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番外編

ルシアン視点:知ってるキャラと違う

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前世の記憶が蘇ったルシアンがまず直面したのは自分の性格だった。
外見は8歳。中身は小鳥遊安里が亡くなる18歳だ。

「見た目は子供、頭脳は大人!」という某漫画を地で行くことになってしまった。

故に8歳の子供らしく振舞うことができなくなってしまったのだ。

(18歳の俺が8歳を演じるなんて無理だろ?何が悲しくて「お父様、僕、おもちゃが欲しいです」なんて言えるかっての)

心の中で思わず口悪くどついてしまう。
そもそも子供を演じるなどという器用なことはできない。
結果として18歳の杏里の性格で生活することにした。

ただ、落馬事故以降急に大人びてしまったルシアンに周囲は大いに心配した。
両親もまたルシアンの豹変ぶりに困惑し、後遺症だと言って心を痛めているようだった。

「ルシアン、本当に大丈夫なの?やっぱり痛いところとかあるのではないの?」

「そうだぞ。もっと権威のある医者に行かないか?王家専属の医者に診てもらえるように王を脅した…もとい、王に相談したら承諾してくれたんだ。どうだい?」

気遣わし気に言う両親には8歳児を演じられないため心配をかけていることが申し訳ないと思いつつも、ルシアンの体は問題ないわけで。

結果、問題ないと笑いながら断る日々が続いた。

「父上、母上。本当に気になさらないでください。その…我儘を言って落馬してしまったので、すこし大人らしい考えになろうと思っているのです。それに妹のエリスもいますし、兄らしくなりたいと思っているのです。ご理解ください」

落馬の事を反省し、大人になりたいと思うようになったために少し性格が変わったという体にした。
その言葉に両親も少々違和感を覚えつつも、最終的には納得してくれた。

「大人になろうと背伸びをしたい年頃なのかもしれないな」
「そうね。ただ、早く大人になろうと無理しなくてもいいのよ」
「はい、ありがとうございます」

元々おっとりなところもある両親だ。
ルシアンの変化についても受け止めてくれるようになり、やがて何も言われなくなった。

そして中身が18歳のルシアンは学術においては「神童」と評されるほどの頭脳の持ち主となってしまった。

文字の書き方や計算は簡単すぎ、この世界の大学に当たるものにも手を出していた。

まぁ地理についてはこの世界独特のものであったので覚えるのに少々苦戦したものの、前世の知識もあることからある意味知識チートだったのだ。

それ故、さして努力をすることも無く、なんでも簡単にできてしまうことに若干のつまらなさと物足りなさを感じていた。

そうして過ごしている中である日、王家主催の茶会が開かれることになり、父と共にルシアンも参加することになったのだ。
王城に行き、王家自慢のバラ園へと案内される。

庭園には品種改良された珍しいバラや、海外から取り寄せた品種のバラが咲き乱れており、参加者の目を楽しませていた。

いくつも並べられたテーブルには侯爵家を始め、名家や最近羽振りの良い貴族も招待されている。

(顔ぶれからすると王家が一目置いている家を招いたってところか)

それに参加者の中にはルシアンくらいの年頃の少女たちもちらほら見えていた。
もしかしたらルイスの婚約者候補の選定も兼ねているのかもしれない。

「じゃあ、僕は皆さんに挨拶して来るから、ルシアンはケーキでも食べて待ってておくれ」
「はい。分かりました」

そう言ってルシアンが父のレイモンを見送っていると、入れ違いに声を掛けられた。

「おお、ルシアン」
「陛下、ご無沙汰しております」
「いやいや、堅苦しい挨拶は不要だ。いつもルイスが世話になっておるな」

「いえ、こちらこそルイス殿下の御傍に置いていただきまして、もったいなくも親しくさせていただいており、ありがとうございます」

(本当はこっちが世話してるんだけどな)

心の中でそう思いつつも、表面上はもちろんそんなことは出さない。

ルイスはこの国の王子であるが、ルシアンと同い年のため昔から交流がある。
幼馴染と言ってもいい間柄である。

今は共に王立学園の初等部に入っているのだが、このルイスは正直言うと馬鹿王子だ。

ルシアンの中身が18歳であることを抜いたとしてもおバカである。
勉強は中の下。

それは頭が悪い云々ではなく、飽き性で勉強に集中するということができないからだ。

まず宿題はやらないし、授業もさぼることも多々ある。
もちろん休日は遊び歩いていて、勉強の「べ」の字もしないのだ。

別に頭がいいだけが人間の優劣とはいかないが、勉強が出来ないから他の事に秀でているかと言うと、何かにハマっては直ぐに飽きてしまい、これと言った特技も趣味も無い。

おまけに努力するのが大嫌いなのだ。

よって勉強についてはルシアンが教えたり宿題を手伝ったりしているし、何かにハマった時にはルシアンも強制参加なので色々と振り回されている

「本当になぁ、ルシアンはルイスと同じ年とは思えないほど落ち着いておるし、そなたの神童ぶりも耳に入っておるよ。まったくルイスにもそなたの爪の垢でも煎じて飲ませたいものだな」

「もったいないお言葉でございます」
「まぁ、これからもよろしく頼むよ」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」

深く礼をして王を見送ったルシアンは、ゆっくりと体を起こしたのちに大きくため息をついた。

そもそも確かルイスは安里の妹曰くTHEキラキラ王子様枠ではなかったのか?

(まぁ中身残念でも外見が良いならOKっていう女もいるしなぁ。いや、もしやギャップ萌えを狙ったキャラ設定なのか?)

理解できないと思いつつルシアンはそんなことを考えていた。

気持を切り替えるようにして、ルシアンは父に言われた通りケーキでも食べることにした。
紅茶に口を付けながら周りを見渡す。

正装した男達が様々な場所に立って談笑している。

横柄な態度の男と媚びた笑顔の男性が話していたり、気の合う仲間なのか大きな声で笑い合っている3人組、周りを伺うようしてながらひそひそと話しているグループなどなど…

(人間観察にはもってこいだな)

ルシアンは「神童」と持ち上げられる一方で、「気味が悪い」と陰で言われているのも知っている。

なのにルシアンと会えばバークレー侯爵家と縁を繋ぎたいという大人の視線に晒されて、人間には表裏の顔があることを身をもって知っているからこそ、冷めた人間になっていた。

やがてルシアンの人間観察の対象は男性だけではなく参加している小さな令嬢に移った。

少女達はというとグループを組んで談笑している。それは家柄での結びつきであることが顕著だった。

名家は名家同士のグループだし、伯爵家は伯爵家でのグループであることが多いようだ。そして大体3人~5人程度の人数が集まっている。

だがルシアンの視界に木陰で一人で立っている少女が見えた。
一見して安物のドレスを身に纏っている。
既製品を着ているせいなのか、サイズが若干合っていない。
身に着けているアクセサリーもバランスが悪く、あまりこういった茶会には出ないような雰囲気だった。

(新興貴族?もしくは裕福な商家の娘か?)

稀に王族へ貢献したという理由で特別に裕福な商家の人間が呼ばれることもあるがそう言った家柄なのだろう。
茶会に来たものの知り合いがおらず身の置き場がないと言った様子だ。

一人居心地が悪く、顔を俯いている様子が憐れだった。

他の令嬢も彼女に気づいているのに敢えて無視していたり、彼女をみながらひそひそ話をして笑っている。

「本当、場違いな方がいらっしゃったものだわ」
「見てあのドレス、品がない」

そんな会話も聞こえて来た。
女というのも怖いものだと思っていると、すっと商家の少女に近寄る人間がいた。

少し吊り上がった目に菫色の瞳。目の下にはほくろがあるのが特徴的だ。
水色の髪をハーフアップにしている。
その姿にルシアンは既視感を覚えた。

(あの女の子、なんか見たことがあるな)

水色の髪の少女は背筋をすっと伸ばして、優雅な足取りで商家の少女へと近づいて行った。
その様子を他の令嬢が息を呑んで見ていた。

「こんにちは。茶会は初めて?」
「は、はい」
「私はソフィアナ・ロッテンハイムって言うの。良かったら一緒にお茶を飲みませんか?」
「いいんですか?」
「もちろんよ」

ソフィアナの言葉を聞いてルシアンはハッとした。
詳しくは覚えていないが確か彼女もセレントキスの登場人物だ。

(ソフィアナ・ロッテンハイム。そうか、彼女が悪役令嬢か…。でも全然嫌な奴じゃないな)

身分というものに胡坐をかくことなく、一人でいる人間を気遣える人物のようだ。

商家の少女を自分のグループに招いただけではなく、他の貴族と打ち解けられるように皆に気遣いながら会話を進めている様子からもそれが伺える。

とても悪役令嬢として断罪されるような人間には思えない。
それとも将来恋をすることによって、性格が豹変するのだろうか?

それでも彼女が断罪される運命というのは心が痛む。

(セレントキス、か。でもキャラクターの性格ってこういう設定だったのか?)

ルシアンは安里の妹が熱弁していた「セレントキス」の内容を記憶の奥から引き出すが、ルイスにしてもソフィアナにしても聞いていたキャラ設定の性格と違っているような気がする。

だがやはりこの世界がやはり乙女ゲー「セレントキス」の世界であることを感じつつ、ルシアンの茶会が終わった。
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