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第1部 護衛編
足止め②
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スカーレット達は宿屋に荷物を置くと、夕食を食べに”海賊亭”へ向かった。
この町は内陸に位置しているのだが、敢えて”海賊”なのがなんとなく面白い。
(埼玉とか群馬とか海なし県の人が海に憧れがあるのと同じ感じかしら)
そう感じさせるように店内のインテリアは海に関連するものだった。
浮き輪や貝殻、どくろの描かれた絵柄の旗に、錨なんかも置かれてた。
だが、メニューはというと、まったく海のものは無かった。
その代わりこの土地の特産品である、大豆を使ったメニューが多かった。
大豆を煮たものにトマトソースをかけたもののほかにも、甘く煮たものもあったが、スカーレットの目が驚いたのは豆腐があったことだ。
しかも大豆が特産ということで醤油も作られているというから驚きだ。
話を聞いたところルーダスでも一部の店でしか取り扱っていないらしい。
(こんなところでお醤油で冷ややっこを食べれるとは思わなかったわ!)
スカーレットは真っ白な豆腐をツンツンとつついて豆腐とぷるぷると振るわせた後、そっと箸を入れた。
そして口にする。
「んー美味しい」
「これ、美味しいですか?なんか味があまりないですし、触感が気持ち悪いんですけど。失敗したゼリーみたいですよね」
「えっ!こんなにおいしいのに!!」
リオンが衝撃な感想を口にしたのでスカーレットは信じられないような気持ちになった。
その会話を聞きながらレインフォードもまた豆腐を口に運んだ。
「トーフなんていうもの聞いたことが無かったけど…うん、まぁ俺は別に味は気にならないな。ただ食べた気にはならないからこれで腹いっぱいにはならないだろうな」
レインフォードはそう言って苦笑交じりの笑顔を浮かべた。
豆腐を注文する際に、スカーレットは「美味しいんですよ!」と言って注文したため、気を使ってくれたのだろう。
ともかく、この世界の人間には豆腐はあまり好評ではないようだ。
至極残念である。
金髪のお兄さんことザイザルには、注文時に「おう、いいチョイスだぜ!この辺じゃウチでしか取り扱ってない珍味なんだ」と言われたが、
ウチでしか取り扱ってない=需要がない、珍味=食べなれない味
という事だったのだろう。
(こんなに美味しいのになぁ…まぁ、この世界で醤油とお豆腐が手に入ることが分かったから、そのうち取り寄せよう)
「そんなに好きなら俺の分も食べるか?」
「あ、僕の分もどうぞ食べてください!」
「あぁ、じゃあいただきますね」
レインフォードとリオンの豆腐に手を伸ばすと、隣に座っていたルイが店員を呼び止めた。
「あ、すまない。このワインを貰えるか?」
「かしこまりました」
ふとルイの前を見れば、既にワインボトルが1本開けられていた。
「ルイ、大丈夫?流石に昨日の今日だよ。また二日酔いになっちゃうよ」
「昨日の分の酒はもう抜けた。今日はランも飲まないしそこまで深酒はしないさ」
「本当、お願いだよ。酔っ払って刺客と戦えませんでしたなんてことにならないようにして」
「分かってるって」
そう言いながらルイはグラスに入ったワインを口にした。
それを見たランがテーブルに崩れるようにして、ルイを睨みつけている。
「くそ…酒が飲みたい…」
「駄目だよ、ラン」
「分かってるって…はぁ。目の前にあるのに飲めない辛さ…」
スカーレットが窘めると、ランは渋い顔をしてぶっきら棒な答えを返してきた。
そんなランをルイは悠然とした様子でワインをぐいっと飲み干した。
その表情には「ザマァ」と言う声が聞こえて来そうである。
絶対にランの悶える様を見て楽しんでいるのだろう。
本当に、いい性格をしている。
呆れた様子でそれを見ていたのだが、不意に聞き覚えのある声がした。
「そうは言いましても…」
(あれ?この声…)
声のほうを振り返ると、店の隅のテーブルに先ほど会った「ルーベンス先生」と呼ばれていた青年がいた。
テーブルには他に4人の中年の男女が座っており、ルーベンスは彼らに囲まれるようにして困惑の表情を浮かべて座っていた。
「なんとかなんないもんかねぇ」
「壊れない橋を作ってくれよ、先生よー」
「ほっほっほっ、お願いしたいのぉ」
ルーベンスは3人の男女に詰め寄られており、恐縮したように肩を縮めている。
その様子は、猫に睨まれたネズミのように見え、なんとなく可哀想になってきた。
(何か困っているみたいだけど…)
どうやら何か無理難題を言われているのか、「でも」「しかし」と恐縮しながら繰り返している。
少し会話をした程度ではあるが、どうも気になってしまう。
というか、はた目から見ても周りの迫力に押されている様子が可哀想になって来る。
(まぁ挨拶くらいはした方がいいわよね。うん。そうしよう)
無視するというのもなんとなく気まずい。
ルーベンスの助けにはならないかもしれないが、自分が挨拶することで場の空気を変えることができるかもしれない。
スカーレットはそう思って席を立つと、アルベルトが不思議そうに声を掛けて来た。
「スカーどうしたの?」
「あ、さっき話した人がいるんだ。ちょっと挨拶してこようと思ってさ。ちょっと行ってくるね」
そう言い残してスカーレットは青年たちがいるテーブルへと向かった。
「こんばんは!さっきはどうも」
にこやかに声を掛けると、テーブルに座っている全員がスカーレットを見た。
ルーベンスは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、そのあとスカーレットのことに思い当たったのか頷きながら笑顔で迎えてくれた。
「あぁ、さっきの商人の方ですね。やっぱりこの町に泊ることにしたんですね」
「はい。ご挨拶だけしようかと思って。なにか白熱していらっしゃったんで、お邪魔になるかもと思ったのですが」
尋ねると、ちりちりの髪を後ろで纏めて生成りのエプロンをつけた小太りの女性がスカーレットを憐れむように見ていった。
「ボウズも橋が壊れて足止めされっちまったのかい?」
「はい、そうなんです」
「なら橋は早く直して欲しいと思わないかい?」
「ボク達は迂回する予定なのですが、他の方を考えると早く直った方がいいですよね」
「でしょ~?ほら、だからさっさと直した方がいいわよぉ!」
女性が鼻息を荒くしてそう主張する。
かと思うと、横に居た筋肉隆々でタンクトップ姿の50歳後半くらいの男性が、女性を押しのけてスカーレットに訴えた。
「いーや!頑丈なのが一番さ!絶対に壊れない、立派な橋を造るべきだね!」
「ほっほっほっ…ワシはガタガタと揺れない橋ならなんでもええさぁ。せっかくの牛乳が零れてしまうでのぉ。ほっほっ」
のんびりとした口調で白髪の長いひげの老人が言った。
そこで今度はひょっこり現れたのは、ザイザルがテーブルの真ん中にソーセージとポテトの盛り合わせを置きながら声を掛けてきた。
「よ、で、調子はどうだ?」
「どうもこうも…進まないです…」
「そんなに落ち込むなって、ルーベンス先生よぉ」
「そう言われても、皆さんの意見を全部取り入れられないですし…予算も決まってますし…早く纏めないと設計図も引けないですし…あああどうすれば…」
ルーベンスはがっくりと項垂れてたかと思うと、涙目になっている。
「えっと…色々と要望があって橋の修復に着工できない、ってことですか?」
「はい、そうなんです…」
話の流れから推測してスカーレットがそう尋ねると、ルーベンスはがっくりと肩を落とし、力なく答えた。
(なんか、この状況…覚えがあるわ)
そう、それは忘れもしない前世での出来事。
とあるシステム開発の時にあったシステムの利用者の無理難題と要望の嵐…
スカーレットは前世の仕事を思い出して提案した。
「要件定義書をつくりましょう!」
この町は内陸に位置しているのだが、敢えて”海賊”なのがなんとなく面白い。
(埼玉とか群馬とか海なし県の人が海に憧れがあるのと同じ感じかしら)
そう感じさせるように店内のインテリアは海に関連するものだった。
浮き輪や貝殻、どくろの描かれた絵柄の旗に、錨なんかも置かれてた。
だが、メニューはというと、まったく海のものは無かった。
その代わりこの土地の特産品である、大豆を使ったメニューが多かった。
大豆を煮たものにトマトソースをかけたもののほかにも、甘く煮たものもあったが、スカーレットの目が驚いたのは豆腐があったことだ。
しかも大豆が特産ということで醤油も作られているというから驚きだ。
話を聞いたところルーダスでも一部の店でしか取り扱っていないらしい。
(こんなところでお醤油で冷ややっこを食べれるとは思わなかったわ!)
スカーレットは真っ白な豆腐をツンツンとつついて豆腐とぷるぷると振るわせた後、そっと箸を入れた。
そして口にする。
「んー美味しい」
「これ、美味しいですか?なんか味があまりないですし、触感が気持ち悪いんですけど。失敗したゼリーみたいですよね」
「えっ!こんなにおいしいのに!!」
リオンが衝撃な感想を口にしたのでスカーレットは信じられないような気持ちになった。
その会話を聞きながらレインフォードもまた豆腐を口に運んだ。
「トーフなんていうもの聞いたことが無かったけど…うん、まぁ俺は別に味は気にならないな。ただ食べた気にはならないからこれで腹いっぱいにはならないだろうな」
レインフォードはそう言って苦笑交じりの笑顔を浮かべた。
豆腐を注文する際に、スカーレットは「美味しいんですよ!」と言って注文したため、気を使ってくれたのだろう。
ともかく、この世界の人間には豆腐はあまり好評ではないようだ。
至極残念である。
金髪のお兄さんことザイザルには、注文時に「おう、いいチョイスだぜ!この辺じゃウチでしか取り扱ってない珍味なんだ」と言われたが、
ウチでしか取り扱ってない=需要がない、珍味=食べなれない味
という事だったのだろう。
(こんなに美味しいのになぁ…まぁ、この世界で醤油とお豆腐が手に入ることが分かったから、そのうち取り寄せよう)
「そんなに好きなら俺の分も食べるか?」
「あ、僕の分もどうぞ食べてください!」
「あぁ、じゃあいただきますね」
レインフォードとリオンの豆腐に手を伸ばすと、隣に座っていたルイが店員を呼び止めた。
「あ、すまない。このワインを貰えるか?」
「かしこまりました」
ふとルイの前を見れば、既にワインボトルが1本開けられていた。
「ルイ、大丈夫?流石に昨日の今日だよ。また二日酔いになっちゃうよ」
「昨日の分の酒はもう抜けた。今日はランも飲まないしそこまで深酒はしないさ」
「本当、お願いだよ。酔っ払って刺客と戦えませんでしたなんてことにならないようにして」
「分かってるって」
そう言いながらルイはグラスに入ったワインを口にした。
それを見たランがテーブルに崩れるようにして、ルイを睨みつけている。
「くそ…酒が飲みたい…」
「駄目だよ、ラン」
「分かってるって…はぁ。目の前にあるのに飲めない辛さ…」
スカーレットが窘めると、ランは渋い顔をしてぶっきら棒な答えを返してきた。
そんなランをルイは悠然とした様子でワインをぐいっと飲み干した。
その表情には「ザマァ」と言う声が聞こえて来そうである。
絶対にランの悶える様を見て楽しんでいるのだろう。
本当に、いい性格をしている。
呆れた様子でそれを見ていたのだが、不意に聞き覚えのある声がした。
「そうは言いましても…」
(あれ?この声…)
声のほうを振り返ると、店の隅のテーブルに先ほど会った「ルーベンス先生」と呼ばれていた青年がいた。
テーブルには他に4人の中年の男女が座っており、ルーベンスは彼らに囲まれるようにして困惑の表情を浮かべて座っていた。
「なんとかなんないもんかねぇ」
「壊れない橋を作ってくれよ、先生よー」
「ほっほっほっ、お願いしたいのぉ」
ルーベンスは3人の男女に詰め寄られており、恐縮したように肩を縮めている。
その様子は、猫に睨まれたネズミのように見え、なんとなく可哀想になってきた。
(何か困っているみたいだけど…)
どうやら何か無理難題を言われているのか、「でも」「しかし」と恐縮しながら繰り返している。
少し会話をした程度ではあるが、どうも気になってしまう。
というか、はた目から見ても周りの迫力に押されている様子が可哀想になって来る。
(まぁ挨拶くらいはした方がいいわよね。うん。そうしよう)
無視するというのもなんとなく気まずい。
ルーベンスの助けにはならないかもしれないが、自分が挨拶することで場の空気を変えることができるかもしれない。
スカーレットはそう思って席を立つと、アルベルトが不思議そうに声を掛けて来た。
「スカーどうしたの?」
「あ、さっき話した人がいるんだ。ちょっと挨拶してこようと思ってさ。ちょっと行ってくるね」
そう言い残してスカーレットは青年たちがいるテーブルへと向かった。
「こんばんは!さっきはどうも」
にこやかに声を掛けると、テーブルに座っている全員がスカーレットを見た。
ルーベンスは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、そのあとスカーレットのことに思い当たったのか頷きながら笑顔で迎えてくれた。
「あぁ、さっきの商人の方ですね。やっぱりこの町に泊ることにしたんですね」
「はい。ご挨拶だけしようかと思って。なにか白熱していらっしゃったんで、お邪魔になるかもと思ったのですが」
尋ねると、ちりちりの髪を後ろで纏めて生成りのエプロンをつけた小太りの女性がスカーレットを憐れむように見ていった。
「ボウズも橋が壊れて足止めされっちまったのかい?」
「はい、そうなんです」
「なら橋は早く直して欲しいと思わないかい?」
「ボク達は迂回する予定なのですが、他の方を考えると早く直った方がいいですよね」
「でしょ~?ほら、だからさっさと直した方がいいわよぉ!」
女性が鼻息を荒くしてそう主張する。
かと思うと、横に居た筋肉隆々でタンクトップ姿の50歳後半くらいの男性が、女性を押しのけてスカーレットに訴えた。
「いーや!頑丈なのが一番さ!絶対に壊れない、立派な橋を造るべきだね!」
「ほっほっほっ…ワシはガタガタと揺れない橋ならなんでもええさぁ。せっかくの牛乳が零れてしまうでのぉ。ほっほっ」
のんびりとした口調で白髪の長いひげの老人が言った。
そこで今度はひょっこり現れたのは、ザイザルがテーブルの真ん中にソーセージとポテトの盛り合わせを置きながら声を掛けてきた。
「よ、で、調子はどうだ?」
「どうもこうも…進まないです…」
「そんなに落ち込むなって、ルーベンス先生よぉ」
「そう言われても、皆さんの意見を全部取り入れられないですし…予算も決まってますし…早く纏めないと設計図も引けないですし…あああどうすれば…」
ルーベンスはがっくりと項垂れてたかと思うと、涙目になっている。
「えっと…色々と要望があって橋の修復に着工できない、ってことですか?」
「はい、そうなんです…」
話の流れから推測してスカーレットがそう尋ねると、ルーベンスはがっくりと肩を落とし、力なく答えた。
(なんか、この状況…覚えがあるわ)
そう、それは忘れもしない前世での出来事。
とあるシステム開発の時にあったシステムの利用者の無理難題と要望の嵐…
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