝手言えるが、位を与えられるとまたこの雰囲気は変わるのだろう。
「おそらく陶貴妃さまのお眼鏡にかなった者だけが、煌揚さまとお会いできるのよ」
その可能性は高いと、声には出さないが内心で春咏は同意する。第一皇子の煌揚との間に男児を設けた即妃が今のところ未来の皇后になる。そして、現皇后の陶貴妃の立場をより揺るがないものにするだろう。
しかし、ならばもっと煌揚に華楼宮に赴くよう指示するはずだ。他の皇子が先に即妃に男児を生ませたら、煌揚はもちろん彼女に対する風向きも変わってくる。うかうかとはしていないはずだ。
もしかすると煌揚に関しては、明らかになってはいないが、すでに貴妃候補が決まっているのか。
「一番、可能性があるのは第三皇子の姜刈さまかしら? 彼はよく華楼宮にいらしているもの」
「でも、ひとりの即妃の元に通うことなく、いつも違う女性を訪れているって」
話題は次々と変わっていく。第三皇子は乾廉とはほぼ同時期に生まれたと聞いているが、良くも悪くも第三皇子として、他の兄皇子たちとは違い、自由に過ごしているらしい。
皇子たちの中では、この華楼宮で一番姿を見ると続けられる。
「第二皇子の乾廉さまは?」
巡り巡って乾廉の話になる。顔には出さないが、春咏の顔に一瞬緊張が走った。
「乾廉さまも、煌揚さま同様、こちらにはほとんど顔を見せないわ」
「乾廉さまといえば、知っている? あの噂」
わずかに声をひそめ、ある即妃が切り出す。
「直接は知らないけれど、賓の方々から聞いたわ。彼と夜を共にしたら不幸が訪れるって」
「それって本当なの?」
「最終的には皆、華楼宮から出られたそうなの」
どうやら想像していた以上に乾廉の呪いにまつわる話は広まっているらしい。
「怖いわ。乾廉さまには気に入られないようにしないと」
「でもここにいる限り乾廉さまにお目にかかることはないだろうから」
すっかり怖じ気づき、重い雰囲気に包まれる。
「私の父は数年前、乾廉さまの専従加術士をしていたんです」
ところが明るい口調で蝶艶が切り出し、一同の注目を集めた。
「その際に何度かお目にかかったことがあるのですが、素晴らしい方ですよ。きっとその呪いも噂ですわ。私の父もずっとついておりましたし」
言い切る蝶艶に即妃たちは目を丸くする。彼女は笑みをたたえたままだ。続けて蝶艶は春咏に問いかける。
「春咏さまは? 誰か気になる皇子はいらっしゃいますか?」
今まで聞き役に徹していたので、急にお鉢が回ってきて春咏は内心で焦る。まさかそういう質問を受けるとは思ってもみなかった。
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