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お酒はほどほどに②
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翌朝。
「…私、いつの間に部屋に帰ってきたの?」
記憶を辿るとダンテの屋敷でナルサス含めて飲んだところまでは記憶がある。が、どうやって自室に戻ってきたかの記憶が定かではない。
ただ夢なのか現なのか分からないがルシアンにキスされたような感覚が唇にあった。
(いやいやいや。ルシアン様とキスとか…妄想も甚だしい!!…私欲求不満?ううう…ルシアン様、ごめんなさい)
あんな見目麗しいルシアンとのキスなど例え妄想だとしても申し訳なさすぎる。
とりあえず、心の中で謝ったあと、リディは身支度を整えるためにベッドから起き上がった。
一応寝巻きに着替えていたのだが、メイドが着替えさせてくれたのだろう。
立ち上がればお酒のせいか、体が重怠い。
まずはシャワーでも浴びてすっきりさせようとして服を脱ぐと、鏡に自分の姿が映った。
「…痣?傷だけじゃなくてぶつけたのかしら」
昨日付けられた首の傷の近くに鬱血があった。
暴漢から逃れる時にぶつけたのかもしれない。
「う…少し頭、痛いかも。はぁ…お酒で失敗なんて恥ずかしすぎる」
ただでさえお酒で体が重いのに、罪悪感からさらに重くなった身体を動かしてお風呂へ入った。
お風呂から上がり、さっぱりしたところで、ちょうどメイドがレモネードを作って持ってきてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「お加減はいかがですか?」
「…まぁ、はぁ何とか。あの…知ってたら教えて欲しいんですけど、昨日私どうやって帰ってきたか、ご存じですか?」
そうしてメイドが言った言葉に、リディは青くなった。
(な…なんてこったい!?)
リディはそれを聞いた途端、急いでルシアンの書斎へと向かった。
勢いで書斎まで来たが、罪悪感から直ぐにはノックができなかった。
だがいつまでも突っ立て居られない。
リディは二回ほど深呼吸をして、意を決して扉を叩いた。
「…ルシアン様、いらっしゃいますか?」
「…リディか。入っていい」
一瞬、間があったように感じられたが、ルシアンの許可が得られたのでリディは書斎に入った。
ルシアンは何か調べ物をしていたようで、机の近くで本を開いて立っていた。
後ろは窓ガラスになっていて、爽やかに晴れ渡った空から日光が降り注いでいるはずなのだが、ルシアンの背後はどす黒く見える。
怒っている…それはもうご立腹なのがひしひしと伝わってくる。
「ルシアン様!申し訳ありません!酔っぱらった挙句に担いで帰ってくれたと伺いました!本当、ご迷惑をおかけしましました」
がばりと勢いよくリディは頭を下げた。
そうなのだ。
酔っぱらったリディを迎えにルシアンが来ただけではなく、お姫様抱っこして寝室まで運んだというのだ。
しかもどうやら上機嫌で鼻歌を歌いながらルシアンに絡み、最後にはぐっすり寝たというから、ルシアンにとってはいい迷惑だっただろう。
(きっと重かっただろうし、ダイエットすべきだった…)
頭を下げたままルシアンの反応を待っていたのだが、一向に返事がない。
かと思うとぼそりと低い声が書斎に響く。
「…それだけか?」
「それだけ…?」
(笑いながらルシアン様に絡んだこと?大きな声で歌ったこと?心当たりがありすぎて答えられない)
「えっと?なにか他に粗相をしましたでしょうか?」
恐る恐る顔を上げてそう尋ねると、ルシアンの視線が一瞬リディの首元に行った気がした。
そしてちょっとだけ顔を赤らめたと思うと、視線を逸らしてしまった。
「粗相というのは俺の方かもしれないが…その、昨日の夜、部屋で起こったこととか」
歯切れ悪くルシアンが言う。
部屋に運ばれた際にルシアンと少し話した記憶もあるが、朧気で覚えていないのが正直なところだ。
だが下手に隠しても仕方ない。更に怒られることを覚悟に真実を話そう。
「…すみません。その、記憶が無くて…」
「記憶がない?」
逸らしていたルシアンの視線がリディに向けられる。
それは衝撃的な事を告げられたかのようだった。
次の瞬間にはルシアンが大きなため息をついた。
「はぁ…良かったのか悪かったのか、微妙だな…」
「何か言いました?」
「いや、こっちの話だ」
口元を覆ったルシアンは小さくぶつぶつと言った後、こほんと咳払いをするとまた真剣な表情でリディに状況説明を求めてきた。
「それより一体どうしてこういう状況になったのか説明して欲しい。なぜナルサスとダンテの家で飲むことになったんだ?」
「実はですね…」
昨日の件で傷害罪で訴える代わりにデート(?)することになったこと。
そしてナルサスを狙う暴漢との乱闘に巻き込まれ傷を負ったこと。
手当のためにナルサスが滞在しているダンテの家に行き、そのまま晩餐を共にすることになったこと。
これらの事をリディは掻い摘んで説明した。
ルシアンはそれを聞いて頭を押さえていた。
「でも、大丈夫です!変装してたので貴族の目には触れてません!ルシアン様やバークレー家の醜聞にはならないです!問題ありません!」
「…問題…。醜聞が問題なんじゃない!大体君は迂闊すぎる!男の家に入って間違いがあったらどうするんだ!」
「間違い…ですか?いやー、無いと思いますよ?相手は攻略対象ですよ。モブキャラなんて目に無いですって」
「…もういい。とにかく、これからは俺以外の男の前では酒を飲むのを禁止する」
「はい…承知しました。すみません」
自分自身もう二度とお酒の失敗はしたくない。
リディは禁酒しようと心の中で固く誓った。
「あんな表情したら男は誘われると勘違いするじゃないか…くそ。あの顔を見たナルサスもダンテも殺したい…」
「?なんか殺したいとか物騒な言葉が」
「こほん。とにかくだ、リディ、約束してくれ。本当にもう…心配なんだ」
あまりに切なそうに、そして苦しそうに言うルシアンの表情を見て、リディを心の底から心配してくれているのが伝わってきた。
リディはもう一度だけ頷くと、ルシアンは苦笑して、ポンとリディの頭を撫でた。
「さ、お腹が空いているだろう?スコーンを用意している。俺もまだ朝食を取っていないから一緒に食べよう」
「はい!」
切り替えるようにルシアンはいつもの笑顔に戻った。
そしてそっとリディの腰を抱いてエスコートしながらドアに手をかけた。
だが、廊下に出て直ぐに異変に気が付く。
何やら玄関ホールが騒がしい。
「何か問題でも起こってるんでしょうか?」
「あぁ、行ってみよう」
ルシアンとリディが足早にエントランスに向かうと、リディを見つけたエリスが真っ青な形相でこちらに走ってきた。
「リディお姉様!大変です!」
「エリスちゃん、どうしたの?血相を変えて」
「あれ、見てください!」
エリスが指差したのは執事で、彼は大きな花束を抱えている。
よく見ればそれはオンシジウムのような蘭の花束で、色は薄いピンクをしている。
「リディ様宛です」
「はぁ」
そうして執事から渡されたのは花束とキエリー語の辞書、シーリングスタンプの押された封筒、そして小さな箱だった。
それを横で見ていたルシアンもハッと何かに気づいたようだ。
「このシーリングスタンプ…この紋章は…」
「お兄様もお気づきになりました?」
「あぁ、ギルシース王室の紋章だ」
「どうしてリディお姉様に…」
二人の会話からなんとなく嫌な予感がする。
だがとにかく中身を確認しなくては。
執事が素早くペーパーナイフを渡してくれたのでそれで封を開けると薄ピンク色の一枚のカードが入っていた。
恐る恐る取り出すと、以前と同様に一言、簡潔に書かれていた。
――責任取って嫁にもらってやる――
(…は?)
思考が停止する。
何も言わないリディに痺れを切らしたようで、ルシアンとエリスがカードを覗き込んだ。
そして声を合わせ、叫ぶように言った。
「「はぁ!?」」
(さすが兄妹)
現実逃避するかのように何故かそんなことを思いつつ、リディは爆弾発言の書かれたカードを見つめるしかできなかった。
「…私、いつの間に部屋に帰ってきたの?」
記憶を辿るとダンテの屋敷でナルサス含めて飲んだところまでは記憶がある。が、どうやって自室に戻ってきたかの記憶が定かではない。
ただ夢なのか現なのか分からないがルシアンにキスされたような感覚が唇にあった。
(いやいやいや。ルシアン様とキスとか…妄想も甚だしい!!…私欲求不満?ううう…ルシアン様、ごめんなさい)
あんな見目麗しいルシアンとのキスなど例え妄想だとしても申し訳なさすぎる。
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一応寝巻きに着替えていたのだが、メイドが着替えさせてくれたのだろう。
立ち上がればお酒のせいか、体が重怠い。
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「…痣?傷だけじゃなくてぶつけたのかしら」
昨日付けられた首の傷の近くに鬱血があった。
暴漢から逃れる時にぶつけたのかもしれない。
「う…少し頭、痛いかも。はぁ…お酒で失敗なんて恥ずかしすぎる」
ただでさえお酒で体が重いのに、罪悪感からさらに重くなった身体を動かしてお風呂へ入った。
お風呂から上がり、さっぱりしたところで、ちょうどメイドがレモネードを作って持ってきてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「お加減はいかがですか?」
「…まぁ、はぁ何とか。あの…知ってたら教えて欲しいんですけど、昨日私どうやって帰ってきたか、ご存じですか?」
そうしてメイドが言った言葉に、リディは青くなった。
(な…なんてこったい!?)
リディはそれを聞いた途端、急いでルシアンの書斎へと向かった。
勢いで書斎まで来たが、罪悪感から直ぐにはノックができなかった。
だがいつまでも突っ立て居られない。
リディは二回ほど深呼吸をして、意を決して扉を叩いた。
「…ルシアン様、いらっしゃいますか?」
「…リディか。入っていい」
一瞬、間があったように感じられたが、ルシアンの許可が得られたのでリディは書斎に入った。
ルシアンは何か調べ物をしていたようで、机の近くで本を開いて立っていた。
後ろは窓ガラスになっていて、爽やかに晴れ渡った空から日光が降り注いでいるはずなのだが、ルシアンの背後はどす黒く見える。
怒っている…それはもうご立腹なのがひしひしと伝わってくる。
「ルシアン様!申し訳ありません!酔っぱらった挙句に担いで帰ってくれたと伺いました!本当、ご迷惑をおかけしましました」
がばりと勢いよくリディは頭を下げた。
そうなのだ。
酔っぱらったリディを迎えにルシアンが来ただけではなく、お姫様抱っこして寝室まで運んだというのだ。
しかもどうやら上機嫌で鼻歌を歌いながらルシアンに絡み、最後にはぐっすり寝たというから、ルシアンにとってはいい迷惑だっただろう。
(きっと重かっただろうし、ダイエットすべきだった…)
頭を下げたままルシアンの反応を待っていたのだが、一向に返事がない。
かと思うとぼそりと低い声が書斎に響く。
「…それだけか?」
「それだけ…?」
(笑いながらルシアン様に絡んだこと?大きな声で歌ったこと?心当たりがありすぎて答えられない)
「えっと?なにか他に粗相をしましたでしょうか?」
恐る恐る顔を上げてそう尋ねると、ルシアンの視線が一瞬リディの首元に行った気がした。
そしてちょっとだけ顔を赤らめたと思うと、視線を逸らしてしまった。
「粗相というのは俺の方かもしれないが…その、昨日の夜、部屋で起こったこととか」
歯切れ悪くルシアンが言う。
部屋に運ばれた際にルシアンと少し話した記憶もあるが、朧気で覚えていないのが正直なところだ。
だが下手に隠しても仕方ない。更に怒られることを覚悟に真実を話そう。
「…すみません。その、記憶が無くて…」
「記憶がない?」
逸らしていたルシアンの視線がリディに向けられる。
それは衝撃的な事を告げられたかのようだった。
次の瞬間にはルシアンが大きなため息をついた。
「はぁ…良かったのか悪かったのか、微妙だな…」
「何か言いました?」
「いや、こっちの話だ」
口元を覆ったルシアンは小さくぶつぶつと言った後、こほんと咳払いをするとまた真剣な表情でリディに状況説明を求めてきた。
「それより一体どうしてこういう状況になったのか説明して欲しい。なぜナルサスとダンテの家で飲むことになったんだ?」
「実はですね…」
昨日の件で傷害罪で訴える代わりにデート(?)することになったこと。
そしてナルサスを狙う暴漢との乱闘に巻き込まれ傷を負ったこと。
手当のためにナルサスが滞在しているダンテの家に行き、そのまま晩餐を共にすることになったこと。
これらの事をリディは掻い摘んで説明した。
ルシアンはそれを聞いて頭を押さえていた。
「でも、大丈夫です!変装してたので貴族の目には触れてません!ルシアン様やバークレー家の醜聞にはならないです!問題ありません!」
「…問題…。醜聞が問題なんじゃない!大体君は迂闊すぎる!男の家に入って間違いがあったらどうするんだ!」
「間違い…ですか?いやー、無いと思いますよ?相手は攻略対象ですよ。モブキャラなんて目に無いですって」
「…もういい。とにかく、これからは俺以外の男の前では酒を飲むのを禁止する」
「はい…承知しました。すみません」
自分自身もう二度とお酒の失敗はしたくない。
リディは禁酒しようと心の中で固く誓った。
「あんな表情したら男は誘われると勘違いするじゃないか…くそ。あの顔を見たナルサスもダンテも殺したい…」
「?なんか殺したいとか物騒な言葉が」
「こほん。とにかくだ、リディ、約束してくれ。本当にもう…心配なんだ」
あまりに切なそうに、そして苦しそうに言うルシアンの表情を見て、リディを心の底から心配してくれているのが伝わってきた。
リディはもう一度だけ頷くと、ルシアンは苦笑して、ポンとリディの頭を撫でた。
「さ、お腹が空いているだろう?スコーンを用意している。俺もまだ朝食を取っていないから一緒に食べよう」
「はい!」
切り替えるようにルシアンはいつもの笑顔に戻った。
そしてそっとリディの腰を抱いてエスコートしながらドアに手をかけた。
だが、廊下に出て直ぐに異変に気が付く。
何やら玄関ホールが騒がしい。
「何か問題でも起こってるんでしょうか?」
「あぁ、行ってみよう」
ルシアンとリディが足早にエントランスに向かうと、リディを見つけたエリスが真っ青な形相でこちらに走ってきた。
「リディお姉様!大変です!」
「エリスちゃん、どうしたの?血相を変えて」
「あれ、見てください!」
エリスが指差したのは執事で、彼は大きな花束を抱えている。
よく見ればそれはオンシジウムのような蘭の花束で、色は薄いピンクをしている。
「リディ様宛です」
「はぁ」
そうして執事から渡されたのは花束とキエリー語の辞書、シーリングスタンプの押された封筒、そして小さな箱だった。
それを横で見ていたルシアンもハッと何かに気づいたようだ。
「このシーリングスタンプ…この紋章は…」
「お兄様もお気づきになりました?」
「あぁ、ギルシース王室の紋章だ」
「どうしてリディお姉様に…」
二人の会話からなんとなく嫌な予感がする。
だがとにかく中身を確認しなくては。
執事が素早くペーパーナイフを渡してくれたのでそれで封を開けると薄ピンク色の一枚のカードが入っていた。
恐る恐る取り出すと、以前と同様に一言、簡潔に書かれていた。
――責任取って嫁にもらってやる――
(…は?)
思考が停止する。
何も言わないリディに痺れを切らしたようで、ルシアンとエリスがカードを覗き込んだ。
そして声を合わせ、叫ぶように言った。
「「はぁ!?」」
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