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目覚めた魔法の力 改

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「今日は頭が痛いです」「足を挫いたみたいで……」「熱っぽいのです……」

あれから一週間も置かないで王宮からのお茶会の招待状がひっきりなしに来ている。

レオナードは最初はイリアの頼みとあって断ってくれていたが、最近では国王からの圧力が強くなっているようだ。

もちろん父から直接的に言われたわけではないが、そのような雰囲気はイリアにも伝わってきた。
だがそれよりもイリアがそこまで茶会の出席を拒む理由に心当たりがなく戸惑っているようだった。

ある日、部屋に来たレオナードはとうとうイリアに尋ねてきた。

「イリア……まさか!! 本当に具合が悪いのかい?」
「……えっと……その……まぁ……」

仮病ではあるが、健康であることを伝えてしまっては茶会に出席しない理由を話さなければならない。
誤魔化すように明後日の方を見ていうイリアを見たレオナードは真っ青になって大声で叫んだ!

「誰か!! この国一番の医者を!! イリアが重病かもしれない!!」
「あ!! いえ、父様!! その…」
「だってそんなに具合が悪いなんて……イリア、動かない方がいい! 今、医者を呼ぶから!」

レオナードは国王の影の片腕と噂される程のキレ者らしいのだが、いかんせん子煩悩で過保護すぎるきらいがある。そして突っ走る傾向がある。

そんな慌てふためくレオナードの声を聞きつけ、イリアの部屋にやってきたのは母のライラだ。
ライラは冷静にレオナードに言った。

「レオナード、落ち着け」
「でも!! こうしている間にでもイリアの病気が悪化したら!!」
「気の乱れを見てみろ。そこまでの乱れではない」
「そんなこと言ったって、私達だって気の流れを全て読むことはできないんだよ!!」
「はぁ。お前は少し席を外せ。あぁ、皆も医者は呼ばなくていい。最悪は気功でなんとかする」

食い下がるレオナードを半ば強引に部屋から締め出して、今度はライラがイリアに向き合った。
全てを見透かすような切れ長の目から覗くイリアと同じ色の瞳が自分を捉えた。

「最近のお前は確かにおかしい。前回、城でのお茶会からだ。何かあったか?」

その言葉にイリアはぎくりと肩を揺らした。
何かと言われても前世の記憶が蘇り、断罪される運命だなどといくらなんでも言えない。

当事者である自分でさえ最初は夢であると思ったのだ。
真実を伝えてしまえば頭のおかしい子供だとして本当に医者を呼ばれてしまう。

「……」

しばしの沈黙が部屋を支配した。
だが頑として何も言わないイリアにライラもこれ以上は無駄だと判断したようで、小さくため息をついた。

「お前にも事情はあるのかもしれないな。少し気分転換でもするといい」

そう言ってライラは部屋から出ていった。
確かにこのままずっと王家からの誘いを断り続けるのは難しいだろう。
逃げるための理由や方法を探さなくては。

とはいうものの、これといって考えは思いつかない。

「確かに……部屋に籠ってても仕方ないしなぁ。……街に行って気分転換しようかな」

そう思い立ったイリアは部屋をこっそり抜け出すことにした。

使用人や両親に言えば止められる上、具合が悪いと思っている父に見つかれば絶対に外に出してはくれないだろう。

実は裏庭に小さな抜け穴があり、イリアはたまにお忍びで外に行く事があった。
今回もそれを使おうと考え、庭へと向かった。

トリステン家の庭は広く、使用人に見つかることはないだろうがイリアは念のため足早に進む。

草木に隠れるようにしてあった抜け穴にまであと少しでたどり着くと思ったところで急に茂みが動いた。

「だれ?!」

使用人にバレたのかと身を固くして振り返るとそこにいたのは一匹の犬だった。

「……犬?」
「わん!」

犬はイリアを見つけると一目散にやってきて飛び掛かってきたので、イリアは驚いて後ろに倒れて尻餅をついた。

「わんわん!!」
「あなた、どこから入ってきたの?」
「わん!」
「しーーー! 静かにして!」
「きゅうん?」

イリアの家では犬は飼っていない。ということは、迷い込んだ可能性が高い。

「仕方ないわ。わんちゃん、外まで連れて行ってあげる。一緒においで」

イリアがそう告げると、犬は嬉しそうに一鳴きしてイリアの後をついて庭から抜け出した。

ガイザール国の王都は繁栄している。治安もそんなに悪い方ではない。
だからイリアは安心して行きつけのケーキ屋へと向かった。

そしてなぜかイリアの脇を先ほどの犬がついて歩いてくる。

青の混ざった銀の毛並みという珍しい毛色の犬は、尻尾を振りながら意気揚々歩き、なぜかとても楽しそうに見えた。

「ねえ、わんちゃん。飼い主のところにお戻り」
「キューン」
「うーん、じゃあ一緒に来る?」
「わん!」

「……ふふふ、なんかお前、私の言葉がわかるみたいね。とりあえずケーキ屋に行くからね。私、ケーキも好きなんだけどマカロンが大好きなの!」
「わんわん!!」

こうしてイリアは犬と連れ立って道を歩いていく。

石畳の道をせわしなく人が歩き、綺麗な馬車がぱかぱかと蹄の音を鳴らしながらイリアの横を通り過ぎていった。
平和そのものだ。

「きゃーーー!!」
「火事だ!!」

急に聞こえてきた悲鳴にイリアは思わず足を止めた。眼前には人の波。
その先には大好きなケーキ屋が燃えているではないか。

「えっ、火事?!」

イリアは急いで駆け寄ると、ケーキ屋のおばさんが店の前で右往左往している。

「おばさん!! 大丈夫?! 火傷してない?」
「あぁ、お嬢様。わたしは大丈夫なんですけど……中に子供が!!」
「えっ!?」

驚いていると、さらに群衆から声が聞こえた。

「消防魔術師は何をしている?!」
「それが…今日は魔法具の点検をしているとかで来るのが遅れるらしい」

それを聞いたケーキ屋のおばさんがイリアの横で崩れ落ちるようにしゃがみ込み、悲痛な叫びをあげた。

「あぁ……もう……ダメだわ……うぅっ、うっ」

(魔法……水魔法が使えれば!火を消せるのに!)

どうすれば……。イリアは考えを巡らせ、その時思ったのだ。

トリステン家は気功の使い手だ。これは自然の気を読み取り操る技である。
ならば自然の気を読み取れば何かできるのではないかと。

(水……空気中の水を集めれば……)

そうしてイリアは手をかざして念じた。
空気中の水を集めるイメージをして。

「そして放つ!!」

するとイリアの手から水が本流となり炎へと向かっていった。
放たれた光が収まり、視界がクリアになると、目の前の火が完全に鎮火していた。

これには周りも呆気にとらわれている。

そうこうしているうちに遅くなっていた消防魔術隊が到着した。
ケーキ屋のおばさんが今起こった事を説明してくれると、消防魔術師が驚いた表情を浮かべてイリアに告げた。

「お嬢さん、君は魔法使いなの?」
「えっ?!」
「さっきのは魔法だと思うよ」
「魔法……」

確かにこの世界には魔法は存在しているが一部に限られた人間の能力だ。
水魔法を使える消防魔術師でさえ魔法具を使わなくては火を消せない。

(もしかして……)

イリアは思い至った。
自分は魔法が使える。
しかも昔聞いた話では魔法を使うためにはその能力の他に自然の理を知ってなくてはならないと。

自然の理……。
それならば前世で専攻していた地学の知識を持つ自分なら様々な魔法が使えるのでは…と。

地学というと地層や岩石の学問だと思われがちだが、自然科学全般の学問である。
防災や気象学、天文分野、資源採掘なども地学の分野に入るのだ。

(もう少し魔法について調べた方がいいかもしれないわ)

イリアは慌てて魔法関連の本を購入すると屋敷へと戻った。
この魔法の力があれば例えば国外追放になったとしても生きていける。

そう考えついて屋敷に戻ったイリアを待ち受けていたのは…エリオット王子からの婚約の申込みだった。
いや、婚約の申込みではなく、もう王命での決定通知だったのだ。

「う、うそでしょ!?」

両親に告げられた事実にイリアは愕然とし、その場に立ち尽くした。
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