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藤の花の季節に君を想う

勝負の行方③

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顔をしかめて理解できないという表情で影平は語った。
分かるだろうと同意を求められてしまったが暁は曖昧な返事をした。
確かに闊達な影平とは合わないタイプの人間であることは分かった。
影平は彰光の失踪を知っているのだろうか?依頼の様子からすると緘口令が引かれているようだったが…

「じゃあ蹴鞠グループとは仲良くなかったんだね。」
「まぁ俺はあんまり仲良くないってのが正直なところだけど、なぜか実朝と兼雅とは馬があったようなんだよな。似ているタイプだからかもしれないな」
「え?でも実朝と兼雅は蹴鞠グループ仲間でしょ?」
「なんつーか、3人とも繊細って感じではあったんだよな。兼雅は明るいけど兄に遠慮しているところがあって、一歩下がってたし。そういう意味では実朝もふらふら女の元にひっきりなしに通うのは家に居ずらいって感じからだろうし。だからなんかそういう居場所ない系の話で彰平とも話があったんじゃないかなぁ」
「あー、僕もそれ分かるなぁ」
「え?そうなの?」
「まぁ…色々とね、あるんだよ」

そう言って目を伏せる吉平を見て、吉平にも抱えていることがあるのだと分かった。
吉平とはここ3か月ほど一緒にいて、仕事も一緒にこなし、苦しい時も辛い時も励ましあって仕事をしてきたつもりだ。
だけど、こうやって考えるとまだまだ吉平のことを知らない。
確か兄弟がいると言っていたような気もするけど、あまり突っ込んで聞いてなかった。
暁自身、両親が穢れにあたって死んで、叔父に育てられ、そして女であることを隠して陰陽師をやっている。
なぜ男装をしなくてはならないのか、疑問に思ったこともあった。幼い頃にそのことについて尋ねてみたが光義は悲しそうに笑って「可愛いお前をどこの馬の骨か分からないやつに渡さないためだよ」と冗談とも本気ともとれる言葉ではぐらかされたことがある。
その光義の寂しそうな顔を見て、それ以上問い詰めることができなかった。
だから吉平ともお互い深く突っ込んで話をするのも憚れた。彼には彼の事情があるだろうから。

「で?なんだかんだ質問してきてるけどお前たちはどうなんだよ」
「どうって?」
「恋だよ恋!恋人はいるのかよ」
「えっと…」

まさかの恋バナで暁は戸惑ってしまい、吉平は真っ赤な顔をして否定した。

「僕はそういうのいないんだよ!」
「暁は…高遠殿がいるからいいか…」
「はぁ?何真顔で言っているの!?本当、高遠殿にはお世話になっているけど、何もないから!!それより私はその藤姫に興味があるよ」

性的な意味ではないが、本当に藤姫は気になっている。女のことに関しては事情通の高遠に一度聞いた方がいいかもしれない。
それに万里小路にも行ってみよう。藤姫が何か知っているだろう。直接関与してなくても兼雅の情報はくれるだろう。
そうと決まれば一刻も早く行動に移したい衝動にかられ、暁は帰ろうと切り出した、その回答は思わしくなかった。

「貴重な経験をさせてもらって、ありがとう。私はそろそろ帰ろうと思うよ。」
「はぁ?何言ってんだよ。これから練習だろ?」
「でもほら、初心者がいたら練習の邪魔になるでしょ?」
「いやいや、あのすっごい技教えてくれよ!」
「だ、だからまぐれだって」
「怪しいなぁ」
「う…」

さっきの蹴鞠の試合。実は暁はイカサマをしてしまっていた。そのことも心苦しくなって言葉に詰まってしまう。
影平はその様子を訝し気に思ったのか、ずいと暁の顔に自身の顔を近づけてその目を覗き込んだ。
男らしい影平の顔を間近に見て思わず赤面してしまう。
男の成をしているが歴とした女ではあるし、家の人間以外にこうやって見つめられるとどうも居心地が悪い。思わず目を背けると影平は意地の悪い笑顔を浮かべて暁から離れたが、両腕を組んで何やら考え込んでいる。
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