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藤の花の季節に君を想う
苦手な人物たち②
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それは暁が疑問に思っていることだった。何度かそれを考えたがイマイチ分からない。
女であることがバレるかもしれない危険(リスク)を冒してまで、なぜ光義は暁を陰陽寮に引き入れたのか。
考え込んでいると、金烏は暁のつややかな髪をガシガシと乱暴に撫でて笑った。
「ちょっと…!!金烏何するの?」
「ま、あれだ。答えは自分で考えるこったな。それよりこの手紙、影平に届ければいいなんだな?」
「もちろん人間の姿になってね」
「あぁ分かってる。じゃあ、ちょっくら行ってくる」
「お願い。」
立ち上がり部屋を出ていこうとした金烏は振り向きざま暁を見る。
(今回の陰陽師見習いで何か変わるといいんだけどな)
たぶん光義が陰陽師見習いとして陰陽寮に引き込んだ目的の一つは暁が人というものに向き合うこと。もっと言えば自分の気持ちをさらけ出せる人間を作ることだと考えれる。
子供の頃の経験から人間との関りが最低限であり同世代の友人が皆無な暁に、もっと信頼できる人間を作りたかったのだろう。
それによって暁の世界はきっともっと色ずくはず。この世に執着も出てくるというものだろう。
そんなことを考えながら金烏は飛び上がった。すぐに背には漆黒の羽が顕現して夜空を翔る。影平の屋敷に着いたら人間の姿を取ればいいことだ。それに今は闇に紛れて人の判別もつかないだろう。
目撃される可能性は非常に低い。
金烏はばさりと羽をはばたかせて、影平の屋敷を目指した。
一方金烏を見送った暁は夕餉を取ることにした。さすがに一日仕事に集中していたためお腹がすいてきた。
さすがに今日はおかゆは嫌だなぁと考えていると夕餉の準備を終えた玉兎が膳を運んでくれた。
みればちゃんとした白米だった。それから雑魚だけど焼き魚がつき、具が入ったお味噌汁だった。
「暁、夕餉だぞ。」
「ありがとう。うーん、ちゃんと出汁が取れてて、やっぱり玉兎の作った夕飯は美味しいね!」
「…!!またか…」
「どうしたの?」
普段は実体を取っている玉兎が、にがにがしい表情を浮かべ急に姿を消した。怪訝に思って見ると見鬼の才がないと見れないような精神体になっている。
家にいる時には実体を取ることが多い式神が姿を隠しているというのは何故だろうかと首を捻ると同時に声がかけられた。
この声…聴いたことがある。想像通りの人物であれば何でこんなところにいるのか。そもそもここには認知の結界が張られていて人が入れば玉兎にも分かるはずだ。
混乱をよそにその人物は悠然とした様子で部屋へと入ってきた。
「暁君、いるならいるって言ってくれれば」
「…高遠殿、なんで家にいるんですか?ってか、自然に家に入り込んでこないでください!!」
「そりゃ先ぶれもなく来てしまったのは申し訳ないと思っているけど、何度か外で声をかけたんだよ。家にいるのは明白だったから入ってきたんだけど」
いつものように背景に花を散らすような笑顔を向けられて、暁は思わずため息をついた。
その華やかな笑顔の裏には悪戯が成功したような眼をしているところを見ると確信犯だろう。
一方で玉兎は渋い顔をして暁とのやり取りを見ていた。
『一度ならずとも二度までも…術が効かないなど…ありえん』
少々プライドを傷つけられてようだ。確かに金烏も玉兎もその辺の式神よりも力がすごい。だが、陰陽師としてはまだまだ力のない暁の配下になった時点でその能力はだいぶ落ちてしまっているのも事実だ。
『玉兎のせいじゃないよ。私の力のせいだよ』
『それにしても家の中なら光義の力もある。それなのに…』
ぶつぶつと小さく呟く玉兎との念話をしているとそれを知らない高遠はというと、暁が呆然としたと思ったのかクスクスと笑いながら、膳を興味深そうに覗いている。
「時に暁君…」
「なんですか?」
「君はやっぱり普段からこういう貧乏…いや質素な食事をしているのだね」
「嫌味を言いに来たんですか?」
「滅相もないよ。今日は少しばかり捜査の進展と何か手伝うことができないか相談に来たんだよ」
「ならば宮中でもできたのではないですか?」
「そう怒らないでおくれ。日中はお互い忙しい身だろう?それでも何度か陰陽寮まで行ったんだが君も吉平君も不在だったしね」
確かにバタバタしているのは事実だ。夜にしかゆっくり会えないという高遠の言い分は最もだった。
というものの、屋敷まで押し掛けるのは嫌がらせも半分入っているのでは…と穿った見方をしてしまう。相手が高遠だからだろうか。
暁はため息をつきながら事の顛末を話した。
失踪者3名が友人だったこと。兼雅が藤姫という姫を好きになり通っていたことなどをかいつまんで説明すると、高遠は扇子で優雅に口元を隠しながら何やら思案しているようだった。
「…というわけなんです。」
「なるほどね。藤姫…か。そんな魅力的な姫君を私が知らないのはちょっとショックだな。私もその藤姫を落としたくなった。万里小路と言ったね。」
「はい。結構京のはずれなので、そんなに身分の高い姫ではないと思うのですが、身持ちが固いとか」
「それは益々燃えるね。分かった、じゃあ藤姫の方は私の方で調べてみるよ。それほど魅惑的な姫君ならほかの公達も知っているかもしれないし。」
女であることがバレるかもしれない危険(リスク)を冒してまで、なぜ光義は暁を陰陽寮に引き入れたのか。
考え込んでいると、金烏は暁のつややかな髪をガシガシと乱暴に撫でて笑った。
「ちょっと…!!金烏何するの?」
「ま、あれだ。答えは自分で考えるこったな。それよりこの手紙、影平に届ければいいなんだな?」
「もちろん人間の姿になってね」
「あぁ分かってる。じゃあ、ちょっくら行ってくる」
「お願い。」
立ち上がり部屋を出ていこうとした金烏は振り向きざま暁を見る。
(今回の陰陽師見習いで何か変わるといいんだけどな)
たぶん光義が陰陽師見習いとして陰陽寮に引き込んだ目的の一つは暁が人というものに向き合うこと。もっと言えば自分の気持ちをさらけ出せる人間を作ることだと考えれる。
子供の頃の経験から人間との関りが最低限であり同世代の友人が皆無な暁に、もっと信頼できる人間を作りたかったのだろう。
それによって暁の世界はきっともっと色ずくはず。この世に執着も出てくるというものだろう。
そんなことを考えながら金烏は飛び上がった。すぐに背には漆黒の羽が顕現して夜空を翔る。影平の屋敷に着いたら人間の姿を取ればいいことだ。それに今は闇に紛れて人の判別もつかないだろう。
目撃される可能性は非常に低い。
金烏はばさりと羽をはばたかせて、影平の屋敷を目指した。
一方金烏を見送った暁は夕餉を取ることにした。さすがに一日仕事に集中していたためお腹がすいてきた。
さすがに今日はおかゆは嫌だなぁと考えていると夕餉の準備を終えた玉兎が膳を運んでくれた。
みればちゃんとした白米だった。それから雑魚だけど焼き魚がつき、具が入ったお味噌汁だった。
「暁、夕餉だぞ。」
「ありがとう。うーん、ちゃんと出汁が取れてて、やっぱり玉兎の作った夕飯は美味しいね!」
「…!!またか…」
「どうしたの?」
普段は実体を取っている玉兎が、にがにがしい表情を浮かべ急に姿を消した。怪訝に思って見ると見鬼の才がないと見れないような精神体になっている。
家にいる時には実体を取ることが多い式神が姿を隠しているというのは何故だろうかと首を捻ると同時に声がかけられた。
この声…聴いたことがある。想像通りの人物であれば何でこんなところにいるのか。そもそもここには認知の結界が張られていて人が入れば玉兎にも分かるはずだ。
混乱をよそにその人物は悠然とした様子で部屋へと入ってきた。
「暁君、いるならいるって言ってくれれば」
「…高遠殿、なんで家にいるんですか?ってか、自然に家に入り込んでこないでください!!」
「そりゃ先ぶれもなく来てしまったのは申し訳ないと思っているけど、何度か外で声をかけたんだよ。家にいるのは明白だったから入ってきたんだけど」
いつものように背景に花を散らすような笑顔を向けられて、暁は思わずため息をついた。
その華やかな笑顔の裏には悪戯が成功したような眼をしているところを見ると確信犯だろう。
一方で玉兎は渋い顔をして暁とのやり取りを見ていた。
『一度ならずとも二度までも…術が効かないなど…ありえん』
少々プライドを傷つけられてようだ。確かに金烏も玉兎もその辺の式神よりも力がすごい。だが、陰陽師としてはまだまだ力のない暁の配下になった時点でその能力はだいぶ落ちてしまっているのも事実だ。
『玉兎のせいじゃないよ。私の力のせいだよ』
『それにしても家の中なら光義の力もある。それなのに…』
ぶつぶつと小さく呟く玉兎との念話をしているとそれを知らない高遠はというと、暁が呆然としたと思ったのかクスクスと笑いながら、膳を興味深そうに覗いている。
「時に暁君…」
「なんですか?」
「君はやっぱり普段からこういう貧乏…いや質素な食事をしているのだね」
「嫌味を言いに来たんですか?」
「滅相もないよ。今日は少しばかり捜査の進展と何か手伝うことができないか相談に来たんだよ」
「ならば宮中でもできたのではないですか?」
「そう怒らないでおくれ。日中はお互い忙しい身だろう?それでも何度か陰陽寮まで行ったんだが君も吉平君も不在だったしね」
確かにバタバタしているのは事実だ。夜にしかゆっくり会えないという高遠の言い分は最もだった。
というものの、屋敷まで押し掛けるのは嫌がらせも半分入っているのでは…と穿った見方をしてしまう。相手が高遠だからだろうか。
暁はため息をつきながら事の顛末を話した。
失踪者3名が友人だったこと。兼雅が藤姫という姫を好きになり通っていたことなどをかいつまんで説明すると、高遠は扇子で優雅に口元を隠しながら何やら思案しているようだった。
「…というわけなんです。」
「なるほどね。藤姫…か。そんな魅力的な姫君を私が知らないのはちょっとショックだな。私もその藤姫を落としたくなった。万里小路と言ったね。」
「はい。結構京のはずれなので、そんなに身分の高い姫ではないと思うのですが、身持ちが固いとか」
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