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エピソード1:ある画家の場合

青年とマスターの会話

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赤茶色をベースにした落ち着きのあるカフェバー。

今日も店内は人待ちの客で賑やかである。

オレンジのライトは待ち人の気持ちを明るくする。
そのカフェバーのカウンター席。端に青年が座っていた。

「久しぶりに会えてどうでしたか?」

マスターは青年に優しく尋ねる。
青年はその問いに少しだけ考えるそぶりをした。
そして差し出されたコーヒーを一口飲む。

「そうだね…。辛そうな顔はして欲しくなかったけど、でも会えて良かったよ。あちらに渡ったらもう会えないかもしれないし」

「でも、彼女は会いたいと、傍に居たいといっていましたよ」

マスターの言葉には答えず、青年は彼女を思い出すように目を瞑ると、再びコーヒーを口に含んだ。
穏やかな笑顔だった。
だが、不意に少しだけむくれた顔をして言った。

「でもさ。弟って言われたのは嬉しかったけど、僕の方がもうずっと年上になってたんだけどね」

青年の時の流れは人間のそれより早い。
人間の一年は彼にとって五年にもなる。

「まぁ今度はもう少し一緒に居れるでしょうから。彼女がこちらに来た時には迎えてあげるといいでしょう」
「そうだね。そうしたらヤクライ山に行こうかな。あそこはこれからの時期、綺麗だから」

青年の脳裏にあの景色が蘇る。
青空の下、彼女の声が聞こえて懸命に翔けた事。彼女の優しい声。
そして抱き留めてくれた手のぬくもり。
そんな記憶を温めつつ、青年は徐に立ち上がった。

「じゃあ、僕も行くね」
「はい、お元気で」

青年は颯爽とモデルのように歩き、ドアから出て行った。
少し長めの髪が風に靡いている姿が店内から見えた。

「さて、次はどのような方がいらっしゃるのか」

マスターは青年のコーヒーカップを下げながらそう言った。
そしてほどなくして入れ違うようにドアが開いた。
ドアベルがカランカランと鳴る。

「いらっしゃいませ。何がよろしいですか?コーヒーでもお酒でも、貴方の望むものをご提供できますよ」

マスターはそう言って次の客を迎える。
今日も店内は人を待つ客で賑わっていた。

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