上 下
14 / 53
第1部 護衛編

旅の出会い④

しおりを挟む
「もちろん殿下を守るのが一番の優先事項だって分かってるし、絶対にそれは守る。ボクの手は二本しかなくて守れる命も限られているとは思う。でも、だからといって目の前の命を無視することはできないし、できないという理由で諦めたくない。できないと最初から決めつけるんじゃなくて、どうやったらできるのかを考えるべきだと思う」
「スカー…」

そうだ。前世で仕事では利用者からの無理難題の要望が山ほど来て、何度も仕事を投げ出したいと思ったのだ。

だが、できないと嘆くよりどうすればできるのかを考えるべきだと思い、その問題を何度となくクリアしてきたのだ。
前世でできたのだから、現世でできないわけはない。

「なぁ、水を差すようで悪いけどさ、そろそろ出発しないと夕方までにグノックに辿り着かないぜ」
「可哀想だけどその子はおいて行くべきだ」

ランとルイが困ったように言ったのを聞いて、スカーレットは少し思案した。

「ラン、グノックまでの距離は?」
「30マイルくらいかな」
「途中、狙われそうな場所はある?」

「そうだなぁ。この林を通り抜ければ農村地を行くから視野は悪くない。まぁ、全く木がないわけじゃないから、そこから狙われる可能性は低いけどあるっちゃある」

(一番のネックはこの林ね。でも森のように木々が茂っているわけじゃないし、視界は悪くない)

スカーレットは瞬時に状況を判断し、一つの案を提案した。

「じゃあ、こうしようよ。隊列を少し変更して、アルベルトがボクたちよりも少し先行して進みながら様子を見て。殿下の前をラン、殿下の後方はルイが守る。ボクは最後尾を行くよ。先方がいればすぐに異変を感じることができるし、何かあったら僕が最後尾で足止めをする。ランを中心に殿下を守って、ルイはその援護に回って」

スカーレットのこの提案にルイが目を丸くした。

「ということは、やっぱりこの鳥を連れて行くということか?」
「うん。協力してもらえないかな?」
「だがいざ戦うってなった時、こいつは邪魔だと思うぞ」
「それはそうだけど…」

その時黙っていたレインフォードが口を開き、スカーレットを見据えた。

「スカーは危険を冒してでもこの鷲を連れて行きたいのか?」
「…はい。殿下にはご迷惑をおかけしません」
「もし刺客に襲われたら、俺はお前を放っておいて先に行くかもしれないぞ。それでもいいのか?」
「むしろそうしていただきたいです。ボクの我儘で殿下の命を危険にさらすことはできません」
「…問題はこの鳥を抱えて戦うのが難しいという点か…」

レインフォードはそう言ってしばし思案したかと思うと、不意に馬に括りつけていた荷物の中から大きな布を取り出し、それを斜め掛けして三角巾のようにし、袋状になった部分に鷲の雛を入れた。

「これならば邪魔にならないだろう?最悪は後ろに回せば動きも制限されない」

鷲の雛を連れて行けない最大の問題は、この子が邪魔になってレインフォードを守れないこと。
逆に言えばスカーレットが剣を振るう時に邪魔にならなければいいのだ。

ならば後ろに背負えば視野もクリアになるし腕も自由に振るえる。

ただ身軽ではなくなるため、スカーレットの最大の強みである俊敏さは欠くかもしれないが、この間の敵くらいならば苦戦はするが引けを取ることはないだろう。

「ありがとうございます!」

スカーレットは勢いよく頭を下げ、感謝の気持ちを込めて礼を言うと、レインフォードは更に言葉を続けた。

「俺はスカーの腕を知っているし、刺客に対しても早々引けを取らないと信頼している。それに、今のところその案が最善だと俺も思う。ただ、一つ約束してくれ」
「なんでしょうか?」
「決して自分を犠牲にするな。俺も最後まで戦う。それが、俺がお前の意見を受け入れる条件だ」
「はい!」

護衛対象でありこの場の決定権を持つレインフォードが合意すると、他のメンバーは異を唱えることができず、スカーレットの案に同意することになった。

「ふふふ…良かったわね」
「ピ―――!」

スカーレットが小さく鷲の雛に告げると、元気に返事が返ってきた。そしてスカーレットたちは先ほどの案に従って隊列を組み、街道を進むことになった。先を行くレインフォードの後ろ姿を見ながらスカーレットは感心して頷いた。

(それにしても…私の無茶なお願いを聞いてくれるなんて…本当に神だわ)

自分の腕を信頼してくれることも嬉しかったし、この小さな命を粗雑に扱わなかったことに感動してしまう。「さすが推し最高」と思いつつ、スカーレットは気を引き締めて一路グノックへと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

処理中です...