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二度あることは三度ある③
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その疑問を持ったのはルイスも同じようだった。
「何を仰ってるのですか?たかだが一侯爵風情が王位を継ぐ?父上は頭がどうかされたのではないですか?」
「…彼は王位継承権を持っている」
「は?」
(は?)
心の中のリディの声とルイスの声が被った。
「かなりの遠縁ではあるが、ルシアンには王家の血が流れている。ルシアンの父レイモンは私の従弟になる。つまり私にとってルシアンは従弟の子供…従甥になるんだ」
ルイスはそれを聞いて絶句しているが、リディもまたそれを信じられない思いで聞いていた。
「レイモンの父であり私の伯父はその…自由な性格でな。我が父に王位を託したままギルシースに行ってしまって、そこの貴族の娘と「運命だ!」といって結婚してな。そのままギルシースに滞在してしまったんだ。そのため父は王代理としていたのだが、知らぬうちに王となってしまい。だから私が継ぐ時に兄の子供が来たら王位を譲るように言って死んだんだよ」
(「運命だ!」って…ルシアン様の血脈って皆そう言う血筋なの!?)
この親にしてこの子ありだが、更にその子の父も、この子ありな状態だったとは…血筋とは怖いものである。
「つまり、そもそも我らが血統こそ傍流にあたり、バークレー家の方が王家本流になるのだ」
「そんな…」
「レイモンは王位継承権を放棄しているが、ルシアンは王位継承権を有したままだ。ルシアン自身は王位継承権を放棄したいと言っていたがお前が馬鹿すぎて心配だったからな。王位継承権を持っていて欲しいと頼んだんだ」
とうとうルイスは親にも馬鹿と呼ばれてしまっている。
「これまでもルシアンはお前の尻拭いをして王太子の仕事を肩代わりしていたのだ。今更お前が居なくても十分に国は回るのだよ」
「そんな…」
呆然とした表情で、ルイスはそのままへたり込んだ。
「オベロン様、これで良いでしょうか?」
「まぁ、及第点かな。お前も少なくともリディを逮捕した際、ちゃんとした審議をすればこのような事にはならなかったんだよ。なのに馬鹿息子と馬鹿嫁に騙されてこのような事態になった。分かるね」
「はい。私めは退位いたします」
この状況にそれまで黙っていたルシアンが溜まらずに声を上げた。
「ちょっと待ってください。国王陛下が退位されたら王はどうするのですか?」
「それは、さっき言ったじゃないか。君が王になるんだよ」
「そんな無茶苦茶な!」
「無茶苦茶じゃないよ。第一に王位継承権を持っている、第二に王太子の政務をしていたのだから資質も問題ない、第三に現時点でこの男は王を退位した、第四に…君は僕に言ったよね。『貴殿の要求はのむ』と」
「…確かに言ったが」
「じゃないとリディは妖精界に連れて行っちゃうよ」
「それは駄目だ!」
反射的に言ったルシアンの様子を見て、オベロンが笑った。
ルシアンは深く息を吐いたのち、意を決したようにオベロンを見た。
「分かった。王位を継ぐ」
「と言うわけだから、リディも頑張ってね」
突然リディは話題を振られて驚いた。
というか何を頑張るのだろうか。
いまいちピンときていないでいると、オベロンが逆に驚いている。
「え?なんでそこで分からないの?だってルシアンが王様になるんだよ」
「はぁ。流れ的にはそうですよね」
「で、君はルシアンと結婚するんだよね」
言われて気が付いた。
リディがルシアンと結婚するということは…
「まさか、私が王妃ってことですか?」
「うん。そういうこと」
(えっ?モブキャラなのにいきなり王妃にジョブチェンジ!?)
オベロンの言葉にリディは衝撃を受け、そして思わずルシアンを見上げた。
「ごめん」
「ルシアン様が謝ることではないんですけど…えっと…ちょっと混乱してて…頭が働かないといいますか。私がいきなり王妃だなんて勤まらないですよね…」
この間まで義母妹に虐げられ、自立した生活のために細々占い師をやっていたのに、偽装婚約して侯爵の婚約者になり、最終的には王妃になるとは、占いで未来を垣間見れるリディとはいえ予想外過ぎる。
動揺するリディにオベロンが茶目っ気たっぷりに笑って言った。
「あれ?『ルシアン様とならどんなことでも耐えます』じゃあなかったんだっけ?」
「…そうですね」
ルシアンもリディも、オベロンに言質を取られてしまっており、完全に負けてしまった。
もう諦めるしかないとリディは腹を括ろうと思った。
その時広場にひと際大きい声が響いた。
「そんなの認めない!」
これまでの可憐な表情は微塵も無くなり、鬼の形相のシャルロッテの姿がそこにあった。
「なんで私が幽閉で、こんな女が王妃に?冗談じゃないわ!王妃の地位は私のものなのよ!」
金切声を上げたシャルロッテは立ち上がりリディに憎悪の目を向けた。
「そもそもどうして私がこんな目に遭わなくちゃならないの!?お義姉様なんて私の影に隠れて、一生私の言いなりになってればいいのよ!それなのにお義姉様が私より幸せになるだなんておかしいじゃない!」
「おかしいのは君の頭じゃないのかい?リディが君より幸せになってはいけない道理なんてないじゃないか」
オベロンがそう言うのに対して、シャルロッテは理解できないという表情を浮かべた。
「はぁ?だって私はこんなに綺麗なのよ。可愛くて綺麗なのは正義でしょ?誰だって綺麗なもの、可愛いものの方が好きだもの。だから私はこんな貧相な女よりも優れているの。なのにどうしてこんなドブネズミみたいな女が幸せになるのよ?認めないわ!!」
シャルロッテは狂ったように頭を振り乱しながらぎゃんぎゃんと叫んだ。
そして射殺さんばかりの視線でリディを見たかと思うと、突然殴りかかってきた。
「ドブネズミが!あんたのせいで私が不幸になるなんて許さない!」
だがパチリと言う乾いた音がして、その動きがピタリと止まった。
オベロンの力がシャルロッテの体の自由を奪ったようだ。
それを見たリディは静かにシャルロッテの前に立った。
「リディ!」
突然歩き出したリディをルシアンが呼んだが、リディは視線だけで大丈夫だと告げた。
そして再びシャルロッテに向き直る。
「シャルロッテ、貴女はまだ学ばないの?」
「は?」
「確かに貴女は綺麗だわ。ヒロインに相応しい容姿を持っている。それで多くの人の心も掴めたと思う」
実際シャルロッテの言動に多くの人は惑わされ、リディはあらぬ疑いや噂を流されたのだ。
「だけど人が見ているのは容姿だけではないし、それが人生の全てではないわ。その心の在り方、生き方も含めて人と言うものを形成しているのよ。貴女は主人公で、私はモブキャラかもしれない。だけどそれだけで貴女に蔑まされるいわれはないわ」
これまでリディはしっかりとシャルロッテに向き合っていなかった気がする。
彼女はメインキャラ。私はモブキャラだと言って。
でもそれが全ての価値ではないのだ。
メインキャラという運命を持ったとしても、その人生は勝手に決められているわけではなく、生き方を選択して作られるのが人生なのだ。
だから本来は主役だろうがモブだろうが、ちゃんとシャルロッテと向き合ってそのことを伝えるべきであった。
(シャルロッテ、最後に引導を渡すわ…)
シャルロッテの憎しみに満ちた目を見据えながらリディはゆっくりと、静かに言った。
「シャルロッテ、貴女は私を貶めて優越感に浸っていたのだろうけど、世の中には「因果応報」という言葉があるの。自分の行動が自分に跳ね返ってくることよ。悪いことをすれば必ず報いを受けるの。天に唾を吐けば、自分にかかるのよ」
リディがそう告げると、シャルロッテは逆上し、顔を真っ赤にして怒鳴った。リディに飛び掛からんばかりの勢いだがオベロンに体を固定されていて動けず、藻掻いている形になっていた。
「ドブネズミの分際で講釈垂れないで!私に勝ったと思っているわけ?鼻でせせら笑っているわけね。あんたこそ、ドブネズミらしくどぶに浸かって死ねばいいのよ!」
(可哀想な子…)
これまでの仕打ちを考えれば同情の余地はないが、それでもリディはシャルロッテに憐みを覚えた。
「あーあ、うるさいなぁ…。と言うわけで、君はさっさと退場して」
「な!」
シャルロッテが反応するかしないかの内に、その姿がリディ達の目の前から消えた。
「一足早くに北の修道院に行って貰ったから。リディ、気持ちはわかるけど、あんな動物以下の脳みその相手に言っても無駄だよ」
オベロンの力で消えたシャルロッテの場所は、人が居たという形跡もなくただ床があるだけだ。
「それでも言いたかったんです。…まぁ自分への戒めでもありますね」
オベロンがそう優しく言ってくれるのをリディは苦笑して聞いた。
もうモブだからという言い訳はしない。その自戒の意味を込めてリディは先ほどの言葉を口にしたのだ。
「さて、そう言うわけで今度こそ宣言するよ。リディ、ルシアン、おいで」
オベロンに促されるように、リディとルシアンは一歩前に出た。
「ルシアン・バークレー。我が養い子である初代ヴァンドール王の末裔よ。妖精王オベロンの名において、本日よりヴァンドール王と認めこの地を治めることを命じる」
「はい」
「リディ・ラングレン。我が一族と共に生きる娘よ。そなたを聖女とし、妖精王の祝福を与える。これはその「新たな証」である、受け取るがいい」
「はい」
オベロンはリディがそう答えると、掌から短刀を取り出した。
それはボルドーワインの色をした宝石とブルーサファイアの色をした宝石の嵌められた短刀だった。
オベロンはリディに手を差し出すように促したので、それをリディは恐る恐る受け取った。
「重っ!」
「大丈夫かリディ!?」
軽いかと思って受け取った宝剣は予想外に重く、リディが宝剣を落としそうになるところをルシアンが支えてくれた。
それはリディが託された責任の重みのようにも感じられた。
だが隣ではルシアンが支えてくれる。
これから国を治めると言うルシアンの重責をリディも支えたいと思った。
(ルシアン様と一緒なら、きっと大丈夫よね)
ルシアンも同じことを思ったのだろう。
リディの顔を覗く様にして笑った後、小さく頷いた。
「さて、これで一件落着かな?」
オベロンのその言葉で一連の断罪劇が終わったのだった。
「何を仰ってるのですか?たかだが一侯爵風情が王位を継ぐ?父上は頭がどうかされたのではないですか?」
「…彼は王位継承権を持っている」
「は?」
(は?)
心の中のリディの声とルイスの声が被った。
「かなりの遠縁ではあるが、ルシアンには王家の血が流れている。ルシアンの父レイモンは私の従弟になる。つまり私にとってルシアンは従弟の子供…従甥になるんだ」
ルイスはそれを聞いて絶句しているが、リディもまたそれを信じられない思いで聞いていた。
「レイモンの父であり私の伯父はその…自由な性格でな。我が父に王位を託したままギルシースに行ってしまって、そこの貴族の娘と「運命だ!」といって結婚してな。そのままギルシースに滞在してしまったんだ。そのため父は王代理としていたのだが、知らぬうちに王となってしまい。だから私が継ぐ時に兄の子供が来たら王位を譲るように言って死んだんだよ」
(「運命だ!」って…ルシアン様の血脈って皆そう言う血筋なの!?)
この親にしてこの子ありだが、更にその子の父も、この子ありな状態だったとは…血筋とは怖いものである。
「つまり、そもそも我らが血統こそ傍流にあたり、バークレー家の方が王家本流になるのだ」
「そんな…」
「レイモンは王位継承権を放棄しているが、ルシアンは王位継承権を有したままだ。ルシアン自身は王位継承権を放棄したいと言っていたがお前が馬鹿すぎて心配だったからな。王位継承権を持っていて欲しいと頼んだんだ」
とうとうルイスは親にも馬鹿と呼ばれてしまっている。
「これまでもルシアンはお前の尻拭いをして王太子の仕事を肩代わりしていたのだ。今更お前が居なくても十分に国は回るのだよ」
「そんな…」
呆然とした表情で、ルイスはそのままへたり込んだ。
「オベロン様、これで良いでしょうか?」
「まぁ、及第点かな。お前も少なくともリディを逮捕した際、ちゃんとした審議をすればこのような事にはならなかったんだよ。なのに馬鹿息子と馬鹿嫁に騙されてこのような事態になった。分かるね」
「はい。私めは退位いたします」
この状況にそれまで黙っていたルシアンが溜まらずに声を上げた。
「ちょっと待ってください。国王陛下が退位されたら王はどうするのですか?」
「それは、さっき言ったじゃないか。君が王になるんだよ」
「そんな無茶苦茶な!」
「無茶苦茶じゃないよ。第一に王位継承権を持っている、第二に王太子の政務をしていたのだから資質も問題ない、第三に現時点でこの男は王を退位した、第四に…君は僕に言ったよね。『貴殿の要求はのむ』と」
「…確かに言ったが」
「じゃないとリディは妖精界に連れて行っちゃうよ」
「それは駄目だ!」
反射的に言ったルシアンの様子を見て、オベロンが笑った。
ルシアンは深く息を吐いたのち、意を決したようにオベロンを見た。
「分かった。王位を継ぐ」
「と言うわけだから、リディも頑張ってね」
突然リディは話題を振られて驚いた。
というか何を頑張るのだろうか。
いまいちピンときていないでいると、オベロンが逆に驚いている。
「え?なんでそこで分からないの?だってルシアンが王様になるんだよ」
「はぁ。流れ的にはそうですよね」
「で、君はルシアンと結婚するんだよね」
言われて気が付いた。
リディがルシアンと結婚するということは…
「まさか、私が王妃ってことですか?」
「うん。そういうこと」
(えっ?モブキャラなのにいきなり王妃にジョブチェンジ!?)
オベロンの言葉にリディは衝撃を受け、そして思わずルシアンを見上げた。
「ごめん」
「ルシアン様が謝ることではないんですけど…えっと…ちょっと混乱してて…頭が働かないといいますか。私がいきなり王妃だなんて勤まらないですよね…」
この間まで義母妹に虐げられ、自立した生活のために細々占い師をやっていたのに、偽装婚約して侯爵の婚約者になり、最終的には王妃になるとは、占いで未来を垣間見れるリディとはいえ予想外過ぎる。
動揺するリディにオベロンが茶目っ気たっぷりに笑って言った。
「あれ?『ルシアン様とならどんなことでも耐えます』じゃあなかったんだっけ?」
「…そうですね」
ルシアンもリディも、オベロンに言質を取られてしまっており、完全に負けてしまった。
もう諦めるしかないとリディは腹を括ろうと思った。
その時広場にひと際大きい声が響いた。
「そんなの認めない!」
これまでの可憐な表情は微塵も無くなり、鬼の形相のシャルロッテの姿がそこにあった。
「なんで私が幽閉で、こんな女が王妃に?冗談じゃないわ!王妃の地位は私のものなのよ!」
金切声を上げたシャルロッテは立ち上がりリディに憎悪の目を向けた。
「そもそもどうして私がこんな目に遭わなくちゃならないの!?お義姉様なんて私の影に隠れて、一生私の言いなりになってればいいのよ!それなのにお義姉様が私より幸せになるだなんておかしいじゃない!」
「おかしいのは君の頭じゃないのかい?リディが君より幸せになってはいけない道理なんてないじゃないか」
オベロンがそう言うのに対して、シャルロッテは理解できないという表情を浮かべた。
「はぁ?だって私はこんなに綺麗なのよ。可愛くて綺麗なのは正義でしょ?誰だって綺麗なもの、可愛いものの方が好きだもの。だから私はこんな貧相な女よりも優れているの。なのにどうしてこんなドブネズミみたいな女が幸せになるのよ?認めないわ!!」
シャルロッテは狂ったように頭を振り乱しながらぎゃんぎゃんと叫んだ。
そして射殺さんばかりの視線でリディを見たかと思うと、突然殴りかかってきた。
「ドブネズミが!あんたのせいで私が不幸になるなんて許さない!」
だがパチリと言う乾いた音がして、その動きがピタリと止まった。
オベロンの力がシャルロッテの体の自由を奪ったようだ。
それを見たリディは静かにシャルロッテの前に立った。
「リディ!」
突然歩き出したリディをルシアンが呼んだが、リディは視線だけで大丈夫だと告げた。
そして再びシャルロッテに向き直る。
「シャルロッテ、貴女はまだ学ばないの?」
「は?」
「確かに貴女は綺麗だわ。ヒロインに相応しい容姿を持っている。それで多くの人の心も掴めたと思う」
実際シャルロッテの言動に多くの人は惑わされ、リディはあらぬ疑いや噂を流されたのだ。
「だけど人が見ているのは容姿だけではないし、それが人生の全てではないわ。その心の在り方、生き方も含めて人と言うものを形成しているのよ。貴女は主人公で、私はモブキャラかもしれない。だけどそれだけで貴女に蔑まされるいわれはないわ」
これまでリディはしっかりとシャルロッテに向き合っていなかった気がする。
彼女はメインキャラ。私はモブキャラだと言って。
でもそれが全ての価値ではないのだ。
メインキャラという運命を持ったとしても、その人生は勝手に決められているわけではなく、生き方を選択して作られるのが人生なのだ。
だから本来は主役だろうがモブだろうが、ちゃんとシャルロッテと向き合ってそのことを伝えるべきであった。
(シャルロッテ、最後に引導を渡すわ…)
シャルロッテの憎しみに満ちた目を見据えながらリディはゆっくりと、静かに言った。
「シャルロッテ、貴女は私を貶めて優越感に浸っていたのだろうけど、世の中には「因果応報」という言葉があるの。自分の行動が自分に跳ね返ってくることよ。悪いことをすれば必ず報いを受けるの。天に唾を吐けば、自分にかかるのよ」
リディがそう告げると、シャルロッテは逆上し、顔を真っ赤にして怒鳴った。リディに飛び掛からんばかりの勢いだがオベロンに体を固定されていて動けず、藻掻いている形になっていた。
「ドブネズミの分際で講釈垂れないで!私に勝ったと思っているわけ?鼻でせせら笑っているわけね。あんたこそ、ドブネズミらしくどぶに浸かって死ねばいいのよ!」
(可哀想な子…)
これまでの仕打ちを考えれば同情の余地はないが、それでもリディはシャルロッテに憐みを覚えた。
「あーあ、うるさいなぁ…。と言うわけで、君はさっさと退場して」
「な!」
シャルロッテが反応するかしないかの内に、その姿がリディ達の目の前から消えた。
「一足早くに北の修道院に行って貰ったから。リディ、気持ちはわかるけど、あんな動物以下の脳みその相手に言っても無駄だよ」
オベロンの力で消えたシャルロッテの場所は、人が居たという形跡もなくただ床があるだけだ。
「それでも言いたかったんです。…まぁ自分への戒めでもありますね」
オベロンがそう優しく言ってくれるのをリディは苦笑して聞いた。
もうモブだからという言い訳はしない。その自戒の意味を込めてリディは先ほどの言葉を口にしたのだ。
「さて、そう言うわけで今度こそ宣言するよ。リディ、ルシアン、おいで」
オベロンに促されるように、リディとルシアンは一歩前に出た。
「ルシアン・バークレー。我が養い子である初代ヴァンドール王の末裔よ。妖精王オベロンの名において、本日よりヴァンドール王と認めこの地を治めることを命じる」
「はい」
「リディ・ラングレン。我が一族と共に生きる娘よ。そなたを聖女とし、妖精王の祝福を与える。これはその「新たな証」である、受け取るがいい」
「はい」
オベロンはリディがそう答えると、掌から短刀を取り出した。
それはボルドーワインの色をした宝石とブルーサファイアの色をした宝石の嵌められた短刀だった。
オベロンはリディに手を差し出すように促したので、それをリディは恐る恐る受け取った。
「重っ!」
「大丈夫かリディ!?」
軽いかと思って受け取った宝剣は予想外に重く、リディが宝剣を落としそうになるところをルシアンが支えてくれた。
それはリディが託された責任の重みのようにも感じられた。
だが隣ではルシアンが支えてくれる。
これから国を治めると言うルシアンの重責をリディも支えたいと思った。
(ルシアン様と一緒なら、きっと大丈夫よね)
ルシアンも同じことを思ったのだろう。
リディの顔を覗く様にして笑った後、小さく頷いた。
「さて、これで一件落着かな?」
オベロンのその言葉で一連の断罪劇が終わったのだった。
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