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デートみたいなお出かけ①
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魔界は常に夜である。
日の光は一切入っては来ず、空は漆黒の闇が天空を覆い赤黒い雲が流れるだけである。
だが魔界と言えども住んでいる者たちはいて、驚いたことに人間と同じような生活をしていた。
もちろん街もあるし店も軒を連ねている。
頭が3つ付いた馬が引く馬車や行き交う人が人外であることを除けば至って普通の夜の街だ。
店のショーウィンドウから洩れる灯りに照らされた石畳をエアリスはライオネスと共に歩いていた。
彼が折角だから街を見て見ないかと誘ってくれたのだ。
(だけどさっきから無言なのよね…)
ライオネスの顔は辛うじて眉間の皺はないが表情は強張っている。
何か話そうと話題を考えるがそもそもライオネスとは仕事上の繋がりだけで共通の話題はない。
(まぁいいわ。せっかくだからお店見ていましょ)
店頭を見れば勝手に掃除をしてくれる箒や空中に浮くランプといった便利グッツが売っている一方で普通のドレスや宝飾品なども売っていて、見ているだけでも十分楽しい物だった。
その時ふと気づいた。
背が高く足の長いライオネスとは歩幅は合わないはずだ。
しかもエアリスはきょろきょろと店を眺めているせいで、歩調はいつもよりもゆっくりだった。
なのにライオネスはずっと隣で歩いてくれている。
(歩調、合わせてくれてる)
その気遣いに心が温かくなる。
「気になるものがあるなら言ってくれ。君が欲しいものを買ってやりたい」
「買ってもらうなんてできません。見ているだけでも十分楽しいですから」
「そうか」
再び会話が途切れる。
だが、直ぐにライオネスが口を開いた。
「先ほどは何を見ていたんだ?」
「え?あぁ自動で書いてくれるペンです」
「確かにアレは便利だ。人間界で使えないのが残念だよ」
「ふふふ、人間界で使ったらみんなびっくりしてしまいますものね」
そこからは店を眺めながら会話が続いた。
エアリスが興味を持ったものをライオネスが説明してくれたり、それにまつわるエピソードなども話してくれた。
例えば中身を全部食べてしまうゴミ箱に徹夜して作った書類を入れてしまって絶望した話や常に酒が満杯になるコップを使って友人と飲み比べしたなどを話してくれ、それらのエピソードからライオネスの人となりが垣間見えてそれを知れることが嬉しかった。
そして何よりもライオネスは話ながら時に怒ったように、時に呆れたように様々な表情を見せてくれるのが一番嬉しかった。
(なんか…凄く楽しい)
エアリスもまた自分の話をするとライオネスは興味深く話を聞いてくれた。
先程のぎすぎすした雰囲気が嘘の様に無くなっていた。
「それで後輩がですね…わっ!」
「大丈夫か」
「は、はい」
熱弁していたエアリスは石畳の段差に躓いて転びそうになったのを、ライオネスが慌ててエアリスの手を掴んで止めてくれた。
「転ばなくて良かった。…あぁ、そう言えば君に渡したいものがあったんだ」
(あ…手)
そのまま手を引くようにして目的の店まで歩き出す。
ライオネスはその後もエアリスの手を離すことはなかった。
それは意識してなのか、はたまた無意識なのか。
エアリスには分からなかったがむしろエアリスの方が離れがたいと思ってその手を解くことはしなかった。
大きな掌から伝わる熱に意識が向いてしまう。エアリスの指を包むように握る指は長く、だが少しゴツゴツとしていた。
きつくもなく緩くもなく繋がれた手。
そのまま手を繋いで歩くと、一軒の店へと辿り着いた。
「ここだ」
扉を開ける時、するりと繋いでいた手を離されてしまう。
それまで感じていた熱が失われて思わずそれが残念だと思ってしまった。
「ジュエリーショップですか?」
「ああ。君に渡したいものがあるんだ。…ああ君、ライオネス・ヴェルナーだが頼んでたものをくれ」
「はい、かしこまりました…こちらですね」
店員が白のリングピローに乗せて2つの指輪を持ってきた。
ゴールドのアームには捻りが加えられていて、流れる水のように見える。
その間に小さなダイアが散りばめられていた。
「綺麗ですね」
「気に入ったか?」
「気に入った…ってもしかして私にですか?」
「ああ」
突然の事で嬉しいとかよりも戸惑いがあった。
ペアリング…これは結婚指輪という事だろうか?
その考えが顔に出ていたのだろう。
ライオネスが慌てたような声を上げた。
「いや、他意はないんだ。決して結婚指輪だというわけではないんだが!いや、あるんだが…」
「?」
「とにかく、何かあればこの指輪に念じてくれ。すぐに君の元に駆けつけることができる。私の妻になったとは言え人間が魔界にいれば危ない目に遭うかもしれないからな」
嫌いな人間にわざわざ意味深に指輪を贈るだろうかと思ったのだが、確かに指輪であれば身に着けやすいし不自然ではない。
そういう事情で作ってくれたのだろう。
「なるほど。ありがとうございます!嬉しいです」
「嬉しいのか?」
「はい、男性からこんな素敵な贈り物もらった事ないので」
元婚約者のスタインからはまともに贈り物をもらったことなどない。
「そうか。その、手を…」
「あ、はい!」
促されて手を差し出せば儀式のように恭しく手を取られ、ゆっくりと指を滑るようにして指輪が進む。
それを息を止めて見つめてしまった。
やがてピッタリと指に収まった指輪を見ていると、不意に小さく笑う声がして顔を上げるとライオネスが嬉しそうに微笑んでいた。
だが、エアリスと目が合うと小さく咳払いをして、再び厳しい表情になってしまった。
(…今の笑顔は幻覚?)
「それで、もう一箇所行きたいところがあるんだ。付き合ってくれるか」
「もちろんです」
日の光は一切入っては来ず、空は漆黒の闇が天空を覆い赤黒い雲が流れるだけである。
だが魔界と言えども住んでいる者たちはいて、驚いたことに人間と同じような生活をしていた。
もちろん街もあるし店も軒を連ねている。
頭が3つ付いた馬が引く馬車や行き交う人が人外であることを除けば至って普通の夜の街だ。
店のショーウィンドウから洩れる灯りに照らされた石畳をエアリスはライオネスと共に歩いていた。
彼が折角だから街を見て見ないかと誘ってくれたのだ。
(だけどさっきから無言なのよね…)
ライオネスの顔は辛うじて眉間の皺はないが表情は強張っている。
何か話そうと話題を考えるがそもそもライオネスとは仕事上の繋がりだけで共通の話題はない。
(まぁいいわ。せっかくだからお店見ていましょ)
店頭を見れば勝手に掃除をしてくれる箒や空中に浮くランプといった便利グッツが売っている一方で普通のドレスや宝飾品なども売っていて、見ているだけでも十分楽しい物だった。
その時ふと気づいた。
背が高く足の長いライオネスとは歩幅は合わないはずだ。
しかもエアリスはきょろきょろと店を眺めているせいで、歩調はいつもよりもゆっくりだった。
なのにライオネスはずっと隣で歩いてくれている。
(歩調、合わせてくれてる)
その気遣いに心が温かくなる。
「気になるものがあるなら言ってくれ。君が欲しいものを買ってやりたい」
「買ってもらうなんてできません。見ているだけでも十分楽しいですから」
「そうか」
再び会話が途切れる。
だが、直ぐにライオネスが口を開いた。
「先ほどは何を見ていたんだ?」
「え?あぁ自動で書いてくれるペンです」
「確かにアレは便利だ。人間界で使えないのが残念だよ」
「ふふふ、人間界で使ったらみんなびっくりしてしまいますものね」
そこからは店を眺めながら会話が続いた。
エアリスが興味を持ったものをライオネスが説明してくれたり、それにまつわるエピソードなども話してくれた。
例えば中身を全部食べてしまうゴミ箱に徹夜して作った書類を入れてしまって絶望した話や常に酒が満杯になるコップを使って友人と飲み比べしたなどを話してくれ、それらのエピソードからライオネスの人となりが垣間見えてそれを知れることが嬉しかった。
そして何よりもライオネスは話ながら時に怒ったように、時に呆れたように様々な表情を見せてくれるのが一番嬉しかった。
(なんか…凄く楽しい)
エアリスもまた自分の話をするとライオネスは興味深く話を聞いてくれた。
先程のぎすぎすした雰囲気が嘘の様に無くなっていた。
「それで後輩がですね…わっ!」
「大丈夫か」
「は、はい」
熱弁していたエアリスは石畳の段差に躓いて転びそうになったのを、ライオネスが慌ててエアリスの手を掴んで止めてくれた。
「転ばなくて良かった。…あぁ、そう言えば君に渡したいものがあったんだ」
(あ…手)
そのまま手を引くようにして目的の店まで歩き出す。
ライオネスはその後もエアリスの手を離すことはなかった。
それは意識してなのか、はたまた無意識なのか。
エアリスには分からなかったがむしろエアリスの方が離れがたいと思ってその手を解くことはしなかった。
大きな掌から伝わる熱に意識が向いてしまう。エアリスの指を包むように握る指は長く、だが少しゴツゴツとしていた。
きつくもなく緩くもなく繋がれた手。
そのまま手を繋いで歩くと、一軒の店へと辿り着いた。
「ここだ」
扉を開ける時、するりと繋いでいた手を離されてしまう。
それまで感じていた熱が失われて思わずそれが残念だと思ってしまった。
「ジュエリーショップですか?」
「ああ。君に渡したいものがあるんだ。…ああ君、ライオネス・ヴェルナーだが頼んでたものをくれ」
「はい、かしこまりました…こちらですね」
店員が白のリングピローに乗せて2つの指輪を持ってきた。
ゴールドのアームには捻りが加えられていて、流れる水のように見える。
その間に小さなダイアが散りばめられていた。
「綺麗ですね」
「気に入ったか?」
「気に入った…ってもしかして私にですか?」
「ああ」
突然の事で嬉しいとかよりも戸惑いがあった。
ペアリング…これは結婚指輪という事だろうか?
その考えが顔に出ていたのだろう。
ライオネスが慌てたような声を上げた。
「いや、他意はないんだ。決して結婚指輪だというわけではないんだが!いや、あるんだが…」
「?」
「とにかく、何かあればこの指輪に念じてくれ。すぐに君の元に駆けつけることができる。私の妻になったとは言え人間が魔界にいれば危ない目に遭うかもしれないからな」
嫌いな人間にわざわざ意味深に指輪を贈るだろうかと思ったのだが、確かに指輪であれば身に着けやすいし不自然ではない。
そういう事情で作ってくれたのだろう。
「なるほど。ありがとうございます!嬉しいです」
「嬉しいのか?」
「はい、男性からこんな素敵な贈り物もらった事ないので」
元婚約者のスタインからはまともに贈り物をもらったことなどない。
「そうか。その、手を…」
「あ、はい!」
促されて手を差し出せば儀式のように恭しく手を取られ、ゆっくりと指を滑るようにして指輪が進む。
それを息を止めて見つめてしまった。
やがてピッタリと指に収まった指輪を見ていると、不意に小さく笑う声がして顔を上げるとライオネスが嬉しそうに微笑んでいた。
だが、エアリスと目が合うと小さく咳払いをして、再び厳しい表情になってしまった。
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