4 / 53
第1部 護衛編
婚約破棄された悪役令嬢④
しおりを挟む
元々スカーレットは女性らしさを求められ男性の付属品のように生きるこの貴族の考えには違和感を覚えていたが、前世の記憶を思い出してその考えが更に強くなった。
だから自我を押し殺して結婚する必要がなくなった今、スカーレットは自由に生きることに決めたのだ。
「あぁ、でもアルが結婚してしまったらバルサー家を継ぐから私はこの屋敷を出ることになっちゃうのね。待ってるなんて言えなくなるのか」
「なら、スカー義姉さんは僕と結婚すればいいんじゃない?」
「っ!?」
余りにも突飛な提案に驚きのあまり息を詰まらせてしまったスカーレットは目を白黒させながらなんとか返事をした。
「な、なに?」
「もうお嫁の貰い手がないなら僕と結婚すれば、行き遅れなんて後ろ指を指されることもないし、ずっとこの家に居ることができるし。僕達は義理の姉弟なんだから結婚できなくないでしょ?」
アルベルトはそう言いつつスカーレットの顔を覗き込むように少しかがんででそう言った。
驚いてライトグリーンの目を見開いているスカーレットは一瞬思考を停止させた。
だがすぐに一つの考えに思い至る。
(そっか。婚約破棄されて落ち込んでいる義姉を慰めようとこんな気遣いをしてくれてるのね…なんていい子に育ったの!)
「アル!貴方は本当に優しい子ね!義姉さんはこんな優しい子に育ってくれて嬉しいわ」
「ちょ…撫でないでよ」
スカーレットが思わずアルベルトの髪をわしゃわしゃと撫でるとアルベルトは顔を赤くしてその手を逃れようと身を引いた。
「子供扱いして!僕は本気だっていうのに」
「はいはい、ありがとうね」
スカーレットの反応にアルベルトはぶつぶつと文句を言っている。その様子を見ながら考えるのは今後の事であった。
(でも本当にこれからどうしようかしら。アルベルトが結婚したら家には居れないし。そもそもラウダーデン家からの援助はないから当面の生活費も稼がなくちゃいけないわよね。はぁ…騎士にでもなろうかしら?そうしたら推しを間近で見ることができるかもしれないし)
「マジプリ」の中で、スカーレットの推しは王太子レインフォードだ。
騎士になって王宮に上がればレインフォードを一瞬でも見ることができるかもしれない。
ちなみに何故レインフォードが推しなのかと言うと、彼のキャラデザももちろん好きではあるが、一番はその性格だ。
王太子という立場に胡坐をかくことなく努力を惜しまない。困難にも立ち向かい、誇り高く真っすぐに生きようとしている様子は、仕事で行き詰って自暴自棄になりそうな葉子に眩しく映った。
特にゲーム中のセリフである「神は乗り越えられない試練はお与えにならない。それに俺はたった一人でも喜んでくれるのであればいくらでも力を尽くそう」というセリフは葉子が「なんでこんなに苦労してシステム作ってるのに文句を言われるの!?」と泣きそうになった時に支えられた言葉だった。
レインフォードの言葉のおかげで「この仕事の難題も絶対に乗り越えられる!」と自分を奮起して難しい仕事にも取り組んで成功させた。
そうした結果、葉子はレインフォード沼にはまり、部屋の中は彼のグッズで溢れていたものだ。
推しのために使った諭吉は100枚は行っていたかもしれない。
そのために仕事をしていたと言っても過言ではない。
もしレインフォードと出会わなかったら過酷な社畜生活で廃人になっていたかもしれない。
だからレインフォードは命の恩人でもあるので一度お目にかかりたいと思うものの、この世界では女は騎士になれないため、騎士としてご尊顔を拝むのは不可能なのだ。
ワンチャンあるとすれば夜会に出席した際に遠くから見ることが可能かもしれないが、ただでさえ窮屈で苦手なのに、婚約破棄された悪役令嬢というレッテルを貼られた今、夜会には出席したくもない。
そんなことを滔々と考えていたスカーレットだったが、先々の事など考えるよりまずは意図せず得ることができた自由を満喫することにしよう。
(久しぶりに稽古もできるし、稽古相手もいるんだからもうひと試合したいわね)
明日からはアルベルトがいなくなり、模擬試合もできなくなるのだ。
「さてと、休憩もできたしもう一勝負するわよ!」
「ダメだよ。無理して倒れたら大変だし」
「あと一勝負だけ!」
「ダメ」
アルベルトは頑として譲らない。
こうなったらスカーレットがいくら粘っても無理だろう。
(でもまだ体を動かし足りないし、遠駆けにいこうかしら)
ずっと鬱屈した生活をしていた反動で、体を動かし足りない。
それに夕方に向かって心地いい温度になっている風で涼めたら気持ちいいだろう。
そう考えたスカーレットはタオルで汗を拭いつつ屋敷へと入ろうとするアルベルトに声を掛けた。
「じゃあ私ちょっと遠駆けして来るわね」
「えっ?何言ってるんだよ!病み上がりなんだからダメだよ」
「大丈夫!ディナーの時間までには戻るから!」
「ちょっと!僕も行くよ!」
「平気平気!アルも明日の出発準備もあるだろうし。じゃあ、行ってくるわね」
「あっちょっと!スカー義姉さん!」
スカーレットはそう言ってアルベルトの制止の声も気にせず厩舎へと走り出した。
だから自我を押し殺して結婚する必要がなくなった今、スカーレットは自由に生きることに決めたのだ。
「あぁ、でもアルが結婚してしまったらバルサー家を継ぐから私はこの屋敷を出ることになっちゃうのね。待ってるなんて言えなくなるのか」
「なら、スカー義姉さんは僕と結婚すればいいんじゃない?」
「っ!?」
余りにも突飛な提案に驚きのあまり息を詰まらせてしまったスカーレットは目を白黒させながらなんとか返事をした。
「な、なに?」
「もうお嫁の貰い手がないなら僕と結婚すれば、行き遅れなんて後ろ指を指されることもないし、ずっとこの家に居ることができるし。僕達は義理の姉弟なんだから結婚できなくないでしょ?」
アルベルトはそう言いつつスカーレットの顔を覗き込むように少しかがんででそう言った。
驚いてライトグリーンの目を見開いているスカーレットは一瞬思考を停止させた。
だがすぐに一つの考えに思い至る。
(そっか。婚約破棄されて落ち込んでいる義姉を慰めようとこんな気遣いをしてくれてるのね…なんていい子に育ったの!)
「アル!貴方は本当に優しい子ね!義姉さんはこんな優しい子に育ってくれて嬉しいわ」
「ちょ…撫でないでよ」
スカーレットが思わずアルベルトの髪をわしゃわしゃと撫でるとアルベルトは顔を赤くしてその手を逃れようと身を引いた。
「子供扱いして!僕は本気だっていうのに」
「はいはい、ありがとうね」
スカーレットの反応にアルベルトはぶつぶつと文句を言っている。その様子を見ながら考えるのは今後の事であった。
(でも本当にこれからどうしようかしら。アルベルトが結婚したら家には居れないし。そもそもラウダーデン家からの援助はないから当面の生活費も稼がなくちゃいけないわよね。はぁ…騎士にでもなろうかしら?そうしたら推しを間近で見ることができるかもしれないし)
「マジプリ」の中で、スカーレットの推しは王太子レインフォードだ。
騎士になって王宮に上がればレインフォードを一瞬でも見ることができるかもしれない。
ちなみに何故レインフォードが推しなのかと言うと、彼のキャラデザももちろん好きではあるが、一番はその性格だ。
王太子という立場に胡坐をかくことなく努力を惜しまない。困難にも立ち向かい、誇り高く真っすぐに生きようとしている様子は、仕事で行き詰って自暴自棄になりそうな葉子に眩しく映った。
特にゲーム中のセリフである「神は乗り越えられない試練はお与えにならない。それに俺はたった一人でも喜んでくれるのであればいくらでも力を尽くそう」というセリフは葉子が「なんでこんなに苦労してシステム作ってるのに文句を言われるの!?」と泣きそうになった時に支えられた言葉だった。
レインフォードの言葉のおかげで「この仕事の難題も絶対に乗り越えられる!」と自分を奮起して難しい仕事にも取り組んで成功させた。
そうした結果、葉子はレインフォード沼にはまり、部屋の中は彼のグッズで溢れていたものだ。
推しのために使った諭吉は100枚は行っていたかもしれない。
そのために仕事をしていたと言っても過言ではない。
もしレインフォードと出会わなかったら過酷な社畜生活で廃人になっていたかもしれない。
だからレインフォードは命の恩人でもあるので一度お目にかかりたいと思うものの、この世界では女は騎士になれないため、騎士としてご尊顔を拝むのは不可能なのだ。
ワンチャンあるとすれば夜会に出席した際に遠くから見ることが可能かもしれないが、ただでさえ窮屈で苦手なのに、婚約破棄された悪役令嬢というレッテルを貼られた今、夜会には出席したくもない。
そんなことを滔々と考えていたスカーレットだったが、先々の事など考えるよりまずは意図せず得ることができた自由を満喫することにしよう。
(久しぶりに稽古もできるし、稽古相手もいるんだからもうひと試合したいわね)
明日からはアルベルトがいなくなり、模擬試合もできなくなるのだ。
「さてと、休憩もできたしもう一勝負するわよ!」
「ダメだよ。無理して倒れたら大変だし」
「あと一勝負だけ!」
「ダメ」
アルベルトは頑として譲らない。
こうなったらスカーレットがいくら粘っても無理だろう。
(でもまだ体を動かし足りないし、遠駆けにいこうかしら)
ずっと鬱屈した生活をしていた反動で、体を動かし足りない。
それに夕方に向かって心地いい温度になっている風で涼めたら気持ちいいだろう。
そう考えたスカーレットはタオルで汗を拭いつつ屋敷へと入ろうとするアルベルトに声を掛けた。
「じゃあ私ちょっと遠駆けして来るわね」
「えっ?何言ってるんだよ!病み上がりなんだからダメだよ」
「大丈夫!ディナーの時間までには戻るから!」
「ちょっと!僕も行くよ!」
「平気平気!アルも明日の出発準備もあるだろうし。じゃあ、行ってくるわね」
「あっちょっと!スカー義姉さん!」
スカーレットはそう言ってアルベルトの制止の声も気にせず厩舎へと走り出した。
40
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?
三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。
そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる