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春は出会いの季節なり
大蛇の妖と2人の式神
しおりを挟む暁の声に応えるように金と銀の光が空を切り裂き、その光は暁に並び立った。
「ようやく呼んだな、暁!」
「金烏、玉兎、この先に本体がいる!」
「では、この穢れ蹴散らしていく。暁は私の後ろに。」
「ありがとう玉兎。任せたよ」
「暁!次の部屋から奴の異空間(テリトリー)だ。気をつけろ!」
「金烏、分かった!!」
走る暁に目掛けて蛇の形をした黒い塊が襲い掛かってくる。
先鋒を務めるのは金烏。その手は金の光にまとわれており、蛇を切り裂きながら進んでいく。暁の後ろには玉兎が控え、暁を結界術によって守っていく。
走る。走る。走る。
木が朽ちて穴が開いた廊下を上手くかわして、走る。たぶん屋敷より長い廊下はすでに相手のテリトリーに入っているだろう。
そして部屋に足を踏み入れた瞬間瞬間空気が変わった。
あばら屋で床は所々抜け落ちており、天井は屋根事穴が開いていた。まさにさっき暁が見た光景に他ならなかった。
部屋の大きさは普通の部屋よりも天井も高く広さも大きかった。
まるで宴会場のような屋敷に見合わない大きな部屋。
そして暁の目の前には巨大な大蛇が頭をもたげていた。
その大きさは並みの大人の3倍はあるだろう。赤い目をぎらつかせ、ちろちろと舌を出している。
白い巨体は月明かりに照らされて白銀に輝いているように見えた。
「大きい…」
そして、その大きさだけではない。これまで町で祓ってきたどの穢れよりも強い力を感じる。そしてその妖力も今まで対峙したことのないものだった。
ピリピリと妖力で肌に電流が走るようだった。
ごくりと唾を飲み込む。果たしてこれに立ち向かえるだろうか。
「大丈夫だ。暁!お前ならできるぜ!!自分を信じろ!」
「うん、そうだね」
暁が妖に向き直ると、妖は攻撃を仕掛けてきた。暁を噛み殺そうとするのを、金烏が鋭い爪で攻撃をする。
もちろんそんなのは大蛇の妖には効かない。逆に金烏に襲い掛かろうと方向転換をして、ガブリとかじりついた。
だが、金烏は背中から黒い羽根を出して空中に飛ぶと、手から赤い炎を出す。
「邪空炎華!」
短く叫ぶと赤い炎は一振りの刀に変化した。赤い刀身は炎を映したようだった。
「てやああ!」
金烏は大蛇の頭をめがけてその刀を振るう。しかし妖は金烏を見つめたまま牙から白い液体を吐き出す。
「おっと!」
空中で身を捻って金烏が液体を避けると、行き場を失った液体が柱にかかる。するとジュという短い音を立てながら柱が解けた。
「なるほどな。まぁ、この程度ならば大丈夫だ。」
大蛇は液体を放出しながら金烏を追うがそれを飛びながらかわす金烏は再び頭を狙って剣を振り下ろした。しかし今度は大きなしっぽが金烏の横を殴りつけるようにうごめいた。
不意を突かれた金烏はそのまま尾の攻撃を受けて吹き飛ばされた。
同時にいくつもの穢れでできた蛇が妖から放出されて暁の目掛けて襲い掛かる。
「月氷静樹」
玉兎が小さく呟きその手を穢れに向かって突き出すと薄い水色の六角形が盾のように光り、穢れを霧散させた。
「玉兎。私は大丈夫。金烏の援護に回って!」
「承知した。…では、参ります。」
「うん、その間に真名を探るね。それまでに出来るだけ大蛇の妖力を割いて」
暁の言葉と同時に玉兎が瞬時に走り出し、大蛇の体を走ったと思うと飛び上がりながら叫ぶ
「零氷流月!」
玉兎の言葉と同時に手には青白く美しい弓矢が現れる。そのまま弦を弾くと何もなかったところに青い光の弓矢が現れそれはいくつもの光の刃となって蛇の目に向かって突き刺さった。
ギャシャアアアアアアア
叫びと共に大蛇が暴れる。その隙をついて金烏が大蛇の頭から刀を振り下ろした。
「はぁあああああああ!!」
「ギャアアアアアア」
金烏の剣は大蛇を頭から胴体を一線に切りつけ、一瞬光ったと思うと、大蛇が真っ二つに割れた。
「暁!」
「金烏、分かっている!」
振り返った金烏の言葉に頷くと暁は気を集中させた。
まずは因果を理解しなくては。なぜ、こうなったのか。何がこうさせたのか。妖を生み出した因果。それが真名を引き出すために重要なもの。
だけど…
「だめ!!その妖はまだ倒れてない。本体が別にいる!」
「なんだって!?」
「金烏、来るぞ。」
「ちっ」
金烏と玉兎が真っ二つに切られた大蛇の方を振り向くと、大蛇の体がメキメキと音を立てながらもとに戻っている。
再び戦闘になった。何度も攻撃を繰り返す金烏と玉兎だったが、その戦いは一進一退だった。
(なんとかしないと…このままじゃ埒が明かない。でも集中したくても自分の身を守る結界の維持と金烏玉兎の召喚はきつい…)
でもこのままでは金烏も玉兎も倒れてしまう。
暁は今までよりも集中して気を集めた。すうと息を吸い込み、目を閉じる。
(確かに二条邸で何か妖の因果を見たはず。だったらそれを辿れば!感じろ感じろ感じろ…!!)
二条邸で感じた感情。それは確か…
―どうして…私じゃダメなの?-
女性の悲しい声。その感情は寂しい。悲しい。辛い。…愛しい。
御簾を上げ、室内から月を見上げたまま泣く女性。着ている着物は質素なもので、屋敷も最低限のしつらえしかない。その中で抱えた孤独を彼女から感じた。
―愛しいあなた。今日は来てくれないの?―
さめざめと泣く彼女の涙は月明かりに照らされて輝いていた。それは純粋に男を恋い慕うものだったと暁は思った。
(そうか…貴女が因果なのね)
暁はその女性に手を伸ばした。意識が彼女と同化し、ふわりとした浮遊感に身を任せた。
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