上 下
12 / 53
第1部 護衛編

旅の出会い②

しおりを挟む
平原を歩いていた時には眩い光線のように降り注いでいた日差しは、林の中に入ると遮られ、柔らかな光に変わっていた。

空気の温度が若干ひんやりしていたが、快晴のもと長時間歩いて火照った体には心地よいものだった。

各々馬を降りると、アルベルトは木に馬を括りつけ、ルイは大きく伸びをして体をほぐし、ランは首を左右に動かしていた。

「殿下、お手を」

スカーレットがレインフォードの馬を降りるのを手伝おうと手を伸ばすと、レインフォードはきょとんとした顔をしてから大きな声で笑った。

「ははは、平気だ。それにスカーじゃ俺を支えることはできないぞ。スカーは小柄だからな」

指摘されるとその通りだ。
緩い服を着て体つきは隠れているが、身長は隠せない。年下のアルベルトでさえ頭一つ違う。
それよりも長身のレインフォードと並ぶとそれは顕著だ。がっしりした体躯とは言い難い。

「失礼しました」

レインフォードはひらりと身を翻して華麗に馬から降りると、スカーレットの両肩を掴んだ。

「ほら、こんなに華奢だしな。もう少しちゃんと食べた方がいいぞ」

その行動にスカーレットの心臓がドキリと鼓動を打った。
推しに触れられたからではない。女性だとバレるのではないかという緊張からだ。

「まぁ、成長期だし。これから身長も伸びると思うし気にするな」
「は、はい!」
「で、殿下!喉が渇いていらっしゃいませんか?」

アルベルトが慌てたようにレインフォードとスカーレットの間に入り、水を渡しながらさりげなくレインフォードの手をスカーレットから離した。

「ん?あぁ、ありがとう」

特に何かに気づいた素振りもないレインフォードの態度を見て、スカーレットはほっと胸を撫でおろした。
するとアルベルトが小声で話しかけてきた。

「触られるなんて無防備すぎだよ」
「アル、助かったわ」
「気を付けてよ」
「うん。分かってる」

あれ以上レインフォードに触れられていたら、女だとバレる可能性があった。
だがちらりとレインフォードを見るが、どうやら先ほどの行動を気にした素振りもなかった。
不審には思われていないようだ。

「じゃあ、私は周りを見てくるわ。アルベルト、殿下をお願い」
「一人で?」
「うん。すぐ戻るから」
「僕も行くよ」
「そうしたら誰が殿下を守るのよ」
「そんなのランとルイに任せたらいいよ」

そんな会話をしていると、自分たちの名前が出たからかランとルイがやって来た。

「どうしたんだ?」
「スカーが周囲を見てくるって言うんだ」
「じゃあ俺達も行くぜ」

ランの言葉にスカーレットは緩く頭を振った。

「ううん。できたら一人でも多く殿下の傍にいて欲しいの。だから見回りは私だけで平気よ」

この間シャロルクでレインフォードが襲われたので、カヴィンルートでの”森で刺客に会って死亡する”という死亡イベントは終了したと思う。

しかし、カヴィンの別エンディングでの死亡イベントが発生して襲われる可能性もある。念には念を入れたい。
ただ、このまま押し切って別行動しても納得はしてもらえないだろう。

「じゃあ、作業分担しよう。ランとルイはこれからの旅程を確認して。今日の夕方までにはグノックの街に着きたいから、時間配分と地形の確認をしっかりお願い。アルベルトは殿下の護衛で、ボクは周囲を確認する。もし何かあればこの笛で知らせるから大丈夫。じゃあ、そういうことで」

スカーレットは指示を出すとその場を離れた。

左右を確認しながら、人の気配がないかを探りつつ歩く。
いくらスカーレットでも、前回戦った刺客のような手練れに囲まれたら無傷では済まない。

だから、レインフォードたちがいる場所へ声が届く範囲で確認することにした。

(よし、特に異常も無さそうね)

ほぼ一周したが、不審な気配はない。
スカーレットが頷いて戻ろうとしたその時、ガサリと音がして緊張が走った。

音は茂みから聞こえた。
誰かが潜んでいるのかもしれない。

スカーレットは音の方向に向き直ると、そっと剣の柄に手をかけて一歩一歩と音源へと近づいた。
再びガサリと音がしたので、スカーレットは鋭い声を上げた。

「誰だ!」

だが返事はない。
スカーレットは鞘ごと剣を抜いて茂みをかき分けたが、そこに人間の姿はなかった。
そう…確かに人間の姿はなかったが、音の主はそこにいた。

「ピー」
「…鷲?」

拍子抜けしたスカーレットの声に合わせて、鷲の雛が首を傾げてこちらを見上げた。
その丸い目と目が合ってしまった。
雛といっても幼鳥との中間のようで、ほとんどが鷲特有のこげ茶の毛で覆われているが、ところどころにはまだ白いふわふわの毛が残っている。

その姿は一見するとぼろぼろで貧相に見えるが、円らな瞳は愛らしく、それを見たスカーレットの胸がキュンとなった。

(か、可愛い…)

不審人物ではないことにほっと胸を撫でおろしたスカーレットだったが、問題は何故鷲の雛がこんなところにいるのかということだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

空から落ちてきた皇帝を助けたら、偽装恋人&近衛騎士に任命されました-風使いの男装騎士が女嫌いの獣人皇帝に溺愛されるまで-

甘酒
恋愛
 夭折した双子の兄に成り代わり帝国騎士となったビリー・グレイがいつものように城内を巡視していると、空から自国の獣人皇帝のアズールが落下してくるところに遭遇してしまう。  負傷しつつもビリーが皇帝の命を救うと、その功績を見込まれて(?)皇帝直属の近衛騎士&恋人に一方的に任命される。「近衛騎士に引き立ててやるから空中庭園から皇帝を突き落とした犯人を捕らえるために協力してほしい。ついでに、寄ってくる女どもが鬱陶しいから恋人の振りもしろ」ということだった。  半ば押し切られる形でビリーが提案を引き受けると、何故かアズールは突然キスをしてきて……。 破天荒でコミュニケーション下手な俺様系垂れ耳犬獣人皇帝×静かに暮らしたい不忠な男装騎士の異世界恋愛ファンタジー(+微ミステリとざまぁ要素少々) ※なんちゃってファンタジーのため、メートル法やら地球由来の物が節操なく出てきます。 ※エブリスタにも掲載しております。

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

転生したら乙ゲーのモブでした

おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。 登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。 主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です 本作はなろう様でも公開しています

悪役令嬢にざまぁされるヒロインに転生したので断罪返しを回避したい!〜でもこのヒロインラスボスですよね?!〜

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
「え、もしかして私『悪役ヒロイン』じゃない?!」 前世の夢を見て、自分が異世界に転生したと気付いた主人公。 転生したのは婚約破棄された悪役令嬢が大国の王太子と結ばれるハッピーエンドの漫画の中。 悪役令嬢のベアトリスを愛する主人公が転生したのは、寄りにも寄ってそのベアトリスにザマァされるヒロイン、ミシュリーヌだった。 しかもミシュリーヌは原作でラスボス<災厄の魔女>となるキャラだ。 ミシュリーヌは自身の闇堕ちを回避するため、原作の記憶を頼りに奮闘する。 しかし、とある出来事がきっかけで、ミシュリーヌの置かれた状況は原作のストーリーから大きく一変、逸脱していく。 原作の主要キャラと関わらないと心に決めたものの、何故か彼らに興味を持たれてしまい……? ※はじめはちょっとシリアス風味ですが、だんだん主人公が壊れていきます。 ※話のタイトルを変更しました。見やすくなった…はず!(弱気) ※ご都合主義満載のお話です。深く考えずお読み下さい。 ※HOTランキング入り有難うございます!お読みくださった皆様に感謝です!

【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。

木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。 前世は日本という国に住む高校生だったのです。 現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。 いっそ、悪役として散ってみましょうか? 悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。 以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。 サクッと読んでいただける内容です。 マリア→マリアーナに変更しました。

処理中です...