死にたくないので私を嫌う侯爵様と結婚しましたが実は溺愛されていたようです

イトカワジンカイ

文字の大きさ
上 下
7 / 10

デートみたいなお出かけ②

しおりを挟む
そう言って連れられるまま林道を進むと開けた草原に出て、そこにぽっかりと湖が出現した。
ライオネスは徐にハンカチを取り出して草の上に敷いた。

「座ってくれ」
「では失礼して」

エアリスが腰を下ろすとその隣にライオネスも座った。
肩が触れそうな距離になんとなく落ち着かなくなる。


「寒くないか」
「はい、大丈夫です。あの…何かお話でもあるのでしょうか?」
「見せたいものがある。空を見ていてくれ」

言われて空を眺める。
空と言っても暗闇が広がるだけだ。

それが何なのかと思って見ていると突然目の空が煌めき始めた。
小さな光がいくつも現れる。

「うわぁ星!魔界でも見えるのですね」
「驚くのはまだだ」

その言葉から直ぐの事だった。
輝く星々の間を縫うように星屑を振りまく様に星が流れた。

最初は一つ、二つ、そう思っている間に次々と流れ星が瞬間の輝きを放って行った。

空を反射した湖面にもいっぱいの星と流星が映り、エアリスの視界にも広がった。

その神秘的で美しい光景に言葉を発することも忘れて見入っていた。

(あの時みたい…)

この光景はエアリスに一つの記憶を呼び起こした。

たったひと夏の出会いだった。
エアリスがまだ10歳も行かないくらいの時、避暑のために別荘に行った。

その時、一匹の狼と出会った。
銀の毛に金の瞳の狼は人語を喋った。

夏の日を共に過ごし、別れる最後の日に流星群を見た。
そしていつかまた会おうと言って別れ、それ以降一度も会うことは無かった。

あの狼も自分を魔物だと語った。ならば魔界を探せば会えるだろうか。

「何を考えてる?」

「子供の頃、こうやって湖畔で流星群を見たことを思い出したんです。あ、もちろん人間界でですよ。実はその時魔界の狼と仲良くなって、ずっと遊んでて。その子と流星を見て、別れたんです」

「よくそんな昔の事を覚えてるものだな」
「だって、とても素敵な思い出ですからね。それに約束を…あ。なんでもないです」
「そうか」

その約束は大人になって考えると少々恥ずかしい物でもあるので、エアリスは言葉を濁したのだが、ライオネスはそれには気づかないのかふっと小さく笑った気がした。

もっとも暗がりでは表情はよく見えなかったが。

「さて、風も冷たくなる。そろそろ帰るか」
「はい。明日も仕事ですしね。よいっしょ…っ!?」

エアリスはライオネスに促されて立とうとしたのだが足に力が入らずそのまま尻餅をついてしまった。

(は、恥ずかしい)

「掴まるといい」
「ありがとうございます。…あっ!?」

差し出された手を掴むとぐっと引き上げられた。
その力はエアリスが思うよりもずっと強く、勢い余ってそのままばライオネスの胸に収まっていた。

突然のことで一瞬頭が真っ白になる。

直ぐに体を離さなければ。

そう思って身を引こうとしたエアリスの体をぐっとライオネスが引き寄せる。
力強い腕がエアリスを抱きしめていた。

「エアリス…」

掠れた声がエアリスの耳元で囁き、熱い吐息が耳朶に触れる。
まるでエアリスを求めるように名を呼ばれ、エアリスの心臓が跳ねた。

「ありがとう。俺も君の事を…」
「え?」

ライオネスの言葉の最後は聞こえなかった。

ただ自分を抱く腕の力と、抱きしめる手の温かさ、そしてライオネスの鼓動がエアリスに伝わってきて、そのまま暫く動くことができなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を目指して

haruhana
恋愛
伯爵令嬢リーナには、幼い頃に親同士が決めた婚約者アレンがいる。美しいアレンはシスコンなのか?と疑わしいほど溺愛する血の繋がらない妹エリーヌがいて、いつもデートを邪魔され、どっちが婚約者なんだかと思うほどのイチャイチャぶりに、私の立場って一体?と悩み、婚約破棄したいなぁと思い始めるのでした。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

【完結】真実の愛はおいしいですか?

ゆうぎり
恋愛
とある国では初代王が妖精の女王と作り上げたのが国の成り立ちだと言い伝えられてきました。 稀に幼い貴族の娘は妖精を見ることができるといいます。 王族の婚約者には妖精たちが見えている者がなる決まりがありました。 お姉様は幼い頃妖精たちが見えていたので王子様の婚約者でした。 でも、今は大きくなったので見えません。 ―――そんな国の妖精たちと貴族の女の子と家族の物語 ※童話として書いています。 ※「婚約破棄」の内容が入るとカテゴリーエラーになってしまう為童話→恋愛に変更しています。

二人ともに愛している? ふざけているのですか?

ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」  婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。  馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。 「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」 「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」 「それは……大変ですね」  気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。    エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。 「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」 「そうだよ」 「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」  うん。  デレクは、姿勢をぴんと正した。 「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」 「はい」 「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」  エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。 「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」  違うよ。  デレクは笑った。 「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

処理中です...