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恋人祭りのその後で③ 改
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きょろきょろと周囲を見ていると、再び人にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
「はぁ?」
ぶつかったのはいかにも柄が悪そうな男。
一言で言うならチンピラ風情の男だった。
薄っぺらいシャツをだらしなく着て、ぶかぶかのパンツを履いている。
チンピラがガンを飛ばしてきて、その鋭い視線とぶつかったが、イリアを認めた瞬間その表情がいびつに歪んだ。
「おい、あんた。一人?」
「え?いえ、連れがいますけど」
「でも一人じゃん。アンタも一人で寂しーだろ?オレと遊ばない?」
「いえ、結構です。ぶつかってすみません。では」
こういう輩とまともに取り合っても仕方がない。イリアはチンピラに小さく頭を下げてその横を通り過ぎようとした。
だが、チンピラがイリアの二の腕をガチリと掴んだのでイリアはたたらを踏んでしまう。
「離してください」
「透かした態度してんじゃねーよ。いいから付き合えよ」
「ちょっと、離して!」
今日は最悪だ。
ナンパ目的の相手とのこのこ祭りに来てしまっただけでなく、またナンパされてトラブルに遭うなんて。
なにか呪いでも受けているのだろうか?
「いい加減にしないと…ぶちのめすわよ」
「え…」
度重なる不運でイリアは少々切れ気味にそう言うと、チンピラに掴まれていないほうの拳に気をため始めた。
多少周囲に迷惑を書けるかもしれないが腹の虫が治まらない。
イリアがそう思って気を放とうとした時、チンピラが急に地面にぶっ倒れた。
「え?なんで?」
「汚い手で彼女に触るな!」
見ればリオが男を足蹴にしている。
その様子をみてチンピラをリオがぶちのめしたことを理解した。
「さっさと消えろ」
そうドスの聞いた声でリオがチンピラを見降ろしながらいうと、チンピラは逃げるように去って行った。
「はぁ…間に合ってよかったです」
「一度ならず二度までも助けていただいてすみません」
「いえ。急にいなくなってしまったので慌てましたが…無事に見つかって良かったです」
リオの額にはうっすらと汗が滲んでおり、呼吸も少々乱れていることから、リオが必死になって探してくれていたことが窺われた。
「探してくださったのですね」
「当たり前です。でもこうやって会えましたし…それに二人きりになれたので結果オーライです」
「あ…そうだ。それでですね、カインを見つけて帰ろうかと思います」
「急にどうしたんですか?あ、もしやお疲れになりましたか?ならばどこかの店に入りましょうか?」
そっとイリアの手を握りながら、悪びれもなく言ってくるリオにイリアはちょっと胡散臭いものを見る目になってしまった。
これがナンパの常套手口か。
さっきのチンピラは明らかなナンパで絶対警戒する感じだが、この男だとなまじ爽やか好青年に見えるので、普通の女なら警戒心が薄くなるのかもしれない。
ここははっきり言った方がいいだろう。
イリアは握られているリオの手をやんわりと外した後、背筋を伸ばして居住まいを直してリオに向かって言った。
「このお祭りのことを知らないで一緒に来てしまった私も悪いのですが、戯れのお相手にはなれないので失礼します」
「戯れ…?」
「では、私はカインを探しますので」
イリアは小さく会釈をして踵を返し、雑踏の中のカインを探そうと足を踏み出した。
「ちょ…ちょっと待ってください!」
肩をぎゅっと掴まれ、リオの方に回転させられる。
少しかがんだリオの顔がイリアの目の前に迫り、驚きのあまり一瞬息が止まった。
リオはというと焦ったような泣きそうな、そんな複雑な表情でこちらを見た。
空色の瞳がイリアを捕えるので、思わず足を止めてその顔をじっと見つめてしまう。
「それは…僕が戯れに誘ったと思っているんですか!」
「先ほどお店の方にこの祭りは〝恋人になりたい異性と来る〟と聞いたのですが、リオさんとは会ったばかりですしそういう意味ではお誘いくださったわけではないですよね?リオさんなら引く手あまたでしょうし、私みたいなのを相手にしなくても良いかと。それに私も女性をナンパするような方と一緒にいたいと思わないので」
「ち、違います!僕はそんな不純な動機で誘ったわけじゃないんだ!いや…不純というか、とにかく戯れとかナンパで誘ったわけじゃないんだ!」
若干リオの口調が変わったような気もしたが、多分こちらが素なのかもしれない。
最初は穏便にことを終わらせようとしたイリアだったが、だんだん面倒になってきて、思わず強い口調で言ってしまう。
「では何が目的ですか?残念ながら財産はないですよ?」
「…結婚してください!」
「!?」
言葉の意味が分からずイリアはぽかんと口を開けてしまった。
そして脳内でその言葉の意味を反芻した。
(結婚…結婚?えっ)
「結婚!?いや、私の話聞いてました?財産なんてないですよ?なんでそうなるんですか?」
「貴女のことが好きなんです!」
「いやいやいや、まだお会いしたの二回目ですよ?どこをどうしたらそうなるんです?!」
「…一目惚れだったんです!」
リオは顔を真っ赤にしてそう告白してくる。
その様子から揶揄っているようには見えない。
その後リオは何かに思い立ったかのようにはっとして言った。
「まさか!好きな人がいるんですか!?」
「いえ、そういった人はいないですけど…」
「じゃあ結婚してもいいってことですよね?」
「どうしてそうなるんですか!?」
「じゃあどうしたら結婚してくれるんですか!?」
「どうしたらって…一般的にはお互い好きになったら結婚を考えるのが普通じゃないでしょうか?」
「なるほど…」
何故かしばし考え込んだリオに納得してくれたのだとイリアは安堵した。
丁度前方から聞き馴染みのある声がしてイリアはそちらを見た。
人ごみをかきわけるようにしてカインがこちらへやって来る。
「…もう時間切れか…」
「え?」
「じゃあ結婚しましょう!」
「だからなにが〝じゃあ〟なんですか?」
「貴女に僕を好きなってもらいます!」
「は?」
「次に会うときには絶対に好きになってもらいますから!これ、バラです!」
「えっ?」
戸惑っているうちにリオに押し付けられるように一輪の青いバラの花を握らされる。
「すみません。せっかく二人きりになれたのに…もう時間が来てしまったんです。じゃあ、また!」
「ちょ、ちょっと!!」
リオは深々と礼をするとマントを翻して人ごみに紛れていく。
戸惑いながらもイリアはリオを目で追っていると、リオの知り合いらしい男がリオと話ながら歩いていくのが見えた。
リオの知り合いと思われる男が不意にこちらを見た。群青の長い髪を持つその男は、前髪だけが白く、それに対比するように双眸が赤い。
その視線に意味深なものを感じて一瞬戸惑いを覚えていたイリアだったが、名前を呼ばれてそちらに意識を向けた。
「心配したぞ」
「あ…か、カイン」
「リオは?」
「ちょうど入れ違いに帰っちゃった」
「はぁ?お前を置いていなくなったのか?」
「お知り合いが来たみたい」
「こんな人ごみにお前ひとりを置いておくなんて、やっぱり信用ない男だったな…って、なんだその花!?」
カインの視線がイリアの手に注がれている。
その時イリアは自分が花を握っていることに改めて気が付いた。
「あ…なんか…押し付けられた?的な?」
そう答えたイリアには特に返事もしないままカインは手を引いて人ごみを歩き始めた。
戸惑うイリアがカインの名を呼ぶがそれには答えないまま診療所まで戻ることになった。
「カイン…どうしたの?」
無言が怖い。
多分カインは怒っている。訳も分からない男と祭りに来たことも花を受け取ったことも。
謝ろうとイリアが口を開いた時だった。
謝罪の言葉を口にする前にすっとカインが手を伸ばしてくる。差し出されたのはピンクのガーベラが一本。
それをそっとイリアに握らせると、カインは転移装置へと消えて行った。
後に残されたイリアはどうしたらいいのか分からず、二本の花を見つめるのであった。
「あ、ごめんなさい」
「はぁ?」
ぶつかったのはいかにも柄が悪そうな男。
一言で言うならチンピラ風情の男だった。
薄っぺらいシャツをだらしなく着て、ぶかぶかのパンツを履いている。
チンピラがガンを飛ばしてきて、その鋭い視線とぶつかったが、イリアを認めた瞬間その表情がいびつに歪んだ。
「おい、あんた。一人?」
「え?いえ、連れがいますけど」
「でも一人じゃん。アンタも一人で寂しーだろ?オレと遊ばない?」
「いえ、結構です。ぶつかってすみません。では」
こういう輩とまともに取り合っても仕方がない。イリアはチンピラに小さく頭を下げてその横を通り過ぎようとした。
だが、チンピラがイリアの二の腕をガチリと掴んだのでイリアはたたらを踏んでしまう。
「離してください」
「透かした態度してんじゃねーよ。いいから付き合えよ」
「ちょっと、離して!」
今日は最悪だ。
ナンパ目的の相手とのこのこ祭りに来てしまっただけでなく、またナンパされてトラブルに遭うなんて。
なにか呪いでも受けているのだろうか?
「いい加減にしないと…ぶちのめすわよ」
「え…」
度重なる不運でイリアは少々切れ気味にそう言うと、チンピラに掴まれていないほうの拳に気をため始めた。
多少周囲に迷惑を書けるかもしれないが腹の虫が治まらない。
イリアがそう思って気を放とうとした時、チンピラが急に地面にぶっ倒れた。
「え?なんで?」
「汚い手で彼女に触るな!」
見ればリオが男を足蹴にしている。
その様子をみてチンピラをリオがぶちのめしたことを理解した。
「さっさと消えろ」
そうドスの聞いた声でリオがチンピラを見降ろしながらいうと、チンピラは逃げるように去って行った。
「はぁ…間に合ってよかったです」
「一度ならず二度までも助けていただいてすみません」
「いえ。急にいなくなってしまったので慌てましたが…無事に見つかって良かったです」
リオの額にはうっすらと汗が滲んでおり、呼吸も少々乱れていることから、リオが必死になって探してくれていたことが窺われた。
「探してくださったのですね」
「当たり前です。でもこうやって会えましたし…それに二人きりになれたので結果オーライです」
「あ…そうだ。それでですね、カインを見つけて帰ろうかと思います」
「急にどうしたんですか?あ、もしやお疲れになりましたか?ならばどこかの店に入りましょうか?」
そっとイリアの手を握りながら、悪びれもなく言ってくるリオにイリアはちょっと胡散臭いものを見る目になってしまった。
これがナンパの常套手口か。
さっきのチンピラは明らかなナンパで絶対警戒する感じだが、この男だとなまじ爽やか好青年に見えるので、普通の女なら警戒心が薄くなるのかもしれない。
ここははっきり言った方がいいだろう。
イリアは握られているリオの手をやんわりと外した後、背筋を伸ばして居住まいを直してリオに向かって言った。
「このお祭りのことを知らないで一緒に来てしまった私も悪いのですが、戯れのお相手にはなれないので失礼します」
「戯れ…?」
「では、私はカインを探しますので」
イリアは小さく会釈をして踵を返し、雑踏の中のカインを探そうと足を踏み出した。
「ちょ…ちょっと待ってください!」
肩をぎゅっと掴まれ、リオの方に回転させられる。
少しかがんだリオの顔がイリアの目の前に迫り、驚きのあまり一瞬息が止まった。
リオはというと焦ったような泣きそうな、そんな複雑な表情でこちらを見た。
空色の瞳がイリアを捕えるので、思わず足を止めてその顔をじっと見つめてしまう。
「それは…僕が戯れに誘ったと思っているんですか!」
「先ほどお店の方にこの祭りは〝恋人になりたい異性と来る〟と聞いたのですが、リオさんとは会ったばかりですしそういう意味ではお誘いくださったわけではないですよね?リオさんなら引く手あまたでしょうし、私みたいなのを相手にしなくても良いかと。それに私も女性をナンパするような方と一緒にいたいと思わないので」
「ち、違います!僕はそんな不純な動機で誘ったわけじゃないんだ!いや…不純というか、とにかく戯れとかナンパで誘ったわけじゃないんだ!」
若干リオの口調が変わったような気もしたが、多分こちらが素なのかもしれない。
最初は穏便にことを終わらせようとしたイリアだったが、だんだん面倒になってきて、思わず強い口調で言ってしまう。
「では何が目的ですか?残念ながら財産はないですよ?」
「…結婚してください!」
「!?」
言葉の意味が分からずイリアはぽかんと口を開けてしまった。
そして脳内でその言葉の意味を反芻した。
(結婚…結婚?えっ)
「結婚!?いや、私の話聞いてました?財産なんてないですよ?なんでそうなるんですか?」
「貴女のことが好きなんです!」
「いやいやいや、まだお会いしたの二回目ですよ?どこをどうしたらそうなるんです?!」
「…一目惚れだったんです!」
リオは顔を真っ赤にしてそう告白してくる。
その様子から揶揄っているようには見えない。
その後リオは何かに思い立ったかのようにはっとして言った。
「まさか!好きな人がいるんですか!?」
「いえ、そういった人はいないですけど…」
「じゃあ結婚してもいいってことですよね?」
「どうしてそうなるんですか!?」
「じゃあどうしたら結婚してくれるんですか!?」
「どうしたらって…一般的にはお互い好きになったら結婚を考えるのが普通じゃないでしょうか?」
「なるほど…」
何故かしばし考え込んだリオに納得してくれたのだとイリアは安堵した。
丁度前方から聞き馴染みのある声がしてイリアはそちらを見た。
人ごみをかきわけるようにしてカインがこちらへやって来る。
「…もう時間切れか…」
「え?」
「じゃあ結婚しましょう!」
「だからなにが〝じゃあ〟なんですか?」
「貴女に僕を好きなってもらいます!」
「は?」
「次に会うときには絶対に好きになってもらいますから!これ、バラです!」
「えっ?」
戸惑っているうちにリオに押し付けられるように一輪の青いバラの花を握らされる。
「すみません。せっかく二人きりになれたのに…もう時間が来てしまったんです。じゃあ、また!」
「ちょ、ちょっと!!」
リオは深々と礼をするとマントを翻して人ごみに紛れていく。
戸惑いながらもイリアはリオを目で追っていると、リオの知り合いらしい男がリオと話ながら歩いていくのが見えた。
リオの知り合いと思われる男が不意にこちらを見た。群青の長い髪を持つその男は、前髪だけが白く、それに対比するように双眸が赤い。
その視線に意味深なものを感じて一瞬戸惑いを覚えていたイリアだったが、名前を呼ばれてそちらに意識を向けた。
「心配したぞ」
「あ…か、カイン」
「リオは?」
「ちょうど入れ違いに帰っちゃった」
「はぁ?お前を置いていなくなったのか?」
「お知り合いが来たみたい」
「こんな人ごみにお前ひとりを置いておくなんて、やっぱり信用ない男だったな…って、なんだその花!?」
カインの視線がイリアの手に注がれている。
その時イリアは自分が花を握っていることに改めて気が付いた。
「あ…なんか…押し付けられた?的な?」
そう答えたイリアには特に返事もしないままカインは手を引いて人ごみを歩き始めた。
戸惑うイリアがカインの名を呼ぶがそれには答えないまま診療所まで戻ることになった。
「カイン…どうしたの?」
無言が怖い。
多分カインは怒っている。訳も分からない男と祭りに来たことも花を受け取ったことも。
謝ろうとイリアが口を開いた時だった。
謝罪の言葉を口にする前にすっとカインが手を伸ばしてくる。差し出されたのはピンクのガーベラが一本。
それをそっとイリアに握らせると、カインは転移装置へと消えて行った。
後に残されたイリアはどうしたらいいのか分からず、二本の花を見つめるのであった。
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