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豊穣のカードが示す未来

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断罪劇から一年が過ぎた。

突然の国王の退位と新たな王の即位に国政が混乱するかと思いきや、リディとルシアンの予想外にも譲位はすんなりと行われた。

もちろん譲位に伴う反対も無かった。

元々王太子ルイスの婚約パーティーの場であの断罪劇が行われたため、主だった有力貴族は彼らの悪行を目の当たりにし、図らずも譲位の現場に居合わせた立会人となってしまった。

譲位の理由が理由だけに、それに異を唱える者はおらず、また元々ルイスがボンクラ王太子だったことからむしろ有能なルシアンが王位に就くことを諸手を挙げて歓迎されてしまった。

これによりとんとん拍子に準備が整い、あっという間にルシアンが国王に即位という形になってしまった。

もちろんリディもまたルシアンと結婚し、あれよあれよという間に王妃になってしまったわけである。

王妃としての仕事も順調に覚えたリディだったが、現在目の前にある一つのカードを見てリディは唸っていた。

今日の一枚引きカードの「女帝」のカードだ。
これについても色々な意味がある。豊穣、調和、幸運…などである。

(どれを示しているのかしら?)

一つ、思い当たることがあるがまだ確定ではない。

「…お医者様に診てもらった方がいいかしらね」

リディは一つそう言ったあと、テーブルの上のタロットカードを片付けた。
テーブルクロスを畳んだタイミングで部屋に入ってきたのはルシアンだった。

「あ、ルシアン様。お帰りなさいませ。お疲れ様ではないですか?」

気付けば既に夕刻を過ぎ、ルシアンも仕事を終えて戻ってきたようだ。
ルシアンが羽織るマントを受け取ったリディはそう尋ねた。

「あぁ俺は大丈夫だ。そうだ、今日作ってくれた弁当、美味しかった」
「良かったです!」
「ミートボールなんてひさびさに食べたし、タコさんウィンナーも懐かしかったな」
「ふふふ、喜んでいただけて嬉しいです」

黒地に金の刺繍が施された軍服の襟元を緩めながら、ルシアンはソファへと身を預けた。
正装なのは他国の外交官と会っていたからだ。

そんなルシアンは徐にポケットから手紙を取り出すと、リディに差し出してきた。
だが、その手紙はぐちゃぐちゃになっている。

「これは?」
「隣国のクソバカ王子から、リディ宛だ」

そういえば今日の謁見はギルシースからだと聞いた気がする。
そしてその王子と言えば一人しかいない。
ナルサスだ。

受け取った手紙をリディは恐る恐る開けた。
ナルサスからの手紙など嫌な予感しかしない。

そして開いたカードに書かれていたのはいつもながらに簡潔な一言だった。

――王妃の座は開けといてやる。いつでも来い――

(うわぁ…やっぱり…)

「戴冠式があるらしい。その招待だ」
「あぁそれで…王妃…」

ルシアンの事が嫌いになったら嫁に来いと言う意味だろう。
だがルシアンがいるから王妃の立場も頑張れるのだ。ギルシースの王妃など興味はない。

「ふふふ、またナルサス様のいつもの冗談ですよ」
「冗談でも不愉快だ」

そうぶすくさ言う姿にリディは思わず笑みをこぼした。

なんだかんだ言いつつ、ルシアンとナルサスは盟友のような関係になっている。

ダンテを結婚させるためにロッテンハイム家に圧力をかけたチームプレイに始まり、シャルロッテ断罪に手を貸してくれたこと、その後も何かと二人協力プレイな事柄が続いている。

「それより、今日はアレットさんのパンケーキがあるんですよ?お茶を淹れますね」

そう言ってリディはお茶の準備を始めた。

「今日は街での占いの日だったな」
「はい。今日も満員御礼です」

リディは不定期ながらひっそりとあの占いの店を続けている。

もちろん変装しているので王妃が占い師をやっているとは誰も気づいていない。

ただ貴族の顧客も多く、占いで色々な事情が見えているのでたまにその情報を使って政務を円滑に進めたりはしている。

「リディの占いは当たるからなぁ。色々助かってるよ」
「私は助言だけですよ。決めているのはルシアン様ですからルシアン様の采配です」

リディの言葉にルシアンの目元が柔らかいものになる。
そして手を広げてリディに来るように促した。

紅茶を淹れている最中ではあるが、ルシアンの誘いを断ることもできず、リディはいつものようにルシアンの胸に体を預けた。

ぎゅっとルシアンの腕がリディを抱きしめた。
そして軽くキスをしてくる。

「ん…」
「ふ、ようやく仕事が終わった気になるよ」

もう何度もキスをしていてもその度に気恥ずかしくなってしまうのだが、その様子さえもルシアンは幸せそうに見つめてくる。

その笑顔を見るとリディも嬉しくなるのだ。

リディを後ろから抱えるようにして座ったルシアンが、そう言えばと話を変えた。

「明日だが、エリスが散々家に来いと言っている。バークレー家に顔を出しに行こうと思ってるんだが、リディも来れるか?」

「もちろんです!皆さんにお会いしたいです!…あ、でもちょっと午前中にお医者様のところに行ってもいいでしょうか?」

「いいけど、具合でも悪いのか?無理ならバークレー家には今度行ってもいいんだぞ」

「えっと…具合が悪いと言うか…まぁ、はっきりしたらお伝えしますね」
ルシアンはリディの言葉に少しだけ不思議な顔をしたが、リディは曖昧にほほ笑んでそれを誤魔化した。

「まぁリディがそう言うなら待っているよ」
「はい!」
「そう言えば、前世でさ…」

リディとルシアンの元に新たな家族が加わるのはすぐそこの未来であることを確信しながら、リディはルシアンとの前世談義に花を咲かせた。


その後、ルシアン・バークレーはヴァンドール稀代の名君として名を残すことになる。
その王妃となったリディは聖女として国に妖精の加護を与えた。

彼女は不思議な占いを使いルシアンの治世を陰に日向にと支え、ルシアンもまた彼女を守り慈しみ愛した。

こうして不遇な境遇を受けていた少女と彼女が選んだ夫を妖精はいつもまでも見守り続けたのであった。


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