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第1部 護衛編

婚約破棄された悪役令嬢④

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元々スカーレットは女性らしさを求められ男性の付属品のように生きるこの貴族の考えには違和感を覚えていたが、前世の記憶を思い出してその考えが更に強くなった。

だから自我を押し殺して結婚する必要がなくなった今、スカーレットは自由に生きることに決めたのだ。

「あぁ、でもアルが結婚してしまったらバルサー家を継ぐから私はこの屋敷を出ることになっちゃうのね。待ってるなんて言えなくなるのか」
「なら、スカー義姉さんは僕と結婚すればいいんじゃない?」
「っ!?」

余りにも突飛な提案に驚きのあまり息を詰まらせてしまったスカーレットは目を白黒させながらなんとか返事をした。

「な、なに?」
「もうお嫁の貰い手がないなら僕と結婚すれば、行き遅れなんて後ろ指を指されることもないし、ずっとこの家に居ることができるし。僕達は義理の姉弟なんだから結婚できなくないでしょ?」

アルベルトはそう言いつつスカーレットの顔を覗き込むように少しかがんででそう言った。

驚いてライトグリーンの目を見開いているスカーレットは一瞬思考を停止させた。
だがすぐに一つの考えに思い至る。

(そっか。婚約破棄されて落ち込んでいる義姉を慰めようとこんな気遣いをしてくれてるのね…なんていい子に育ったの!)

「アル!貴方は本当に優しい子ね!義姉さんはこんな優しい子に育ってくれて嬉しいわ」
「ちょ…撫でないでよ」

スカーレットが思わずアルベルトの髪をわしゃわしゃと撫でるとアルベルトは顔を赤くしてその手を逃れようと身を引いた。

「子供扱いして!僕は本気だっていうのに」
「はいはい、ありがとうね」

スカーレットの反応にアルベルトはぶつぶつと文句を言っている。その様子を見ながら考えるのは今後の事であった。

(でも本当にこれからどうしようかしら。アルベルトが結婚したら家には居れないし。そもそもラウダーデン家からの援助はないから当面の生活費も稼がなくちゃいけないわよね。はぁ…騎士にでもなろうかしら?そうしたら推しを間近で見ることができるかもしれないし)

「マジプリ」の中で、スカーレットの推しは王太子レインフォードだ。
騎士になって王宮に上がればレインフォードを一瞬でも見ることができるかもしれない。

ちなみに何故レインフォードが推しなのかと言うと、彼のキャラデザももちろん好きではあるが、一番はその性格だ。

王太子という立場に胡坐をかくことなく努力を惜しまない。困難にも立ち向かい、誇り高く真っすぐに生きようとしている様子は、仕事で行き詰って自暴自棄になりそうな葉子に眩しく映った。

特にゲーム中のセリフである「神は乗り越えられない試練はお与えにならない。それに俺はたった一人でも喜んでくれるのであればいくらでも力を尽くそう」というセリフは葉子が「なんでこんなに苦労してシステム作ってるのに文句を言われるの!?」と泣きそうになった時に支えられた言葉だった。

レインフォードの言葉のおかげで「この仕事の難題も絶対に乗り越えられる!」と自分を奮起して難しい仕事にも取り組んで成功させた。

そうした結果、葉子はレインフォード沼にはまり、部屋の中は彼のグッズで溢れていたものだ。

推しのために使った諭吉は100枚は行っていたかもしれない。
そのために仕事をしていたと言っても過言ではない。

もしレインフォードと出会わなかったら過酷な社畜生活で廃人になっていたかもしれない。

だからレインフォードは命の恩人でもあるので一度お目にかかりたいと思うものの、この世界では女は騎士になれないため、騎士としてご尊顔を拝むのは不可能なのだ。

ワンチャンあるとすれば夜会に出席した際に遠くから見ることが可能かもしれないが、ただでさえ窮屈で苦手なのに、婚約破棄された悪役令嬢というレッテルを貼られた今、夜会には出席したくもない。

そんなことを滔々と考えていたスカーレットだったが、先々の事など考えるよりまずは意図せず得ることができた自由を満喫することにしよう。

(久しぶりに稽古もできるし、稽古相手もいるんだからもうひと試合したいわね)

明日からはアルベルトがいなくなり、模擬試合もできなくなるのだ。

「さてと、休憩もできたしもう一勝負するわよ!」
「ダメだよ。無理して倒れたら大変だし」
「あと一勝負だけ!」
「ダメ」

アルベルトは頑として譲らない。
こうなったらスカーレットがいくら粘っても無理だろう。

(でもまだ体を動かし足りないし、遠駆けにいこうかしら)

ずっと鬱屈した生活をしていた反動で、体を動かし足りない。
それに夕方に向かって心地いい温度になっている風で涼めたら気持ちいいだろう。

そう考えたスカーレットはタオルで汗を拭いつつ屋敷へと入ろうとするアルベルトに声を掛けた。

「じゃあ私ちょっと遠駆けして来るわね」
「えっ?何言ってるんだよ!病み上がりなんだからダメだよ」
「大丈夫!ディナーの時間までには戻るから!」
「ちょっと!僕も行くよ!」
「平気平気!アルも明日の出発準備もあるだろうし。じゃあ、行ってくるわね」
「あっちょっと!スカー義姉さん!」

スカーレットはそう言ってアルベルトの制止の声も気にせず厩舎へと走り出した。
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