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藤の花の季節に君を想う
孔子の言葉③
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◆ ◆ ◆
約束通り18時きっかりに高遠が陰陽寮にやってきた。
あまり陰陽寮などに近づかないはずの右近少将が来たことで暁達は先輩陰陽師達の視線を浴びることになった。
「暁君、吉平君、迎えに来たよ」
「あ…アリガトウゴザイマス」
「高遠様、朝はありがとうございました」
「いや、いいんだよ。じゃあ、さっそく行こうか。屋敷には美味しいものを用意するように言ってらうから楽しみにして漏れると嬉しいな」
珍しい食べ物という言葉に暁は内心小躍りした。昨日は節約ということでやっぱり麦飯とお漬物だけだったからだ。かろうじて具沢山のあら汁が出たのは救いだったが。
「そんなに嬉しそうな顔をしてもらえると嬉しいよ。暁君にはもっと食べて太ってもらった方がいいと思うし」
「…。それは…私が貧乏ということでしょうか?」
「質素な生活だとは思っているけど、私も贅沢が好きなわけではないし。それよりも成長期の君がそんなに痩せてては大変だとおもってね、色々と。」
ニコニコと満面の笑みを浮かべている高遠の笑顔の裏に何かあるような気もしている。特に語尾の"色々と"の部分に入る言葉には何か意味があるような気もするが、思いつかないので深く考えないようにしようと思考を切り替えた。
じゃあ行こうと高遠に促されて屋敷まで牛車に乗って連れて行ってもらう。
正直牛車が不要なのではと思うほど宮中の近くの一等地だった。大きな屋敷だろうと暁と吉平は想像して緊張していたが、実際に門へといざなわれて屋敷に入ると意外にも屋敷自体はこじんまりとしたものだった。
土地は広く、庭は見事で季節ごとの植物が植えられているようで、今は菖蒲の花がほころび始めているという状況だった。
月明かりに照らされたそれは凛としていて美しく、満開になったらさぞや綺麗だろうと思って暁は眺めた。
ただ、屋敷自体は高遠と同じ身分の者と比較してはこじんまりとしているというだけであり、その広さは暁の屋敷よりも数倍大きく、また調度品は一級品ばかりであった。
「さぁ、ゆっくりしてくれていいよ」
「!!ありがとうございます」
「緊張しなくても。知らない仲の家ではないんだし。」
吉平が緊張して声が上ずっているのを聞いて高遠は苦笑しながら暁と吉平に座るように促すが、その声を聞きながらも思わずきょろきょろと見回してしまう。
吉平も緊張しているようだったが、暁もやっぱり大邸宅は緊張する。特に貴族とは縁のない生活を送っていた暁にとっては陰陽寮で働く以前のでは考えられない事態だった。
やがてふすまが空き、女房達が入ってきたので暁はそちらに顔を向けた。
白粉の淡い香り。着物に焚き染められた女らしい香に暁はドキドキしてしまう。同じ女なのにやはり別の生き物のように感じる。
「お館様、お料理をお持ちしました」
「ありがとう」
女房達は皆美しくて、ここの女房は顔の偏差値で採用しているのではと思うほどだった。さすがは…高遠が選ぶだけあるなぁと訳の分からない感心をしてしまう。
並べられた料理は高遠が宣言したように珍しいものばかりだった。
鯛を焼いたもの、鹿の肉、蛸の酢漬けなどなど。
思わず目が輝いているのを暁自身も気づいていたが、やっぱりご馳走を眺めるだけでも至福だった。
「お館様、今日はずいぶんと可愛い方たちをお連れになられましたね」
料理を運んだ多くの女房が部屋から下がったが、1人の女房が残り暁達の盃に酒を注ぎながら言った。
「最近知り合った友人たちだ。今は彼らとの仕事をしているんだよ」
「そうでしたか。何やら最近は楽しいご様子だったことが多いようでしたら、このような方たちとお仕事をなさっているからなんですね」
「まぁ、そうだね。いつもとは違う仕事だし、とても面白いよ」
「それはようございました。…さぁ、かわいい殿方、お酒をお召し上がりくださいませ」
暁は赤い漆の盃に酒が注がれるのを見ていると、視線を感じて顔を上げた。すると酌をしてくれている女房と目が合うと、じっと見つめられたのちに優しく微笑まれた。
「貴方が暁様ですね」
「…は、はい!」
「確かにずいぶん可愛いこと。お噂はかねがね。」
「噂!?」
「お館様がずいぶんご執心だとか。貞操だけはお守りくださいね」
「は?貞操!?」
貞操…とは、男として…だろうか?もちろんそうだとは思うのだが…
話がついていかず暁は目を白黒させていると高遠が呆れた声を女房にかけた
「暁君に変なことを言わないでおくれよ。ただでさえ警戒されているのに。」
「まぁ、それは私のせいではございませんわ。お館様がこの可愛い方をからかわれるからいけないのですわ」
ほほほと優雅に笑った後に、高遠は彼女も下がらせて暁達に向き直って食事を勧めた。
約束通り18時きっかりに高遠が陰陽寮にやってきた。
あまり陰陽寮などに近づかないはずの右近少将が来たことで暁達は先輩陰陽師達の視線を浴びることになった。
「暁君、吉平君、迎えに来たよ」
「あ…アリガトウゴザイマス」
「高遠様、朝はありがとうございました」
「いや、いいんだよ。じゃあ、さっそく行こうか。屋敷には美味しいものを用意するように言ってらうから楽しみにして漏れると嬉しいな」
珍しい食べ物という言葉に暁は内心小躍りした。昨日は節約ということでやっぱり麦飯とお漬物だけだったからだ。かろうじて具沢山のあら汁が出たのは救いだったが。
「そんなに嬉しそうな顔をしてもらえると嬉しいよ。暁君にはもっと食べて太ってもらった方がいいと思うし」
「…。それは…私が貧乏ということでしょうか?」
「質素な生活だとは思っているけど、私も贅沢が好きなわけではないし。それよりも成長期の君がそんなに痩せてては大変だとおもってね、色々と。」
ニコニコと満面の笑みを浮かべている高遠の笑顔の裏に何かあるような気もしている。特に語尾の"色々と"の部分に入る言葉には何か意味があるような気もするが、思いつかないので深く考えないようにしようと思考を切り替えた。
じゃあ行こうと高遠に促されて屋敷まで牛車に乗って連れて行ってもらう。
正直牛車が不要なのではと思うほど宮中の近くの一等地だった。大きな屋敷だろうと暁と吉平は想像して緊張していたが、実際に門へといざなわれて屋敷に入ると意外にも屋敷自体はこじんまりとしたものだった。
土地は広く、庭は見事で季節ごとの植物が植えられているようで、今は菖蒲の花がほころび始めているという状況だった。
月明かりに照らされたそれは凛としていて美しく、満開になったらさぞや綺麗だろうと思って暁は眺めた。
ただ、屋敷自体は高遠と同じ身分の者と比較してはこじんまりとしているというだけであり、その広さは暁の屋敷よりも数倍大きく、また調度品は一級品ばかりであった。
「さぁ、ゆっくりしてくれていいよ」
「!!ありがとうございます」
「緊張しなくても。知らない仲の家ではないんだし。」
吉平が緊張して声が上ずっているのを聞いて高遠は苦笑しながら暁と吉平に座るように促すが、その声を聞きながらも思わずきょろきょろと見回してしまう。
吉平も緊張しているようだったが、暁もやっぱり大邸宅は緊張する。特に貴族とは縁のない生活を送っていた暁にとっては陰陽寮で働く以前のでは考えられない事態だった。
やがてふすまが空き、女房達が入ってきたので暁はそちらに顔を向けた。
白粉の淡い香り。着物に焚き染められた女らしい香に暁はドキドキしてしまう。同じ女なのにやはり別の生き物のように感じる。
「お館様、お料理をお持ちしました」
「ありがとう」
女房達は皆美しくて、ここの女房は顔の偏差値で採用しているのではと思うほどだった。さすがは…高遠が選ぶだけあるなぁと訳の分からない感心をしてしまう。
並べられた料理は高遠が宣言したように珍しいものばかりだった。
鯛を焼いたもの、鹿の肉、蛸の酢漬けなどなど。
思わず目が輝いているのを暁自身も気づいていたが、やっぱりご馳走を眺めるだけでも至福だった。
「お館様、今日はずいぶんと可愛い方たちをお連れになられましたね」
料理を運んだ多くの女房が部屋から下がったが、1人の女房が残り暁達の盃に酒を注ぎながら言った。
「最近知り合った友人たちだ。今は彼らとの仕事をしているんだよ」
「そうでしたか。何やら最近は楽しいご様子だったことが多いようでしたら、このような方たちとお仕事をなさっているからなんですね」
「まぁ、そうだね。いつもとは違う仕事だし、とても面白いよ」
「それはようございました。…さぁ、かわいい殿方、お酒をお召し上がりくださいませ」
暁は赤い漆の盃に酒が注がれるのを見ていると、視線を感じて顔を上げた。すると酌をしてくれている女房と目が合うと、じっと見つめられたのちに優しく微笑まれた。
「貴方が暁様ですね」
「…は、はい!」
「確かにずいぶん可愛いこと。お噂はかねがね。」
「噂!?」
「お館様がずいぶんご執心だとか。貞操だけはお守りくださいね」
「は?貞操!?」
貞操…とは、男として…だろうか?もちろんそうだとは思うのだが…
話がついていかず暁は目を白黒させていると高遠が呆れた声を女房にかけた
「暁君に変なことを言わないでおくれよ。ただでさえ警戒されているのに。」
「まぁ、それは私のせいではございませんわ。お館様がこの可愛い方をからかわれるからいけないのですわ」
ほほほと優雅に笑った後に、高遠は彼女も下がらせて暁達に向き直って食事を勧めた。
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