死にたくないので私を嫌う侯爵様と結婚しましたが実は溺愛されていたようです

イトカワジンカイ

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結婚することになりました①

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―嘘
―聞きたくない
―知りたくない

だけど否応なくエアリスの耳に入って来るのは婚約者であるスタインの言葉だ。

「愛してるよ」
「私もよ」

そう言いながらスタインは王城の廊下で見も知らぬ令嬢とキスを交わしているのをエアリスは呆然と見ていた。

それは本当にたまたまだったのだ。
廊下でスタインを見つけたエアリスは明日行われる夜会について話がしたくて追いかけた。
そして物陰に入って行ったスタインは女性と抱き合いキスを交わしていた。

不意に女性がこちらを見て何かに気づく素振りをすると、それに反応するようにスタインも振り向いた。

「エ、エアリス!」
「スタイン、どういうこと?」

驚くスタインにエアリスは鋭い声を上げた。
だがそれはどこか冷静さも感じさせ、ひんやりとした口調になっていた。

「こ、これは…その」

最初は弁解を試みようとしたスタインであったが、すぐに何かを思い直したようで、嘲笑う表情を浮かべた。

「はぁ。お前みたいな地味で色気もない女と結婚してずっと一緒とか考えられないな。…大体女のくせに官吏になるなんて生意気なんだ。ずっと我慢していたけどいい機会だ、はっきり言う。婚約は無かったことにしてもらう。じゃ」

スタインはそう一方的に言うとエアリスの前を素通りして女性と共に去って行った。

エアリスはスタインを追いかけることもせずただ立ち尽くしていた。
衝撃のあまり停止していた思考を再度動かす。

浮気の挙句、婚約破棄されたことだけは分かった。

これまでもその片鱗はあったのだ。
最近デートに誘っても断られてばかりだったし、手紙を送っても返事も無かった。

スタインも忙しいのかと思っていたのだが、風の噂で侯爵令嬢と親密になっていると聞こえてきた。
だがそんなのは根拠のない噂だと思っていたのに、こうやって事実を突きつけられた。

(はぁ…婚約破棄かぁ)

結婚してから浮気しまくられるよりはマシだが、すでにエアリスは19を過ぎている。もう行き遅れの部類なのだ。これから先結婚は望めないだろう。

(まぁいいわ。仕事に生きることにする…)

そう思ってもやっぱりショックは隠せない。
ふと視線を下に向ければ水がぽたぽた落ちているのが見えた。

自分が思っていたよりも、自分はスタインの事を好きだったようだ。その証拠に心が痛い。ずきずきと心臓にナイフを刺されたような痛さに涙が止まらなくなった。

だが現実は変えられない。
エアリスは婚約破棄を受け入れることにして、ぐっと涙を拭うと、元来た道を戻った。
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