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番外編
ルシアン視点:全てを尽くして
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突然リディは宝剣を盗んだ罪で捕らえられ、そして妖精王への生贄にされることになった。
「くそっ!妖精王への生贄だと?ふざけるな」
ルシアンは執務室に戻ると怒鳴りながら机を叩いた。
宝剣を盗んだのはシャルロッテに間違いないだろう。
だが証拠がない。
牢へと連行されたリディに面会を求めたが兵士に止められ、会うことはできなかった。
今、リディはどうしているだろうか?
暗くじめじめした牢の中で、心細い思いをしているに違いない。
(泣きそうになってたな)
連行される前、ルシアンを巻き込みたくないと言ったリディは、気丈に振るっていた。
小さく微笑を浮かべて、平気な素振りをしていたが顔色は悪く、青ざめていた。
それが逆に痛々しく見えた。
リディの顔を思い出すとルシアンの心が痛み、早く救い出さねばと気持ちが焦る。
(まずはリディを牢から出してもらう必要があるな)
侯爵家の…いや、王家の血筋であるこの権力を使って国王に直談判して、早々にリディを牢から出すように交渉しよう。
これまで散々ルイスの尻拭いをしたんだ。
嫌とは言わせない。
だがやはり無罪の証拠は必要になるだろう。
リディが無実であることの証拠を集める必要がある。
逮捕の根拠はたった2つだ。
一つはリディの部屋から宝剣が見つかったことだ。
だがこれは誰かが隠したに違いないのだ。昨夜リディの部屋に入ったシャルロッテが犯人である可能性が濃厚だ。
もう一つの根拠はリディが挙動不審な様子で城内を歩いていたという証言だ。
この証言についても、リディはあくまで城内を歩いていただけで、宝剣を盗んだいう決定的な証拠にはならない。
こんな根拠にもならない、ザルのような証拠でリディを逮捕するなど国王の判断とは思えない愚行だ。
シャルロッテとルイスの婚約の決断といい、国王は失策ばかりしているようにルシアンには思えた。
(シャルロッテに丸め込まれたか、もしくは妖精王とやらの怒りがよっぽど怖いのか…)
だがそんなことはルシアンにとってはどうでもいい。
とにかくまずはリディを助けるべく、ルシアンはペンを取り、屋敷にいるにいるレイモンに状況の連絡と助力を求める手紙を書いた。
「ダート、いるか?」
「はい、ルシアン様」
「これを屋敷に届けてくれ。それと、リディを城内で目撃したという証人を突き止めて欲しい」
「かしこまりました」
ルシアンはダートにそう指示を出した後、自らも宝物庫へ衛兵の話を聞きに行った。
もしリディが宝剣を盗んだとするならば宝物庫にリディが来たという目撃情報があるはずだ。
そもそも宝物庫の場所は機密事項であるためリディはもちろんの事、一般の貴族でさえ知らないはずだ。
なのにそこに侵入したというのはおかしな話だ。
シャルロッテは宝物庫の場所をリディに脅されたから伝えたというが、シャルロッテも知るはずはないのだ。
(だがあのバカ王子の事だから、シャルロッテに教えた可能性もあるな)
ならばシャルロッテが宝剣を持ち出したのだろうか?
そう考えて衛兵に話を聞きに行ったルシアンであったが、結果としては特に不審な人物はいなかったという話を聞くだけにとどまった。
つまり、シャルロッテもリディもこの宝物庫を訪れてはいなかったのだ。
では誰が宝剣を持ち出したのか?
部屋に帰る道すがらルシアンは考えを巡らせた。
(宝剣は確かに盗まれていた。だが衛兵たちは不審人物を見なかった。では誰が盗んだ?そして誰がどうやってシャルロッテに渡したんだ?)
ふと一つの考えが浮かんだ。
”不審者”は確かにいない。
だが、もし王家の人間…たとえばルイスが来たとしたら、それは”不審者”ではないのだ。
その考えに至ったルシアンはそれを確認しようと宝物庫へと踵を返そうとした時だった。
「ルシアン様!こちらにいらっしゃいましたか!」
「ダート、どうした?何か分かったのか?」
ダートに呼ばれてそちらを見れば、ルシアンへと息を弾ませながら駆け寄り、そして報告を始めた。
「申し訳ありません。証言者についてはまだ調査中です。ですが、早急にお耳に入れた方がいいと思いまして」
ダートの只ならぬ様子に、ルシアンは嫌な予感がした。
「何があった?」
「リディ様を乗せた護送用の馬車が城を出た模様です」
「なんだって!?」
それはルシアンの予想よりも遥かに早かった。
「馬車はどこに向かった!?」
「それが、城の西の方へ向かったのは確かなのですが、その後どこに行くのかは不明です」
ルシアンはダートの言葉が終わると同時に弾かれるように駆け出していた。
今ならばまだ護送車に追いつくはずだ。
そう考えたルシアンは急いで廊下を走ろうとしたのだが、ルシアンの前にダートが回り込み、行く手を阻んだ。
「お待ちください!まさか、追いかけるおつもりですか!?」
「あたりまえだろ!今なら間に合う。リディを連れ戻す」
「それはいけません」
ルシアンの前に立ちはだかるダートは厳しい口調でそう言った。
それにルシアンは苛立ちを覚えてダートを睨んだが、それには全く怯む様子はない。
行先が分からない今、一刻も早くリディを追いかけなければ、永遠にリディを失ってしまうかもしれないのだ。
ルシアンの中で焦りが生まれ、声を荒げてしまう。
「どけろ!」
「リディ様を連れ戻すなんてことをしたらルシアン様とてただではすみません。ルシアン様が居なくなってしまったら誰がこの国を支えるのですか?」
「そんなこと俺の知ったことじゃない!」
これまでルイスの代理としてずっと政務を行ってきた。
だが愛する人を失ってまで国に尽くすほど愛国心があるわけではないのだ。
ルシアンはダートを乱暴に押しのけ、侯爵家の馬車を呼ぼうとするのだが、駆けつけた他のルシアンの部下もルシアンを押し留めるように体にまとわりついてゆく手を阻む。
「ルシアン様、お待ちください!」
「ルシアン様、お戻りを!」
「うるさい!」
叫びながらルシアンは抵抗し、少しでも前に行こうと部下達を引き摺るようにして足を進める。
(早く…リディの元に行かなくては)
リディを永遠に失う恐怖が体を駆け巡り、心が冷えて行くのが分かった。
この障害たちを振り切ろうともがき、体は暑くなり、一種の興奮状態にも似た状態なのに、心ばかりが冷えて行く。
更に衛兵達もルシアンの前に衛兵達も立ちふさがるのを、ルシアンが強行突破しようとした時だった。
凛とした低く重い声が廊下に響いた。
「ルシアン」
「陛下…」
廊下の奥から国王がゆっくりと歩いてきた。
衛兵が現れた国王に道を譲るようにすっと壁際へと身を避けて姿勢を正す。
やがて国王はルシアンの前でピタリと足を止めた。
「リディ・ラングレンを追いかけることは許さん」
「たとえ国王陛下の命でもそれは聞けません」
「ルシアン…言ったはずだ。リディ・ラングレンの咎は婚約者であるそなたにもあるのだ。処罰されたくなければ諦めろ」
「確かにあの場でそう言われましたね。ならば私はその罰を受け、リディと共に贄になります」
「血迷ったか」
「…いえ、私は正気ですよ」
あの時はリディを庇うことができなかった。
恐怖に潤んだリディの瞳を思い出して、悔しさのあまりにルシアンはギリッと歯を噛んだ。
捕らえられ、国王の前に轢き釣り出されたリディを見た時、反射的にリディを連れて逃げようとしたが、同時に家族への処罰を考えてぐっと我慢をした。
リディが助かりルシアンだけが処罰されるのであればいい。
だが、最悪はバークレー家全員も死罪にもなりかねない事態でもあった。
そのためリディを助けるために根回しをして正当に解放してもらうつもりだったが、事態は悠長なことはしていられない展開になってしまった。
(だけど、今ならバークレー家には咎は及ばないはずだ)
ルシアンはそのためにある手を打っていた。
国王はルシアンを説得しようと言葉を続けた。
「お前はバークレー家の跡取りだぞ!?自分の立場を分かっているのか?」
「…私はもうバークレーの人間ではありません」
「なに?」
「家督は妹のエリスに譲りました。現在はバークレーの戸籍から私の名は除外されているはずです」
これがルシアンが最悪の事態を想定しての対応だった。
戸籍を管理する人事院に赴き、貴族籍を抜いたのだ。
受理されるための資料が若干足りなかったが、そこはこれまでの恩と権限を使って融通してもらった。
今まで、補佐官以上の仕事をしてきたのだ。そのくらいの対価を貰っても文句を言われる筋合いはない。
そして事の成り行きについてと今後の事についてをレイモンへ手紙を書いた。
レイモンから承諾の意は得られていないがもう関係ない。
家族に影響がないのであればリディを選ぶ以外の選択肢はない。
ルシアンのこの発言に国王は頭を抱えた。
「なんてことだ」
「これで私は貴族ではなくなり補佐官として働くことは無理でしょう。この機会に補佐官を辞させていただきます」
「…そうか。それがそなたの答えか」
国王は眉間に皺を寄せ、きつく目を閉じると、静かに衛兵に命じた。
「衛兵。この者を捕縛しろ」
「なっ!?」
国王の言葉に従って衛兵がざっと音を立てて動き、ルシアンの周囲を取り囲む。
「これまでルイスの代わりを務めてくれたそなたへの温情だ。今回の勅命を拒否したことは不問に処そう。その代わり牢にて少し頭を冷やすがいい。」
国王の命令に驚き、目を見開いたルシアンの両脇を衛兵ががっちりと掴んだ。
「離せ!リディの元に行かせてくれ!後で罰は受ける!だからお願いだ!」
身を捩って抗うが、多勢に無勢。
ルシアンの懇願の叫びは空しく廊下に響く。そして衛兵に捕らえられたルシアンは牢へと入れられることになってしまった。
「くそっ!妖精王への生贄だと?ふざけるな」
ルシアンは執務室に戻ると怒鳴りながら机を叩いた。
宝剣を盗んだのはシャルロッテに間違いないだろう。
だが証拠がない。
牢へと連行されたリディに面会を求めたが兵士に止められ、会うことはできなかった。
今、リディはどうしているだろうか?
暗くじめじめした牢の中で、心細い思いをしているに違いない。
(泣きそうになってたな)
連行される前、ルシアンを巻き込みたくないと言ったリディは、気丈に振るっていた。
小さく微笑を浮かべて、平気な素振りをしていたが顔色は悪く、青ざめていた。
それが逆に痛々しく見えた。
リディの顔を思い出すとルシアンの心が痛み、早く救い出さねばと気持ちが焦る。
(まずはリディを牢から出してもらう必要があるな)
侯爵家の…いや、王家の血筋であるこの権力を使って国王に直談判して、早々にリディを牢から出すように交渉しよう。
これまで散々ルイスの尻拭いをしたんだ。
嫌とは言わせない。
だがやはり無罪の証拠は必要になるだろう。
リディが無実であることの証拠を集める必要がある。
逮捕の根拠はたった2つだ。
一つはリディの部屋から宝剣が見つかったことだ。
だがこれは誰かが隠したに違いないのだ。昨夜リディの部屋に入ったシャルロッテが犯人である可能性が濃厚だ。
もう一つの根拠はリディが挙動不審な様子で城内を歩いていたという証言だ。
この証言についても、リディはあくまで城内を歩いていただけで、宝剣を盗んだいう決定的な証拠にはならない。
こんな根拠にもならない、ザルのような証拠でリディを逮捕するなど国王の判断とは思えない愚行だ。
シャルロッテとルイスの婚約の決断といい、国王は失策ばかりしているようにルシアンには思えた。
(シャルロッテに丸め込まれたか、もしくは妖精王とやらの怒りがよっぽど怖いのか…)
だがそんなことはルシアンにとってはどうでもいい。
とにかくまずはリディを助けるべく、ルシアンはペンを取り、屋敷にいるにいるレイモンに状況の連絡と助力を求める手紙を書いた。
「ダート、いるか?」
「はい、ルシアン様」
「これを屋敷に届けてくれ。それと、リディを城内で目撃したという証人を突き止めて欲しい」
「かしこまりました」
ルシアンはダートにそう指示を出した後、自らも宝物庫へ衛兵の話を聞きに行った。
もしリディが宝剣を盗んだとするならば宝物庫にリディが来たという目撃情報があるはずだ。
そもそも宝物庫の場所は機密事項であるためリディはもちろんの事、一般の貴族でさえ知らないはずだ。
なのにそこに侵入したというのはおかしな話だ。
シャルロッテは宝物庫の場所をリディに脅されたから伝えたというが、シャルロッテも知るはずはないのだ。
(だがあのバカ王子の事だから、シャルロッテに教えた可能性もあるな)
ならばシャルロッテが宝剣を持ち出したのだろうか?
そう考えて衛兵に話を聞きに行ったルシアンであったが、結果としては特に不審な人物はいなかったという話を聞くだけにとどまった。
つまり、シャルロッテもリディもこの宝物庫を訪れてはいなかったのだ。
では誰が宝剣を持ち出したのか?
部屋に帰る道すがらルシアンは考えを巡らせた。
(宝剣は確かに盗まれていた。だが衛兵たちは不審人物を見なかった。では誰が盗んだ?そして誰がどうやってシャルロッテに渡したんだ?)
ふと一つの考えが浮かんだ。
”不審者”は確かにいない。
だが、もし王家の人間…たとえばルイスが来たとしたら、それは”不審者”ではないのだ。
その考えに至ったルシアンはそれを確認しようと宝物庫へと踵を返そうとした時だった。
「ルシアン様!こちらにいらっしゃいましたか!」
「ダート、どうした?何か分かったのか?」
ダートに呼ばれてそちらを見れば、ルシアンへと息を弾ませながら駆け寄り、そして報告を始めた。
「申し訳ありません。証言者についてはまだ調査中です。ですが、早急にお耳に入れた方がいいと思いまして」
ダートの只ならぬ様子に、ルシアンは嫌な予感がした。
「何があった?」
「リディ様を乗せた護送用の馬車が城を出た模様です」
「なんだって!?」
それはルシアンの予想よりも遥かに早かった。
「馬車はどこに向かった!?」
「それが、城の西の方へ向かったのは確かなのですが、その後どこに行くのかは不明です」
ルシアンはダートの言葉が終わると同時に弾かれるように駆け出していた。
今ならばまだ護送車に追いつくはずだ。
そう考えたルシアンは急いで廊下を走ろうとしたのだが、ルシアンの前にダートが回り込み、行く手を阻んだ。
「お待ちください!まさか、追いかけるおつもりですか!?」
「あたりまえだろ!今なら間に合う。リディを連れ戻す」
「それはいけません」
ルシアンの前に立ちはだかるダートは厳しい口調でそう言った。
それにルシアンは苛立ちを覚えてダートを睨んだが、それには全く怯む様子はない。
行先が分からない今、一刻も早くリディを追いかけなければ、永遠にリディを失ってしまうかもしれないのだ。
ルシアンの中で焦りが生まれ、声を荒げてしまう。
「どけろ!」
「リディ様を連れ戻すなんてことをしたらルシアン様とてただではすみません。ルシアン様が居なくなってしまったら誰がこの国を支えるのですか?」
「そんなこと俺の知ったことじゃない!」
これまでルイスの代理としてずっと政務を行ってきた。
だが愛する人を失ってまで国に尽くすほど愛国心があるわけではないのだ。
ルシアンはダートを乱暴に押しのけ、侯爵家の馬車を呼ぼうとするのだが、駆けつけた他のルシアンの部下もルシアンを押し留めるように体にまとわりついてゆく手を阻む。
「ルシアン様、お待ちください!」
「ルシアン様、お戻りを!」
「うるさい!」
叫びながらルシアンは抵抗し、少しでも前に行こうと部下達を引き摺るようにして足を進める。
(早く…リディの元に行かなくては)
リディを永遠に失う恐怖が体を駆け巡り、心が冷えて行くのが分かった。
この障害たちを振り切ろうともがき、体は暑くなり、一種の興奮状態にも似た状態なのに、心ばかりが冷えて行く。
更に衛兵達もルシアンの前に衛兵達も立ちふさがるのを、ルシアンが強行突破しようとした時だった。
凛とした低く重い声が廊下に響いた。
「ルシアン」
「陛下…」
廊下の奥から国王がゆっくりと歩いてきた。
衛兵が現れた国王に道を譲るようにすっと壁際へと身を避けて姿勢を正す。
やがて国王はルシアンの前でピタリと足を止めた。
「リディ・ラングレンを追いかけることは許さん」
「たとえ国王陛下の命でもそれは聞けません」
「ルシアン…言ったはずだ。リディ・ラングレンの咎は婚約者であるそなたにもあるのだ。処罰されたくなければ諦めろ」
「確かにあの場でそう言われましたね。ならば私はその罰を受け、リディと共に贄になります」
「血迷ったか」
「…いえ、私は正気ですよ」
あの時はリディを庇うことができなかった。
恐怖に潤んだリディの瞳を思い出して、悔しさのあまりにルシアンはギリッと歯を噛んだ。
捕らえられ、国王の前に轢き釣り出されたリディを見た時、反射的にリディを連れて逃げようとしたが、同時に家族への処罰を考えてぐっと我慢をした。
リディが助かりルシアンだけが処罰されるのであればいい。
だが、最悪はバークレー家全員も死罪にもなりかねない事態でもあった。
そのためリディを助けるために根回しをして正当に解放してもらうつもりだったが、事態は悠長なことはしていられない展開になってしまった。
(だけど、今ならバークレー家には咎は及ばないはずだ)
ルシアンはそのためにある手を打っていた。
国王はルシアンを説得しようと言葉を続けた。
「お前はバークレー家の跡取りだぞ!?自分の立場を分かっているのか?」
「…私はもうバークレーの人間ではありません」
「なに?」
「家督は妹のエリスに譲りました。現在はバークレーの戸籍から私の名は除外されているはずです」
これがルシアンが最悪の事態を想定しての対応だった。
戸籍を管理する人事院に赴き、貴族籍を抜いたのだ。
受理されるための資料が若干足りなかったが、そこはこれまでの恩と権限を使って融通してもらった。
今まで、補佐官以上の仕事をしてきたのだ。そのくらいの対価を貰っても文句を言われる筋合いはない。
そして事の成り行きについてと今後の事についてをレイモンへ手紙を書いた。
レイモンから承諾の意は得られていないがもう関係ない。
家族に影響がないのであればリディを選ぶ以外の選択肢はない。
ルシアンのこの発言に国王は頭を抱えた。
「なんてことだ」
「これで私は貴族ではなくなり補佐官として働くことは無理でしょう。この機会に補佐官を辞させていただきます」
「…そうか。それがそなたの答えか」
国王は眉間に皺を寄せ、きつく目を閉じると、静かに衛兵に命じた。
「衛兵。この者を捕縛しろ」
「なっ!?」
国王の言葉に従って衛兵がざっと音を立てて動き、ルシアンの周囲を取り囲む。
「これまでルイスの代わりを務めてくれたそなたへの温情だ。今回の勅命を拒否したことは不問に処そう。その代わり牢にて少し頭を冷やすがいい。」
国王の命令に驚き、目を見開いたルシアンの両脇を衛兵ががっちりと掴んだ。
「離せ!リディの元に行かせてくれ!後で罰は受ける!だからお願いだ!」
身を捩って抗うが、多勢に無勢。
ルシアンの懇願の叫びは空しく廊下に響く。そして衛兵に捕らえられたルシアンは牢へと入れられることになってしまった。
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