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第1部 護衛編
旅の出会い②
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平原を歩いていた時には眩い光線のように降り注いでいた日差しは、林の中に入ると遮られ、柔らかな光に変わっていた。
空気の温度が若干ひんやりしていたが、快晴のもと長時間歩いて火照った体には心地よいものだった。
各々馬を降りると、アルベルトは木に馬を括りつけ、ルイは大きく伸びをして体をほぐし、ランは首を左右に動かしていた。
「殿下、お手を」
スカーレットがレインフォードの馬を降りるのを手伝おうと手を伸ばすと、レインフォードはきょとんとした顔をしてから大きな声で笑った。
「ははは、平気だ。それにスカーじゃ俺を支えることはできないぞ。スカーは小柄だからな」
指摘されるとその通りだ。
緩い服を着て体つきは隠れているが、身長は隠せない。年下のアルベルトでさえ頭一つ違う。
それよりも長身のレインフォードと並ぶとそれは顕著だ。がっしりした体躯とは言い難い。
「失礼しました」
レインフォードはひらりと身を翻して華麗に馬から降りると、スカーレットの両肩を掴んだ。
「ほら、こんなに華奢だしな。もう少しちゃんと食べた方がいいぞ」
その行動にスカーレットの心臓がドキリと鼓動を打った。
推しに触れられたからではない。女性だとバレるのではないかという緊張からだ。
「まぁ、成長期だし。これから身長も伸びると思うし気にするな」
「は、はい!」
「で、殿下!喉が渇いていらっしゃいませんか?」
アルベルトが慌てたようにレインフォードとスカーレットの間に入り、水を渡しながらさりげなくレインフォードの手をスカーレットから離した。
「ん?あぁ、ありがとう」
特に何かに気づいた素振りもないレインフォードの態度を見て、スカーレットはほっと胸を撫でおろした。
するとアルベルトが小声で話しかけてきた。
「触られるなんて無防備すぎだよ」
「アル、助かったわ」
「気を付けてよ」
「うん。分かってる」
あれ以上レインフォードに触れられていたら、女だとバレる可能性があった。
だがちらりとレインフォードを見るが、どうやら先ほどの行動を気にした素振りもなかった。
不審には思われていないようだ。
「じゃあ、私は周りを見てくるわ。アルベルト、殿下をお願い」
「一人で?」
「うん。すぐ戻るから」
「僕も行くよ」
「そうしたら誰が殿下を守るのよ」
「そんなのランとルイに任せたらいいよ」
そんな会話をしていると、自分たちの名前が出たからかランとルイがやって来た。
「どうしたんだ?」
「スカーが周囲を見てくるって言うんだ」
「じゃあ俺達も行くぜ」
ランの言葉にスカーレットは緩く頭を振った。
「ううん。できたら一人でも多く殿下の傍にいて欲しいの。だから見回りは私だけで平気よ」
この間シャロルクでレインフォードが襲われたので、カヴィンルートでの”森で刺客に会って死亡する”という死亡イベントは終了したと思う。
しかし、カヴィンの別エンディングでの死亡イベントが発生して襲われる可能性もある。念には念を入れたい。
ただ、このまま押し切って別行動しても納得はしてもらえないだろう。
「じゃあ、作業分担しよう。ランとルイはこれからの旅程を確認して。今日の夕方までにはグノックの街に着きたいから、時間配分と地形の確認をしっかりお願い。アルベルトは殿下の護衛で、ボクは周囲を確認する。もし何かあればこの笛で知らせるから大丈夫。じゃあ、そういうことで」
スカーレットは指示を出すとその場を離れた。
左右を確認しながら、人の気配がないかを探りつつ歩く。
いくらスカーレットでも、前回戦った刺客のような手練れに囲まれたら無傷では済まない。
だから、レインフォードたちがいる場所へ声が届く範囲で確認することにした。
(よし、特に異常も無さそうね)
ほぼ一周したが、不審な気配はない。
スカーレットが頷いて戻ろうとしたその時、ガサリと音がして緊張が走った。
音は茂みから聞こえた。
誰かが潜んでいるのかもしれない。
スカーレットは音の方向に向き直ると、そっと剣の柄に手をかけて一歩一歩と音源へと近づいた。
再びガサリと音がしたので、スカーレットは鋭い声を上げた。
「誰だ!」
だが返事はない。
スカーレットは鞘ごと剣を抜いて茂みをかき分けたが、そこに人間の姿はなかった。
そう…確かに人間の姿はなかったが、音の主はそこにいた。
「ピー」
「…鷲?」
拍子抜けしたスカーレットの声に合わせて、鷲の雛が首を傾げてこちらを見上げた。
その丸い目と目が合ってしまった。
雛といっても幼鳥との中間のようで、ほとんどが鷲特有のこげ茶の毛で覆われているが、ところどころにはまだ白いふわふわの毛が残っている。
その姿は一見するとぼろぼろで貧相に見えるが、円らな瞳は愛らしく、それを見たスカーレットの胸がキュンとなった。
(か、可愛い…)
不審人物ではないことにほっと胸を撫でおろしたスカーレットだったが、問題は何故鷲の雛がこんなところにいるのかということだった。
空気の温度が若干ひんやりしていたが、快晴のもと長時間歩いて火照った体には心地よいものだった。
各々馬を降りると、アルベルトは木に馬を括りつけ、ルイは大きく伸びをして体をほぐし、ランは首を左右に動かしていた。
「殿下、お手を」
スカーレットがレインフォードの馬を降りるのを手伝おうと手を伸ばすと、レインフォードはきょとんとした顔をしてから大きな声で笑った。
「ははは、平気だ。それにスカーじゃ俺を支えることはできないぞ。スカーは小柄だからな」
指摘されるとその通りだ。
緩い服を着て体つきは隠れているが、身長は隠せない。年下のアルベルトでさえ頭一つ違う。
それよりも長身のレインフォードと並ぶとそれは顕著だ。がっしりした体躯とは言い難い。
「失礼しました」
レインフォードはひらりと身を翻して華麗に馬から降りると、スカーレットの両肩を掴んだ。
「ほら、こんなに華奢だしな。もう少しちゃんと食べた方がいいぞ」
その行動にスカーレットの心臓がドキリと鼓動を打った。
推しに触れられたからではない。女性だとバレるのではないかという緊張からだ。
「まぁ、成長期だし。これから身長も伸びると思うし気にするな」
「は、はい!」
「で、殿下!喉が渇いていらっしゃいませんか?」
アルベルトが慌てたようにレインフォードとスカーレットの間に入り、水を渡しながらさりげなくレインフォードの手をスカーレットから離した。
「ん?あぁ、ありがとう」
特に何かに気づいた素振りもないレインフォードの態度を見て、スカーレットはほっと胸を撫でおろした。
するとアルベルトが小声で話しかけてきた。
「触られるなんて無防備すぎだよ」
「アル、助かったわ」
「気を付けてよ」
「うん。分かってる」
あれ以上レインフォードに触れられていたら、女だとバレる可能性があった。
だがちらりとレインフォードを見るが、どうやら先ほどの行動を気にした素振りもなかった。
不審には思われていないようだ。
「じゃあ、私は周りを見てくるわ。アルベルト、殿下をお願い」
「一人で?」
「うん。すぐ戻るから」
「僕も行くよ」
「そうしたら誰が殿下を守るのよ」
「そんなのランとルイに任せたらいいよ」
そんな会話をしていると、自分たちの名前が出たからかランとルイがやって来た。
「どうしたんだ?」
「スカーが周囲を見てくるって言うんだ」
「じゃあ俺達も行くぜ」
ランの言葉にスカーレットは緩く頭を振った。
「ううん。できたら一人でも多く殿下の傍にいて欲しいの。だから見回りは私だけで平気よ」
この間シャロルクでレインフォードが襲われたので、カヴィンルートでの”森で刺客に会って死亡する”という死亡イベントは終了したと思う。
しかし、カヴィンの別エンディングでの死亡イベントが発生して襲われる可能性もある。念には念を入れたい。
ただ、このまま押し切って別行動しても納得はしてもらえないだろう。
「じゃあ、作業分担しよう。ランとルイはこれからの旅程を確認して。今日の夕方までにはグノックの街に着きたいから、時間配分と地形の確認をしっかりお願い。アルベルトは殿下の護衛で、ボクは周囲を確認する。もし何かあればこの笛で知らせるから大丈夫。じゃあ、そういうことで」
スカーレットは指示を出すとその場を離れた。
左右を確認しながら、人の気配がないかを探りつつ歩く。
いくらスカーレットでも、前回戦った刺客のような手練れに囲まれたら無傷では済まない。
だから、レインフォードたちがいる場所へ声が届く範囲で確認することにした。
(よし、特に異常も無さそうね)
ほぼ一周したが、不審な気配はない。
スカーレットが頷いて戻ろうとしたその時、ガサリと音がして緊張が走った。
音は茂みから聞こえた。
誰かが潜んでいるのかもしれない。
スカーレットは音の方向に向き直ると、そっと剣の柄に手をかけて一歩一歩と音源へと近づいた。
再びガサリと音がしたので、スカーレットは鋭い声を上げた。
「誰だ!」
だが返事はない。
スカーレットは鞘ごと剣を抜いて茂みをかき分けたが、そこに人間の姿はなかった。
そう…確かに人間の姿はなかったが、音の主はそこにいた。
「ピー」
「…鷲?」
拍子抜けしたスカーレットの声に合わせて、鷲の雛が首を傾げてこちらを見上げた。
その丸い目と目が合ってしまった。
雛といっても幼鳥との中間のようで、ほとんどが鷲特有のこげ茶の毛で覆われているが、ところどころにはまだ白いふわふわの毛が残っている。
その姿は一見するとぼろぼろで貧相に見えるが、円らな瞳は愛らしく、それを見たスカーレットの胸がキュンとなった。
(か、可愛い…)
不審人物ではないことにほっと胸を撫でおろしたスカーレットだったが、問題は何故鷲の雛がこんなところにいるのかということだった。
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