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第1部 護衛編

ネーミングセンスはノーセンス

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高い位置にあった太陽はだいぶ西に傾き、そろそろ夕暮れになるだろう。

鷲の子の件で時間をくってしまったが、少しばかり馬を早く歩かせていたので、グノックの街には予定通り日暮れ前には着きそうだ。

自分のわがままで旅程を遅らせたことに責任を感じていたスカーレットは、そのことにほっと胸を撫で下ろした。

牧草地帯を望む道は、先ほどまでは土がそのままだったが、今は大小様々な大きさの石でできた石畳になってきており、街が近いことを物語っているようだ。

「前方には特に異常はありません。この調子であればあと30分くらいでグノックに着きます」

先に前方の様子を見に行っていたアルベルトが帰ってきてそう告げた。
スカーレットはその言葉を聞いて微笑みながら、布で作った袋の中にいる鷲の子を見て言った。

「宿に行ったらちゃんとした場所で寝かせてあげるから、もう少しだけ辛抱してね」
「ピ―――!」
「そうだ、君の名前を決めなきゃね。うーん。鷲だからワッシーとか?逆読みにしてシーワーとか?鷲之助…鷲太郎?」

呟くスカーレットの言葉を鷲の子は首を傾げて聞いている。
だが突然笑い含んだ声を掛けられてスカーレットは驚いてそちらを見た。

「ははは!スカーのネーミングはなかなか斬新だね」
「で、殿下!?」

気づけばいつの間にかレインフォードの馬が隣を歩いていた。

レインフォードは笑いをこらえる努力をしているようだったが、喉をくつくつと鳴らしていて、もはや笑いをこらえきれていない。
先ほどの独り言を聞かれてしまい、恥ずかしさからスカーレットの頬に朱が走った。

(我ながらネーミングセンスなさすぎ!ってかあのバカな名前案を聞かれていた…!)

「う…ノーセンスなのは自覚しております。あ、そうだ!殿下が名前を決めてください」
「俺が?」
「はい。そのご様子だとレインフォード様の方がセンスがおありになりそうですし」

自分の名前候補を笑うくらいなのだから、レインフォードはネーミングセンスに自信があるのかもしれない。

そう思ってスカーレットが頼んでみると、それが予想外だったのかレインフォードは先ほどまでの笑いを潜め、一瞬虚を突かれた表情となった。
そして考え込む。

「え…そうだな…鷲と言えば強さとか勇気の象徴だからな。強い名前がいいよな」

どのような素晴らしい名前が出るのか、スカーレットは期待に満ちた目でレインフォードを見つめた。
だが、レインフォードの口から出たのは予想外の名前だった。

「ガイザリオス・フォン・ブレイストスというのはどうだろうか」
「…」

いや、確かにスカーレットが考えた名前よりはいいのかもしれない。

だが鳥の名前としてはどうだろう。
カッコいい。確かにカッコいいがめっちゃ長いし呼びにくい気がする。

返事に困っているとレインフォードはまたうーんと首を捻りながら、新しい案を提示してきた。

「あとは…ライザック・ド・リストレアンというのもいいな」
「えっと…そ、そうですね。ガイザリオスもライザックもカッコいいですね」
「違う。ガイザリオス・フォン・ブレイストスとライザック・ド・リストレアンだ」

(えええ…まさかのフルネーム呼びだった)

前世的に言えば、若干中二病が入っているような気もするが、この世界観だったら許せる名前だろうか?

(いや…やっぱりこの世界観だとしても中二病的な…)

ただ分かったのはレインフォードもそこまでネーミングセンスがあるわけではないということだ。
だが、ここでせっかく案を出してくれているのにそれを否定するのも気が引ける。

その後も3案ほど出されたが、どれも中二病的な感じであり、正直選ぶに選べなかったため、一番最初の案を受け入れることにした。

「…そ、それではライザック・ド・リストレアンにします」

するとレインフォードはスカーレットの言葉に大きく頷いて満面の笑みを浮かべた。

「そうか!やっぱりその名前がいいな。俺としても一番自信のある名前だったからな」

満足そうにうんうんと頷いているレインフォードを見て、スカーレットは思わずクスリと小さく笑ってしまった。
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